2010年9月1日水曜日

吉田民人論文 『俯瞰型研究の対象と方法: 「大文字の第二次科学革命」の立場か』に関する評価

三石博行


吉田民人の第三期研究課題

戦後日本の社会学(理論社会学)をリードしてきた吉田民人(1931-2009)の研究は、大きく三つの段階に分けられる。

行為主体の社会人間学的構造と機能に関する研究した1950年代から1970年までの第一期。この第一期で、吉田は社会・生活空間の構造-機能分析の基本要因である行為主体の資源・情報形態を当時の社会学の主流であるパーソンズの主知主義的システム論から欲慟や欲望によって動く人間社会空間論へと展開する。しかし、この吉田のポスト構造主義に近い斬新的挑戦は、1950年代日本の社会学界では、理解されなかった。

フロイト、論理実証主義や分析哲学に影響されていた吉田民人が次に展開した研究は情報論であった。言語を中心とする社会情報から生物の遺伝情報までを一つの情報形態に括り、広義の情報概念の中に社会情報を位置づけることで、社会学と生物学を自己組織性の汎情報科学の特殊形態として位置づけた。1970年から1990年までの時期に行われる研究が「自己組織性の情報科学」に結晶化する。この時期を吉田民人の研究の第二期と考えた。

自己組織性の資源・情報の構造-機能形態に関する科学「自己組織性の情報科学」の中から必然的に生命、人間社会現象の構築要素としての「情報」に関する一般理論に関する考察が展開されることになる。つまり、自己組織性の情報・資源のミクロ構造-機能要素をプログラムと呼ぶことによって、吉田の自己組織性の情報科学理論は更に展開されることになる。これが、1990年代から2009年までの吉田の第三期の研究である。


第三期研究で問われる「自己組織性の構築主義と設計科学論の形成」

吉田民人は、我々に大きな宿題を残して2009年に去った。つまり、生物から人工物を一つの科学領域として理解するシステム科学論、そのシステムの構造機能分析を課題にしたプログラム科学論、そしてすべてのプログラム要素によって構築される設計科学論である。自己組織性の設計科学への吉田民人の最後の闘いは中途にして終わる。そして、我々、人間社会学研究者に対して、進化論的存在論からなる自己組織性の構築主義と設計科学論の研究への方向を示して去っていた。



論文「俯瞰型研究の対象と方法:大文字の第二次科学革命」の意味

論文「俯瞰型研究の対象と方法:大文字の第二次科学革命」の立場から」は、吉田民人がすでに第三期の研究課題を展開してきた理論「プログラム科学論」や「システム科学論」を、すでに工学分野で「一般設計学」や「人工物工学」を提案していた吉川弘之の研究課題に即して、説明したものである。その意味で、現実の工学研究分野との共通項を述べた吉田民人の具体的な説明の入った分かりやすい論文である。

社会経済的ニーズをもって発展する工学分野では、既成の専門分野内の研究から学際的、融合型と呼ばれる他の専門分野との共同研究が一般化している。それらの研究によって、新しい科学の分野が次々に生れ、新しい技術が開発されてきた。この増殖型の融合型研究の流れは、工学分野に先駆的に生じた科学技術文明社会の知識行為現象であるといえる。

工学分野から提起された人工物工学は、吉田民人が第二期に展開した自己組織性の情報科学から第三期に提案するプログラム科学論によって説明される。また、その人工物工学の研究は、必然的に多階層・異分野のプログラム要素群に関する分析、そしてそれらのプログラムの機能分析を前提とする俯瞰型研究スタイルを取ことになる。さらに、吉川弘之の提起した人工物工学は、吉田民人のプログラム科学論によってその科学性や科学認識論的な説明可能となるのである。

科学的ディシプリンの領域を融合しながら展開される人工物工学は、吉田民人が提案したプログラムからなる自己組織性の設計科学論の特殊形態である。その科学論の形成は、「自己組織性の情報科学」の中で示された情報概念に根拠を持っている。

吉田は,新たな科学史の解釈を前提しながらその自己組織性の情報概念に関して言及する。つまり、ニュートン力学の成立「大文字の科学革命」と位置づけ、さらにワトソンクリックによる分子生物学での遺伝情報概念の成立を新しい科学パラダイム変換「大文字の第二次科学革命」として語った。

この科学パラダイムの変換を語ることで、情報と資源の進化的存在形態を前提にしながら、生命から人間社会科学に於ける統一的情報概念によって形成される情報科学とその情報要素のプログラムに言及することになる。

自己組織性の情報世界の解釈、情報概念の科学史的成立、情報要素によって構成する世界の構造機能分析学・プログラム科学論の成立、プログラム要素によって構築している自然や人工物世界の構造-機能解釈学・設計科学と吉田民人は、この論文に彼が1990年代から展開したすべての人間社会基礎論(理論社会学)と科学哲学(プログラム科学論や「大文字の第二次科学革命」)を総括して述べたのである。

この論文は、第三期の吉田民人の研究を総じて展開し、それらの研究が、現行する人工物設計科学として新しい様相をもって展開している工学分野の研究に、自らのこれまでの理論社会学の研究を関連づけようとしたものである。

その意味で、第三期の吉田民人研究の入り口とそしてまとめにこの論文の位置が与えられるだろう。


近日記載廃止

この文書は「千里金蘭大学研究誌」に記載されることになりましたので、記載の廃止を致します。

2012年3月10日






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