2015年1月29日木曜日

再生可能エネルギー資源活用をベースとする持続可能な社会形成への制度設計は可能か

-尾形清一博士(京都大学)研究報告の示唆する課題-


第五回政治社会学会研究会 専修大学神田キャンパス 2014年11月2日 


三石博行(NPO 太陽光発電所ネットワーク(PV-Net)副代表)



はじめに


まず、尾形清一博士の研究報告「エネルギー転換と地域再生可能エネルギー事業に関する考察―再生可能エネルギー条例の制定状況と策定プロセスを中心にして―」の我国で進行しているエネルギー変換政策・制度設計の中での位置づけを行う。

2011年3月11日の東日本大震災・福島原発事故から、我国のこれまでの原子力エネルギーに依存するエネルギー政策が見直しが行われた。そして、再生可能エネルギーを普及するために、2012年7月から固定価格買取制度(FIT)が施行され、日本の再生可能エネルギー資源利用を推し進めるための国家レベルの制度設計が課題となっている。

この課題を考える時に前提となる条件は、まず百年後のエネルギー資源の見通しが必要であること、言い換えると化石燃料や核燃料の希少化や枯渇を前提にして中長期的なエネルギー政策を立てなければならないこと。さらに、原子力発電施設の安全管理やリスク管理、原子力発電から生み出される核燃料廃棄物の処理及び長期保管、さらには原子力発電所の廃炉等々、リスク管理上もまたエネルギー価格的にも原発に頼るエネルギー政策を続けられないこと。以上、大きく二つの課題を前提にして、中長期エネルギー政策を立てなければならない。

上記の前提条件を全く否定することは困難であるが、中長期エネルギー政策を前提とする短期的エネルギー政策に於いて、現在、安全性が保障されている原発の稼働を認めるか否かで意見の相違があるものの、再生可能エネルギー(RE)技術開発、再生可能エネルギーの普及のための制度設計、そしてそれに関する新産業の育成に関しては、基本的なコンセンサスが取れている。

勿論、REには同意できている。おおよそ基幹エネルギーとしての位置づけ、中長期的な国家のエネルギー政策、そしてそれに基づく社会経済制度設計、新たな産業構造への移行、さらにはそれらの政策と制度を充実完成するための各アクターのガバナンス(運営・管理・改良・変革)の在り方などの多岐多様な課題が問われている。


尾形報告の示す課題 


今回の尾形清一博士の報告は、その重要な課題の一つである「再生可能エネルギー関連条例の現状と課題」に関して、全国の地域自治体の関連条例の分析を通じて、再生可能エネルギー(RE)事業(REB)の地域経済への貢献の可能性を引き出すための連携協働を目的とする課題が分析されている。具体的には、地方自治体の制度設計、地域金融機関の連携、地域経済への再投資、地域自治体の経済振興局の連携、REBを担うアクターとの連携を課題にしている。

尾形報告では、現在の地域自治体のREB支援条例を全国から採集し、それらを「①理念条例、②再生可能エネルギー基本計画の策定、③公共施設屋根貸しの推進、④再生可能エネルギー基金、⑤発電設備に対する固定資産税の免除、⑥景観保全の観点からの規制条例、⑦支援条例・再生可能エネルギー導入審査会の設置」(尾形2014)と分類した。

これらの分類は、支援条例を導入した飯田市の取組を相対的に理解するために行われ、飯田市の支援導入型の基本となる「地域環境権」の創設とその機能に関する分析へと展開されている。現在の日本の自治体のRE普及制度を「考現学的」方法論(事例の採集とその比較)で調査研究した。そして、飯田市の「地域環境権」創設とその理念に基づく地方自治体の支援事例の紹介を行った。


飯田市の取組事例の紹介  


「飯田市再生可能エネルギーの導入による持続可能な地域づくりに関する条例」(2013年4月)は地域の豊富な再生可能エネルギー資源の「結い」を活用して低炭素で活力ある地域づくりを推進することを目的している。

つまり、この条例は「RE資源は市民の総有財産であり、そこから得られるエネルギーは市民が優先的に活用でき、自ら地域づくりをしていく権利があとする「地域環境権」の考え方を前提にしている。この地域環境権を示し、その理念に即した「公民協働のルール化」と「市の支援とREB(再生可能エネルギー事業の公共品質の確保)を条例で定めた。

これらの条例によって市民が申請した事業に対して指導や助言を行う審査会を設置し市長による支援措置を具体化し、事業の持続性、安全性、事業可能性、市民事業のガバナンス能力の向上、金融機関、投資家の投資資金促進支援、市の援助基金や初期調査費用への無利子貸付け、市有財産使用権限に関する基準等々の制度を定めた。こうした市のREB支援のための制度設計によって、太陽光市民共同発電事業を推進した地域市民主導型の企業活動が生まれた。


