2012年10月5日金曜日

未来社会からみた太陽光発電システムの課題

太陽光発電の将来性と問題点


三石博行


4-1、省エネ・創エネによる経済成長の可能性


現代科学技術文明構造の変革・「高度農工文明」への道(佐藤進氏の提案から)
我々は、経済成長は多量のエネルギーや資源の消費を必要とすると考えている。事実、資本主義社会は多量のエネルギーと資源を消費できる生産様式を作り出し、生産力を向上させ、安価の商品を大量生産しながら、発展して来た。

19世紀中期の機械制工場生産の導入、20世紀の機械制大工業や重化学工業の形成によって人類がこれまで経験したことのない生産能力を獲得し、また同時に多量のエネルギーと資源を消費しながら、現在まで、豊かな経済社会を創り出してきたのである。

言い換えると、エネルギーや資源の消費を減らすための条件として、経済成長は止まり、後退することは避けられないと考えるのが一般的である。そして、我々は、今まで繰り返してきたように、枯渇する資源エネルギーを巡る将来に起こる紛争(現実にイラクやリビアで欧米先進諸国によって、自由と民主主義の名のもとに、独裁政権の軍事的攻撃と政権転覆が起っているし、また、竹島(独島)や尖閣諸島(魚釣島)での日韓、日中の領有権問題が地域国際社会の平和的共存を脅かす事件として発展しつつある)を、今後も避けることができないと感じている。

21世紀の世界の平和を脅かす資源エネルギー占有を巡る紛争や戦争を回避するために、資源(食糧を含む)、エネルギーの各国の自給率を上げることが課題となるだろう。つまり、人類が末長く生き延び、今後も豊かな生活環境を持続するため、資源エネルギー自給、再生可能なエネルギー生産、省エネルギー・エネルギー効率の高い生産様式や資源リサイクル等々の社会経済技術と生活文化環境の構築が必要となるだろう。

1佐藤進先生(以後、佐藤氏と称す)は、すでに1970年代から、第四次産業(情報産業)の後にくる新しい産業、高度ソフト農工産業を提案していた。佐藤氏によると、この社会経済システムは、再生可能な自然エネルギー(水力、潮力、地熱や太陽エネルギー)を活用し、分散型小規模生産様式によって運営される。現在の再生可能エネルギー社会の課題を佐藤氏は1970年代当時から理解しのである。

つまり、再生可能エネルギー社会の成立は根本的に大量生産様式の社会と相反する新しい社会経済制度や科学技術が求められていると佐藤氏は述べている。この新しい社会制度はエコロジー思想に基づくものである。それらの未来社会を「高度ソフト農工文明」や「高度農工文明」と佐藤氏は呼だ。

佐藤氏が提案したポスト情報社会としての「高度農工文明」社会は、今、21世紀になって、真剣に議論され、社会経済制度や技術的可能性が研究されつつある。太陽光発電システムが一般化することによって、そのエネルギー生産の特性である分散型の生産によって、エネルギーの地産地消が行われえることになる。それらの地産地消型の生産消費文化は、すでに、1970年代から続けられてきた安全食品を求める市民運動が先駆的に切り開いてきたものであった。

資源エネルギーの大量消費こそ経済成長の条件であると信じて疑わなかった高度経済成長に酔いしれた日本社会の中で、リサイクル市民運動、例えば「使い捨てを考える会」や農産物の地産地消を運動してきた市民運動の地道な蓄積こそが、資源エネルギーの消費抑制と豊かな生活文化の両立の道を示す可能性を持っていると言えないだろうか。

それは、これまで日本の太陽電池や太陽光発電システムの産業化に貢献し続けてきたNEDO(政府の国家戦略)に対して、その役割と戦略方針、さらには機構の機能性をも問われることになるだろう。これまでの公共研究機関としてのNEDO指導力によって、今後の状況を切り開いていくためには、この問いかけを敏感に検証点検する機能性が社会経済システムの中に必要となるだろう。

技術革新よる経済成長と省エネの両立
1970代の日本社会で、「経済成長は資源エネルギーの大量消費によって可能になる」という資本主義社会の命題から逸脱した経済現象が起った。第一次から第二次オイルショックと呼ばれた原油の高騰によって日本経済は厳しい状況を迫られた。高騰した原油価格による経済的打撃を、使用原料の節約、つまり省エネルギー・資源対策で乗り切ろうとした。省エネ対策は、燃料や電気の使用上の工夫による節約や技術革新による生産システムの省エネルギー・資源のための技術開発が進んだ。国を挙げての省エネ技術の開発によって、高効率の生産システムを創り上げた。エネルギー・資源の消費量の逓減と生産性の向上が拮抗することなく実現したのである。

この経済・技術革新による国民経済への現象は、国内の一次エネルギー需要の変化に対する経済成長率(GDP増加率)の関係から観察することが出来る。この定量的関係を「エネルギーのGDP弾性値」と呼んでいる。以下、その関係式(2)を示す。

エネルギーのGDP弾性値 = エネルギーの需要の伸び率 / GDPの伸び率(式2)

省エネルギー技術の開発によって、エネルギーのGDP弾性値は変化することになる。「経済成長は資源エネルギーの大量消費によって可能になる」(命題1)というこれまでの資本主義経済の命題に対して、「経済成長は技術開発によって可能になる」(命題2)と「資源エネルギー利用の効率を上げる技術開発によって、一定資源エネルギー使用量に対する生産効率を高める」(命題3)という二つの命題を準備しなければならない。

命題2は、これまで技術革新と生産効率との関係として述べられてきた。この命題2を前提にして、資源エネルギー利用効率を上げる技術開発を行うことが、生産性の向上と矛盾しないということが論理的に帰結できる。つまり、命題3は、命題2から論理的に導くことが可能な命題であると言える。 この命題が成立するためには、エネルギーのGDP弾性値は1以下を示す観測値(データ)が必要となる。

つまり、 年間のGDPの伸び率をその期間の一次エネルギーの需要の伸び率から割ることよって算出される値をエネルギーの所得弾性値と呼ぶ。この GDP弾性値を使って、使ってエネルギー消費量と国民経済の成長の関係の推移を分析する方法が取られる。

