2012年8月14日火曜日

政策政党の形成と市民民主主義の発展

官僚・行政機能と政治機能の改革


三石博行


戦後民主主義の発展と政党政治の変貌

政局論争が国家政策に優先されて堂々と国会で行われている日本の政治機能不全の姿は、今突然、起こったのではない。言い換えると、今までもそうだった。それは政党とは、政局を争うことが政党活動であるというように理解されている。

この背景には、国民主権国家を形成してきたこれまでの日本社会の歴史と日本の政治活動スタイルがある。つまり、戦後民主主義社会の中で政党政治をけん引した力とは利権集団であった。例えば、もっとも代表的な利権集団は、日経連や日本商工会議所などの経営者団体と総評や連合などの労働組合の連合である。

戦後労働運動と左翼運動の歴史を紐解くまでもなく、政党の在り方は、その二つの利益集団の関係の理解の仕方によって異なった。例えば、二つの利益集団の関係を非妥協的関係、つまり階級闘争関係として理解した場合、労働者大衆の利権を守る政党は共産党や旧社会党左派のように政党の基本路線として労働者階級権力の構築が課題となった。しかし、労使の利益関係が相互依存関係で成立すると理解した旧民主社会党や現在の民主党は労働者と雇用主の双方の利益を求める政策政党となった。

大小中を問わず経営者の利権を守り続けたのが自由民主党であった。創価学会の会員が利権集団となる公明党は、大半の貧しい創価学会会員を中心としていた時代、1960年代から1970年代までは、社会改革を目指す野党勢力の一員であった。しかし、創価学会会員の生活が豊かになり、多くの会員が経営者となっていく1980年代から、次第に保守的な政党として成長した。そして、今日では、自由民主党と十年間の長期の連立政党になり、日本の保守勢力を代表している。

日本の近代化(資本主義社会の形成と発展)が進む明治以来の二つの大きな利権集団の関係は、20世紀末になって大きく変貌した。その変貌によって新たに成立した社会理念、労使協調や民主的運営の考え方を持つ利権集団(勤労者、消費者、経営者の組合)の利益政策を進めるために民主党が形成されたと言える。


新たな利権集団型政党形成の限界

政党の形成もその変貌も、それを支える大衆組織の利権要求に依拠している。この利権集団に依拠して発展してきた戦後民主主義日本が、今、曲がり角を迎えようとしている。

日本の民主主義社会が大きな曲がり角に来ているという社会現象の一つとして、2009年9月の長期保守(自由民主党)政権から民主党政権への交代があった。さらに、それは同じ現象の一つとして、民主党政権の混乱と、2011年3月東日本大震災に対する政治指導力不足、今もなお続く政局優先の国会運営等々が起こっていると言える。それらの個々異なる政党政治、国会運営の中で繰り広げられる国民無視の政治の姿とは、それらの政治組織が現実の日本社会の問題解決の機能としてマヒし、役に立たない存在になっていることを物語っているのである。

この問題の解決に、幾つかの提案がなされている。最も代表的で解り易い提案が、新しい政党を作るという提案である。橋本徹氏の率いる大阪維新の会やその他地方政治勢力から第三勢力と呼ばれる政党が形成されている。自民党を中心とする保守主流政党でもなく、またそれに対する反対勢力民主党でもない、小さな政府を目指し、自由競争と市場経済主義、地方分権と首相公選制などが主な政策提案となっている。(注1)

さらに、原発事故をめぐって新エネルギー政策、脱原発(反原発)と再生自然エネルギー社会の構築、人権、社会福祉、平和外交等々を課題にして、日本緑の党が形成された。これも新しい政治勢力の一つである。そして、同時に、民主党から小沢一郎氏を代表とする新党「国民の生活が第一」が民主党から離脱した議員によって結成された。

日本社会は新しい政治の流れを模索し続けている。橋本氏の大阪維新の会、小沢一郎氏の「国民の生活が第一」日本緑の党などがある。既成政党から離脱した議員達の主観的意図は、民主党など既成政党に所属する限り、次回の選挙では当選できないという個人的理由があるだろう。また、国のかたちを変えたいと願う橋本氏の大阪維新の会や日本緑の党もある。これらの異なる二つの意図(議員職を維持したいという意図と国を変えたいという意図)も、大きな日本の政治史の中では、集団利権型民主政治から新しい民主主義政治への曲がり角の政党活動現象として理解されるのではないだろうか。


市民民主主義は政治意識の高い市民によって形成される

敗戦から半世紀の日本社会は、戦後の国際政治勢力の対立(社会主義陣営と自由主義陣営)と国内政治勢力の対立(社会党と自民)、国内外の二つの政治勢力の対立(55年体制)が消滅し、新たな時代、市民民主主義の時代を迎えようとしている。新たな時代とは、利権集団による戦後民主主義によって創りだされた社会である。

