2013年5月15日水曜日

東日本大震災の分析と津波防波堤計画の合理的経済的な在り方とは

民主主義制度の持つ経済性

三石博行


未来の震災対策のための過去の震災パターン分析

阪神淡路大震災やその他の震災を通じて得た経験や教訓は、当然、その後の震災に役立っている。しかし、それらの教訓や経験は阪神淡路大震災の特徴を前提にして形成されたものである以上、東日本大震災では、その経験がすべて役だった訳ではない。例えば、2011年3月11日に起こった東日本大震災は、阪神淡路大震災のような都市直下型や新潟県中越地震のような局所的震災ではなかった。広大な地域が地震と津波の被害を受けた。青森から茨城までの広大な地域が罹災した。

地震と津波による広域の罹災地を抱えた東日本大震災の場合、都市直下・局地型の阪神淡路大震災と比較するなら、広域罹災地への救援活動は遅れた。特に三陸海岸地域の半島に位置する孤立した被災地への救援活動は困難を来した。また、海岸線に近接した幹線道路や鉄道が津波によって破壊されたため、救援活動はもちろんのこと、罹災地への食糧や医療などの生命維持に直結する支援が震災直後に十分に出来なかった。

近未来に発生すると予言されている東南海地震では東海、南海、四国地方にわたる広域の海岸線地帯が地震や津波被害が予測されている。この東南海地震では東日本大震災時の救援活動の経験や教訓が活かされるだろう。そのためにも、東日本大震災の震災パターンの分析とその対策の研究が必要となる。

東日本大震災の震災パターンには大きく分けて二つの課題があった(1)。一つは広域の地震と津波の被害とその救済活動、もう一つは福島原発事故を伴う被害とその救済活動であった。今回は、前者の課題に絞って、東日本大震災の震災パターンについて述べている。巨大津波・地震に原発事故が併発した震災パターンは、確かに、東南海地震の場合でも、浜岡原子力発電所が海岸に隣接している以上、そのまま当てはまると言えるだろう。

これまで、政府を中心としてすべての分野の研究機関や企業の協力を得ながら東日本大震災の震災パターンの分析が進んでいる。例えば、携帯電話やカーナビゲーションのGPSシステム情報から東日本大震災時の避難行動の軌跡データが抽出され、それらの莫大なデータベースが統計分析されている。その分析から、震災時の人々の避難行動の解明、避難行動傾向、障害が分析されている。そしてその分析によって、災害時の避難経路の確保のための交通情報、また避難路の検討、避難に必要なインフラの整備計画が立てられようとしている。こうした災害パターンとその対策がこれからの災害救済活動に必要であることは言うまでもないだろう。

今までの震災経験に基づく震災パターン分析(被災状況や救済活動の分析)は今後の震災対策の在り方や考え方、つまり安全対策、危機管理や救援システムを考えるときの重要な材料となる。


安全管理の経済論理と津波対策

震災対策とは被害を最小限に防ぐということである。巨大地震や津波によって受ける災害をゼロにすることは不可能である。言い換えると、大地震や大津波に対して災害を受けないという対策は不可能である。つまり、より現実的な震災対策とは、人命救助や最低限の生活環境の維持に必要な社会資源の安全管理や減災のための対策であると言える。

減災としての震災対策は安全管理の経済論理が働く。安全管理の経済論理では、減災対策は原則として減災対策コストと被害コストの収支計算から決定されている(2)。地域経済活動を犠牲にしなければ完全な人命の安全を保障されないという極端な例を取っても、必ずしも完全な人命の安全が経済活動に優先するとは限らないのである。何故なら、経済活動の消滅によって、過疎化が進行すれば、その地域の人命を守る意味も全くとは言わないまでも大きく失われることになる。つまり震災パターン(被災状況や救済活動)の分析から必要とされる現実的な安全管理を決定しなければならない。

最近、三陸海岸にまるで万里の長城のような防波堤(津波対策用の)の建設計画が問題となっている。人命を守るために計画されたこの巨大な津波防波堤建設の計画に対して住民の一部から批判が出ている。その批判の根拠は、津波防波堤によって失われる生活環境の便宜性や景観である。それらよりもより人命を守ることが大切だという考え方に誰も正面から反対は出来ない。がしかし、この安全対策の背景にある震災復興資金に群がる一部利権集団の影を感じる人々に取って、この計画への疑問が沸き起こることも避けられない事実である。そのためには、この計画を住民参加と情報公開の方法で、根本から問い掛ける必要がある。

