1、 倫理、道徳、規範の意味
▽ 広辞苑によると倫理は「人倫(じんりん)のみち、実際道徳の規範となる原理、道徳」と書いてある。人倫とは孟子のことばで、人と人との秩序関係、例えば親子、夫婦、上司と部下などの社会で成立している人間関係の秩序を意味する。それが転じて、人として守るべき道や行為と解釈されている。その他にも、人倫は人間や人類という意味にも使われている。
▽ この広辞苑の説明では、倫理と道徳や規範ということばが重なりあう。
▽ 例えば、道徳とは「人のふみ行うべき道」、社会の構成員がその社会にたいする行為の、あるいは構成員相互間の行為の、「善悪を判断する基準として、一般に承認されている規範の総体」、しかし「法律のような外面的強制力を伴うのでなく」、あくまでも「個人の内面的な原理」を意味すると広辞苑では説明されている。
▽ また、規範については、(人の道や社会に)「のっとるべき規則、判断・評価または行為などの拠るべき基準」と広辞苑では説明されている。
▽ 倫理、道徳と規範の意味をまとめると、人の道としての倫理と道徳は非常に近い。つまり、倫理は人と人との秩序関係である人倫のみちと説明されている。そして、道徳は社会的に成立している善悪の判断に関する内面的な原理や基準と説明されている。その意味で、倫理も道徳も同義語(同じ意味のことば)である。
▽ 規範は、判断評価や行為の基準であるから、道徳的規範や倫理的規範という概念が使われている。道徳や倫理的規範は、成文化されていない、つまり法律の条文に記されていないが、社会の構成員全員が守るべき行動の指針を意味する。従って、道徳的規範や倫理的規範は法的規範とは異なる。あくまでも主体の内面的なこころの課題としての規範であり、社会的に強制された義務を負っていない。私達が、仮に道徳的規範や倫理的規範を守らないとしても、だからと言って、社会から法律によって(司法的の手続きをもって)罰されることはない。ただ、社会から批判され、人々から嫌われるかもしれない。
▽ 倫理や道徳の用語のかすかな違いを述べると、まず文献によって、倫理と道徳の微妙な解釈が異なる。ある文献では、倫理は個人としての人の道であり、個人の内面的な課題を重視している。それに比べて道徳は時代性や社会文化性によって多様な形態があり、その意味で、社会的に関連した行為者の個人的義務を意味すると述べている。別の文献では、上記した逆が述べられている。
▽ ここでは、倫理も道徳も、社会的な規範ではなく、つまり法的な強制力をもって個人への義務ではなく、個人が内的に(こころの問題として)自分の行う行為や生活スタイルについて、それらが「人のふみ行うべき道」や「人倫の道」であるのか、そうではないのかを自分の問題として捉える(考える)行為であると理解できる。
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