2012年2月20日月曜日

市場からみた太陽光発電システムの課題

太陽光発電の将来性と問題点

三石博行

2-1 、利用可能な太陽光エネルギーの量の評価

太陽から地球に到達する太陽光のエネルギーは約174PW(ペタワット)、つまり174×1000兆ワットである。この光エネルギーは大気中で吸収され海面に反射してその半分が失われ、残り半分が地表に降り注ぐ。地表に到達した太陽光エネルギーは大気、海洋と地表を熱し、最終的に宇宙空間に放出される。藤原氏によると、この太陽光エネルギーの約1PW(ペタワット)、1000兆ワット(1兆kw)を人類は利用することが可能であると言われている。現在の人類の全消費エネルギーが50倍と言われている。

また、他の地球での利用可能な再生可能エネルギーと比較してもその太陽光エネルギーは非常に大きいと言われている。例えば、山田興一氏や小宮山宏氏によると、収集可能な(利用できる)風力エネルギーは10TW(テラワット)と推定されている。つまり、太陽光エネルギーの100分の1である。

最近注目を浴びている収集可能な波力エネルギーは0.5TW(太陽光エネルギーの200分の1)であると推定されている。そして潮力エネルギーは0.1TWである。火山国日本で期待されている利用可能な地熱(貯留)エネルギーは年間50TW(太陽光エネルギーの20分の1)と推定されている。太陽光エネルギーはその他の再生可能な自然エネルギーに比べて、利用可能な資源量が大きいことが理解できる。

巨大な資源量を持つ再生可能エネルギーとしての太陽光エネルギーを活用し、新たな産業を興すことを藤原洋氏は第4の産業革命と呼んでいる。この第4の産業革命を支える社会経済システムは「太陽経済」(2009年一般財団法人太陽経済の会を設立した山崎養世氏の言葉)によって成立すると藤原氏は述べている。石炭火力エネルギーで第一次産業革命が起り、石油化学エネルギーで第二次産業革命が展開し、電気エネルギーで第三次産業革命と呼ばれる情報通信産業が発展し、そして太陽光エネルギーによって第四次の産業革命(第4の波による太陽経済社会)が起ろうとしているという考え方は現在の世界の全消費エネルギー量の50倍もある太陽光エネルギー利用の可能性から導かれる希望であり夢であると言えるだろう。

しかし、同時に2011年3月11日に起った東電福島第一原子発電所事故(以後、東電福島原発事故と呼ぶ)によって、我々は未来のエネルギーとして期待した原子力の利用の難しさを知った。また、その事故によって大量に放出した放射能物資の処理に関して、何も対策がなされていない事を知った。海外の化石燃料に依存する社会、そしてそれが引き起こす異常気象問題と国防上の問題解決として、原子力エネルギーの利用が1970年代から進んできた。

しかし、東電福島原発事故によって、その計画は大きく変更しなければならなくなっている。そして、太陽光エネルギーの利用は、3.11東電福島原発事故以来、将来のエネルギーとして大きな期待をかけられようとしている。
そして、同時に現在の人類の全消費エネルギーが50倍ものエネルギーを供給できると言われる太陽光エネルギー利用の実現可能性に関する検証が要請されている。その基本的な課題は、エネルギー変換率の高いセルや太陽光発電ンシステムの生産技術開発、太陽電池の生産に関する経済的検証、国民的な太陽光発電システムの普及に関する政治・経済・社会政策の検討等々である。それらの検証作業は言及するまでもなく科学技術的な方法によって行われる必要がある。


2-2 、太陽電池のエネルギー回収年数(EPT)・二酸化炭素ペイバックタイムの評価とその算出基準

以前から、太陽電池へのエネルギーの回収可能性に関する疑問が存在していた。鷲田豊明氏は、『環境とエネルギーの経済分析』の中で、「一般に太陽光発電は初期の設備投資の大きさに比べて経常運転のための追加的コストが少ないことから、エネルギー効率を評価する場合、エネルギーの回収可能性あるいはエネルギー回収年という基準が用いられることが多い」と述べている。

つまり、太陽電池の生産にはコストや労力が必要であるが、それが一旦設置されると電気(エネルギー)を生産することになり、電池の生産過程で投資したコストを電池の操業によって回収することが出来る。