図表15に1965年から2009年までの日本のGDP(各産業別と全体の)と一次エネルギー供給量の推移を示した。第一次石油危機(1974年)と第二次石油危機(1979年)がその期間に起こった。そのため、日本では省エネ対策を国家プロジェクトとして取り組んだ。GDPは右肩上がりを続けながらも1973年から1987年まで一次エネルギーの供給量は横ばいとなる。しかし、この間GDPは約230兆円から約380兆円へと増加している。つまり、国家プロジェクトの省エネ対策の結果、一次エネルギー供給量(消費量)の増加を抑えながらGDPを増やすことが出来たのである。

図表15 GDPと一次エネルギー供給の推移(国内 1965年から2009年)













引用 財団法人日本エネルギー研究所計量分析ユニット編『図解 エネルギー・経済データの読み方入門』p7

図表16に、1890年から2009年までの日本のエネルギー消費とGDPの伸び率から計算されるGDP弾性値(式2で示した)のデータを示した。1885年から2009年までのエネルギー消費量の年間増減率とエネルギーのGNP弾性値を図表16に示した。この図表16から、エネルギーのGDP弾性値が1以下を示す期間は、1950年から1960年の間が0.83、1970年から1975年の間が0.44、1975年から1980年の間が0.60、1980年から1985年の間が0.09、1985年から1990年の間が0.70、である。

この図表からも、1970年代から1980年代の20年間、日本ではGDPは成長しながらも、エネルギーのGNP弾性値は1以下を示している。つまり、省エネと経済成長が共に進んでいることが示されている。

図表16 エネルギー消費のGNP弾性値 (日本、1890年から2009年まで)












引用 財団法人日本エネルギー研究所計量分析ユニット編『図解 エネルギー・経済データの読み方入門』p9

言い換えると、1970年代から1980年代の20年間の時代、自動車産業では省エネエンジンの開発やロボット技術を駆使した生産性の効率化が進んだ時代であった。つまり、この時代に限って言えば、産業構造の省エネ化や省エネ製品の開発によって一次エネルギー消費量を抑えながら経済成長を可能にしていたのである。

脱化石燃料・脱原発エネルギー利用と再生可能エネルギー普及を可能にする条件 現在の一次エネルギー需要量の殆どを化石燃料が占めている。省エネとは化石燃料の消費を抑えるという別名でもある。特に、100%に近い化石燃料を海外から輸入している我が国での省エネ政策とは、エネルギー資源の海外依存度を減らすということを意味し、省エネルギー政策は国防政策と関連することになる。また、高騰する原油価格は一次的な現象でなく、化石燃料埋蔵量の減少つまり資源の希少化による価格高騰の現象であり、今後も高騰し続けるだろうという意見もある。

また、化石燃料使用によって生じた廃棄物・二酸化炭素や排熱による環境負荷と気象等環境変化が引き起こす経済効果も評価(4章2節(再生可能エネルギー生産コストの相対的評価で述べるが)しなければならない。

そこで日本政府は、原子力発電所の建設を進め、一次エネルギーの自給率を高め、脱化石燃料依存率を低下させるエネルギー政策を取ってきた。しかし、その政策が福島原発事故によって根本的に見直されようとしている。現在まで最も安価な電力として評価されてきた原子力発電による電力価格は、福島原発事故で発生した全ての被害額を算定し、それらのリスクを設置された全ての原発の経費や放射性廃棄物の処分と数万年以上の管理費用を予測計算するなら、おそらく高額になるだろうと言われている。

つまり、原油の高騰や原発事故による原子力エネルギー利用による発電のリスクが存在する以上、再生可能エネルギー資源の利用を進めるべきであるという考え方と高価なエネルギー利用によって日本経済は国際競争力を失うという考え方がある。とは言え、「エネルギーは100年の計」と言われるように、長期的視点に立ってエネルギー問題は考えなければならない。

現在、確かに再生可能エネルギーの生産コストが化石燃料や原子力燃料よりも高く評価されている。しかし、今後の資源枯渇や事故のリスク等々のエネルギー価格の高騰要因を長期的視点に立って考慮しなければならない。その上で、今後、再生可能エネルギー資源価格は相対的に低くなると予測できる。しかし、これは幾つかの仮定を入れての予測に過ぎない。

現在、国家の政策として再生可能エネルギー利用が進んでいる。つまり、国民の税金を使い、高い再生可能エネルギーを無理に使っているとも言える。国家の政策に再生可能エネルギー社会の建設を依存する限り、その実現は困難である。健全な市場の力で、つまり市民の自発的な経済活動として再生可能エネルギー資源の活用を進める必要がある。

市場の判断基準とは、一言で言えば、再生可能エネルギーの生産コストが化石燃料や原子力燃料でのその生産コストよりも低い条件を意味する。再生可能エネルギーの生産コストを低くする条件や課題については既に2章で議論した。その条件を改善する環境として、技術革新や生産規模の拡大がある。そのために政府の前提的な支援政策が必要となる。

すでに第2章で議論したが、一般に再生可能エネルギー資源の利用では、初期投資及びその破棄に関する費用以外に、システム稼働に必要な燃料費は不要であると考えられている。そこで、太陽光発電システムの製造と破棄・リサイクルの経費が少なく、システムのエネルギー生産効率が高く、しかも稼働年数が長く、故障が少ないという条件が得られるなら、太陽光発電システムによるエネルギー生産コストは下がる。

以下、簡単にその条件を列挙した。
1、再生可能エネルギー生産設備の生産とリサイクルに必要なエネルギー使用量とその生産システムが生み出すエネルギー量との関係から導かれるエネルギー回収年数が短いこと。
2、システム設置と維持管理コストが一定年度間のエネルギー生産コストより低いこと。
3、エネルギーの質(時間的地理的に変動し続けるエネルギー需要の特性に対応しえる供給側のエネルギーの特性)が高いこと。
4、市民による再生可能エネルギーシステム管理が可能であり、エネルギー生産者の大衆化が進むこと。

再生可能エネルギー生産による経済成長
持続可能な社会経済システムを構築するために再生可能な自然資源を活用したエネルギー生産(創エネ)が課題となっている。この再生可能エネルギーの生産は新しい技術開発によって可能となる。言うまでもなく、省エネと創エネを組み合わせることで、積極的に一次エネルギー需要に占める化石燃料量を少なくすることが出来る。