新しい社会・21世紀の日本は、高度な資本主義生産力、高度な知的生産性、高度な生活文化環境を持つ社会、豊かな国である。この豊かさは、労働者階級と資本家階級の非妥協的利害関係、国家権力と人民の権利の対立という戦後前期の民主主義思想の一部(左翼政治思想)や同時にその弾圧を振りかざす右翼政治思想の二極対立から、市民社会主義を国民文化に深く根付かせた。

この市民民主主義の社会では、今までのように利権集団(経営者と労働者、生産者と消費者、中央と地方、都市と山村)の対立項を政治的スローガンにする旧来の選挙の方法、また、利権集団を代表とする政党がより多くの議員を国会に送り出すために有名人やタレントを利用する選挙方法が根本から見直されることになる。

つまり、市民民主主義社会では、国民は政策政党を求めている。利益集団の代表である政党政治では、利益政策を確立するために議員数確保が選挙戦の最大の目標である。そのためには、大衆的に人気のあるタレントを政党は利用し、国民の票田から稲穂を収穫するという感覚であった。

しかし、市民民主主義社会では、国民は政党の政策に注目している。自分たちの生活や社会の発展につながる政策を掲げている政党に投票することになる。今まで、利益集団に支えられていた政党では、組織票の動きが、選挙戦を決定する大きな要因であった。しかし、これからの市民民主主義の社会では、浮動票と呼ばれる、無所属票が選挙戦を決定する大きな要因となる。

労働組合の組織力が低下し、民主党や社民党の頼りとする組織票も減る。個人主義文化の成熟とともに自民党の票田も少なくなる。つまり、地縁血縁関係による票、企業主らが従業員達やお得意先にお願いして得ていた票数は減少する。これが市民民主主義社会での選挙環境となる。政治意識の高い市民によって市民民主主義社会が形成され発展するのである。


政策政治を展開するための政党活動

毎日、マスコミだけでなくインターネットでも流れる政治論争、国会答弁、政党の政策情報等々、情報社会は、政治情報を素早く、そして繰り返し市民に伝える道具として機能している。過去の政治活動や政策決定の履歴をインターネット上から消去できない。選挙戦でマイクから大声で叫んだ選挙公約の中身を情報社会のシステムから取り除くことはできない。

政策提案、選挙公約、その実施履歴の公開、その検証作業と修正作業の履歴、そして、新たな政策提案という、どの社会人も日常的に行っている作業、企業経営の当然の作業、事業者の基本的な作業が政党の政策に取り入れられるのは、遠い未来の話ではない。何故なら、社会はそうした作業を通じて、より社会貢献度を上げ、事業体として生き残っているからである。

いち早く、利権集団政党から政策政党への脱皮が求められている。橋本氏の維新の会は政策塾を開き、その塾活動(政策教育研究活動)を通じて、政治家を養成しようとしている。滋賀県の嘉田知事も同じように政策塾を開いた。定員に対して10倍以上の応募者があったと言う。この歴史は、今始まったのではない。幕末にも、長州は吉田松陰、土佐は武市半平太、薩摩は西郷吉之助によって同じように政策や政治哲学の私塾が行われた。戦後は松下幸之助による松下政経塾もその一つである。そして、野田首相がその第一期生であることは、決して戦後民主主義政治の流れの中では、偶然ではないのである。

広く政策論争を起こし、広く有能な人材を求める活動を政党が取り組み、世襲化し利権化した政治家職業を市民活動の一つに戻すことによって市民民主主義は展開発展するだろう。政策政党活動とは市民への政策情報公開、政策実施の検証活動、その情報公開、さらには市民参画型の政策検討活動を行う政治思想が必要となる。その原点は国民主権を確立することによって国や国民生活が発展するこという政治思想であり、その思想を持つ政治家の人格であるとも言える。


引用、参考資料

(注1)  三石博行「なぜ大阪維新の会が原発推進派と対立するのか」 http://mitsuishi.blogspot.jp/2012/08/blog-post_14.html

三石博行 ブログ文書集「国民運動としての政治改革」

「国民運動としての政治改革」の目次(案)

はじめに
1. 政治は何のために
2. 政治活動とは何か
3. 国民運動としての政治改革の可能性
4. 官僚・行政機能と政治機能の改革
5、市民民主主義社会形成のための政治家の役割
6. 地方分権と草の根民主主義社会の形成について
7. 国民を思うこころを持つ官僚育成が必要 


2012年8月15日 誤字修正
--------------------------------------------------------------------------------


0 件のコメント:

コメントを投稿