しかし、もし生産能力が低く、しかも稼働年数が短い場合には、電池生産につぎ込んだエネルギー(電池の生産や流通に必要とされるエネルギー・カロリー量)を電池稼働によって生産されたエネルギーとして回収することが出来ない。この場合、太陽電池はエネルギー回収性がないと評価される。つまり、電池を作るならば社会は損をすることになる。この電池のエネルギー回収性は、電池の生み出すエネルギー量、例えば太陽光エネルギーの電気エネルギーへの変換効率や電池製造エネルギーを電池によって生産されるエネルギーとの関係から導かれるエネルギー回収性によって評価されることになる。

製造に使われたエネルギーを回収するための時間をエネルギー回収年という基準で表現することで、よりエネルギー回収性やエネルギー効率の概念が計量的(厳密に)表現できる。つまり、エネルギー回収年数とは、「エネルギー回収可能性に厳密な定義を与え実際の太陽光発電設備に関してこれを求めること」を可能にする経済学的概念と言える。

エネルギー回収年数 = 太陽光発電システムを製造するために使ったエネルギー量(炭酸ガス排出量)÷太陽光発電システムから造られた電気エネルギー(炭酸ガス排出量)  (式1)

鷲田氏は太陽電池のエネルギー回収年数を求めるために、「1987年度新エネルギー・産業技術総合開発機構依託業務成果報告書、太陽光発電システム実用化技術開発、アモルファス太陽電池の実用化研究」(新エネルギー財団、1988年3月)における、年間製造規模別の投入費用の試算結果を用い」て 太陽電池の量産規模が10MW(1000KW)規模/年の(第一ステップ段階、1990年)で、太陽電池の変換効率は10%と想定して、エネルギー回収年数を計算した。

鷲田氏は10MWの太陽電池を生産するために使用した原料の加工やその運搬に費やした燃料の熱量を計算し、1990年に生産された1000KWの太陽電池のエネルギー回収年数は17.85年であると述べている。この結論から言えば、太陽電池が18年以上の年月で電気を生産しない限り、エネルギー回収性はないと結論されることになる。

集積型アモルファスシリコン太陽電池を世界で初めて工業化させた桑野幸徳氏(日本の太陽電池の草分け的存在)が2011年に公開した資料によると、アモルファスシリコン系太陽電池ではエネルギー回収年数(以後EPTと呼ぶ)は1年、結晶シリコン系太陽電池では1.52年であると述べられている。(出典 NEDO成果報告書「太陽光発電評価の調査研究」2001年3月)1990年の鷲田氏の算出ではEPTは約19年であり、2001年のNEDO(独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)の調査では、1年と算出されている。

EPTを算出するためにはそれなりの計算基準があると思われる。その中で、製造過程だけではなく(原発の電力生産コストを計算する上で、現在、原発廃棄物処理や災害事故処理のコストは計上されていないことを反省する意味で)、廃棄物処理過程も入れる必要がある。また、製造過程では原料生産、運送、加工等の主に製造運送過程でのエネルギー消費量が算出されている。しかし、同時に、その生産工程で働く人々の消費するエネルギーも換算する必要がある。

科学的に正確に太陽電池の現時点でのEPTを算出することによって、太陽電池の普及のための政策や開発改良すべき技術問題の対策が正確に、しかも現実的に可能になるのだと思われる。その意味で、太陽電池のEPT算出の基準を公開し、また専門家の中で検討する必要があると思われる。

EPTの考え方に類似するものとして、二酸化炭素ペイバックタイム(CO2PT)がある。この二つはほとんど同じ概念であるが、一方は全ての消費エネルギー量を他方は化石燃料使用量に限定していると言える。生産工程で原子力発電による電気や再生可能エネルギーによる電気を使うことによって、二酸化炭素ペイバックタイムは相対的にETPよりも小さい値をとるだろう。


2-3 、太陽電池のシステム価格、発電コストの評価

システム価格
太陽光発電システム価格(購入価格)が消費者にとっては一番気になる。システム価格はパネルの規模や太陽電池の種類(図表5)、システム構築に必要な機器、メーカ、設置する場所(工事条件)、用途等によって異なる。

図表5、太陽電池の種類と製造システム

出典 産業技術総合研究所「太陽電池の分類」(NISIt 11A,131p)

