2018年3月20日火曜日

第二期を迎えた政治社会学会の研究課題とは何か


三石博行 (政治社会学会理事長 NPO太陽光発電所ネットワーク副代表)



1、第一期の学会活動とその課題(2010年から2017年まで)


1-121世紀社会・科学技術文明社会と地域国際化社会での学会活動を目指す

「政治社会学会は、政治学、経済学、法律学、社会学などの個別科学を超え、自然科学的知見を取り上げ、現状分析に基づくプログラム設計を中心とした問題解決型の新学会を目指し201011月に発足」した。(政治社会学会HPより)

そして、学会は「現社会が抱える様々な問題解決のためには、異分野、異業種の有識者との活発な対話」、共同研究会等々を行ってきました。そのため、この学会では多様な視点から「問題意識を共有した研究者、産業界、行政等の関係者が多数参加」している。

また、この学会では学会員の各地域や各職場での日常的な研究活動を土台とし学会運営を展開するために、学会全体の研究大会のほか、「関東支部(関東政治社会学会)、関西支部(関西政治社会学会)、九州支部(九州政治社会学会)が独自に研究会を企画し年間を通じて活発な研究活動を行っている。

更に、2010年から韓国政治学会やソウル国立大学アジアセンターとの「日韓ジョイントコンファレンス」を日韓相互で研究会場を設けながら行い続けている。現在、日本の人文社会系の学術団体の中で、日韓相互の研究会を続けている学会は23しかなく、政治社会学会のその中で、極めて活発な交流活動を行って来た。

1-2、第一期学会活動の実績

21世紀社会・科学技術文明社会と地域国際化社会での学術活動を目指すことが政治社会学会の第一期活動を特徴付けている。この第一期の活動の主な3課題、政策基礎理論の構築、実践的な政策学研究を通じた実証研究、研究会様式の変革に関する課題について具体的に述べる。

A、総合的政策学基礎理論の構築

21世紀の社会(高度科学技術文明社会)での政策企画や実践の場では、文系と理系の知識の隔たりはなくすべての状況合理性を持つ知識が総合的に、その社会や時代の現実により適用する形で性で発揮される。その社会状況は時代的背景を前提にし、そこで生じている問題を絶対的ではなく、より状況合理的に解決するのが政策的な問題解決力である。

政策的な対応(問題解決)には多様な方法選択、政策集団の構成、政策企画、検討、手段、それらの過程選択がある。それらの選択で問われるのは、その選択の状況合理性のみである。それだけに、政策学の課題は知識や理論の合理性だけでなく、その総合的現実性とそれを総合的に点検評価する政策集団の力量と能力である。その力量とは、それを構成している政策集団の人材のみでなく、それらの多様な専門的知識と技能を持つ人材とそれらの機能を総合的に協働化し、かつ相互点検化できるシステムである。そのシステム形成こそ、総合的政策学の課題でもあると言える。

高度に専門化し分業化した科学技術文明社会での政策学は、政策立案と実践に必要な専門知識を幅広く集め、より合理的(経済的・効率的)にそれらの知識の協働関係、相互依存関係、相互点検関係を創り出すことである。このことを、ここでは状況合理性と呼んでいる。状況合理性とは、完全で絶対的な解を求めるのでなく、その政策対象と政策主体を構成している経済、政治体制、社会、文化、伝統、風土、人々、生活、時代性等々の総合的な視点を入れた解である。従って、その解は多様な政策対象と多様な政策主体によって無数に存在しているとも言えるのである。

そこで、本来無数に存在している状況合理的な政策企画や政策実践には、これまでの科学的合理性は通用しないと言えるし、これまでの経済学理論や社会学理論はそのまま通用しないとも言われることになる。総合的政策学が求めている科学性(科学合理性)はこれまで経済学理論を背景にしていた経済政策学、社会経済学理論を背景にしていた社会政策学等々の伝統的政策学とは異なる政策理論が必要となることは言うまでもない。

21世紀社会・科学技術文明社会での政治社会学の確立の課題にした本学会は、上記した総合政策学が抱える科学合理性の課題をいち早く取り組み、故吉田民人東京大学名誉教授が展開した総合情報学及び人文社会学系のための科学哲学・プログラム科学論と設計科学論を文理融合型・総合的政策学の科学的方法論として、荒木義修(武蔵野大学客員教授、本学会前会長、初代理事長)は提案した。

