2013年6月6日木曜日

個別的震災パターン分析と震災救助対策の検討、評価、改善の作業

災害政策の設計科学的展開を目指す


三石博行


個別的震災パターンと普遍的震災パターン

個別の震災パターンの分析を通じて、そのパターンの特殊性を理解するだけでなく、一般的な震災パターンを理解することが出来る。どの震災や災害でも起こる罹災地での救済活動の在り方、罹災直前に必要となる救援物資等々が、ここで言う一般的な震災パターンに属する。

ここで用語的な混乱を防ぐために、震災パターンを震災による被害の状況とそれに対する救援活動と定義する。そして、個別的震災パターンを、例えば阪神淡路大震災や東日本大震災のような個々の震災の被害状況やその救援活動と定義する。それに対して、どの震災でも一般的に生じる被災状況や救援活動の在り方を普遍的震災パターンと定義したい。

阪神淡路大震災の都市直下型震災状況は阪神淡路大震災の個別的震災パターンである。また、東日本大震災の原発事故、地震と津波による広域の災害状況やそれに対する救援活動の在り方は東日本大震災の個別的震災パターンである。そして、阪神淡路大震災や東日本大震災を含み他の震災でも共通する災害状況とそれに対する救援活動の在り方が普遍的震災パターンである。

言い換えると、個別的震災パターンの分析から、それに類似する震災パターンへの対応が可能になる。また、普遍的震災パターンの分析によって、震災や自然災害一般への救援体制に関する安全管理や危機管理の方針が検討されることになる。


個別的震災パターンの多様性

個別的震災パターンを構成する要素とは、地理的条件、気象的条件、生態環境的条件、経済的条件、文化的条件、政治的条件、地域社会的条件や技術的条件等々が挙げられる。それらの条件は幾つかの要素によって構成されている。また、条件を構成する要素の質的関係のみでなく、特に対立する要素間の相対的傾向、すなわち二つの要素間の相対的比率や二つの要素の存在確率という量的関係によっても決定されている。

地理的条件とは、都市直下型と呼ばれる阪神淡路大震災のような罹災地が都市に集中しているケースや東日本大震災のように都市や農村漁村を含む広域地域に罹災地が広がっているケースなどがある。例えば、地理的条件を列挙すると、都市型と村落型や僻地型、広域型と局所型、海岸地域型と山村地域型や山岳地域型等がある。それらの質的要素の存在比率の変化によって、多様な組み合わせが生まれ、それがそれぞれの震災の地理的条件の多様性を生み出しているのである。

気象的条件とは、基本的には気象を構成する基本要素である雨量、日照時間、気温、湿度によって決定されている。それらの組み合わせによって、季節的条件、気候的条件が生み出されるが、そればかりではない。風力や風向きなどがミクロ的要因として考えられる。そして、それらの要因が多様に組み合わされ、その要因の多様な量的変化によって多様な気象的条件が形成される。

生態環境的条件とは、上記の地理的条件と気象的条件によって形成された条件によって構成されている。例えば、南日本、西日本、東海、北陸、中部、南関東、北関東、東北太平洋岸、東北日本海岸等々と日本の地方を分類する特徴は、これらの地域固有の生態環境を構成している要素によって構築されている。それらの要素とは、例えば、海岸と内陸、緯度や経度、暖流と寒流、雨量、日照時間、気温、平地と山岳地、都市と農村等々である。さらに、それらの対立要因間の相対的比率によって、多様な生態環境条件が形成されることになる。

経済的条件とは、国民経済生産性や国内総生産(GDP)からや、世界経済の視点から先進国型、発展途上国型、貧困国型に分類することもできる。また、工業地帯型、商業地帯、サービス業地帯、農業地帯型、漁業地帯型のような産業構造からの分類も可能である。工業地帯型でも、重工業地帯から軽工業地帯まであり、さらに大企業地帯から中小企業地帯、ベンチャー産業から伝統産業地帯と、その姿は実に多様であると言える。同様のことは商業地帯、サービス業地帯、農業地帯型、漁業地帯型でもその産業規模やその他の要素、例えば伝統産業型やベンチャー産業型によって非常に多様な形態が存在する。また、産業構造からと国民経済生産性からの分類が組み合わさり、さらに新たな分類カテゴリーが形成される。例えば、農業地帯型でも国民経済生産性の高い地域もあれば、低い地域もある。

このように、上記したように震災パターンは、さらに多様な文化的条件、政治的条件、地域社会的条件や技術的条件等が考えられるのであるが、以上の条件を震災パターンの構成要素と考えるなら、それらの要素の組み合わせ(マトリックス)によって震災パターンの多様性が生み出されていると考えることが可能である。