NEDOの資料(図表6)から、現在、10KW以下の系統連係型システムの価格は一般に1KWhにつき60万円から110万円(2009年のIEA ‐PVPSの資料では69万円/1KWh)の範囲である。また10KW以上の系統連係型システムの価格は50万円/1KWhから85万円/1KWh(2009年のIEA ‐PVPSの資料では32万円)の範囲である。つまり、システムの規模が大きくなると1KWhあたりの価格は低減する。

図表6 「日本での太陽光発電の導入実績とシステム単価、発電コストの推移」

出典 『図解 エネルギー・経済データの読み方入門』 (ZNEK 11A p318)

また、独立型システムは一般的に二つの場合(10KW/1KWh以下とそれ以上の場合)でもKW当たりの価格は高騰する。蓄電池や関連機器の必要であることがその理由と言われている。
ちなみに、コスト構成に関してみるとシリコン系アモルファス型と微結晶シリコン型の一般的に言われる薄膜型のタイプでは原料費の割合が15%、セル化とモジュール化の費用が40%、工事費が45%である。また、単結晶シリコン型と多結晶シリコン型の結晶型タイプでは原料費の割合が35%、セル化とモジュール化の費用が35%、工事費が30%である。
上記のデータから、例えば、薄膜型は原料のシリコン(Siと今後は呼ぶ)が少なくてすむのでコストが抑えられることが言える。このように、技術開発によってコストを低くすることが可能になる。

発電コスト
発電コストとは年間経常費を年間発電量で割算して求められる。年間経常費とは、非常に簡単に説明するなら一年当たりの建設コスト分(減価償却と同じ発想で考えるとよい)と一年間の太陽電池を運転・保守経費の二つの要素で構成される。
一年当たりの建設コスト分とは、初期投資金額(建設コスト)に年経費率を掛けることで算出できる。

年経費率は経営学上の専門的な計算方式があるが(図表7)、非常に簡単に考えるなら、例えば、300万円の建設コストが掛った、しかもその300万円を銀行から20年ローンを借りているので金利を支払わなければならない場合を仮定する。太陽電池の稼動年数(耐用年数)を20年とすれば、300万円と20年間の金利(3割と仮に合計して90万円とすると)の合計390万円を稼動年数(耐用年数)20で割ると一年間平均で19.5万円の経費になる。19.5万円は390万円の5%であるので、その場合、年経費率は5%(300分の20)になると簡単に換算することにしておく。この19.5万円(一年間の太陽電池建設コスト)に一年間に必要な太陽電池の運転・保守経費を加えると年間経常費が算出できる。

図表7、発電コスト算出式 )※図をクリックすると大きくなります

出典『NEDO再生可能エネルギー技術白書』平成22年7月27日

一年間に必要な太陽電池の運転・保守経費の算出方法であるが、一般に日本のメーカが発売しているパネルは10年保証をしている。つまりその10年間の稼動期間に関しては無料となる。また、NPO太陽光発電所ネットワークに参加している場合、つまり、太陽電池を設置した人々が協同組合を作り発電所の維持管理をしている場合、その年間経費3000円やその他地震や火災等の保険に加入している場合など、その年間の保険金は、この一年間に必要な太陽電池の運転・保守経費の中に含めて計算をすることができる。

ちなみに、2009年の日本の発電コストは、導入量の約8割を占める住宅用連係型太陽発電システムでは、36円/kWhから75.5円/kWhである。また、2011年時点での平均的な導入費用 (システム価格) は住宅用で57万円/1KWhである。
しかし、上記した計算方法が政府の専門部署や民間の調査会社(シンクタンク)で採用されているとは限らない。現在、発電コスト算出基準があればその基準に従って計算すべきである。また、もし、現在のその基準設定に補足すべき要素があるなら、その基準を点検することも必要である。発電コスト算出に方法基準を決めなければならないだろう。

EPTに大きな影響を与えるシステム価格(発電コスト)
小西正暉氏達は、2003年3月のNEDOの太陽光システムのEPTの試算例を紹介している。試算条件は、多結晶シリコン、アモルファスシリコンとCdS/CdTe (化合物系)の三つの素材と、10MW、30MWと100MWの三つの異なる年間生産規模、そして、屋根への設置型と一体型の二つの設置方法である。これらの条件で18ケースのEPTの試算例が示されている。この資料に、モジュール変換効率を加えて図表8を作った。

図表8、太陽光システムのEPTの試算例(2003年3月)※図をクリックすると大きくなります

出典 NEDO 引用 小西正暉、鈴木竜宏、蒲谷滋記 『太陽光発電システムがわかる本』(KONIm 08A 37p)

