2013年6月6日木曜日

政策科学の方法と実践的課題 「文理融合と社会デザイン」

政治社会学会(ASPOS)の2013年度大会の課題について(1)


三石博行


政治社会学会の設立の趣旨と三つの課題


2010年10月に結成された21世紀型の学会活動を模索する政治社会学会(ASPOS)では、21世紀社会、科学技術文明社会での政治社会学、政策学の在り方を問題にしてきた。「政治学、経済学、法律学、社会学などの個別科学の垣根を取り払い、自然科学的知見を取り上げ、現状分析に基づくプログラム設計を中心とした問題解決型の新学会を目指して」(荒木義修2010)活動することがこの学会の設立趣旨であった。

本会の設立趣旨に基づき、「新たな社会に対応する学会指針の三本柱」(荒木義修2010)と呼ばれる学会の課題が述べられた。その一つは.「文理融合型の学際的研究を可能にする新たな視点の再開発 」であり、二つ目の課題は「リベラル・アーツの再検討と人文社会科学再生への道」である。そして、三つ目は「新たな社会構想:必要とされる理念の調和と叡智あるプログラム設計」(荒木義修2010)であった。

大会テーマ「文理融合と人間社会科学の再生」の目的とその意味


上記した三つの学会指針に即して、政治社会学の科学方法論としての文理融合型の研究方法が課題となった。第一回から第三回までの研究大会では「文理融合と人間社会科学の再生」が大会テーマとして取り上げられた。

2010年に人間社会科学分野から積極的に文理融合の方法論を取り上げることは決して斬新的なものではなかったが、この文理融合の方法論を政策実践の中で検証しようとする政治社会学会の試みは、人間社会科学での先端的研究として評価できる。

この先端的研究、つまり文理融合型の研究方法や研究制度が評価されたのは、環境問題に取り組む政策学であった。2011年3月11日の福島原発事故は、その先端性を一般性として再認識しなければ政策学は存立しないことを示したのである。つまり、現代社会の政策実践では、高度な先端科学技術、情報社会ネットワーク、社会経済システムの知識のすべてを動員する必要がある。言い換えると、文理融合型の学際的研究方法は、現代社会・21世紀社会での政策学が成立するための必要十分条件であると言える。

2012年の大会と福島原発事故


2012年研究大会(「文理融合と人間社会科学の再生」をテーマに取り上げた)では、文理融合型研究としての政治社会学や政策学の科学的方法論や基礎理論の課題が取り上げられた。例えば経済学の新潮流、経済物理学の紹介、環境問題の解決で求められる自然科学と社会科学の歴史的アプローチやその理論的考察、設計科学やプログラム科学と呼ばれる問題解決型学問に関する提案や報告がなされた。

これらの文理融合型研究を前提にした政策学の課題は、例えば地球環境問題や地球環境学、原発とエネルギー問題、原発問題を巡る独立調査委員会の課題、旧ソ連・カザフ共和国のセミパラチンスク核実験場での放射能汚染問題とその人間社会病理構造の分析、立法機関での自然科学的議論の成立条件の提案、原発問題と報道機関の批判的検証の研究報告の中で具体的に議論された。

また、現在の政治社会学・政策学の課題、例えば、市場万能主義(新自由主義経済)政策から公益資本主義の在り方、社会関係資本に関する議論、市場経済主義の再認識による効率的な企業運営と公正な政府政策の検証作業、新貨幣論(公共貨幣システム)による債務危機の回避を目指す政策提案、地方分権化を目指す広域自治体での政策課題として、問題解決を具体的に模索する課題へ展開応用された。

政治社会学会の趣旨と国内地域主義・国際地域連携


2012年の研究大会で「グローバル、リージョナル、ナショナル、ローカルを結びつける視点を重視した研究大会を持つ」(新川達郎2012)政治社会学会の在り方が展開した。