この提案、総合的政策学の科学理論としてのプログラム科学論と設計科学論は、当然、故吉田民人東京大学名誉教授が確立した理論ではない。故吉田民人のプログラム科学論と設計科学論は、その理論の学問的背景、「自己組織系の情報科学」によって先行研究され、導き出された科学的命題を基にして、これまで人間社会科学の概念として語られた、構造や機能の概念(マクロ概念)をプログラムというミクロ概念に置き換えることによって、人間の観念性(内的世界)と社会機能・構造性(外的世界)を統一的に表現する手段を見つけ出そうとしたのである。

しかし、この吉田プログラム概念とその学問的展開であるプログラム科学論の有効性は実証されてはいない。それを実証するための理論がプログラムによって構築されている世界、人間社会・文化生態界の構築の解明とその再構築・改革可能性の解明、つまり政策学の課題であった。言い換えると、総合的政策学は必然的に多様なプログラムを駆使した設計図の提案とその検証作業を意味する。その意味で、総合的政策学は社会文化のプログラム構造の理解とそのプログラム機能性や合理性の改革や変容による総合的人文社会プログラムの設計学であると言い換えることが出来るのである。

吉田民人はプログラム設計科学の科学性を「新プラグマティズムの構築」と考えた。このプラグマティズムこそ、ここで言う状況合理性なのであり、学総合的政策学の科学性を意味する。しかし、吉田民人の提案したプログラム科学論や設計科学論を土台とする総合政策学は成立しているとは言えない。この理論は問題解決を主題に置いた実践的な人間社会科学の基礎論(科学哲学)として提案されたものである。この吉田理論は構造主義や機能主義が述べた人間社会文化を構成している構造要素や機能要素をプログラム言い換えたに過ぎないと評価されている。つまり、総合的政策学の基礎理論として根拠としているプログラム科学論や設計科学論の現実であると言える。

とは言え、私達は高度科学技術文明社会の制度、建設、制御の課題として明らかに総合的政策学研究の一課題として、状況合理性・プラグマティズム科学哲学を基礎とする状況現実的で実践的な政策学の形成発展のため理論的な研究を進めなければならないのである。つまり、これまで本学会が伝統的政策学の変革を目指し、文理融合総合的視点に立つ設計科学としての政策学やその基礎理論(プログラム科学論)の研究を具体的な政策実践の中で、同時に研究する必要があることを意味するのである。

B、政策学研究を通じての実証研究

文理融合総合的視点に立つ政策学(設計科学としての政策学)や基礎理論(プログラム科学論)の研究を従来の科学哲学上の議論とするのでなく、具体的な政策問題の実践的解決をそれらの理論の実証点検作業と位置付けながら行う立場が本学会の課題であった。その視点から、以下、政治社会学会活動第一期を特徴付ける実践的な政策学研究を通じた実証研究課題を以下に列挙する。

☆ 文理融合型総合的政策学の諸課題、例えば食と農業、環境と自然エネルギー、地域活性化を目指す総合的政策とその政策主体の形成、地域貢献を目指す大学教育体制・PBL教育や総合政策学教育、選挙行為に関する社会調査と若者の選挙動向の研究、を挙げることができる。

☆ 政治社会学会を精力的に行った日韓ジョイントコンファレンスは、東アジアの平和的共存のための地域国際化社会の構築のための学術文化的土壌形成の一粒になると信じる。本学会では、地域国際化社会の形成とは、ローカリゼーションとグローバリゼーションが車の両輪として機能し、多様な地域経済社会の発展とそれらの交流によってこそ地域国際化社会化は進展すると考えて来た。その先端的社会実験を行っているEUの課題を取り上げて来た。取り分け、地域産業に直接影響するFPPに関する他の学会との合同研究会、イギリスのEU離脱問題に関して他の学会から専門家を呼んで研究会を開催した。

☆ 政治社会学会が設立した201011月から4か月後に起こった東日本大震災に対し、本学会は人文社会学系の学術団体が連携し、未曽有の大災害に立ち向かう日本社会を支援する「学会連携・震災対応プロジェクト」を呼びかけた。このプロジェクトによって多くの共同研究会や学術協働作業が試みられた。また、その延長上に、その後の自然災害への対応、原発事故に対する社会経済学の視点からの研究活動も試みられ、熊本地震での住宅用太陽光パネルの被害調査を行ったNPOとの共同作業も行われた。