この表から、発電規模が大きいほど、EPT値は少なくなり、また、屋根一体型が屋根に設置するよりもEPTが少ないと試算されている。さらに、CdS/CdTe (化合物系)はシリコン系に比べて発電効率が低いがEPTは少ないこと、また、シリコン系でも多結晶シリコン型よりも発電効率の悪いアモルファスシリコン型の方が、EPTが少ないと試算されている。
つまり、現時点でEPT値の決定に大きな影響を与えている要因は発電効率ではなく、それらのシステム価格にあることが理解できるだろう。

太陽電池設置コストの推移の要因(1993年から2009年まで)
財団法人日本エネルギー研究所が作成した1993年から2009年までの「日本での太陽光発電の導入実績とシステム単価、発電コストの推移」を示す図表6から、発電単価(発電コスト)とシステム価格は連動していることが理解できる。発電コストはシステム価格(建設コスト)によって決定されているために、この二つが連動する、つまりシステム価格が下がれば発電コストも下がるのは当然のことである。

システム価格の減少率推移から、1993年のIKW当たりのシステム価格は250万円、1994年には200万円、1995年では170、万円、1996年では120万円と4年間で半分以下(0.47倍に減少する)に減少した。しかし、1997年(106万円/KW)から2001年(75.8万円/KW )の5年間でシステム価格の減少率は3分2以下(0.72倍に減少する)である。さらに、2002年(71.0万円/KW)から2009年(62万円/KW)の8年間では僅かに10万円の減少(0.87倍に減少する)であった。日本の太陽電池システム価格は2003年からほぼ横ばいに推移している。

図表9に2001年から2010年までの日本で生産された太陽光電池総量を国内用と海外用に分けて示した。2004年まで続いた政府の補助制度が2005年で終わった。このことによって、2005年からの国内需要は、再び政府の補助金が支給される2008年まで減少し続けた。図表6で示された、日本の太陽電池生産量(累積)の増加を維持していたのは、海外用に生産された太陽電池であった。

図表9、2001年から2010年までの日本の太陽光電池生産量(海外用と国内用)

出典 (Wikipedia)

つまり、太陽電池産業は黎明期を出て、市場競争を繰り広げながら社会に普及しようとしている発展段階にある。この段階では、これまでに長年掛けて開発してきたコスト、貧弱な需要(市場)、低い発電効率やエネルギー変換効率という技術問題、等々の課題を抱えている。その段階を政府が固定価格買取制度等を設定して支えなければ、日本発の太陽電池産業はたちまちのうちに他国の企業に追いつかれる。そのことを2005年から苦々しく経験することになった。そして、その結果が、国内出荷量の減少、それによる全集荷量増加推移の減少、そして、その結果として、市場でのシステム価格の減少率低下につながったのではないかと予想できる。これまで、電卓やコンピュータをはじめとして電気機器のみならずすべての商品に謂えることとして、供給力(生産量の増加)は商品コストを下げるという経済の決まりが十分働いていなかったのではないかと考えられる。

技術開発による製造コスト削減
2011年12月5日から7日まで、千葉の幕張で国際再生エネルギーフェア2011が開催され太陽光発電に関する4つの基調講演、最新の太陽光発電システム研究に関する講習会が行われた。そのではフェアでPVJapan2011によって「太陽光発電に関する総合イベント」、展示会や講演会が開催された。イベントには、NPO法人太陽光発電所ネットワークを始めとする380以上の企業や団体が参加し、最新の技術や商品の展示や紹介がなされていた。多くの参加者が、太陽電池産業は21世紀を切り開く次世代産業への期待を抱いている。そして、この新産業に益々多くの投資が集まることが予想される。

まず、EPTの評価がその期待を実現するための経営的根拠の土台となる。もしその値が現在でも18年以上(1988年3月の鷲田豊明氏の試算)であるなら、企業も消費者も太陽電池への投資は避けるだろう。図表8に示したように、現在のEPT値は1から3、つまり太陽電池一年から3年の稼動であると試算されている。そのことは、電池生産に消費したエネルギーを、3年以内には回収することができるのであれば、エネルギー消費量からみた経営上の問題の一つはクリアーできると評価されるだろう。