つまり、政治社会学会は国内での地域主義に基づく学会であると同時に、東アジア、特に韓国政治社会学会との国際共同研究大会を推進してきた。つまり国内の支部活動(地域での政治社会学会の開催)と韓国政治社会学会と共同で開催される研究大会活動が、政治社会学会の特徴を形成してきた。

ナショナルとローカルを結びつける視点を展開している地域主義の学会運営と、グローバルとリージョナルを結びつける視点をもつ国際地域連携の学会の在り方に関する意味を考え、その意味に含まれる21世紀型学会活動の在り方を自覚的に理解する必要がある。

1、地域社会の政策実践に貢献する学会

政治社会学会は国内に九州政治社会学会、関西政治社会学会と関東政治社会学会の三つの支部(学会)によって構築されている。これらの三つの支部は地域における政治社会学会という名称となっている。学会の定款には、支部に関する定義やその役割に関する条文はない。支部でなく地域政治学科としたのは、それぞれの地域での課題となる政策実践の研究を、学会理事会(学会執行機関)が提案するのでなく、地域の特徴に合わせて、地域で展開発展されるべきという考え方が、学会設立当時から存在していたのではないだろうか。

つまり、政策実践とは、時代性や社会文化性と緊密に関連し、それらの個別的な条件に適応したものである。学問的方法論として文理融合、プログラム科学や設計科学を援用展開しながら、その理論や解釈に、さらに時代性と社会文化性の限定条件を与えることは、科学方法論としても先端的である。それらは、ある意味で現代解釈学の科学認識論に基づき、またある意味で科学理論を解釈の道具として位置付けるプラグマティズムの思想を持つと言える。政策実践に付随した社会文化性や時代性を対自化することで、それらの政策の地域文化的特徴を政策提案者が自覚的に理解することになる。つまり、政策実践とは、時代性と社会文化性に規定されている現場(生活実践や社会実践の場)から問題提起され、またそこでその有効性を検証される理論であり技術であると言える。

一般的な政策提案や政策実践は存在しない。それらは個別性、つまり時代性と社会文化性に規定されている現場を持ち、その現場での有効性を問われる。一般的な政策実践の有効性は存在しない。その意味で政策学研究の方法論(文理融合、プログラム科学や設計科学)は、時代性と社会文化性に規定されていると言える。

検証する場として生活や社会環境の中で政策提案や政策理論の実証が必要とされる。この政策学の理論や方法論から、先端的研究としての政策学の在り方が問われる。つまり、それは政策対象が持つ社会文化性や時代性を前提にした研究方法である。地域における政治社会学会活動は、そうした研究条件、地域社会や生活現場に根差した政策実践を前提にしていると言える。

言い換えると、政治社会学会活動が地域社会の政策実践に貢献することによって、政治社会学会が課題とした文理融合、プログラム科学や設計科学と呼ばれる学問的方法論の根底にある問題解決学的プラグマティズムの思想は鍛え抜かれることになる。それが、政治社会学会の国内地域学会による社会や生活現場主義の方法論を展開すると期待できるのである。

2、東アジアの平和的共存を目指すグローバル・リージョナルな学会活動

政治社会学会は発足当初から、韓国政治社会学会と共に研究活動を行っている。韓国の研究者が政治社会学会に参加し、また韓国で政治社会学会を組織し、一年毎に日韓相互で共同の政治社会学会を開催してきた。

昨年、2012年の研究大会では、東アジア問題に関する二つの国際セッション、一つは東アジアの国際関係に関するセッション、二つ目は東アジアの市民社会の課題に関するセッションが開催された。これらの国際セッションに、韓国を始め海外の研究者が参加した。今年度は、韓国で韓国政治社会学会の主催する国際会議に政治社会学会は参加することになっている。

2012年度研究大会のすぐ後に、政治社会学会は他の学会やNPOと共催してシンポジウム「東アジア共同体への道」(京都大学11月26日)を開催した。さらに、2013年1月12日から13日に東京外国語大学で他の学会と共催して第1回「アジア共生」ジョイントカンファレンス開催した。