☆ また、会員から限界集落問題、地域活性化政策、少子高齢化対策、地球温暖化問題、地球規模の環境破壊問題、旧ソビエト連邦カザフスタンでの核実験による健康被害調査、市民発電所建設運動、太陽光発電所の震災被害調査、科学技術政策、考える人材育成を目指す大学教育と地域社会連携等々の幅広い課題に関する研究報告もあった。これらの課題は、すべて科学技術文明社会の一面から生じたものであり、その解決も総合的(文理融合的、地域国際的、行政市民協働的)な政策形成が求められていた。

C、研究会様式の変革(参加型研究会様式の確立)

本学会はでは、これまでの学術団体の学会活動のスタイルの改革を試みて来た。まず、政治社会学会では研究会を講演会形式から参加型形式に変革してきた。その代表的な方法が荒木義修武蔵野大学客員教授(本学会前会長、初代理事長)が第4回研究大会から導入した「グループデスカッション方式」による分科会であった。この方式の導入の目的は、参加したメンバーを研究発表を聴く人から研究発表を評価し自分の考えを述べる人への変革と参加した若手研究者に出来るだけ多くの発言の場を与え、本学会を担う主体になって貰うことであった。

1-3、第一期研究会活動の課題

上記した第一期と分類された学会活動の中から以下4点にわたる課題を述べる。

A、基礎理論と実践的研究活動の相互点検関する課題

文理融合総合的視点に立つ政策学の基礎理論として故吉田民人氏のプログラム科学論や設計科学論を具体的な政策学に援用する目的は、最も現実的かつ有効な政策企画や政策実践が可能になることである。政治社会学研究者にとってプログラム科学論等の基礎理論に関する哲学議論には興味がないのである。基礎的な研究と実践的研究が相互に成立するための研究スタイル(共同研究方法)や議論の仕方についてこの後さらに検討する必要がある。

B、他の分野の専門家との協働研究の在り方に関する課題

多岐にわたる分野に関して政治社会学会はそれらの政治社会学的課題の抽出とその問題解決、政策学的展開の可能性を議論している。そこでは、政治社会学会のその問題に対する立ち位置をそれぞれの問題に関して専門的に研究する学術団体や研究会の専門家とよく共有しておかなければならない。その意味で、政治社会学会の会員にとって本研究会活動がその後の政策研究に繋がるように研究会活動の在り方を検討する必要がある。

C、研究活動の情報公開や情報発信力に関する課題

研究大会や支部研究会での素晴らしい研究発表が行われているが研究会への参加人数が非常に少ない場合がある。学会として参加者を増やす努力のみでなく、研究発表を公開する情報発信力を付ける必要がある。

D、研究会様式の改善

政治社会学会は、その発足から新しい学会活動を目指していた。その一つが上記した参加型研究会様式の確立であった。すべての本学会研究会活動が参加型研究会様式に改善されてはいない。この様式を色々な状況で行われる研究大会、支部研究会や講演会等々の学会活動の中に確りと定着させ、政治社会学会活動の基本、学会文化としなければならないだろう。


2、第二期の学会活動の様相と課題(2017年から現在)


2-1、第二期とは何か

政治社会学会の第一期の学会活動は、これまでの学術団体の型を破り新たな21世紀型の学会活動の在り方を模索し、そしてそれらなりに学会活動の在り方やそのスタイルを変化させ、本学会を進化展開させてきた。その意味で、この学会活動自体が一つの社会実験であるとも言えるだろう。

この学会の視点やその在り方もある荒木義修武蔵野大学客員教授(本学会前会長、初代理事長)を中心とする本学会の創設者たちの素晴らしい未来への直感と実行力によるものである。そして、その直感と感性をさらに載り越えながら、私達は21世紀型の政治社会学会を構築するための闘いを続けなければならないのである。それが第二期をむかえる本学会の課題であると言えるだろう。

第二期の課題はこの後の課題である。つまり、未来の課題である以上、ここで何が第二期の課題であると断言することは出来ない。第二期の課題とは第一期から引き継がれて来た課題とその課題から展開されたものである。そのため、現時点ではこれから展開する第二期の課題を俯瞰的に述べることは出来ない。

