2011年11月27日日曜日

再生可能エネルギー促進法とその問題点について(6)

持続可能なエネルギー生産社会を目指すために

三石博行


1-6、「電気事業者による再生可能エネルギー等の利用に関する特別措置法」の問題点


住宅用太陽光発電の全面買取制度と余剰買取制度(設置者の多様なニーズを満たす仕組みの開発)

固定価格買取制度(FiT法)は、基本的には再生可能エネルギー電気の全量を固定価格で買い取る制度を指している。しかし、「電気事業者による再生可能エネルギー等の利用に関する特別措置法」(FiT法)では、住宅用太陽光発電に対して剰余買取制度を適用している。これは、2002年に公布された「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法」(RPS法)と2009年11月から実施された住宅用太陽光発電への買取固定価格制度の経過が関係していると言える。

RPS法は再生可能エネルギーの利用を促進するために利用割合を定めた法律である。しかし、TIF法は再生可能エネルギーの固定価格買取制度を定めた法律である。その意味で、厳密に言えば、RPS法制定下で存在した部分的な買取制度(余剰電気の買取制度)もTIF法では全面買取制度に変更すべきであると考えることが出来る。

しかし、オール電化による安い夜間電気を利用しながら太陽光発電を行う住宅用のシステムでは余剰固定価格買取制度を維持することで、家庭での省エネルギー対策が進むということから、住宅用太陽光発電に関しては余剰買取制度を維持するという意見もある。

しかし、オール電化制度では10時から17時までは高額電気料金が設定されているため 発電量の小さい、例えば4KWh以下の太陽光発電パネルを設定している住宅では、オール電化制度を活用しない場合がある。その場合、上記した省エネ対策促進の意味が失われることになる。剰余電気の固定価格買取制度を維持するのであれば、住宅用の太陽光発電に関しては、よく検討した上で、設置パネルの規模の下限を決め、そのための補助金制度を導入することも考えられる。つまり、余剰買取制度の意味を活かすための政策が必要であると言える。

しかし、オール電化制度では10時から17時までは高額電気料金が設定されているため 発電量の小さい、例えば4KWh以下の太陽光発電パネルを設定している住宅では、オール電化制度を活用しない場合がある。その場合、上記した省エネ対策促進の意味が失われることになる。剰余電気の固定価格買取制度を維持するのであれば、住宅用の太陽光発電に関しては、よく検討した上で、設置パネルの規模の下限を決め、そのための補助金制度を導入することも考えられる。つまり、余剰買取制度の意味を活かすための政策が必要であると言える。


曖昧な全再生エネルギー電気の買取義務規則と発送分離制度の導入

この法律の第二章で、電気業者は発電施設から再生可能エネルギー電気を供給する者からの接続請求及び電気の供給に対して契約(特定契約)の締結を原則として拒否することはできないとされているが、同じ第二章の第五条二項で「当該電気業者による電気の円滑な供給の確保に支障が生ずるおそれがあるとき」電力会社は再生可能エネルギー電気の供給者からの接続を拒否することが出来るとされている。

すでに、この点は上記の法律の簡単な説明でも述べたのだが、この第二項での「電気の円滑な供給の確保に支障が生ずるおそれ」という曖昧な条文の表現が、今後電力会社によって適当に解釈され、接続を拒否される理由になる可能性を秘めている。2011年11月21日、第二回自然エネルギー協議会(会長、石井正弘・岡山県知事)が開催され、この法律の第五条二項について同協議会事務局長の孫正義氏が厳しく批判をした。

孫氏は固定価格買取制度(FiT法)の導入によって自然エネルギーを活用する社会を実現するためには発電施設と送電施設を独占している現在の電力会社の制度では不可能であると述べた。自然エネルギー供給者が電力会社の独占している送電網に接続を要求した場合、これまで「電気の円滑な供給の確保に支障」があるという理由で特に風力発電所からの接続が拒否されてきたことを考えれば、発電と送電の所有を分離する必要がある。