現在、国内で消費される一次エネルギーの殆どを化石燃料と原子力燃料に依存している。再生可能エネルギーの占める割合は4%で、その殆どが水力発電である。その数字がそのまま日本のエネルギー自給率を示している。今後、太陽光発電をはじめ再生可能エネルギーの生産が増加していくことでエネルギー自給率は向上する。そのことは国内でのエネルギー生産量としてGDPを押し上げることを意味する。それと同時に、一次エネルギー資源を国外から輸入する量が減少する。

例えば、国内での一次エネルギー消費量から再生可能エネルギーによって生産された分を差し引くことによって得られる値は、海外から輸入された化石燃料や原子力燃料等と考えることが出来る。この値を非再生可能エネルギー消費量と呼ぶことにする。

(2)式を応用して、この非再生可能エネルギーの年間消費量の伸び率とGDPの伸び率の関係から、非再生可能エネルギーのGDP弾性値を仮定してみる。この関係式を(3)式に示す。

非再生可能エネルギーのGDP弾性値 = 非再生可能エネルギーの需要の伸び率 / GDPの伸び率)(式3)

この(3)式は、再生可能エネルギー生産が普及する社会、例えばその割合が10%以上になる社会の場合には、(2)式で導いたエネルギーのGDP弾性値に相当すると考えられる。従って、その値が1以下を示す社会では、化石燃料等を中心とする一次エネルギー消費量を抑制もしくは減少させながら経済成長を維持もしくは発展していると解釈できる。

再生可能エネルギー生産システム(太陽光発電システム)の普及によって国内エネルギー生産量は増加し、そのシステムが積極的に経済成長に寄与していることを意味する。また同時に、非再生可能エネルギーGDP弾性値を1以下に抑えることで化石燃料等の省エネ技術や社会システムが発展していることを意味する。再生可能エネルギー生産によって積極的に経済発展を進めながら、省エネによって再生可能エネルギーの高効率利用を更に可能にすることになる。

太陽光発電によって太陽光パネルを生産する社会・再生可能エネルギー社会
現在の再生可能エネルギー生産システムは化石燃料や原子力発電を活用して生産している。太陽光発電システムを大量に生産するためにはより多くの化石燃料や原子力エネルギーを必要とする。言わば、地球温暖化ガスを多量に排出しながら太陽光パネルを生産し、原発で生産する電気を使いながら風力発電を作るという状態が、再生可能エネルギー社会を創りだすための過渡的な段階で起る。

もし、太陽光発電システム等を作るために必要なエネルギーを、限りなく今後も、化石燃料や原子力エネルギーに依存しなければならないとすると、再生可能エネルギー社会を作るために余分なエネルギーが必要となる。それでは、再生可能エネルギー社会を目指すという目的に反した、再生可能エネルギーシステムを作るという、本末転倒の事態が生じる。つまり、再生可能エネルギーシステムの形成を行うために、いつまでも化石燃料や原子力エネルギーに依存する必要があるなら、再生エネルギー社会の建設自体がその目的と異なる間違がったエネルギー政策である。

ここで言う再生可能エネルギー社会とは一次エネルギー消費量の大半を再生可能エネルギー生産によって賄うことが出来る社会であり、再生可能エネルギーによって、再生可能エネルギー生産システムを生産することが出来ることがその成立条件となる。

例えば、太陽電池の生産によって、太陽光発電を行うことが出来る。その発電によって、さらに太陽電池の生産を可能にする。再生可能エネルギー生産システムの自己組織性が形成されて成立する社会である。自然エネルギー生産と消費による自然エネルギー生産システムの増殖過程を持つ、自己組織性の自然エネルギー生産システム社会を、再生可能エネルギー社会と呼ぶことにする。

再生可能エネルギーの生産による再生可能エネルギー施設の生産が可能になることで、太陽電池とそれによる太陽エネルギー生産は相互にループしながら、経済を発展させるのではないだろうか。この経済システムを山崎養世氏は「太陽経済」と呼んだ。そして、山崎養世氏は「太陽からのエネルギーを活用し、資源とエネルギーを節約し、水と食糧を確保して、人類は自らを救い、人間性を守ること」を課題にした太陽経済を広める活動「太陽経済の会」を行っている。

経済成長と省エネルギーが共存する条件として、省エネと創エネの技術革新が課題となっている。太陽光や太陽熱の利用技術のみでなく、他の再生可能エネルギー生産技術や省エネルギー技術の向上とその技術導入、社会経済インフラの再整備によって経済成長は保障され、同時に化石燃料依存度は確実に低下するだろう。また同時にそれらの新しい再生可能エネルギー産業の形成によって雇用が生まれることも確かである。雇用の創出によって消費は開発されるだろう。当然のことながら、新しい産業、再生可能エネルギー産業の形成によって経済活動は活発化することになる。


4-2、太陽光発電で全世界のエネルギーを賄うことが出来るか 


日本の年間総発電量を賄うパネルの広さは琵琶湖の15倍(理論値)、12倍(現実値)となる
産業総合技術研究所の作田宏一氏は、日本の年間総発電量を1.000.000GWh(10億万KWh)とする場合、等価稼働時間を1時間で10%の発電効率をもつ太陽光発電システムの必要容量は1.000GW(0.1億万KW)として、約10.000 K㎡(1万平方キロメートル)の面積が必要であると報告している( )。縦横100㎞の正方形の面積である。この面積は、琵琶湖の面積が約670平方キロメートルであるから、琵琶湖の約15倍の面積が必要となる。

例えば、実際、筆者が観測し集計してきた住宅用の太陽光発電システムの発電量のデータを活用して、上記の課題、世界のすべての消費エネルギーを太陽光発電で賄う条件を計算してみる。図表17に示すように、シャープNE-132型のモジュール(発電効率10-12%)40枚(38.48平方メートル)の太陽光発電システム(2004年設置)で設置から2011年までの発電量の年間平均値は4665KWh/年となる。



図表17 シャープNE-132型のモジュール40枚の面積と価格(2004年)





