2010年6月22日火曜日

「クローズアップ現代『犯罪“加害者”家族たちの告白』放映記録のテキスト批評

三石博行


1、資料の紹介

 ブログ 「sokの日記 初歩的疑問」、2010年5月9日記載 の中に、「クローズアップ現代『犯罪“加害者”家族たちの告白』」の番組を忠実に文字化した放映番組の紹介の資料があった。その資料を基にしながら、「クローズアップ現代(No2872)『犯罪“加害者”家族たちの告白』2010年4月7日(水曜日)」の放送番組の中で紹介され、討論された課題を使う。

 また、NHKホームページ クローズアップ現代 2010年4月7日放送 ジャンル社会問題 事件・事故「犯罪“加害者”家族たちの告白」も使う。

 テキスト批評と分析の方法に関しては、資料「レポート材料の作り方について」 を参考にする。


2,資料の要約

2-1、知られていない犯罪加害者家族の実態

 NHKは2010年4月7日(水曜日)にクローズアップ現代『犯罪“加害者”家族たちの告白』を放映し、犯罪加害者家族の人権問題を取り上げた。この番組の司会者は国谷裕子氏で、番組に参加した人は、人権NPOワールド・オープン・ハウス代表者の阿部恭子氏、犯罪被害者家族の浅野さん(仮名)、仙台青葉学院短期大学高橋聡美氏と常磐大学理事長の諸澤英道氏であった。

 キャスターの国谷裕子氏は「犯罪が社会に不安・恐怖をもたらす凶悪なものであった場合」、突然「加害者の家族になったことで」、家族は「申し訳ないという自責の念」をもっている。他方、社会で「犯罪に対する強い憤りが湧き上がる中で」、犯罪加害者家族は「身内が犯した罪に対して」、社会の「批判は家族やその親族にまで集中し易いため」、結果的に「加害者家族は事件で大きな影響を」受けることになる。

 特にインターネットによって、「家族の住所・勤務先・子供が通う学校なども情報が暴露され、匿名の第三者による厳しい社会的批判を、ますます受け易くなって」いる。さらに、「社会的制裁といった形に追い込まれ」、犯罪加害者家族は「仕事を辞めざるを得なくなった、自殺するケースも」あるという。

 犯罪被害者に対して、国は2002年に施行された犯罪被害者等基本法で、暫定的ではある支援制度が確立していった。しかし、加害者家族は社会の差別を避けるため身を隠すように生活している傾向があり、その実態はあまり知られていない。

 NHKのクローズアップ現代は、現在、日本社会で次第に問題化されつつある犯罪加害者家族の人権問題に触れた。


2-2、人権NPOワールド・オープン・ハウスの犯罪加害者家族の支援活動

 そこで、2009年8月、WOH 人権NPOワールド・オープン・ハウスが犯罪加害者の家族の調査を行った。全国規模でアンケート調査を実施した。「およそ1000名に呼びかけ、34人から回答が」あった。アンケートの結果、「安心して話せる人がいない 67%」、「被害者の遺族への対応に悩んだ 63%」、「報道にショックを受けた 58%」の回答が得られ、「多くの悩みを抱えていることが分か」った。

 人権NPOワールド・オープン・ハウスでは、家族が置かれている実態を知り、「心のケアを行う」ために、毎月1回加害者家族が集まり「普段、誰にも話せない悩みや不安を話し合う場を設け」ている。その会に参加した犯罪加害者家族が番組に匿名で登場し、人の多くいる場所、銀行や病院では「誰か知っている人はいないか」、「名前を呼ばれるのが厭(いや)だ」と告白していた。


2-3、子供への嫌がらせや自殺に追い込まれる犯罪加害者家族

 また、平成元年、4人の幼女が誘拐、殺害された事件で、犯人の家庭環境に問題があったとして、「その両親に非難が殺到し」た。「差出不明の「お前は死ね」とか、「娘も同じように殺してやる」という手紙や葉書が「山のように」来た。父親の弟は5つの会社の役員を辞職し妻とも離婚した。そして父親は自宅を売り払ったその代金を被害者遺族に支払う段取りをつけて自殺した。

 番組の取材に応じた犯罪加害者(夫が殺人事件を犯した)家族の浅野(仮名)さんは、子供を狙ってインタビューするマスコミ、見知らぬ人からの「人殺し」という電話、「殺人者の家」と玄関の横に書き、表札がはがされて割れていたことがあったと話した。また、インターネットで「子供の性別とか年令」とか「犯罪者の血をひいている子供も将来はそうなる(犯罪者になる)から、今のうちに抹殺したほうがいい」という書き込みがあった。「息子への書き込み」を見るのは辛かったと浅野さんは話していた。

