2020年7月1日水曜日

パンデミック対策にむけて(a)

ハイブリッド型災害としてのパンデミックとその対策(1)

21世紀型の災害、パンデミックの構造

三石博行

1、災害の三つの形態:自然要因、人工要因と自然・人工要因

災害は、その原因や災害要因によって大きく二つのパターンに分類することができる。一つは自然現象によって引き起こされる災害パターンである。これを自然災害と呼んでいる。もう一つは人間が作り出した人工物によって引き起こされる災害パターンである。これを人工災害と呼ぶことにする。また、この二つの要因を同時に持つ災害パターンがある。これを、ここでは自然要因と人工要因のハイブリッド型災害と呼ぶことにする。しかし、現実の災害は、純粋に自然災害や人工災害に分類されるより、自然災害であったとしても人工的要素を含むものが多い。 

1-1、自然現象による災害、自然災害

地球の自然環境とは、地球の大気、海洋の運動、気象現象や地球のマントルや地殻、そしてプレート等の運動、火山活動、地球を取り巻く太陽系の運動、さらには太陽系や太陽系外の小惑星の運動等々によって地球環境が受けきたあらゆる自然現象を意味する。これらの自然現象の中に、自然災害と呼ばれる自然現象が含まれる。自然環境による人間社会への破壊的影響を自然災害と呼んでいる。
人々が自然現象に支配され、その自然の成り行きをそのまま生産や社会文化活動に活用する近代以前の社会では、自然災害は絶対的な自然の姿の一つとして受け止められてきた。しかし、人類が自然現象を支配する法則を理解し、それらの法則を活用するようになることで、自然現象としての自然災害も、その原因を科学的に理解することができた。
自然災害の原因を解明することで、災害の根本原因を防ぐことはできないのだが、それによって被害を受ける建造物等の人工物の災害防止策を検討し改良することが出来た。

1-2、人工物による社会や人への災害、人工災害

人間活動の結果引き起こされる災害を人工災害と呼んでいる。例えば、食料生産や消費活動に付随する食品被害、移動の手段の開発、発展してきた交通手段、自動車や道路等によって生じる交通事故や交通災害、生産活動、技術の開発や発展の中で生じる労働災害や職業病、住環境の改善、建築技術、生活環境の改善によって生じる火災等、劣悪な都市衛生環境等々が例に挙げられる。また、社会経済活動を支える巨大なエネルギー生産、電力産業によって引き起こされる環境破壊、原発事故、そして、国家防衛のための最新兵器開発や大量殺人兵器・原子爆弾等による被害、戦争災害も人工物による社会や人への被害、人工災害の一つであると言えるだろう。
人工災害は、生産活動の巨大化によってその規模を拡大してきた。18世紀から19世紀に掛けて欧米社会でおこった産業革命、20世紀の重化学工業化、巨大工業地帯や巨大都市の形成によって、自然生態系の破壊、大気汚染、ヒートアイランド現象等々、環境汚染が深刻化した。また、人工物による環境汚染(公害)は、工業化の進む発展途上国でも現在深刻な問題となっている。