筆者の太陽光システムと地理的条件が異なることをここでは無視して、この太陽光システムを使って10億万KWh/年間の発電を行うためには、0.825万平方キロメートルのパネルが必要となる。作田宏一氏が理論的に導いたパネル面積の0.825倍の面積となる。つまり、筆者の自宅のシャープNE-132型のモジュールを使って日本の年間総発電量を満たすパネル面積は琵琶湖の12倍の面積となるのである。またそのパネルを設置するために必要な資金は約750兆円に相当する。現在のパネル価格は2004年時点よりも安くなっている。現在では上記のパネル面積に相当する価格は約200万円であると言われている。仮に、価格が半分になったとしても、約325兆円の資金が必要となる。

また、2008年度の日本の一次エネルギー消費量は約58億トンTOEである。1TOEは1.1628万kwhに相当するので、年間6.74億万kwhの電力量となる。つまり、この年間の日本のエネルギー消費量を満たすために必要なパネル面積は55,660平方キロメートルで琵琶湖の約83倍、九州と四国を合わせた面積に相当する。 このことから、日本の一次エネルギー年間消費量を発電効率10-12%の多結晶太陽光発電システムで補うことは非現実的であると言えるだろう。

変換効率約10%のパネルで世界の1次エネルギー消費を賄うパネルの広さは 桑野幸徳氏は1989年に「ジェネシス計画」と称する太陽光発電による世界規模のエネルギー自給システムを提案した。2010年の世界の1次エネルギー消費は、原油換算で年間140億キロリットルとなると1989年に桑野氏は予測した。

現在では変換効率はよくなったが、当時、桑野氏は変換効率10%の太陽電池で、2010年に必要となる世界の一次エネルギー量を140億Kリットルと仮定し、そのエネルギーをエネルギー変換率10%の太陽光発電システムで生産するとして、その電気エネルギーを生産するために必要な太陽光発電システムの面積が800Km×800Km(640,000平方Km)と換算している。

つまり、東京と広島間の距離を二辺とする正方形の面積(世界の全ての砂漠の4%)で、原油140億リットルの一次エネルギーを太陽光発電で生産できると仮定した。しかも、アフリカの砂漠に巨大な太陽光発電システムを造り、その電気を直流電力融通幹線網で世界中に送電するGENESIS (Global Energy Network Equipped with Solar cells and International Superconductor grids)を桑野氏は提案している。

実際、桑野氏の予測に近い値、2010年のBP Statistical Review of World Energy の資料によると120億トン(石油換算トン)である。図表17に示すように、2010年度の世界の1次エネルギー消費量は120億TOE、つまり135.5兆KWhの電力量となる(1TOEは電気量に換算して1.1628万KWhであるので、120億TOEは139.5兆KWhとなる)。また、2035年には168.4億TOE、つまり195.8兆KWhの1次エネルギーの消費量が予測されている。25年間で増加する1次エネルギー消費量は56.3兆KWhと仮定されている。

図表18 世界の1次エネルギー消費量増加率(2035年)




例えば、筆者が実際観測し集計してきた住宅用の太陽光発電システム(シャープNE-132型のモジュール(発電効率10-12%)40枚、38.48平方メートル)の発電量の図表17に示したデータを活用して、上記した日本の年間総電力量と一次エネルギー消費量を賄うために必要な面積と金額を予測してみる。

2010年度の世界の一次エネルギー消費量を賄うために必要な太陽光パネルの面積は約115万平方キロメートとなった。シャープNE-132型のモジュール40枚38.48平方メートルを設置し屋根が299億軒数必要となる。つまり、このモジュール(発電効率10-12%)を使って世界の年間総発電量を賄うために必要な太陽光パネルの総面積は琵琶湖の1716倍の面積、日本の国土の約3倍の面積が必要となるのである。

さらに、この発電システムの設置に350万円が必要であったとすれば、115万平方キロメートルのパネルを設置するためには、これだけのパネルを設置するシステム価格は10.4京円(104,689兆円)必要となる。現在の日本の国家予算(80兆円)の約1309倍である。 2035年度の世界の1次エネルギー消費予測量は168.4億TOCであると仮定すると、2010年度の約140.3%の増加となる。すると、391.1億軒数の同じタイプの太陽光発電システム(シャープNE-132型のモジュール40枚38.48平方メートル)を載せている家が必要で、約162万平方キロのパネルが必要となる。つまり、1000Km×1620Km(1620,000平方Km)、日本の面積が約37.8万平方キロであるから、その4.3倍の広さの太陽光パネルが必要となる。

また、上記と同じ条件でそのパネル設置に必要な予算は約14.7京円となる。つまり、今後20年から25年間掛けて、世界が12京円の予算つまり(年間平均7300兆円から5800兆円)の予算を太陽光発電システムに費やすなら、2035年には、世界の1次エネルギーを太陽光発電で賄うことができる。


図表19 図表16の条件で世界の1次エネルギー量を生産するために必要な面積と財源






しかし、2010年度の世界のGDPは約629.1兆ドルで、1ドル100円として換算すれば6291兆円となる。2035年までに世界の1次エネルギーをすべて太陽光発電システムで賄うために必要となる太陽光発電システムへの年間投資金額は7300兆円から5800兆円であるから、世界のGDPに匹敵する太陽光発電システムへの投資が必要となることが理解できる。

以上の議論から、2035年までに世界のすべての1次エネルギーを太陽光発電システムで賄うことは、現状の太陽光発電システムのシステム価格、電源コスト、発電効率の状態では非常に困難であることが理解できるだろう。

また、現在のシステムの耐久性を考慮するなら、10年間で発電効率が仮に20%低下し、20年間の試用期間中に必要となるパネルの補修費用を考えると、現状の太陽光発電システムで世界の1次エネルギーを賄うことは夢のまた夢であると言える。

今後の技術革新によってどこまで太陽エネルギー利用は改良可能か 第3章3-1の図表13の「PV2030+による太陽光発電技術開発シナリオ」で示したように、発電効率はNDDOの計画に従い、2020年までにモジュール変換率20%に、2030年でモジュール変換率25%に改良され、また発電コストやシステム価格も逓減するなら、上記した条件は大きく変わることになる。単純に計算しても、1KWhの発電に必要な太陽光パネル面積は2020年には2010年の半分、2030年にはさらに少なくなる。仮に、2035年では現在の発電効率の3倍の電気を生産できると仮定するなら、図表18に示すように、2035年に必要な太陽光システムの面積は日本列島の約1.4倍の広さとなる。