 また、子供が非常に傷ついたのは学校での嫌がらせであった。転向を進められ、転向の際には今までの友達に別れを告げることも許されなかったという。


2-4、アジア的共同体社会(村落共同体)が生み出す連帯責任制度と犯罪被害者家族への批判

 犯罪学の専門家で犯罪被害者の問題を長年取り組んできた諸澤英道常磐大学教授は、加害者と加害者家族が一緒に批判される社会的風潮に関して「日本に限らず、アジアの近隣国も」犯罪加害者とその家族を一緒に非難する傾向があるのは似たようなもの、犯罪は、「家族とか地域とか、組織が生み出すという考え方」を持っていると分析している。

 この犯罪の連帯責任制度は、国家が、「家族や地域や職場から犯罪者を出さないように」犯罪の共同責任(連帯責任)を利用してきたもので、そのため「加害者も家族も」みんな犯罪責任者として「一緒だという見方が日本ではしっかりと」根づいて来たのだと諸澤教授は述べている。

 さらに、諸澤教授は、この日本の伝統的な村落共同体での連帯責任制度は、「犯罪をさせないという面では」「意味はあるのだと思」われるが、そのために、逆に、「犯罪者が抱える問題に目を瞑る(つむる)」ことになり、「犯罪者に対する、或いは、家族にたいするバッシングが起こってくる」と言っている。

 つまり、連帯責任を問題にする日本社会では、家族へのバッシング、人権侵害を「誰も止めようとしない」状態になり、さらに、最近ではインターネットの普及によって、犯罪者家族へのバッシングが「エスカレートしてくる」事態を引きここしている。そのため犯罪者家族の人権侵害を助長する「無責任な状態が起こることになると諸澤英道教授は述べている。


2-5、犯罪被害者と犯罪加害者家族の類似した実態と、将来、社会的承認される犯罪加害者家族支援運動の可能性

 諸澤英道教授はワールド・オープン・ハウスの行ったアンケート調査の結果を見て、犯罪「被害者遺族が抱える問題と、加害者の家族抱える問題」は「3分2は、少なくとも共通点がある」と述べている。

 例えば、「事件後、家族がみんなバラバラになってしまった。家族関係は悪くなった、人の目がきになる、近所の目が気になる、外出もできない」とか、第三者から「嫌がらせ」をうける」とか、また悩みや不安を安心して「相談できる相手がいない」という「たぐいの問題が加害者の家族にもある。これは、被害者の家族にもある」。

 つまり、犯罪被害者と犯罪加害者家族は共通した問題を抱えており、その共通した課題を抱えていることこそ、「社会が抱える大きな問題」ではないだろうかと諸澤教授は指摘している。
 また、長年、犯罪学の研究、犯罪被害者の人権を守るための社会運動に取り組んできた諸澤教授は、「15年前に」「被害者支援の組織を立ち上げて、それを動かすボランティアの養成講座をやってきた」。その15年間の活動を振り返り、そして犯罪被害者支援の会に「参加してくる人のほとんどが実は匿名であり、家族や職場に内緒で来て」おり、当然「マスコミ取材なんかも受けないという」という活動のスタイルであった。それが15年経って、現在、犯罪被害者支援の会はオープンに活動するようなった。会のメンバーは社会に堂々と自分の名前や活動を公開していると教授は述べている。

 このことを考えるなら、現在、犯罪加害者家族も15年前の犯罪被害者支援の会のメンバーのように、これから15年後は、犯罪加害者家族の支援の会もオープンに社会活動するように変化するのではないだろかと諸澤教授は述べている。そして彼は、犯罪加害者家族の支援活動も、今後は社会に認められ、支援者も社会的にオープンな活動を行うようになるだろうと語った。


3,資料テキスト批評と解釈

3-1、マスコミのあり方とその点検機能

 すでに本科目8回目の講義「犯罪防止と冤罪問題」で、冤罪事件の実例として取り上げた「松本サリン事件」でも、マスコミによって「(冤罪)犯罪被告者家族の人権」を侵害する問題が発生していた。

 まず、現実に起きている犯罪加害者の家族の人権問題を課題にする場合、犯罪の容疑を掛けられている犯罪被告人とすでに法廷で刑の執行を命令された犯罪加害者の場合を明確に峻別(しゅんべつ)しなければならない。社会もマスコミも犯罪被告人に対しては、犯罪者のように取り上げてはならない。

 つまり、特にマスコミは被告人を犯罪者として取り上げた場合、そこにすでにマスコミにおいて人権侵害が生じている。マスコミに人権侵害を点検する機能が不足している限り、マスコミは面白可笑しく、また興味本位で事件を報道し、犯罪被害者や犯罪被告人の人権を無視する可能性がある。