再生可能エネルギー促進付加金(サーチャージ)制度と電力自由化(市場原理の導入)

2002年からRPS法によって太陽光発電を普及させていた日本に対して、ドイツは2001年からFIT法によって太陽光発電を急速に普及し、2004年まで世界一であった日本を抜き2005年には世界一の太陽光発電国となった。つまり、この事実は太陽光発電を普及するためには固定価格での買取り制度が有効であることを示している。そして、日本でも住宅用に関しては2009年から余剰電気の固定価格買取制度を導入した。

FiT法は再生可能エネルギーの普及を促進する非常に有効な制度であるが、もう一方で、高価格に設定された再生可能エネルギー電気の損失部分を誰が埋め合わせるかという疑問が生じる。独占企業である日本の電気業者にその埋め合わせを負担させることは困難である。そこで再生可能エネルギー促進付加金(サーチャージ)制度を導入し、その負担部分を国民全体で賄うことになった。太陽光発電施設を持たない住宅も、太陽光発電住宅の電気料金の一部を負担するのではないかとサーチャージ導入に対して批判が生じている。

再生可能エネルギーを普及させるためには、国策として補助金や買取価格固定制度の導入は避けられない。しかし、そのための負担を電力業界に押し付けるのは限界がある。日本の場合、電気事業者は独占企業である。その意味で、一定の負担を押し付ける権利を国も国民も持っているといえる。もし、電気事業者がそれを否定するなら、電気業界に自由競争原理を導入して再生可能エネルギーの普及を計る必要がある。

もし、電力業界に自由競争原理を持ち込み、自由に新規電力企業が市場参加できる環境があり消費者が自由に電気業者を選ぶことが出来るなら、また消費者が電気商品を選ぶことができるなら(フィンランド等の北欧での買い取り制度の仕組みであるが、発電システムの違いを商品化した電気商品を電気業者は売ることができる、例えば風力電気1kWhの価格、原子力電気1kwhの価格を表示して売るなら)、明らかに消費者が再生可能エネルギー電気利用による価格上昇分の負担を負うことになる。つまり、電力消費者の需要によって再生可能エネルギー電気の普及が行われることになる。その意味で再生可能エネルギー促進付加金(サーチャージ)制度は基本的に不要となる可能性を持つ。


調達価格等算定委員会機能と意思決定のあり方

固定価格買取制度は再生可能エネルギー電気普及の黎明期に必要な制度であることはすでに述べた。すべての商品に共通することであるが、商品生産量が多くなることによって商品価格は廉価になる。これは自由経済の原理である。固定価格買取制度とは、この自由経済の理念に反する行為、つまり国家が商品の価格を決定する行為を行うことになる。その目的は再生可能エネルギー電気を普及することであるが、具体的には太陽光発電システムが普及する、つまり廉価な太陽光電池の生産が可能になり、廉価な太陽光電気が生産できることを意味する。そのため、太陽光発電システムを普及するための初期起動を国が後押ししている制度が固定価格買取制度であると理解すべきでる。つまり、この制度は、廉価な再生可能エネルギー生産を目的としているのである。

その意味で、固定された価格に関する検証が必要となる。つまり、再生可能エネルギー電気はその普及と同時にその価格は廉価となってゆく。その場合、国は普及速度を低下させないように、固定価格買取制度によって国民全体が負担している生可能エネルギー促進付加金(サーチャージ)を軽減しなければならない。そこで買取価格の調整が必要となる。今回の法律では3年間を期限として買い取り価格の見直しを行うことが決まっている。

買取価格の見直しを行うために設けられた検討委員会が調達価格等算定委員会である。この委員会に価格提言は大きな影響力を持つといえる。上記したように、再生可能エネルギー社会化の黎明期、発展期、展開期と成熟期によって買取価格を調整しなければならないだろう。その調整が一つでも誤るなら、2005年の補助金打ち切りによって生じた国内太陽光発電産業への影響と同じ歴史が繰りかえされることになるだろう。