図表20 図表16の3倍の条件で世界の1次エネルギー量を生産するために必要な面積と財源






2012年1月16日の環境ビジネスのニュースによると「物質・材料研究機構の深田直樹グループリーダーは、現在主流となっているシリコン太陽電池において、シリコンナノ構造体を機能的に複合化させることで、接合面積を100倍以上にできる新構造の太陽電池材料を開発した。シリコン材料の削減による低コスト化と変換効率向上を両立させる、これまでにない新しい太陽電池材料として、5年後に実用化する予定」であると報道されている。

この報道記事の通り、同一面積で現在の太陽発電量の100倍の電気を発電することが可能になり、また発電コストが非常に安くなるならば、世界のすべての1次エネルギーを太陽光発電によって賄うという計画は決して不可能だとは言えないだろう。 しかし、それらの革命的な技術を使った太陽光発電パネルの生産はまだ実現してはいない。殆どと言っていいほど現状では実現不可能に近く、その計画の可能性を楽観的には予測できないことは事実である。そして、21世紀の半ばまでに太陽光発電システムのみで人類が必要とするエネルギーを賄うことは可能であるとは言えない。

また、すべての再生可能エネルギーを活用して人類が消費する1次エネルギーの生産が可能になるとは言えない。そして、予測を上回る勢いで世界の1次エネルギー消費量が増え続ける可能性も否定できない。そう考えるなら、再生可能エネルギーによって世界のすべての1次エネルギーを賄うことは殆ど可能性のないほど困難であるとしか言えないのである。


4-3、太陽光発電システムの普及を進めるための課題

再生可能エネルギー生産コストの相対的評価
上記の議論から太陽光発電システムを使って現在の消費エネルギーを賄うことが非常に困難であることに気付くのである。しかし、このことは、即、原子力発電や化石燃料発電を維持推進することを意味するわけではない。
これまでの原子力発電による電力料金の計算方法に大きな欠陥がある。例えば研究開発費等々の政府補助金(国民の税金)や福島原発事故処理費(これも税金)は含まれていない。その上で政府試算の原発の発電原価は5.9円となっていた。

しかし、これまで初期トラブル、老朽化によるトラブル、さらに頻発する事故による停止は、今までも頻繁に起っている。その上、原発の過剰電力を捨てる「揚水発電所」の建設費、原発依存が招く過剰設備、原発立地対策費を支払っている。今回の福島原発事故処理の経費(被害者救済、放射能除染、事故処理、廃炉、高放射性物質の処理等々に必要な費用)が必要となる。その意味で、原発の経済的な再評価を行う必要性を訴える指摘を否定することはできない。

もし、これらのすべての費用を原発の発電原価に組み込むなら、予想をはるかに超える電気料金になることは避けられない。その意味で原子力エネルギーによる発電原価は、今後、再生可能エネルギーの原価より安いと言うことにはならないのである。しかし、そこには再生可能エネルギーのコストが今以上に安くなるという条件を満たすことが前提となっている。

また、化石燃料の使用による大気中の二酸化炭素の増加とそれによる地球温暖化現象が問題にされてきた。地球の温暖化現象への二酸化炭素の影響に関しては異論も出されている。しかし、現実の地球の温暖化はこの半世紀に進んだ。そして同時に大気中の二酸化炭素量も増加した。仮に、その二つの要因が温暖化に関係がないとしても、大気中の二酸化炭素量を増やすことは、これまでの地球規模の生態系にとって大きな変化があることには違いない。その生態系の変化がもたらす気象へのリスク、温暖化現象をまったく否定することは出来ないという立場も成立する。

この仮定に立って、二酸化炭素の排出の経済効果を考える。つまり、気象や生態環境の変動がもたらす災害、例えば都市のヒートランド現象等によるゲリラ豪雨、集中豪雨、雷雨、竜巻の発生による洪水、深層崩壊、土砂崩れ等の災害の発生、さらには北極、南極や高山地帯の氷河溶解による海面上昇と高潮の危険性等々の自然災害の増加による経済的被害を試算する必要がある。世界規模の自然災害の増加と大気中に排出された二酸化炭素量との関係を精密に求めることは難しい。しかし、その相関関係から導かれる二酸化炭素排出量の価格を仮定することは可能である。

その意味で、化石燃料を使ったエネルギー生産(熱や発電)は出来るだけ低く抑えるべきであるという意見が出されてきた。当然、この意見に便乗して原子力発電(原発)の建設が提案されてきた。しかし、原発の熱効率は悪く、例えば沸騰水型の原子炉では33%であると評価されている。つまり、この原子炉では三分の二の熱を捨てながら発電を行なっているのである。 以上の議論から、原子力発電コストや化石燃料発電コスト試算の中に放射能汚染や温暖化という環境破壊の被害コストを計算する必要がある。

社会資本としての太陽光発電システムの位置付け パネルの消費者かエネルギーの生産者か
2012年7月1日から固定価格買い取り制度が始まった。その2ヶ月後の9月に住宅用パネルの設置件数は100万世帯を超えた。この制度が存在する前から日本の太陽光発電の主流は住宅用パネルである。つまり、日本では高額の資金を出して太陽光発電を設置する人々が他の国々に比べて相対的に多くいるといえる。それは日本人の環境意識の高さであるとも評価できるだろう。

日経新聞によると、今年(2012年)の7月と8月の2ヶ月間で認定を受けた住宅用パネルの電力容量は30.6万kwであり、メガソーラー発電(非住宅用)は72.5万kw、風力発電は26.2万kw、等々、再生可能エネルギー全体で130万kwとなっている。政府・経済産業省は2012年度末まで、住宅用パネルの電力容量は150万kw、メガソーラー発電は50万kw、風力発電は38万kw、等々、再生可能エネルギー全体で250万kwの導入を予測していたが、その予測の半分をすでに2ヶ月間で達成した( )。 この数値が示す意味は、固定価格買い取り制度は再生可能エネルギーの普及に大きく貢献していること、また、住宅用や非住宅用(メガソーラー)の太陽光発電パネルの設置は今後も急速に進むことを意味する。