 ではどのようにしてマスコミによる人権侵害を防ぐことができるだろうか。マスコミの場合、報道を制約する法律や制度を設けられることを極力非難する。つまり、報道の自由を奪われることで民主主義社会の基本的骨組みにひびが入ると警告されることになる。マスコミは例え人権侵害の疑いありとういう理由によろうが、基本的には報道規制に関して敏感に対応する。報道規制は民主主義社会の批判精神を奪うことになり、社会報道規制によって、大きく市民の権利は奪われ、国家による大規模な人権侵害を引き起こすと考えるからである。

 それでは、マスコミが自ら作り出す「小さな人権侵害」は、「大きな人権侵害」のために容認されていいのだろうか。つまり犯罪被害者や犯罪加害者家族の人権問題は、表現の自由を奪う言論統制や報道規制によって、容認されて良いと言うのだろか。

 マスコミは、例えば松本サリン事件で毎日新聞やその他のマスコミが犯した誤報や人権侵害に対して、反省しなければならないのだが、その教訓から、マスコミは犯した報道上の誤りは、報道上の訂正で真摯に行う必要がある。また同時に、被害者への名誉毀損(めいよきそん)への損害賠償を支払うべきである。

 言い換えると、マスコミの誤報や人権侵害は今後も生じうる。そのため、そのマスコミの誤報や過剰報道による人権侵害の一つ一つをこまめに取り上げながら、その度ごとにマスコミの人権侵害の事実、それを書いた新聞記者や編集長の名前の公開、さらには、謝罪文章の記載のみでなく、その誤報や人権侵害への対応を具体的に報道する義務を負わなければならないだろう。

 また、マスコミも今回、NHKのクローズアップ現代が取り上げたように、犯罪被害者や犯罪加害者家族への人権侵害を取り上げた報道をもっとおこなうべきだろう。

 さらに人権侵害を犯すマスコミ報道に対しては、人権擁護法(違法者への罰則規定を含む)に基づいて、国、公共団体やNPOの機関に人権擁護委員会を設定し、被害者の訴えを受け、それらの機関で調査し、違法者に対して勧告や被害補償や謝罪要請を行えるようにしなければならない。もし、その勧告を無視した場合には、犯罪として刑事告訴できるようにする必要があるだろう。


3-2、人権擁護法の成立と人権擁護機関の設立の必要性

 人権侵害は多種多様な形態を持つ。多くの場合、社会的平等の権利を奪われ、不当に格差や差別を強いられることを意味する。例えば、在日外国人への差別、部落差別、身体障害者差別、雇用差別(臨時職員や派遣、パート職員への不当な雇用条件)、女性差別、民族差別、宗教上の差別、

 このような人権問題に対しては、2002年第154回国会に提出された「人権擁護法」があるが、2003年10月衆議院解散によって廃案となったままである。一日も早く、人権侵害の発生を防ぎ、また被害に対して適性かつ迅速な救済措置を取るための国の制度を確立しなければならない。

 犯罪被害者(家族)が犯罪加害者を気持ち的に許すには時間が必要である。犯罪被害者が持つ犯罪加害者への自然な感情としての恨みや憎しみは、それが復讐という犯罪行為として展開されない限り、その感情を抑制することは出来ないだろう。

 しかし、第三者が犯罪被害者の気持ちを代弁して、犯罪加害者の家族に対して嫌がらせをすることは犯罪である。被害者の気持ちを利用した犯罪行為として資料で紹介された第三者による犯罪加害者家族へ嫌がらせ、無言電話、インターネットでの書き込みを人権侵害、犯罪行為として訴える社会的機能、警察や第三者機関による人権侵害の告発機能が必要となるだろう。

 つまり、人権侵害を犯す人々に対しては、人権擁護法(違法者への罰則規定を含む)に基づいて、国、公共団体やNPOの機関に人権擁護委員会を設定し、被害者の訴えを受け、加害者を調査し、その違法行為に対して勧告や被害補償や謝罪要請を行えるようにしなければならない。またその行為が犯罪として認められる場合には、それらの機関が被害者の訴えに基づいて人権侵害者の刑事告訴が出来るように必要があるだろう。


3-3、犯罪被害者支援の会と犯罪加害者家族支援の会の交流の必要性

 犯罪学研究者で、今から15年前(1995年)に犯罪被害者支援の組織を立ち上げ、その支援組織でボランティア活動を行う人々を育ってきた常磐大学の諸澤英道教授は、犯罪被害者と犯罪加害者家族の抱えている問題が共通することを述べている。