この委員会が5名によって成り立っていることに疑問を持つ。もし、慎重な検討が必要であるなら各界の専門家を集め、恒常的に調査や検討を繰り返し、その上で固定価格設定の見直しと決定を行うべきである。


費用負担調整機関(高度な専門家集団による)運営は可能か

今回のFiT法 第四章「費用負担調整機関」第17条(費用負担調整機関の指定等)で、経済産業大臣が費用負担調整機関を指定することが出来る。今までの慣例から考えると、費用負担調整機関の指定は経済産業省の特権となるだろう。つまり、一般社団法人や一般財団法人として費用負担調整機関が天下りの受け入れ組織となる可能性は十分にある。

勿論、官製シンクタンクである各省の機関で働く専門家(官庁役人)は国の重要な人的資源であり、その十分な活用によって国が機能することは言うまでもない。それらの人材とともに民間や大学等の専門家も一般社団法人や一般財団法人として費用負担調整機関に参加でき、またその費用負担調整機関を立ち上げる機会を与えるべきである。

つまり、問題となるのは、2030年度の再生可能エネルギーで国内のエネルギーの殆どを自給できる社会の構築のために現在のすべての人的資源(有能な人々)を活用できる費用負担調整機関の構築が求められている。専門性の高い業務を担う人々を社会(他の専門機関)が評価し、その機関が有効に機能するように検討する必要がある。


再生可能エネルギーの定義(一般廃棄物焼却炉発電を除外)

2011年3月11日(3.11)以後、日本のFiT法は福島原発事故と切り離して議論することは出来ない。つまり、再生可能エネルギー特別措置法の基本に化石エネルギー電気及び原発依存型のエネルギー電気政策を推進する政策がある。それが新しく始まったエネルギー基本計画の指針である。その意味で、再生可能エネルギーの固定価格買取制度を確立した「電気事業者による再生可能エネルギー等の利用に関する特別措置法」(TIF法)の制定の意義が大きい。

この法律の不備を訴える意見の中に、今回の「FiT法は現時点で最も発電単価の高い太陽光発電が優遇される一方で、最も安価な廃棄物発電はFiTの対象から除外」したという意見(2011年9月30日の日経ビジネス)がある。この記事によると「現在、廃棄物発電の能力は一般廃棄物焼却炉167万キロワット、産業廃棄物焼却炉64万キロワット、合計231万キロワットである。これは原発約2基半に相当し、太陽光発電(263万キロワット)や風力発電(219万キロワット)に匹敵する実力である。」そして補助金をえるために、自治体の廃棄物焼却炉の発電能力が向上してきた。自治体の清掃工場の発電施設の平均熱回収率は11%、民間企業の産業廃棄物焼却炉では熱回収率23%以上(施設規模により15.5%以上~25%以上)補助金の対象となるため、非常に高い発電効率の高い炉が開発されている。しかし、民間企業の炉での発電は電力会社から剰余電力の買取が拒否されているため、自家発電用の小型発電施設になっている。

「電気事業者による再生可能エネルギー等の利用に関する特別措置法」(TIF法)第2条4項(再生可能エネルギー源の定義)によると、産業廃棄物を原料とする電気は、バイオマスの規定から外れることになる。同法第2条4項第五番目に「バイオマス」が記載されているが、化石燃料から製造された製品を除くと記載されている。つまり、ゴミの中には、化学合成製品が含まれているので、この法律で定める再生可能エネルギー源の定義から除外される。そのために廃棄物焼却炉から生まれる発電能力231万キロワット(原発2基分)のエネルギーが使われていないのである。

上記したように化石燃料や原発による電気利用から再生可能なエネルギー電気を生産し消費する新しいエネルギー基本計画を実現するためには、廃棄物焼却炉による発電もバイオマスと同列に置き、価格固定買取制度の中に組み入れるべきである。
さらに、廃棄物焼却による方法だけでなく、廃棄物を活用したバイオチップの燃料開発によるエネルギー電気もFiTの対象とすることで、現代の社会問題の一つであるごみ処理問題への解決を与えると思われる。