今年度の1kwhの買い取り価格は住宅用太陽光発電と非住宅用(メガソーラー)太陽光発電では42円と設定されている。この価格で住宅用太陽光発電は10年間、非住宅用(メガソーラー)太陽光発電は20年間買い取り価格を保障される。そのために、多くの市民や企業が売電による利益を目的にしてパネルを設置している。買い取り価格が高めに設定されている限り、今後もパネル設置は進む。

この固定価格買い取り制度によって再生可能エネルギーによる電力の生産が進む。つまり、原子力発電所や火力発電所のような50万kw以上の大型の発電施設に代わって、1万kwクラスのメガソーラーや10kw以下の住宅用太陽光発電所が至るところに設置される。それらの小規模発電所は電気を生産する施設である。また、原発などの大型発電所と異なりこれらの小規模発電所は電力消費地に設置されている。その意味で、送電時の電力ロスが少ないのである。

しかし、同時に、太陽光発電の普及はそのシステムが抱える幾つかの重大な問題を提起している。その一つが太陽光パネルの劣化問題である。産業技術研究所の太陽光発電工学研究センターの加藤和彦博士らが運営するボランティア団体「PVRessQ!」はこれまでの483件の住宅用パネル(10年以内の発電システム)の調査のデータを公開している。そのデータによると、運転開始からで483件中100件(全体の21%)の発電所がパワーコンディションの修理・交換を行なった。そして、483件中78件(全体の16%)が太陽電池モジュール1枚以上の交換を行なったと報告されている。

太陽電池モジュールの交換に至るパネルの故障の主な原因は、モジュールの素材である半導体の故障というよりも、モジュール間やパネル間を接合する部分の劣化による電気抵抗の発生と発熱によってモジュールが壊れるケースが多いとの報告があった。

京セラが1983年に国内で初めて、太陽光発電システムを商品化した。それからシャープが2000年から大量生産を行なった。つまり、太陽光発電システムが市場に出てから約12年の歳月しか経っていない。その意味で、このシステムの持久性を検証するデータは多くないのである。それにも拘わらず、2000年以降のパネルの保障期間は10年となっていた。また現在では20年と言われている。

2000年代当時1kwあたり80万以上した高額な設備である住宅用太陽光発電システムの10年間の保障期間中に、製造業者にはその保守点検を行なう義務はない。例えば、トヨタ自動車を初め、日本の自動車メーカーで新車を買った場合、少なくとも1、2年の間、無料の保守点検がサービスとして付いている。しかし、車と同じ位、いやそれ以上の高額な太陽光発電システムに対して、販売業者の保守点検の義務もなければ、勿論、サービスもないのである。

10年以内の太陽光発電システムの21%がパワーコンディションの修理・交換を行ない、またその16%が太陽電池モジュールの交換(一枚以上)をしたという調査結果からすれば、現在、100万世帯に普及した住宅用太陽光発電システムや非住宅用メガソーラーのシステムの故障が大きな社会問題となることは明らかである。そして、この社会問題を正しく解決することが出来なければ、太陽光発電システムの設定に投資しようとする市民や企業の数は激減することは明らかである。

パネル製造企業や政府は、太陽光発電システムの劣化、故障の問題を解決する方法を早急に見つけ出さなければならないだろう。特に、安価な中国・台湾製や韓国製が市場を席巻しようとしている。それらの20年保障を謳うパネルを設置した市民や企業が、今後、10年以内、もしくは10年後に果たして故障したパネルを無料で修理して貰えるのかが深刻に問われているともいえるだろう。

言い換えると、政府も企業も住宅用パネル設置者を高額な電気製品の消費者としてしか位置付けていないことが問われていると言える。太陽光発電システムを導入する市民は、パネル業者から観れば消費者である。しかし、同時に、社会からみれば電気の生産者である。太陽光発電の経済的で社会的な効果を評価するために、固定価格買い取り制度が作られたのである。その意味で、エネルギー生産を行なう社会資本として住宅用の太陽光発電所を位置付けるには、価格の買い取り制度のみでなく、太陽光発電所の保守と修理に関する制度が必要となると言える。

太陽光システムの危機管理と生産技術の開発
東日本大震災時に太陽光発電システムの被害状態に関する現地調査を、NPO法人太陽光発電所ネットワークは東京工業大学ソリューション研究機構 黒川浩助特任教授と共同で進めた。この調査によって東日本大震災時の住宅用パネルの被害状況が判明した。その報告書の中から、特記すべき課題を以下に述べる。

一つ目の課題は、パネルを設置することによって屋根の強度が確保され、その結果地震による屋根の被害がパネル設置家屋は相対的に少なかったという調査結果であった。
二つ目の課題は、地震によって壊れない強固なパネルによって、その後も発電を続けるために、しかも接続箱にある回線切断用設備が活用されていないので、その部分に発電によって生じた熱が発生する。その熱によって結果的に電線が燃えて、さらにその火災によって電気がショートし電線が炭化したのである。この事故を予防するためには、災害時には回線を切断しておく必要がある。そうしなければ、太陽光発電による家屋の火災が発生する可能性が起こるのである。
さらに三つ目の課題は、災害時には太陽光発電システムの自立機能を使い、停電時でも電気を供給できることも証明された。しかし、中規模の住宅用太陽光発電システムには自立運転機能がない場合もあり、パワーコンの自立分電盤機能を追加する必要が求められた。

こうした調査結果は太陽光発電システムの安全管理や危機管理機能を向上させるために評価できる。政府や業者が、今回調査を行なったNPO法人(PV-Net や再生可能エネルギー協会)と大学研究機関と協力し、太陽光発電システムの改良を進める必要がある。

4-4再生可能エネルギー生産管理システムの普及化を促進する新しい文化、社会のあり方

これまで太陽光発電システムの技術的課題に関して議論してきた。これまでの議論から、太陽光発電システムの限界もその可能性も、このシステムの技術的改良に委ねられているという結論が出てくる。しかし、「4-2、太陽光発電で全世界のエネルギーを賄うことが出来るか」で議論したように、発電効率を上げることや、生産価格を下げることなどの太陽光発電システムの生産に関する技術的な議論の限界を理解しておく必要がある。