 しかし、その双方の課題が共通していたとしても、犯罪被害者やその家族と犯罪加害者家族がお互いに話し合うには、双方の感情的問題が大きな支障となる。つまり、犯罪被害者は犯罪加害者家族と共通した問題を抱えていたとしても、相互にそれを解決する感情的立場や利害的立場を共有する土台がない。何故なら、被害者は加害者(その家族も含めて)に対して憎しみを持ち、また奪われた生活や生命に対する保障を要求する。しかし加害者家族は被害者への求める損害賠償や和解への要求をここで主張している訳ではない。むしろ加害者家族が受けている不当な扱い、つまり犯罪者本人でない家族が犯罪者と同じ社会的制裁を受ける理由が存在しないことを主張しているのである。それらの利害や感情の違いをここでは解決することは出来ないだろう。

 もし双方が同じ問題を抱えているならば、それらの解決は感情的に相容れない双方が共に取り上げるのでなく、むすろ、犯罪被害者を支援する会と犯罪加害者家族を支援する会が、お互いに第三者として被支援者の立場を理解するものとして、それらの共通する課題を考えることが可能である。

 (テキスト要約の中で)上記した、犯罪事件後、被害者家族も加害者家族も、「家族がみんなバラバラになってしまい」また、「家族関係は悪く」なった原因は何か。犯罪被害や犯罪加害者の家族という災難に遭遇することで、家族はそれぞれ苦しむ。それ故に、今まで以上に家族の中では十分な意思疎通が問われる。お互いの苦しみを分かち合い助けあう作業が問われる。もし、その作業に失敗したなら、当然の家族の絆は崩壊するのである。

 しかも、被害者(家族も含め)も加害者家族も、事件がマスコミで報道され、事件によっては世間の人々の関心や興味を誘い、またマスコミの取材のネタとなる。当然、双方、「人の目が気になる」、特に「近所の目が気になる」ために、「外出もできない」精神状態となる。また場合によっては、第三者の「嫌がらせ」に遭遇する。そうしたことを、「相談できる相手がいない」ため、ますます双方(被害者(家族も含め)も加害者家族)、世の中から遠ざかり、その分、話し相手を失う悪循環に入るのである。

 こういたたぐいの問題をよく理解しているのが、それぞれの支援の会の人々である。その意味で、支援の会が、被害者(家族)と加害者の家族の立場や解決しなければならない課題を理解していると思われる。その意味で、双方の支援の会が、双方の家族の人権を守るという点に関して議論をすることは問題解決の糸口を見つけ出すように思われる。


4,まとめ 

 以上、「クローズアップ現代(No2872)『犯罪“加害者”家族たちの告白』2010年4月7日(水曜日)」の放送番組の中で紹介され討論された内容の要約とその批評・解釈を行った。

 犯罪加害者の家族の人権擁護問題は、今、漸く(ようやく)、社会で取り上げられるようになり、また人権NPOが創られ、その支援運動が起こった。マスコミをはじめ、社会はこの問題に関して関心をもたないし、引き起こされる人権侵害に関する解決策を用意していない。

 その理由として、犯罪被害者との利害問題が発生すると考えるからである。つまり、犯罪加害者家族の人権擁護運動は、犯罪被害者擁護と対立すると考えるからである。

 それに対して、双方が抱えている課題や問題が現象的に極めて共通することが述べられている。そのことの解決が、犯罪加害者の家族の人権について考える契機を与えるだろう。

 双方の課題を引き起こしている基本的構造は、アジア的共同社会の伝統の中に、社会秩序維持機能として存在している「連帯責任制度」がある。裏を返せば個人主義思想の不在である。犯罪被害者やその家族にしても、それら被害の痛みを社会が共有する前提を失った場合、例えばレイプにあった女性に対する差別意識など、犯罪被害者も社会から排除されることになる。そして同様に犯罪加害者家族は犯罪者の罪の責任を担うことが当然のように主張されるのである。

 この問題の本質は、民主主義社会の基本になる人権思想が社会文化として、個々人の生活観や生活様式に浸透しない限り困難であることに気付かされるだろう。


5、参考資料

1、 ブログ 「sokの日記 初歩的疑問」、2010年5月9日記載 「クローズアップ現代『犯罪“加害者”家族たちの告白』」の資料、「クローズアップ現代(No2872)『犯罪“加害者”家族たちの告白』2010年4月7日(水曜日)放映番組の紹介」
http://sok-sok.seesaa.net/article/149336273.html

2、 NHKホームページ クローズアップ現代 2010年4月7日放送 ジャンル社会問題 事件・事故「犯罪“加害者”家族たちの告白」
http://cgi4.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail.cgi?content_id=2872

3、 「WOH 人権NPO ワールド・オープン・ハウス」 公式サイト
http://www.worldopenheart.com/index2.html

4、 三石博行 教材「現代社会と人権問題 犯罪防止と冤罪問題」2010年5月、A4 4p.

5、 Wikipedia 「人権擁護法案」 
http://ja.wikipedia.org/wiki/

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