1-3、自然現象と社会的要因による災害、ハイブリッド型災害

近年の災害の殆どが自然・人工災害、つまりハイブリッド型に分類される。例えば、大雨が洪水という災害を引き起こすが、同時に、荒れ果てた人工林の森から伐採し放置された木材が増水した河川を流れ出て、下流域の人家を破壊する洪水と廃棄木材によるハイブリッド型の水害が起こっている。
近年、このハイブリッド型の災害の事例として、人々の生活や産業活動によって排出される化学物質、例えばフッ素化合物によるオゾン層の破壊、また地球温暖化ガス(二酸化炭素やメタンガス)による地球温暖化、そしてその温暖化による異常気象、巨大台風や大雨、異常乾燥とそれによる森林火災、また海面上昇による高波や田畑の海面への沈没被害等々が報告されている。
ハイブリッド型災害に関して、以下三つの課題、多様な災害形態、総合型災害学、国際協力による解決が挙げられる。
1、ハイブリッド型災害は、21世紀社会、科学技術文明社会化、情報社会化、国際経済化、巨大都市化の形成と共に、広範で多様な形態を取りながら発生し続ける。人類がこれまでに経験したことのない未来社会の災害のパターンである。しかも、世界では多様な産業化、工業社会化があるため、この種の災害もそれぞれの国によって異なる特徴を持つ。それらの共通する形態や多様な形態を同時に理解する必要がある。
2、これまでの甚大な災害は自然災害(大雨、洪水、地震、火山活動、台風等々)であると考えられた。従って、災害学のテーマは自然災害の研究が中心であった。しかし、この後、全世界に被害を与える地球温暖化等ハイブリッド型災害が課題となる。その対策は災害原因である自然的要素や人工的要素の分析やそれに対する文理融合型の対策が求められる。つまり、この災害科学は総合型災害学を必要としている。
3、ハイブリッド型の災害、例えば地球温暖化やパンデミックの特徴は被害の範囲が国を超え、世界の至る所で起こることである。ある特定の地域で発生した温暖化ガスは簡単に国境を越え世界に広がる。また、病原体も社会経済の国際化による人々の国際的な移動によっての世界に広がる。そのため、この災害の解決方法は国際協調によって行わなければならない。一国内で温暖化ガスを削減したとしても地球温暖化を防ぐことは出来ない。同様に、一国内で感染病の流行を抑えたとしても、国際化社会では感染は他の国々から常時侵入し続ける。自然災害では災害国内で対策が取られていたが、ハイブリッド型災害、パンデミックでは一国内での災害対策は通用しなくなる。国際協働機関と歩調を合わせながら、国際協力の基にした一国の災害対策が求められる。パイブリッド型災害の解決方法として、国際機関(WHO等)の形成と改善、感染症の調査研究、ワクチン、治療薬開発の世界的連携が求められる。


目次、『ハイブリッド型災害としてのパンデミックとその対策 -21世紀型の災害、パンデミックの構造-』

1章、災害の三つの形態:自然要因、人工要因と自然・人工要因

1-1、自然現象による災害、自然災害
1-2、人工物による社会や人への災害、人工災害
1-3、自然現象と社会的要因による災害、ハイブリッド型災害


2章、ハイブリッド型災害としてのパンデミック

2-1、病原菌による疾病(自然的要素)
2-2、疾病大流行の社会経済的被害(社会経済的要素)
2-3、ハイブリッド型災害としてのパンデミックへの三つの課題と解決のための対策


3章、災害学的視点からのパンデミックへの対策 

3-1、二つの災害形態:安全管理可能な疾病災害と安全管理不可能な疾病災害

3-2、予防策のない新型感染症対策期間:第一期

A、最も重要かつ最優先の課題(国、大学、企業が担う防疫政策)
A1、病原体の遺伝子、感染媒体、感染症の病理的特徴に関する情報
A2、ワクチン・治療薬の開発
A3、検査キッドと検査体制の確立
A4、予測される危機的状況に対する公衆衛生・医療体制の確立

B、科学的でより現実的な対策(健康保険行政と医療行政)
B1、感染拡大を防ぐ人と人との空間的隔離(ソーシャルディスタンス)の設定 
B2、検査体制確立、経済的な感染者隔離
B3、既存治療薬の援用 

C、合理的、経済的な政策(政府)
C1、既存の体制の敏速な援用と最適な体制のための改革: 
C2、人命や生活被害と社会や経済被害の双方を最小限に食い止める政治的判断:
C3、国民と国家の負担を最小限に食い止めるための経済政策:
C4 、感染症拡大と格差社会
C5 、総合的にパンデミック対策を担う政府機関と地方自治体の体制



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