この巨大津波防波堤の建設問題から問いかけている課題を以下3点に整理した。
1、人命の犠牲を最小限にするための対策として最も費用対効果の高い対策
2、地域社会の経済や文化を維持発展するために必要な津波災害への最も費用対効果の高い対策
3、 安全管理とは生活環境の一部を改善することによって可能になる。その安全管理システムが地域社会の生活者によって管理運営されなければ、その機能は失われる。そのためには、安全管理システムの企画、設計、建設過程に住民の参画が必要となる。


住民参画型の安全管理システム企画や構築活動の意味

巨大津波防波堤の建設問題から問いかけている課題として、その建設の企画、設計や建設過程に住民が参画する必要性について述べたのだが、その意味を理解しなければ、安全対策への住民参画も形式的なものとなる可能性がある。すでに前節で述べたが、安全管理の対策は住民の生活環境の一部として恒常的に行われることで正しく機能する。例えば、巨額の管理費用を掛けないで、防波堤や防潮堤を維持管理するためは、その管理を地域住民の参加によって行うことが必要となる。勿論、それらの管理には専門的な知識や技術が必要であるが、日常的なその安全管理システムの運用は地域住民の参加によって、より効果的に、またより低コストで行うことができる。

例えば日本社会独自の防災制度、消防団の例を取るまでもなく、住民参画型の安全管理システムは日本社会の伝統として存在している。その意味で、津波防波堤の日常的管理を地域社会やそこに住む人々に委託(アウトソーシング)することが、長期的に見れば経済的であり、合理的であり、かつより有効であると理解できる。長期的な防災・津波防波堤の維持管理を行うためには、その企画段階から地域住民や自治体の参画が必要となることは言うまでもない。

地域での災害に強い生活環境の建設事業の一環として、津波防波堤のみでなく、震災に強い街づくりを住民参加型プロジェクトで進めることが長期的視点に立ってもより現実的な、つまり地域の生活環境と文化に適してシステムが形成される可能性が大きい。勿論、自然災害、また原発事故に対する安全対策や危機管理システムの形成には専門的な知識が必要である。そのために、このプロジェクトには専門家の調査や提言を行う委員会が必要となる。それらの専門家を地域社会・自治体や住民がリクルートすることが困難な場合には、政府(官庁)や地方行政(県庁)がその委員会メンバーの推薦を行うこともできる。住民参加型で震災からの復旧や復興活動を進めることで、その後の社会運営にも大きな効果が生まれることは間違いないのである。


経済的な減災対策と民主主義

震災への安全管理の基本は減災政策であることはすでに述べた。その減災の意味は地域社会の経済環境、文化環境、生態環境、生活環境によって、それぞれ独自に決められる。例えば、非常に生産性の高い社会資本や生産地帯を持つ地域では、それらの地域を守るための投資が行われる。その減災対策費(投資金額)は安全管理の経済論理、減災対策は原則として減災対策コストと被害コストの収支計算から決定されている。また、生産能力が相対的に小さい場所では、その安全管理に巨大なコストを掛けることはしない。

こうした安全対策の現実的で現場に適用した判断を行うことは、地域社会がある限られた予算(震災地域への復興予算)の枠を決められることによって、独自に判断し、その対策を行うことがより地域の事情に合った減災対策が可能になる。勿論、地域社会での復興予算の使用に関する不透明な談合や不正を防ぐためには、予算執行までの過程、つまり、震災復興地域委員会への住民参加と情報公開を義務付けなければならないだろう。また、同時に、それらの成果、つまり予算を使った減災対策や復興活動の成果を点検する第三者を入れた評価委員会が必要となる。

地域社会での住民参画型の減災対策、復興計画、都市計画、地域社会文化計画があるなら、そしてその活動をサポートする国家の政策、地方行政の在り方、専門家集団の協力体制、さらには情報公開制度や予算の住民の仕分け活動、政策評価委員会等々の民主主義のシステムがあるなら、それらのシステムの中で、地域独自の震災パターン(被災状況や救済活動)の分析や評価から、地域に合った現実的な安全管理、減災対策の企画、決定、実行と評価点検活動が成さるだろう。


引用、参考資料

(1) 三石博行 「大震災・津波と原発事故を引き起こした東日本大震災復興活動が問いかける課題」
ブログ文書 2013年5月2日

(2) 三石博行 「東日本大震災から復旧・復興、災害に強い社会建設を目指して
東日本大震災の復旧・復興、 災害に強い社会建設を目指して」 ブログ文書集
2章 現代社会での安全管理
3章 現代社会での危機管理
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/03/blog-post_23.html

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