震災パターンとは、「(幾つかの地理的条件・G=Σg(n)、幾つかの気象的条件・C=Σc(n)、幾つかの生態環境的条件・Ecol=ΣEcol(n)、幾つかの経済的条件・Econ=ΣEcon (n)、幾つかの文化的条件・Cul =ΣCul(n) 、幾つかの政治的条件・P=Σp(n)、幾つかの社会的条件・S=Σs(n)、幾つかの技術的条件・T=Σt(n))のマトリックス」構造である。

つまり、あるFの震災パターンとは、例えば、g(1) の地理的条件、c(4)の気象的条件の中から、Ecol(5)の生態環境的条件、Econ (8)の経済的条件、Cul(9)の文化的条件、p(o)の政治的条件、s(p)の社会的条件、t(l)の技術的条件というそれぞれの構成条件の中の一つの要素間の組み合わせによって構築されることになる。ある個別の震災パターンF(n)を以下の成立条件の要素の組み合わせとか関数的関係として表現できると思われる。

F(n)=(g(1),c(4),Ecol(5),Econ (8),Cul(9),p(o),s(p),t(l)) (1)

このモデルから明らかなように、個別的震災パターンも幾つかのその成立条件の組み合わせである。その意味で、震災(災害)パターンは多様であるが、そのパターンが無限にあるのではなく、非常に多くの可能なケースが考えられると言える。つまり、F(n)のパターン数はnの大きさによって決定されることになる。すべての震災パターンをF(太文字のF)とすれば、以下のように表現できるだろう。

F = ΣF(n) (2)


震災救助パターンに含まれる行動主体の内的要因の計量化

個々の震災パターンに対して救援活動が取り組まれることになる。現実の震災では、震災パターンを事前に分析し起こりうる可能な震災状況をシミレーションすることはない。ほとんど、震災が起こり、そこに発生している災害状況に応じて、可能な救援活動が取り組まれることになる。

前節で説明したように震災パターンは、地理的条件、気象的条件、生態環境的条件、経済的条件、文化的条件、政治的条件、地域社会的条件や技術的条件等々、言い換えると震災活動を行う主体の行動を決定づけている人間(活動主体)の持つ知識、能力、技能や方法等々、主体の行動力を決定している内的要因ではなく、むしろ、その活動主体を取り囲む環境的な要因(外的要因)である。

逆に、個別の震災パターンに対する震災救助パターンは、その活動を行う個人や集団のもつ知識、能力、技能、方法、スキル、経験に大きく依存しているのである。つまり、震災パターンが決まれば、そのパターンに即した震災対応が自動的に可能になる訳ではなく、上記した救助する人々の行動を決定している要素、行動主体を決定している要素(内的要因)を同時に組み込まなければならないのである。

震災救助活動を行う行動主体の要素(内的要因・A)とは、例えば、震災救助に関する知識(K)、その知識を生かす技能(スキル・S)、震災救助への情熱や意思(P)、モラル(M)、また震災救助を行う主体の精神的、肉体的健康状態(H)等も含まれる。つまり、それらの内的要因はこれまでの政策学では問われることがなかった要因であり、また正統派社会科学では問題として扱われることのなかった要因であると言える。言い方を変えると、この内的要因を持ち込むことで、「厳密な科学としての政策学」の成立が疑われる可能性すらある。

しかし、現実の震災救助活動の現場では、救助活動を担う人々の震災救助に関する知識、技能(スキル)、震災救助への意思、また震災救助を行う人々の健康状態が重要であることは言うまでもない。この現場の常識を以て、正統派社会学の「物質要素中心主義」を修正するならば、上記した内的要因を計量化する作業を行うことで、震災救助活動主体の多様な状況を想定することが出来る。

例えば、知識(K)、技能(S)、意思(P)、モラル(M)、健康状態(H)等の要因を計量化するために、それらの要因にレベル評価の程度を入れる。非常に良い「5」として、良い「4」、普通「3」、やや劣る「2」、非常に劣る「1」とすれば、質的変数を量的変数に変換することができる。この手法はすでに統計学で使われているので、決して目新しい方法ではない。

例えば、震災救助を行うある人の震災救助に関する知識は非常に良い状態K(5) 、技能(スキル)は良い状態S(4)、仕事への情熱も非常に高くP (5)、モラルも優れている状態M(4)、しかし健康状態が非常に悪い状態H (l) の場合、この救助活動の主体評価は、以下のように表現できる。

A(m)=(K(5),S(4),P (5),M(4),H (l)) (3)

このことは、震災救助主体のパターンも無限にあるのでなく、それぞれの要因の組み合わせによって多様に存在していることが理解できる。つまり、すべての震災救助主体のパターンをA(太文字のA)とすれば、Aは以下のように表現可能である。

A = ΣA(m) (4)


