軍事衝突を回避するための外交政策を展開するために
三石博行
資源問題を解決する二つの国際政治路線、領有権をめぐる戦争かそれとも資源共同体の形成か
これまでの日本の対中外交と中国の対日外交の単純な延長線上に登場するのは「避けられない軍事衝突」である。そのことを前提にした政治的発言が自民党の幹部から行われている。そのための準備を放棄しろと言うのは間違いであるが、同時に、そのことを前提にした防衛政策を中心にすることも、同じように間違いである。
何故なら、政治家である以上、国民の命と平和な生活環境を守ることがその使命の第一の課題である。そのために領土問題がある。尖閣諸島や竹島(独島)に日本人が居住している状態で起こる領有権問題ではない。もし人の生活がある島で領有権問題が生じているなら、そこに住む人々の生活を守るために外国の侵略を防ぐこと国家として当然の行為である。しかし、無人島をめぐる領有権問題で人の住む地帯を戦禍の危機に陥れることが正しい政治であると言えるのかと疑うべきではないだろうか。とすれば、国民の住んでいる領土で起こっている領有権問題ではないこの領有権問題の解決に軍事的衝突を前提とした解決を持ち込むことをもう一度冷静に点検する必要がある。
尖閣諸島の近海は海底ガス田地帯があると言われて以上、この問題の本質は一般的な領土問題では語れない。この問題は海洋資源をめぐる領有権をめぐるものである。ここで言う海洋資源とは、漁業資源だけでなく海底資源も含まれることは言うまでもない。
この領有権問題の背景には資源問題がある。何故なら莫大なエネルギー消費を前提にして成立している経済産業活動、その活動に支えられている現代社会に取って資源枯渇問題とはそのまま社会経済システムの危機を意味する。資源を確保するために危険な原子力エネルギーを使わなければならないし、また高コストの地下資源(シェールガスやオイルサンド)を開発しなければならないのである。
前世期に起こった二つの世界大戦は資源領有権をめぐる戦争であった。そのため、戦後ヨーロッパで取り組まれた和平政策として、1951年にフランス,西ドイツ,イタリア,オランダ,ベルギー,ルクセンブルクの6ヵ国の間で成立し1952年に発足した「ヨーロッパ石炭鉄鋼共同体・ECSC(European Coal and Steel Community)」である。独仏間で繰り広げられた戦争、石炭や鉄鋼石の産地ルザスローレヌ地方の領有をめぐる紛争を根本的に終わらせるためにヨーロッパ石炭鉄鋼共同体を発足させた。つまり、この共同体の目的は欧州での資源争奪戦争の終結にある。
つまり、資源問題を前提にした国際紛争は「戦争によって解決するか」それとも「資源共同体の構築によって解決するか」の二つの外交路線が歴史的に存在し、今後も、その二つに一つを選択する以外に道はないと思われる。現在の日本と中国の政権は明らかに戦争によってこの問題の解決を行う方向に進もうとしている。
日本を中国化させてはならない
日中韓がそれぞれ領有権を主張している地帯に一体どれだけの海底資源が存在しているのだろうか。それらは採掘可能か。これの資源の開発と活用に必要なコストを冷静に計量する必要がある。
言い換えると、戦争(防衛軍事費や戦争被害)による支出と海底資源から得られる収入の収支計算を行う必要がある。もし、資源獲得による収入が戦争に費やす経費より巨大であると理解される場合には、戦争を行うことも政治の選択肢であると言える。しかし、現実は日中間でおこる戦争による被害、直接戦争に費やされた費用(戦死者補償費を含め戦争被害の経費)のみでなくその後日中間での経済的関係の破綻による被害を含める被害金額が、領有権をめぐる地帯の資源から得られる利益金額よりも微々たるものであると言えるかどうかを検討しなければならない。
しかし、現在の政府の立場は客観的なコスト計算ではなく、「国土を守る」ということが大前提となっている。当然のように「国家の使命として国土を守ること」が語られている。そして、国民の住んでいない国土を守ることによって国民が戦禍を被ることは止むなしと考える風潮が生み出されているのではないだろうか。
この風潮は、国家の屈辱を晴らすために国民は命を捨てることが美徳とされている「忠臣蔵神話」を思い起こすのである。死をもって主君の恨みを晴らことを美化してきた文化を理解する必要はないだろうか。例えば、「忠臣蔵」、「白虎隊」、そして「特攻隊」が常に小説、演劇、ドラマとなり庶民の中で語り継がれてきた我が国の美しき「忠義と死」の文化を冷たく理解しなければならない。その延長線上に「領有権を侵害された日本国家のために死をもって戦うこと」が美化されないかと私は危惧するのである。
国民主権国家、つまり民主主義国日本の政治の基本とは「国民による国民のための国民の政治」を実現するための政治思想であることは言うまでもない。そのために、「国民は国家に奉仕すべきである」という時代錯誤の考え方を正さなければならない。いつの間にか民主主義文化を「美しき忠義の精神文化」が食いつぶし、国家のための国民、人権に優先する国家立場が登場していくのではないかと危惧する。
こうした日本の国家主義化とは現在中国が行っている愛国主義教育と同質のものであり、二つの愛国主義国家が行き着く先が戦争であることは今までの歴史が教えている。中国の愛国主義教育への危惧と同じく日本の愛国主義教育に対しても警告を出す必要がある。中国の中国共産党による官僚主義を批判することと同時に日本の官僚主義を批判しなければならないだろう。