RE社会の意味する社会経済システムに関する課題


小規模分散型エネルギー資源としてのRE 

大型水力発電を除外して、大型火力発電や原子力発電等の集中大量生産型の発電施設に比べ、一般に再生可能エネルギー資源を利用した発電施設は、メガソーラや巨大風力発電などの中規模から、住宅用太陽光発電に見られるように小規模分散型である。

そのため、この弱点(現在のエネルギー産業の視点からすると)を乗り越えるために、幾つかの戦略が提案されている。その一つが、一つはメガソーラのようにより規模を大きくし、従来の大型発電の規模に近づくことである。

もう一つの戦略は、小規模発電所の生産と地域社会の消費のネットワーク的管理によって、生産と消費の収支を時間的空間的に調整する技術の開発である。例えば、異なるREの組み合わせや地域や家庭での蓄電システム(例えば家庭用蓄電の普及、電気自動車やプラグインハイブリッド車のバッテリー活用等々)の構築、スマートグリッドの形成などがその例である。

また、上記の地域ネットワークだけでなく、広域ネットワークの形成によって、過剰生産電力を空間的に調整する制度設計が提案されている。


小規模分散型エネルギーの意味するもの 都市の構造とエネルギー生産様式 


小規模分散型エネルギー生産様式をマイナスと理解するのはそこの大規模集中型エネルギー生産様式がより進んだエネルギー生産システムであるという、この間、長年インプットされてきた生産様式への理解、つまり産業革命によって実証された社会経済的価値観があるからである。

この価値観に対応するために新たな価値観を見出さない限り、小規模分散型エネルギーは大規模集中型エネルギーの補足資源として位置付けられることになる。

そのため、エネルギー生産の地産地消の意味を考える必要がある。食糧、農産物の地産地消の例を取るまでもなく地産地消型の生産はすべてそこに生産者と消費者のネットワークを前提にして成立している。エネルギー生産と消費に関しても、地産地消型が導入されるなら、エネルギー消費者はその生産者の顔をよく理解し得る。つまり、人の顔の見える生産物としてエネルギーが消費者に届くことになる。

この人の顔の見える生産物は、すでに昔からあった。それは大量生産と大量流通、そして大量消費社会によって消え失せた。我々の周りに生活資材はすべて顔を待たない生産物であり、我々も誰が作ったものかという感心すらない。

つまり、大量生産と大量消費社会では生産システムは消費者にとってブラックブックスであり、どのようにして作られているかを知らない。また、生産者にとっても需要量としてしか消費者は見えない。そこにある多様なニーズや反応の理解もクレーム係の担当として分業化される。

しかし、このことがどれほど食の安全を脅かし、また資源の無駄使いやもったいないごみを大量に作っているかを知るべきである。そしてこうした生活様式に普及やその生活様式を持つ人口増加によって、天然資源の枯渇化が近年急速に進んでいることも事実である。

しかしながら、百年後の化石燃料の希少化や枯渇化を前提にするなら、RE生産を大規模化する方向に向かうことも加速し、また新たに小規模分散型生産システムの合理的管理様式も進化するだろう。


都市構造と地産地消型エネルギー社会 


言い換えると、我々がREによる社会の制度設計を考える時に、その弱点である小規模分散型のエネルギー生産様式をマイナスと理解するかそれともそこに秘められている新たな社会理念の発掘や社会制度の創造を思索する機会と取るかによって、この課題は大きな分岐を引き出すことになる。

現在の日本は、東京を中心とする関東の都市や関西の都市に人口が集中し、その人口集中した都市構造が生み出す巨大消費を維持するために、必然的に大規模集中型の生産様式が発展する。つまり、大規模集中型生産-消費構造がある以上、小規模分散型生産-消費の構造は形成されにくい。言い換えると、ここで課題となる小規模分散型生産と消費は人口集中度の少ない地方でより実現可能な生産・消費システムであるとも言える。

さらに、言い換えると、飯田市が推進している支援誘導型の再生可能エネルギー条例にみる社会制度設計は人口の大半を占める都市では不可能な事業ではないかという事になる。この課題をどのように理解し、飯田市の事例の展開を中規模都市に行うための更なる検討が必要となる。
 
また、逆に、飯田市のように参加型社会を形成するためには、ますます人の顔の見えなくなった都市空間を人と人の結によってできている街空間に変えるためのヒントがあるとも言えるだろう。現在、保育施設を建てること反対運動が起こる都市、こどもが堂々と通学時に連れ去られる町、孤独死をした老人が一か月も放置される町、子育てに苦しんだ母親が育児を放棄する町、この課題と飯田市の試みは無縁ではないことを理解することが課題となっている。