つまり、太陽光発電システムによって世界や日本の一次エネルギー消費量の大半を生産することが不可能に近い計画であるなら、他の再生可能エネルギーを導入し、また省エネ技術を駆使して、再生可能エネルギー社会の構築という困難な課題に取り組むべきである。つまり、太陽光以外の再生可能エネルギー(太陽熱、バイオマス、風力、潮力、地熱、排熱、水力等々)の活用と電力生産や省エネルギーの技術開発を急ぐべきである。 しかし、再生可能エネルギー社会を構築するためには、技術的な課題だけでなく、社会文化や生活文化の課題が問われている。

集中型生産様式から分散型生産様式へ 再生可能エネルギー生産の特徴は、生産能力が大規模化できないことである。原子力発電や大型火力発電と違い、小規模の発電能力しかもっていない。例えば、10万kwのメガソーラー発電所を建設するには広い敷地が必要となる。固定買い取り制度を活かして、多くの企業がメガソーラー発電所の建設にビジネスチャンスを感じている。休耕作地、日照条件のよい山林、空き地等々の利用を考えている。しかし、殺到するメガソーラーの建設の需要で、こうした土地は高騰しつつある。設置場所の借地金が高騰すると発電から得られる利益は落ちることになる。つまり、経済的なメガソーラーの設置は、格安の借地でなければ、自治体が提供する公共地か自己所有地となるだろう。

広大な砂漠を活用して太陽光発電システムが出来る国々の事情と異なり、平野面積の狭く、人口の多い我が国では、狭い平野に太陽光発電や風力発電を立てることは困難である。パネルの設置場所に休耕田や家屋の屋根利用が計画されている。食糧自給率が30%以下である我が国の食料資源の自給問題を考えると、休耕田を利用することは困難になる。我が国の地理的や文化的事情に適した太陽光発電所の条件を見つけ出す必要がある。

この我が国の地理的条件や発電資源の特性から、太陽光発電に限らず、風力発電、小規模水力発電、地熱利用、潮流発電等々の再生可能エネルギー生産の規模が限定される。設置価格の安い中小規模発電所を効率よく配置連係させるネットワーク設計とその経済的環境条件を確立する技術開発が求められている。

この技術開発の課題の一つが、地域電力調整制御システムの開発である。風力や太陽光による発電は、気象や時間によって発電量が変動する。そのため、質の悪い電気と評価されている。つまり安定供給が出来ないのである。この弱点を克服するために、一つはスマートグリッド、コミュニティグリッドと呼ばれるネットワーク型のエネルギーの供給需要と制御調整機能が必要となる。このネットワーク型のエネルギー需要供給システムを、別名、エネルギーの地産地消型と呼ぶことができる。

言い換えると、再生可能エネルギー社会は、これまでの生産様式である集中型、大量生産と流通方式と異なる産業構造や社会制度の構築、つまり分散型の生産システム、分権型の社会システムが形成されることになる。この分散型社会が集中型社会よりも経済的であり、生産やコミュニケーションの効率がよいということが前提となる。

この前提を受けて社会経済システムが確立するための条件は、資源の有限性やその枯渇問題が顕在化していることにある。つまり、これまでの大量生産制度を支えていた要因の一つは、化石燃料資源を代表として天然資源は無限にあるという考え方であった。しかし、資源の枯渇問題は年々深刻化しつつあり、資源のリサイクル等による再利用によって、持続可能な資源利用リサイクルを創らなければならない。その循環型サイクルを維持するために小規模化の技術と生産システムが再評価されることになる。

資源の枯渇問題を抱えた21世紀の社会経済は、必然的に分散型社会へと変化していくことになると言える。しかし、現実は先進国の優位な経済力を背景に資源の独占化を維持しようとしている。だが、力を増す発展途上国や新興国の台頭によって、資源の独占的な支配構造もそう長くは続かないだろう。その意味で、先進国は分散型生産様式を取り入れ、いち早く持続可能な社会経済システムの構築を目指す必要があるだろう。すでにヨーロッパ社会が先行して持続可能な社会のための実験を進めている。

地産地消型エネルギー生産と地方分権化と国際地域共同化
エネルギーの安定供給化を可能にするためには、地方分権化と国際地域共同化が必要となる。地方分権化とは地域共同体の役割を重視する社会制度である。つまり、地方分権によって広域地域自治体の形成が可能になり、エネルギー生産に関連する社会資源の共同利用を可能にすることができる。 広域地域自治体(市民参加を前提にした地域社会運営)を土台とした国のかたちから逆算して考えるなら、地域国際共同体の形成が課題となる。言い換えると、地方分権化による広域地方自治体の形成によって地方の多様性が生まれる。その社会の多様性が日本社会の国際化を進めるのである。中央集権的な国家から地方文化の多様性が失われる。その分、国際化に必要な要件を失うことになるのである。

言い換えると、分散型社会の経済合理性は、ネットワーク型社会によって生まれる。つまり、分散型社会は地方分権化を要求する。そして、地方分権化は社会の多様性を生み出す。その結果、社会の多様性によって分散型社会は地域国際社会での経済文化競争力を獲得することになるのである。 同じように、分散型エネルギー社会の多様なエネルギー生産活動によって広域地域自治体の安定した経済活動が保障され、エネルギーの需要と供給のネットワークを地域国際共同体に広げることも可能となる。具体的にはEUのエネルギーネットワークを模範にしながら、東アジア共同体のエネルギーネットワークを構想することも可能となる。

市民参画社会によって発展する再生可能エネルギー社会システム
エネルギーの地産地消型によって分散型エネルギー生産システムは有効に機能する。その機能を支えるのは、単にスマートグリッドの情報処理や制御技術だけではない。分散型生産システムに必要なきめ細かい生産地と消費地のコミュニケーション力であり、そのコミュニケーション力を維持発展する力は市民参画型社会によって形成される。

生産者であり消費者である市民によって、資源の有効活用を生み出す生活文化が形成され、それをリサイクル文化と呼ぶこともできるが、大量消費生活への反省や環境保全を生活文化とするライフスタイルの形成が行なわれ、人々の豊かさの評価尺度が、消費財の価格評価から、生活の質(QOL)を重視した生活文化やライフスタイルへ移行することになる。