つまり、二つ国家、日本と中国は資本主義と社会主義という政治体制の違いがあると言っても、非常に共通する社会制度、官僚主義国家の体制を持っている。それらの制度によって急速な近代化を可能にしたことは確かである。今後、これら二つの国で近代化を推進した官僚制度がいつまで必要であるかは、それぞれの国の事情によって異なる。しかし日本の場合にはこれまでの官僚制度が機能しなくなっていることは明らかである。そして、有能なこれまでの官僚制度に代わるより有能は行政制度を模索していることも確かである。
これらの問題の根底には国益とは何かという課題が横たわっている。現在の愛国主義教育を行い中国共産党の官僚制度によって国家を運営している中国に対して国民主権や脱官僚主義を呼びかけることは不可能かもしれない。しかし、民主主義国家としての発展できる基本構造を持つ日本が中国化することによって、中国に対して力を持つことが危険であると言わなければならない。その政治路線は日中間の武力衝突、戦争への道に向かうしかないと言えるのである。
今後の日本の対中及び対外交への提案
2013年12月、尖閣諸島の領有権問題を拗らせ、さらに中国が主張する防空識別圏に対する両国の力による対応が続く限り、今後、日中間での軍事的衝突は避けられない緊迫した情勢に突入した時代の幕開けになるか、今後の両国の政府の国際政治能力が試されている。
こうした緊迫した課題を解決するためには、目の前の問題に足を取られない長期的な外交路線を日本が持たなければならない。つめり、アジア(東アジア)での民主主義先進国日本の外交はどうあるべきかを考えなければならない。その目的はこの国際地域の平和的共存社会の形成である。その彼方にある課題は狭域的には中韓日を中心とする東アジア経済共同体の構築であり、やや広域的にはASEAN諸国を入れた東南北アジア経済共同体の形成である。
勿論、東アジア諸国の共同体化と言っても、そこには政治体制の違いがあり、一党独裁政治で国家が運営されている社会と選挙によって代表者を選び国家を運営している間接民主主義の社会が一つの地域に共存している国際地域社会・東アジアと民主主義社会のみで成立しているEU(国際地域社会政治共同体)を同列に議論することは不可能である。その意味でEUモデルが日中韓を中心とする東アジア地域の共同体にそのまま適応されことがないと言える。
言い換えると、ヨーロッパ連合をモデルとする政治経済共同体の形成を目指しながらも、その形成過程はヨーロッパ連合の形成史をそのまま参考とすることはできない。ASEANモデルのように多様な政治体制を容認しながら参加国がそれぞれの特徴を活かせる共同体を模索する必要がある。
現在の日中、日韓の領土・領有権問題を解決する方向として、多様な政治制度を相互に認め合う経済共同体の在り方を模索することが前提となる。長期的視点に立つなら、現在の尖閣諸島や竹島(独島)の領有権を巡る国家の面子、国土を守れない国家ではないと言う国家的プライドを巡る紛争でなく、よりそれらの国家の現実的な利害や利益に直結する解決策の方が良い。
日中、日韓の領土・領有権問題の現実的な解決のために以下の課題に取り組まなければならないだろう。また、日本は韓国が主張した韓国の防空識別圏を認めたように、中国が主張している防空識別圏に対して拒否することでなく、協議し合うべきである。中国の主張する防空識別圏と尖閣諸島の領有権問題を分離し、話し合いを続けるべきである。
1、最悪の事態を想定し、安易な軍事衝突を避けるために、現在安倍政権が提案しているように、特に日中間での政府トップ間のホットラインを設置すべきである。もし、中国がその国際地域安全に関する危機管理体制の話合にすぐに乗らなくても、粘り強く誠意ある交渉を日本政府は続けなければならない
2、領土・領有権問題を資源問題として相互理解し合い、その解決の第一歩として、それらの資源状態を日中、日韓の共同プロジェクトで調査すること。また、その資源開発を共同管理し生産する資源共同体構想を企画すること
3、日本が歴史認識問題で韓国や中国から批判されていることを真剣に受け止め、日本の犯した戦争犯罪を認め、真摯に謝罪すること。その謝罪とは、現在でも存在する戦争被災者への謝罪であり、具体的な被害への償いである。そして韓国や中国の行う愛国主義教育に日本の戦争犯罪が利用されることを防ぐ外交的努力を行うこと。そのために日韓中の歴史学者中心とする第三者委員会を設け、この委員会で歴史学的見地から日本、韓国と中国の歴史的関係を古代から現代まで研究調査し、各国の政治的意図を排除した学問的見解を纏める作業を行うこと。
4、広く日本、韓国と中国の民間文化交流を推進し、日本での韓流や中国文化ブーム、中国や韓国での日本文化ブームを支援推進すること。
5、日韓中を中心に東南アジアや南アジアを含みアジア圏内での公害、自然災害、特に原発事故に対する日韓中の安全管理や危機管理体制を構築し、災害救援活動の支援(軍隊を緊急派遣し支援団体を送り込む体制の検討と構築を行う政府間交渉、自治体、民間企業やNPO等を入れたフォーラムを組織する
以上、大まかではあるが5つの提案を行う。
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関連文書
日中の軍事衝突を避けるために何をなすべきか
1、問われる日本外交の姿
2、軍事衝突を回避するための外交政策を展開するために
3、日本の危険な対東アジア外交を生み出す日本社会の精神構造
http://mitsuishi.blogspot.jp/2013/12/blog-post_2621.html
ブログ文書集「国際社会の中の日本 -国際化する日本の社会文化-」
http://mitsuishi.blogspot.com/2012/03/blog-post.html
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