次に、システム価格が消費者の需要に相関する。システム価格は太陽光発電を設置するためのエネルギーコストだけでなく、原料、加工、開発、営業等々、企業が太陽電池生産システムを運営するための全てのコスト(製造コスト)と販売コストによって決定される。システムコスト(製造コスト)を下げるために、太陽電池産業の専門化、分業生産体制、補助サービスの企業化、多種多様の企業が生まれ、それらの総合力によって製造コストは逓減することになる。

また、新しい素材や工法によって多様な太陽電池パネルが生産されるようになった。製造価格を抑えるために新しいパネルが登場し、それらが価格競争にしのぎを削ることになる。ちなみに、現在の太陽電池の種類や特徴、セルとモジュールの変換効率、利点や課題、製造企業名に関して野村証券金融経済研究所が作成した資料を図表10に示す。

例えば、結晶シリコンの材料費は製造コストの大きな割合を占めている。ちなみに、野村証券金融研究所が報告している資料によると、結晶法でのシリコンの割合は56%であり薄膜法では3%である。このシリコンの占める価格を抑えることで製造コストを下げることが出来る。また、一般に、シリコンは希少金属ではなく石英(二酸化ケイ素)の成分として地球の至る所に存在すると言われているが、最近の太陽電池需給の増加によってシリコン(Si)は原料不足を起こし、コストも上昇している。そのため、セルの材料を安くするために、単結晶シリコンから多結晶シリコンへ、さらにアモルファス(結晶していない状態)シリコンへと新しい素材でセルを生産するための開発がなされてきた。

図表10 、太陽電池の種類と特徴(変換効率、利点と課題とメーカ))
※図をクリックすると大きくなります

引用 和田木哲哉 『爆発する太陽電池産業 25兆円市場の現状と未来』p74

この開発によって、非結晶(アモルファス)シリコンによる電池が開発され、この材料は薄膜化しても一定の波長内での発電効率を十分保つことができるため、出来る限り薄膜にして電池材料に活用する薄膜シリコン法が開発された。非結晶系(アモルファス)を使った薄膜法では結晶系の生産方法(結晶法)よりもシリコン消費量を100分の1に抑えることができると報告されている。

さらに、アモルファス(非結晶系)は一般に結晶系よりも変換効率(太陽エネルギーを電気エネルギーに変換する割合)が悪い。その弱点を克服するために(薄膜シリコンは変換効率を上げるために)、薄膜シリコンを重ね合わせるセルを製造する技術、HIT(ハイブリッド型)や多接合法(吸収波長域の異なるシリコン層を積層にして変換効率を上げる方法)が開発された。例えばこの二つの工法によって幅広い波長を電気に変換することができ、セル変換効率は上がった。

薄膜シリコン法とハイブリッド法や多接合法によってシリコン消費量を抑えながら発電効率を上げる技術を開発してきた。
結晶法でもより少ないシリコン量でセルを製造する方法が開発され続けている。図表11が電力当たりのシリコン消費量の推移を示されているように、新しい工法技術によって生産電力当たりの材料費(シリコン)は少なくなった。この図表11から、2004年では、1Wp(ワットピーク、太陽電池モジュールが発生するエネルギー単位、1Wと同じ)の電力を生産するためにシリコン12g(厚さ300μm)のシリコン膜が使用されている。そして、3年後の2006年では、1Wpの電力を生産するためにシリコン10g(厚さ200μm)のシリコン膜が使用されている。

つまり、三年間に1W当たり17%のシリコン量を減らすことができた。2010年では、1Wpの電力を生産するためにシリコン7.5g(厚さ150μm 2004年の半分の厚み)のシリコン膜が使用されている。この予測によると2011年でのシリコン使用量は2004年に比較して38%少なくなる。このように、高価なシリコンを薄膜化することによって製造価格を引き下げてきたのである。

図表11 、結晶法太陽電池のシリコン消費量の推移(2004年から2010年)
※図をクリックすると大きくなります
 

引用 和田木哲哉 『爆発する太陽電池産業 25兆円市場の現状と未来』p74

国際価格競争による製造コスト削減
現在、国際的な太陽光発電産業の産業化が始まっている。2000年までは、日本、ドイツやアメリカの企業が中心であったが、2009年以降は中国、台湾、韓国などの企業が進出してきた。今回の再生可能エネルギー世界フェア2011年のPVJapan2011展示会でも、多くの海外の企業、特に中国の企業が参加していた。中国を始めとする海外の企業の参加によって、価格競争が激化する。