政治社会学会会則第2条で、学会活動の目的を定めてある。その条文の中に、「科学技術の著しい発展、地球温暖化問題の発生、グローバル化の急速な進展など、私たちの 住んでいる政治社会(political society, John Locke, 1698)、すなわち市民社会( civil society) は、これまで経験したことのない事態に直面し、さまざまな問題解決を迫られている。」(会則第2条の部分)と記されている。

急速な国際化によって生じる課題を、とりわけ国際地域(グローバル・リージョナル)で共に対応しようとしている。この国際地域の連携は国際紛争や戦争によって生じた莫大な犠牲者や被害への反省に立って進められてきた。その代表例がEU(ヨーロッパ連合)である。

アジア共生や東アジアの平和的共存の願いは、第二次世界大戦やその前の、過去の侵略戦争を繰り返さないために、日本がその責任の所在として、積極的に取り組まなければならない課題であることは言うまでもない。しかし、現実の日本の政治はそうなっていない。寧ろ、逆に過去の過ちを再び繰り返すかのようにも思える。今、私たちは、東アジアでの国際地域(グローバル・リージョナル)連携を可能にするための現実的な提案や政策を検討しなければならない。

政治社会学会は21世紀の東アジア社会の重要な課題を設立の当初から展開してきた。その結果が、韓国政治社会学会との共同学会や他の学会(国内のみでなく国際的な) との「アジア共生」ジョイントカンファレンスである。

政策実践とその学問的探究の目的と政策実践の思想


学会活動の目的を定めた会則第2条では、「科学技術の著しい発展、地球温暖化問題の発生、グローバル化の急速な進展」など21世紀社会の新たな課題に対して、「従来の学問体系全体もパラダイム・シフトを求められ、自然科学ばかりでなく社会科学のあり方そのものが問われている。このような状況に対応するため、政治学、経済学、法律学、社会学などの個別科学の垣根を取り払い、自然科学的知見を取り上げ、現状分析に基づくプログラム設計を中心とした問題解決型の学際的学会をめざす。同時に、文理融合や社会科学の復権を模索しながら、新たな社会構築のための理念の調和、叡智あるプログラム設計を探究する。」(会則第2条の部分)と記されている。

つまり、政策実践の目的は、より良い市民社会、生活環境、民主主義文化の成熟にある。

その目的を実現するために、政治社会学会の設立趣旨に基づく「新たな社会に対応する学会指針の三本柱」(荒木義修2010)が提案された。三つの柱の一つは政策学を「文理融合型の学際的研究」として展開することであった。その具体的な展開目標として、文理融合型政策実践によって「政治学、経済学、法律学、社会学などの個別科学の垣根を取り払い」(荒木義修2010)、人文社会科学のパラダイム・シフトを促し、「人文社会科学再生への道」(荒木義修2010)を目指すことであった。そして、これらの研究と実践の展開の方向は、明らかに「新たな社会構想」(荒木義修2010)を形成するためであった。つまり、その社会構想とは21世紀社会で必要とされる問題解決学としての政策実践と理論であった。それを「理念の調和と叡智あるプログラム設計」(荒木義修2010)と呼んだ。

この問題提起と視点から、2010年から2012年までの研究大会のテーマに「文理融合と人間社会科学の再生」を掲げた。そして、「政策実践の目的は、より良い市民社会、生活環境、民主主義文化の成熟にある」という政策思想の原点に立ち帰ることが常に求められている。

第四回大会のテーマ 「文理融合と社会デザイン」の課題


21世紀社会(科学技術文明社会)での政策学(政治社会学)の大きな課題として、すべての経済社会文化政策の企画から実施に至るまで高度な専門知識が必要となる。しかも、政策決定に必要とされるそれらの専門的知識には、理系や文系の境界は存在していない。問われる課題は有効な政策のための知識ということである。つまり問題解決力を問われている研究、政策学研究の視点から言えば、21世紀の政策学は文理融合型の研究が大前提となる。

