2014年12月18日木曜日

詩 「砂鉄の浜」

三石博行

岩本拓郎作(2014年12月8日)
















岩本拓郎氏のフェイスブック
https://www.facebook.com/takurou.iwamoto.73?pnref=story

岩本拓郎氏の幻想的な絵を観ながら

「砂鉄の浜」


だから
疑問の筆箱を鞄に入れて
私は砂鉄の浜に行った
すると
鉛筆は筆箱をコトコトと敲き
筆箱は鞄をシュウシュウと奏で
砂浜は蒼い夜光虫の誘いを受けて
波の楽譜を広げ
問い掛けが砂鉄の粒に押し寄せ
仮説は石英の粒を濡らし
紅黒の飛沫が空を舞い
白蒼の渦が海に踊る

すると
群青の海面に思索の図柄が織り込まれ
暗紺の波際に観念の音符が刻まれ
月夜のコンサートがつづき
砂鉄の浜辺のオペラがはじまり
疑問は波間に落ち
理由は暗い遠洋に流れ
すべての意味や解釈は
砂鉄の浜に吸い込まれた

すると
浜辺に波跡が刻まれ消され
古代の懐疑の痕跡は瞬時にのみこまれ
砂鉄の粒たちはピアニッシモの輝きとなり
さざ波の上を滑走し
理由は問いから切り離され
月光に輝く渚コンサートは閉幕し
望んだの推論の光は
ここには届かなかった

だから
疑問の筆箱を鞄に入れて
私は砂鉄の浜を後にした

もう遅い、さあ家に帰ろう
もう夜明けだ、さあ家に帰ろう


2014年12月8日
近江『詩人学校』 2022年8月号記載

三石博行詩集 『心象色彩の館』

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