2-2、参画型研究活動の展開

政治社会学会は上記した第一期から、地域社会の活性化、持続可能な循環型社会構築、地域国際社会との平和的共存のための総合政策課題をテーマにした第二期に入ろうとしている。その第2期の基本的課題は上記した第一期の課題の延長線上にある。それらの課題の中から、今回は社会システムや社会文化資源の在り方の一つに参画型社会文化を構築するための政策課題について述べる。

上記した第一期研究会活動の課題の中の「他の分野の専門家との協働研究の在り方に関する課題」と「研究会様式の改善」に共通するキーワードは「主体性」、「参画型」、「協働型」である。本学会会員がより積極的に参加できる学会活動の在り方を模索することである。言い換えると、会員のための会員による学会活動の構築である。この課題を前提にしながら第二期の本学会の研究活動は学会員の具体的な研究課題として展開することになるだろう。

まず、そのためには学会活動を担う執行部・理事会のメンバーチェンジを大胆に行わなければならない。研究職の身分に拘らす若手の研究者が理事会に参加できるようにしなければならないだろう。更に、本学会の伝統である委員会活動、支部活動、専門部会が自主的に活動できる意思決定機能を磨き上げる必要があるだろう。

2-3、これまでの研究会活動の中で問われた課題 

21世紀社会が、20世紀型資源エネルギー・化石燃料時代の終焉への進行によって始まること、そのことによる国民社会、地域国際社会の安全保障の再検討、民主主義社会制度の維持が問われてることになる。そして、それらの具体的課題とは、第一期研究会活動で取り上げられてきた課題の延長上にあることは言うまでもない。また、それらの具体的な課題とは、第一期の課題をより深化させることによって展開することになる。

以下、それらの課題を大きく五つのテーマに分類した。

一つは、地域国際社会との平和的共存のための総合政策課題 は日韓政治社会学会のジョイントカンファレンスを展開している荒木義修武蔵野大学客員教授(本学会前会長、初代理事長)を中心とする国際交流委員会や新しく世界の日本学研究センターとの連携を目指す原田博夫専修大学教授(本学会会長)の研究活動によって展開している。

二つ目は、原田教授(本学会会長)を中心とする関東政治社会学会が連続して取り組んできました「持続可能な自然エネルギー社会の構築のための政治社会学研究」である。昨年も城南信用金庫の吉原氏の講演会、今年もJAICAEU、取り分けデンマークでの取り組みに関する研究報告がなされている。

三つ目のテーマは、今回の 「21世紀社会の中で問われる参画型社会」のテーマである。このテーマを2018年からの関西政治社会学会の基本テーマに位置づけ、政府機関、市民団体、NPO、行政、学生組織、大学、地域大学連携、企業、地域行政連携等々に呼びかけながら幅広いテーマで研究交流・人材交流を行う企画が新川達郎同志社大学教授(本学会前理事長)によって立てられ、展開されてきた。また、荒木先生は政治社会学会とは別にご自分が運営されています研究所でこの課題に類似した研究会を開催している。

これら上記した三つのテーマは、基本的には一つの大きな視点、つまりこの学会設立の基調となった「21世紀社会の政治社会学理論・設計科学としての政策学を目指す」テーマを土台にして成立している。その意味で、上記三つのテーマは第一期のプログラム科学論と設計科学論を土台とする政策基礎理論を具体的な政策実践によって実証する研究として再度位置づけられている。この実証研究を第二期の政治社会学会の研究活動の中で問われる四つ目のテーマとして位置付けることができる。

最後に、政治社会学会の在り方、参加型研究会様式、協働型研究活動様式、教育機能を持つ学会活動、社会貢献を重視した学会活動、地域国際共同研究の推進等が、前期の課題を引き継ぎ、さらに第二期で展開発展する21世紀型学会活動の形成のテーマ、五つ目のテーマとなる。

これらの五つの課題を前提にしながら、今後、政治社会学会は、果敢に21世紀の日本社会文化の形成、さらには東アジアの平和的共存、そして世界レベルでの科学技術文明社会での人文社会学の構築、その最先端科学技術としての総合的政策学の構築に向けて努力し続ける必要である。




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