国際的な価格競争によってより安価な太陽電池の素材や製造方法の開発が進む。そのことにより、さらに太陽電池商品の多様化が進み、それらの多様な特徴を備えた商品がしのぎを削って電力コストめぐる価格競争に突入する。国際競争による太陽光発電システムと太陽電池産業の技術や価格の競争の激化がこれからの時代の特徴を形作るだろう。

2004年まで世界一の生産量を誇ったシャープが、その後、ドイツのQ-Cells 社に追い抜かれ、その後、Q-Cells社は中国のSuntechに追い抜かれる。一年ごとに世界トップ企業名の変更が続く。全ての企業に短期間で世界的企業に躍進するチャンスが与えられ、そして同時に、その座を他の新興企業に奪われるリスクを抱える。この熾烈な世界的な競争によって価格の逓減はさらに進むだろう。


用語解説

3、体積モル

モル(mole)は国際単位系における物質量の単位で、12グラムの炭素12の中に存在する原子の数(6.02×10の23乗の個数、アボガドロ数と呼ばれる)である。1モルの理想気体は、1気圧で0度Cの標準状態では同じ体積(22.41383リットル)を占める。(Wikipedia)その1モルの占める体積をモル体積と呼ぶ。例えば、酸素16の分子は32グラムですから、1モルの酸素(32グラム)の占める体積は1気圧、0度Cで22.4リットルとなる。(Wikipedia)

4、電気の単位

1Wは 約0.860cal (1ccの水を約0.86度C上げるエネルギー)
1000Wが1KW(キロワット)
1000KWが1MW(メガワット)つまり100万W(0.1万KW)
1000MWが1GW(ギガワット)つまり10億W(100万KW)
1000GWが1TW(テラワット)つまり1兆W(10億KW)
1000TWが1PW(ペタワット)、つまり、1000兆W(1兆KW)
(上の赤字にした部分も逆転しています。)

5、電気、熱と石油エネルギーの換算

1kWh = 1000W×(60×60 s) = 36×10の5乗 Ws = 3.6×10の6乗 J = 3.6 MJ (メガジュール)
1kWh = 3.6 MJ = 3.6 /4.1868 Mcal = 0.8598452× 103 kcal = 860 kcal
1kWhは 860Kcal
石油換算トンTOE(Ton of Oil Equivalent 定義 1TOE=10の7乗 kcal)
1TOE は1.1628万KWh
100億TOEは、10,000,000,000(TOE)×11,628,000cal = 116,280,000,000,000,000Wh
= 11.628PWh(ペタワット) =116.28兆KWh

6、タンデム(多接合)構造

多接合型(タンデム型)とは、「吸収波長域の異なるシリコン層を積層したもの。アモルファスシリコンと各種の結晶シリコンを積層したものの他、通常のa-Si(アモルファスシリコン)に吸収波長域の異なるa-SiC(アモルファスシリコンに炭素を加えてp層・プラス極を作る)やa-SiGe(アモルファスシリコンにゲルマニウムを加えてn層・マイナス極を作る)を積層したものなどが開発・実用化されている。高効率で温度特性などに優れるものが多い。」(Wikipedia)

7、ハイブリッド型(HIT型)

ハイブリッド型(HIT型)と「結晶シリコンとアモルファスシリコンを積層した太陽電池である。通常の結晶シリコンに比して変換効率が高く、温度特性も良いなどの特長を有する。シリコンの使用量が減らせる他、両面受光型にも出来る。日本の三洋電機が主な製造者である。なお、吸収波長域の異なる材料同士を積層するという点では下記の多接合型太陽電池に似るが、pn接合は1つ(単接合)である。」(Wikipedia)

8、発電原価と発電コスト

電気を起こすための費用単価で、発電施設建設や施設管理維持、人件費や発電用原料購入等に費やす全ての金額を発電総経費として、その金額をその電力施設が生産する総電力量で割ったもので、単位は 円/kWhで示す。なお、発電原価は耐用年数や、設備稼働率等の条件によって変わる。つまり、建設コストが低く、施設耐用年数が長く、稼働率が高いほど発電原価は低くなる。この発電原価の二つの条件の中の設備稼働率等の条件を省いた考え方が、ほぼ発電コストと同じ概念になると理解してよい。


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3章「社会経済システムからみた太陽光発電システムの課題」
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