震災救助対策の分析とその改善

現実の震災時の社会的状況(Cs)は、個別の震災状況とそれに対する個別の救援活動状況によって構成されている。つまり、個別的震災パターンとそれに対する具体的な震災救助主体のパターンによって、現実の震災時の社会的状況が決定されていると言える。言い換えると、F(n)と A(m)の二つの要素によって、現実の震災時の社会的状況は構築されている。

上記した現実の震災時の社会的状況の概念を、前記した(1)と(3)の計量的概念を用いて、表現すると、以下のようになる。

Cs(p) = f(F(n), A(m))  (5)

すべての震災状況とは、この(5)式で示した、ある個別の個別的震災パターンとそれに対する具体的な震災救助主体のパターンとの関係によって生み出されたものである。現実の震災現象は、この(5)式で示したものとして現れる。

このことから、震災状況の現実がより被害の少ない状況になるように対策を考えることが課題となる。つまり、ある地域での過去の震災や災害の状況が教える課題は、その災害の個別的な特殊パターンのみでなく、災害時での救援活動の質に関する分析や解釈評価にある。災害時の救援活動の質をより詳しく分析し、その反省を次の災害に活かすことが、この分析の最終的目的であることは言うまでもない。


具体的な震災対策の検討課題、震災経験の蓄積と制度化、その評価

1995年1月17日に起こった阪神淡路大震災から今年で18年目を迎えた。この震災の教訓がその後の日本社会の震災対策に大きく影響を与えた。取り分け、ボランティア活動の意味を社会が理解し、その役割と社会的機能を震災や自然災害対策に活かす試みが行われてきた。阪神淡路大震災以来、震災のもみならず自然災害や事故、例を挙げると1997年に北陸福井の海岸で起きた重油タンカー「ナホトカ号」の事故でも原油による海岸汚染物質の除去作業に全国から多くのボランティアが集まった(1)。

今回の東日本大震災ではこれまで市民運動を経験したことのない人々が使命感に燃え積極的にネットワークを活用したボランティア活動を組織し、驚くべき力を発揮し全国的な支援活動を組織した(2)。西條剛央氏の組織した「ふんばろう日本支援プロジェクト」は行政の支援活動が行き届かない地域に必要な支援物資を送り、全国から参加してきたボランティアを必要に応じて手際よく罹災地に送り出した(3)。

阪神淡路大震災のボランティア活動の経験や教訓が他の災害に活用されたことは、そのボランティア活動(震災救済)が普遍的災害パターンとなったことを意味する。つまり、個別的震災パターンが異なる災害状況下で再現され活用され、ある一定の救援活動のプロトコールを作り出し、新たな個別的震災パターンの中で、発展的に展開し、その経験や教訓を蓄積し続けるのである。

災害はそれぞれの個別的な要因(個別的震災パターンと呼んだ)がある。したがって、それぞれの状況に対して災害救助活動は取り組まれている。しかも、これまでの災害救助活動の経験が、その取組に活かされる。また、それらの状況や経験を点検し、災害対策が制度化されることもある。

よりよい災害対策の事例として、個別の災害パターン(個別的震災パターン)をより分析的に理解する作業と、同時に災害救助活動の質、つまり震災救助主体のパターンの理解とその質的課題の解決を問題にすること、この二つの課題が同時に問題となる。

それぞれの地域によって予想される災害、震災のパターン分析をより具体的に行う必要がある。そのために、あらゆる調査施設、気象庁、国土庁、環境庁、市役所、通信会社のビックデータ、その他調査機関のデータ、大学研究機関、学会等々の情報の総合的分析や評価のシステムが必要となる。すでに、GPSのビックデータを基にした東日本大震災での避難行動に関する分析が行われている。

また、同時に、ボランティア活動の組織化やその運営、安否情報支援体制、救助情報の管理、避難所運営、救援物資の配給、生活情報支援等々、被災者支援活動の質を向上させるための研究、災害救助行動の分析と改善のための組織的な研究やその情報交換や政策展開が必要となるだろう。


引用、参考資料

(1) Wikipedia 「ナホトカ号重油流出事故」

(2) 西條剛央  『人を助けるすんごい仕組み――ボランティア経験のない僕が、日本最大級の支援組織をどうつくったのか』

(3) Wikipedia「西條剛央」より「西條は、『ふんばろう東日本支援プロジェクト』を設立、代表をつとめている。ふんばろう東日本支援プロジェクトは、構造構成主義が方法原理として採用されている。支援を行った避難所と個人宅避難所は延250箇所、物資の提供して頂いた方は、延2500人(団体や会社を含む)。冬物家電の提供では1万5千件に達している。」

(4) 三石博行 東日本大震災の分析と津波防波堤計画の合理的経済的な在り方とは http://mitsuishi.blogspot.jp/2013/05/blog-post_15.html


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関連ブログ文書集

三石博行 ブログ文書集「東日本大震災から復旧・復興、災害に強い社会建設を目指して」 http://mitsuishi.blogspot.jp/2011/03/blog-post_23.html


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