1-7、まとめ

この論旨は、今年度公布された「電気事業者による再生可能エネルギー等の利用に関する特別措置法」(FiT法)の成立までの歴史を振り返りながら、この法律の簡単な解説とその問題点を指摘した。来年7月にこの法律が施行されるまで、これまでのエネルギー政策を検討し新しいエネルギー基本計画の検討も今年10月から始まっている。

しかし、その検討会は、再び原子力依存型社会を目指す議論を始める可能性もある。この法律はそのとき意味を失うかもしれない。特に注意しなければならないことは、調達価格等算定委員会による価格決定と費用負担調整機関の認定である。そして、再生可能エネルギー電気供給者の電力会社が送電線接続拒否を行う権利を持つことである。今後も、この法律が骨抜きにされ今までのように原発依存社会が続行する可能性も大きく、まったく予断は許されないと思う。

そのためには、今後の日本社会の基盤であるエネルギー政策を決定するエネルギー基本計画の中で脱原発と再生可能エネルギー社会をまず明確に打ちたてるべきである。そのことによって、今回の再生エネルギー促進法がその基本計画に即して運用されるのである。


引用、参考資料

1. 「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法案要綱」
2. 電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法(平成十四年法律第六十二号)
3. 「電気業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(平成23年法律第108号) 第五章 調達価格等算定委員会 
4. 調達価格等算定委員会令
5. 経済産業省 「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法案」の概要、発表資http://www.meti.go.jp/press/20110311003/20110311003.html
6. 神田慶司、溝端幹雄、鈴木準 経済社会研究班レポートNo4「再生可能エネルギー法と電気料金への影響」大和総研、2011年9月2日、15p  http://www.dir.co.jp/souken/research/report/japan/mlothers/11090201mlothers.pdf
7. EICネット「ドイツ、太陽光発電に対する電力買い取り補償価格を15%引き下げる提案を公表」http://www.eic.or.jp/news/?act=view&serial=24613&oversea=1  2011.01.20
8. bloomberg.co.jp(News)「太陽光エネルギー業界で大規模再編が加速-価格下落で提携か廃業へ」http://www.bloomberg.co.jp/  2011/08/31
9. 新華社通信 「独、太陽光発電産業が窮地に陥る 中国産業への影響も」2011年09月15日、http://www.xinhuajapan.com/open/2011/09/post-85.html 
10. 日経ビジネス 「原発5基分の電力が燃料費タダで手に入る 廃棄物発電の潜在力と再生可能エネルギー全量買取法の弱点」2011.09.30 http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20110930/222923/
11. 経済産業省「平成23年度の太陽光発電促進付加金(太陽光サーチャージ)の単位の確定に伴う電気料金の認可について」 News Release経済産業省平成23年1月26日
12. 「自然エネルギーの買い取り、ルール確立をソフトバンク・自治体連合が提言」産経ニュース (2011.11.21 )http://sankei.jp.msn.com/life/news/111121/trd11112119070015-n1.htm


論文「再生可能エネルギー促進法とその問題点について」のダウンロード
http://hiroyukimitsuishi.web.fc2.com/pdf/kenkyu_03_04/cMITShir11a.pdf


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ブログ文書集

1、ブログ文書集「原発事故が日本社会に問いかけている課題」目次
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/06/blog-post_3562.html

2、ブログ文書集「東日本大震災の復旧・復興のために 震災に強い社会建設を目指して」の目次
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/03/blog-post_23.html

3、ブログ文書集「日本の政治改革への提言」の目次
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/06/blog-post_9428.html

4、ブログ文書集「21世紀日本社会のための大学教育改革の提案」
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/04/blog-post_6795.html


12月8日、誤字修正

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