2010年10月30日土曜日

人権問題の解決学・「人権学」は成立可能か

三石博行


現在の人権に関する研究分野

「人権」に関する研究はこれまでの人間社会科学のフィールドの中でどのように位置づけられているだろうか。人権に関する研究・「人権学」という分野が新たに設置されるだろうか。

これまで日本で出版された人権に関する書物は大きく分けて5つぐらいの傾向がある。

1、 歴史的に部落差別撤廃を運動してきた人々からの人権問題
2、 国際人権運動を行ってきた人々、アムネスティ運動からの人権問題
3、 憲法学者、特に日本憲法の第三章の解釈をめぐる議論
4、 福祉問題を考える立場からの人権問題の提起
5、 特にヨーロッパ人権思想史(哲学)研究からの課題


「人権学」は成立するか

つまり、人権に関する研究は社会運動(部落差別、戦争、虐殺反対等々)、法学、福祉社会学(生活学)、哲学(ヨーロッパ思想史)の大きく分類して四つの視点で取り組まれている。これらの四つの学問分野で独自に展開される人権課題は一つの「人権学」として成立する可能性はあるのだろうかと考えてみた。

つまり、他の人間社会科学の一分野して「人権学」が成立するなら、この「人権学」の成立条件やその学問の独自の体系、学問的方法論を示さなければならない。

この「人権学」の成立を主張しても不思議ではない。何故なら、今日、「学」と呼ばれる学問の分類基準を課題別に使って、これまでに既存の学問分野の一つとして位置づけられなかた課題を展開してきた実例があるからだ。例えば「京都学」、「大阪学」などの呼び方で、京都や大阪の地理、歴史、文化、経済、社会、政治など人文社会科学の分野を横断的に、また工学、農学、医学などの応用科学分野に関する知識も援用して「京都学」研究というフィールドを提供し、共同研究し、相互リンクしてきた発展途上学が現実に存在しているからである。

もちろん、この「京都学」は大学でいう正式な学問でないと主張する人々もいるだろう。何故なら、京都学が成立するための学問的条件・歴史的に継承されてきた学説に基づく具体的事例・京都に関する研究という学問の伝統的な方法を満たさないからである。そうした人々の意見として、「京都学」は「機能・構造主義」的な分析方法を使っているか、また「マクロ経済学」もしくは「計量経済学」の方法を活用しているか等々が京都学という学問の成立条件を満たす一つとなる。そこで、あらゆる方法、「京都」という社会文化的、歴史的現象を解釈するために有効と思われる全ての方法を活用しているというプラグマティズムはある人々には曖昧な学問的方法として認められないかもしれない

しかし、京都の大学では「京都学」が研究されている。その現実からすると、学際的研究方法を用いて「京都」という対象を総合的に研究する学問はすでに市民権を得ている。


人権問題の解決学としての「人権学」

「人権学」の成立条件も「京都学」と同様に、学際的な研究方法を前提にして成立していると考えられる。また、そればかりではない、人権学は、単に人権に関する認識、知ることを目的とした学問でなく、人権問題を解決するための実践的道具(解決学)としての役割を要求される。

また人権学は、人権という課題を人間社会科学のみならず工学、医学や農学などの応用自然科学なども含めてあらゆる既成の学問的方法や知識を駆使して研究する学際的、領域融合型の学問であると説明することも可能になる。

人権学と呼ばれている学問は、人権を社会、経済、政治、文化、国際、組織、技術の総合的課題の中で理解しその問題を解決するための道具である。

しかし、この「人権学」は、他の学問と異なる研究方法から成立している訳ではない。人権に関する研究は、伝統的に法学や政治学の中で取り組まれてきた。その意味で、人権に関する研究方法は、法学や政治学的な方法をはじめとしてこれまでの研究の方法とそこで蓄積された先行研究が採用される。


プログラム科学論と「人権学」

また、「人権学」は、吉田民人が提唱した21世紀社会で必要とされる科学哲学・プログラム科学論を方法論としてもつ科学であるとも言える。

では、プログラム科学論的視点と方法論を前提にした「人権学」の成立条件とはなにか考えてみよう。

1、 現代社会で問われる人権概念を構造的に理解
2、 グローバリゼーションや多様化する生き方の価値観をもつ現代社会で拮抗する複数の人権問題の理解
3、 人権問題解決のための政策学
4、 具体的人権問題に関する政策提案(法案、社会経済システム提案、生活環境改善、個人的行為改善(実践倫理的提案)
5、 具体的な人権擁護の社会運動で「人権学」の理論の検証作業

以上の課題が提案できる。





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