政治社会学会設立記念総会から3回目の総会まで、学会は理工系の科学技術と人文社会系科学技術の領域を超えて問題解決力を求める政策学の方法論や課題を議論してきた。その意味で、これまでの研究大会では、政治社会学会が提起する21世紀の政策学の方法論(プログラム科学や設計科学)、それらの実践的検証を社会の実現(原発問題や環境問題)に焦点を合わせながら、議論してきた。

上記した21世紀型政策学の基本課題を社会現実の中で議論し研究活動の蓄積を前提にして、さらに、それらの文理融合型政策学を具体的な社会課題の中で、「実践的な政策提案型研究活動」に展開するために、第四回大会のテーマを「文理融合と社会デザイン」とした。

この「文理融合と社会デザイン」のテーマは政治社会学会の第二期の研究活動を意味している。つまり、この学会がこれまで以上に「実践的な政策提案型研究活動」を展開することを課題にしていると言える。言い換えると、政治社会学会の会員があらゆる分野の政策提案やその実践の場により深く関係し自らの人間社会、生態文化、環境科学の研究を展開することを目指すための学会活動の方向を示しているとも言える。

2013年度研究大会テーマ「文理融合と社会デザイン」を展開するために、学会では2つの基調講演と5つのセッションを準備した。「社会デザインと政策実践」、「社会デザインと民主主義」、「教育と政治社会」、「生態環境と政治社会」と「政策提言型会員公募セッション」である。

引用、参考資料


(1) 政治社会学会(ASPOS)ホームページ
http://aspos.web.fc2.com/
「政治社会学会は、政治学、経済学、法律学、社会学などの個別科学を超え、自然科学的知見を取り上げ、現状分析に基づくプログラム設計を中心とした問題解決型の新学会を目指し2010年11月に発足しました」(政治社会学会ホームページ)
http://aspos.web.fc2.com/arakiaisatu.html/

(2) 政治社会学会の設立の趣旨
「科学技術の著しい発展、地球温暖化問題の発生、グローバル化の急速な進展など、私たちの住んでいる政治社会(political society, John Locke 1698)、すなわち市民社会(civil society)は、これまで経験したことのない事態に直面し、さまざまな問題解決を迫られています。しかし、これに呼応して従来の学問体系全体がパラダイム・シフトを求められていることに気づいている人はごく少数です。自然科学ばかりでなく社会科学のあり方そのものが問われています。このような状況に社会的に対応するため、2010年3月に、「政治社会学会」を立ち上げることにしました。

政治学、経済学、法律学、社会学などの個別科学の垣根を取り払い、自然科学的知見を取り上げ、現状分析に基づくプログラム設計を中心とした問題解決型の新学会を目指しています。同時に、文理融合や人文社会科学の再生を模索しながら、新たな社会の構築のために、必要と思われる理念の調和と叡智あるプログラム設計を探究していこうとするものです。ご賛同いただける方は、本会を通じて、積極的なご加入とご支援をお願い申し上げます。

なお、本学会では、潤滑な企画運営をはかるため、文理融合部会、政治社会学部会、政治経済学部会、国際社会学部会、国際交流部会、ポスター・セッション部会を設置しています。

【新たな社会に対応する学会指針の三本柱】

1.文理融合型の学際的研究を可能にする新たな視点の再開発
2.リベラル・アーツの再検討と人文社会科学再生への道
3.新たな社会構想:必要とされる理念の調和と叡智あるプログラム設計 」(荒木義修2010)
http://aspos.web.fc2.com/arakiaisatu.html/

(3) 第三回政治社会学会総会及び研究大会プログラム
http://aspos.web.fc2.com/20121123-25aspos3.pdf

(4) 第三回政治社会学会総会及び研究大会報告要旨集
http://aspos.web.fc2.com/20121123-25abstract.pdf

(5) 2013年度 第1回「アジアの共生」ジョイント・コンファレンス  -大会テーマ「東アジア安全保障共同体と日米関係」プログラム –
http://aspos.web.fc2.com/jointconference.html

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