グローバリゼーションとローカリゼーション


REを基盤とする社会経済システムの構築では、小規模分散型生産様式、地産地消型生活様式、参加型社会を前提としている。この社会パラダイムを一括りにするなら、それと対峙される社会パラダイムは大規模集中型生産様式、分業生産消費生活様式と非参加型(代理人選択型)社会である。

実際のところ、日本は後記した社会の典型である。そして、逆に前記した社会を目指すための契機としてRE社会を目指す飯田市を代表する地方自治体や社会の動きがあると言えるだろう。

ここで、もう一つのドグマ、つまり、グローバリゼーションとローカリゼーションは対立概念であるという社会思想に言及しなければならない。何故なら、RE社会のイメージがグローバリゼーションと対立するもののように受け取られ、大規模集中型のRE生産システムの唯一のRE社会の在り方として理解されてしまう傾向が生まれるからである。

まず、グローバリゼーションとローカリゼーションは矛盾する概念ではないと言わなければならない。そしてグローバリゼーションを大規模集中型、大量分業型生産として位置づけ、また、その対立概念にローカリゼーションを位置づけるからである。逆に単純均一の生産物を大量生産することによってグローバリゼーションは阻害される。

何故なら、それはグローバルに需要を生しえないからである。寧ろ、多様で希少性の高い生産物がグローバルに消費される。言い換えるとローカリゼーションとグローバリゼーションは対立概念ではなく、より豊かなローカル性こそがグローバル性を獲得すると言えるのである。

このことは、生産消費型の生産様式にこそ豊かなローカル性を育む力があると理解し、地産地消型や小規模分散型・ネットワーク型の生産様式の生み出すグローバリゼーションとローカリゼーションの未来を考えるべきである。その実例がEUの言語や文化の域内多様性の保護と連帯強化の政策に見られる。EUの環境政策、および文化政策はグローバリゼーションがローカリゼーションによって支えらている事例と言えるだろう。



FIT制度見直しに対する地域自治体の対応 



昨日の遠藤博士の研究報告で使われた用語、Hard Path (科学技術や制度)とSoft Path(法律やコミュニケーションルール、規範)の概念を援用して、RE政策や制度設計問題を検証しなければならない。何故なら、政府のFITの破綻と電力企業の買取り拒否によって、そのソフトパスが十分でないことが明らかになった。

つまり、RE政策はREBを支えるハードパスの支援に重点が置かれたが、それをREBのアクターが利用するために、またその利用によって生じる否定的な課題へ対応も遅れている。

地方のRE政策はそれのどのような影響を受けるのか。そしてその影響を受けない対策があるのか。また、国がRE政策の推進を積極的に行わない場合には、どういう地域自治体のRE政策や制度設計が可能なのか

この間、REBとして、制度設計を助言提案するNPO団体、例えばNPO再生可能エネルギー事業を支援する法律実務の会、NPOPV-Net、環境エネルギー政策研究所等をはじめとして多くのNPOや環境ビジネスが生まれている。これらは、REソフトパスを豊かにするための社会資本の一部であると理解することができる。それらのREソフトパスビジネスの参加によってより多様で豊かな解決策が生まれないだろうか。


まとめ



多くの可能性、それは単に未来社会に繋がる資源エネルギー政策だけでなく、参画型社会の在り方、また人々の生活空間のネットワークによって運営される生産消費者(プロシューマー)の社会が問われている。それは21世紀の市民社会と市民の形成でもあると言える。


参考資料


1、飯田市「飯田市再生可能エネルギーの導入による持続可能な地域づくりに関する条例」の概要
2、馬上丈司(千葉大学法経学部)「地方自治体の再生可能エネルギー政策への取り組み」
3、飯田市地球温暖化対策課 田中克己「ローカルファイナンスを活用した飯田市の再生可能エネルギー推進政策」
4、PHP研究所政策シンクタンク「「地域主導型」再生可能エネルギー事業 事業支援サービスのご案内」
5、舩橋春俊(法政大学)「社会技術研究開発事業 地域間連携による地域エネルギーと地域ファイナンスの統治的活用政策及びその事業化研究」
6、倉阪秀史「「地域のエネルギー活用」に関連する条例案」千葉大学 公共研究 第9巻第1号(2013 年3月)
7、福岡県「県有施設の屋根貸しによる太陽光発電事業企画提案公募要項平成26年8月福岡県」
8、蔵田幸三(東洋大学)「地方都市における公民連携によるエネルギー政策の推進手法に関する一考察 -湖南市地域自然エネルギー基本条例を中心として-」
9、遠藤崇浩(大阪市立大学現代システム科学域)「カリフォルニア水銀行とそのグローバル展開可能性」第5回政治社会学会研究大会報告 2014年11月1日(土)
10、尾形清一(京都大学)「再生可能エネルギー関連条例の現状と課題「支援誘導型」という政策手法について」(第5回政治社会学会用・報告予稿)

その他多くの資料を参照



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