人権や平和、共存やコミュニケーションが社会文化の評価の基準となり、社会サービス業務への市民参加(ボランティアやNPOの役割)が国民総生産の一要因として評価され、こころを持つと呼ばれる良質の福祉環境が形成され、また生態環境が生活の豊かさの一要因となるだろう。 このように、大量消費文化を支えていた経済主義から脱却していくとき、経済の分散型社会の経済効率は向上するといえる。その意味は、これまで経済主義の評価していた資源概念が大きく変化し、産業生産に有用な資源のみでなく、家庭生活に必要なあらゆる資源(愛、思いやりや協力)を含めて経済活動として評価されることになるだろう。

市民参画社会とは、生活重視の考え方に立った人々によって創られる社会を意味する。それらの社会生産力とは、豊かで多様な生活資源の生産を意味する。その生産に有用なシステムを経済効率の高い制度として評価することになる。つまり、資源の無駄遣いから、平和や人権主義によって生み出される生活の豊かさの形成と向上を経済活動として捉える社会形成が市民参画社会の究極の課題となるのである。

例えば、欧米や日本ではエネルギー自給率の向上を目指すために固定価格買い取り制度が確立した。その制度は、ドイツの例にみられるように、市場原理を取り入れながら、システム価格の逓減に即して順次固定価格を見直す必要がある。日本では、その見直し制度が再生可能エネルギー経済や社会政策の専門家で作る委員会によって行われる。こうした再生可能エネルギー社会を発展維持する政府の活動(専門委員会の議事録や答申内容)の情報を市民に公開し、市民参加の意見聴取会を開く必要がある。

分散型エネルギー生産社会では、市民がエネルギーの生産者となる。市民参画型社会を形成しない限り分散型エネルギーシステムの経済合理性は確保されない。その経済合理性の基本要因は市民がエネルギー生産に参加することで成立している。つまり、この生産様式が成立するには、市民民主主義文化の形成発展が条件となる。

言い換えると、市民民主主義文化によってエネルギー問題のみでなく、社会福祉、健康、子育て環境、社会の危機管理や安全管理、教育や文化、環境保護、人権、国際交流、平和活動等々、今、集中型社会が抱える経済負担の大きな社会要因を市民が参画しやすい社会規模にすることによって、分散型社会でのエネルギー生産力は向上するのである。

メガソーラー発電所と家庭発電所の違いから来る課題
現在、二つの太陽光発電所スタイルがある。一つは非住宅用のメガソーラー発電所であり、もう一つは住宅用の発電所である。その二つの太陽光発電所は分散型エネルギーシステムを担い、また他の発電所とのネットワークによってより安定した電力を地域社会に提供できる。

しかし、メガソーラー型はこれまでの集中生産型により近く、現在の産業システムから最も期待される太陽光発電所である。それに比べて、家庭発電所は殆ど現代の日本の産業システムから期待されないだろう。そのため、政府が家庭用太陽光発電所を重視するというのは、殆ど、その発電機能に関する期待からでなく、パネル製造業者の需要先としての役割が主な理由となるだろう。 言い換えると、家庭用発電所ネットワークであるNPO法人太陽光発電所ネットワーク(PV-Net)の今後の社会的役割やその活動の在り方が問題となると言える。以下、その問題を検討するために、二つの課題を列挙する。

一つは、家庭用発電所の意味をエネルギー政策上、社会や政府、産業界に理解させること。二つ目は、PV-Net運動の意味を再度確認し、家庭用発電所の発展と維持のために活動の在り方を検討すること。以上の二つの課題を展開するための、議論をはじめる必要がある。

とりわけ、住宅用の太陽光発電システムの普及によって多様なサポート企業やNPOが生まれる。これらの企業や団体は太陽光発電所の管理者となった市民、もしくは管理者になろうとする市民のニーズによって発展する。

これらのニーズを満たすために、NPO的な企業が形成され、市民参画型社会の経済構造の大きな要素を作り上げてゆく。つまり社会貢献度の高さを企業活動の目標に掲げる企業文化が生まれるのである。この企業文化は分散型社会の構築に貢献するのである。

消費者・生産者(プロシュマー)の組合運動
1960年代、市民社会の発達とともに形成された日本の消費者運動、その始まりは安い商品による生活支援活動であった。1970年代になると、この消費者運動は安全な商品の提供による生活支援運動に展開した。

太陽光発電所ネットワークは、その意味で、全く新しい運動である。何故なら、環境保全や再生可能エネルギー社会に貢献するために高額の太陽光発電システムを購入した消費者であり、また同時に、そこで生産した電気を電力会社に売る生産者でもある。つまり、消費者・生産者運動(プロシュマー運動、プロシュマーとはアメリカの経済学者トフラーの用語)である。

この新しい運動の形成は21世紀の市民の在り方を意味している。20世紀後半は消費者や勤労者として市民は位置づけられていた。しかし、21世紀は、生産者としての市民の役割が大きく評価されつつある。それは、商売や中小企業の経営者という市民のみでなく、太陽光パネルを始め、他の再生可能エネルギー生産に投資する市民、また、環境保全や自然エネルギー生産のNPO活動に投資する市民としての、言い換えると、社会や経済活動に参画する市民という、概念を意味する。この新しい市民のイメージが太陽光発電所ネットワークの中で語らなければならないものである。

そこで、この運動は、以下の二つの課題が具体的に検討されなければならない。一つは、消費者運動としての在りかた。つまり、太陽光発電システム購入者の利益を擁護する活動の在り方が問われる。さらに、もう一つは生産者運動としての在り方、つまり、買電に関する利益を擁護する活動が問われる。

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論文「社会経済システムからみた太陽光発電システムの課題
-太陽光発電の将来性と問題点- 」のダウンロード

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http://hiroyukimitsuishi.web.fc2.com/pdf/kenkyu_03_04/MITShir12b.pdf



「成長経済主義を越えて成熟循環型経済社会への転回のために」 目次
http://mitsuishi.blogspot.jp/2015/01/blog-post_72.html


2012年10月17日 誤字、文書修正


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