2011年11月2日水曜日

PBL教育を日本の大学に普及させよう(「PBL教育フォーラム2011」に参加して2 )

参画型授業の開発(2)


三石博行



社会の教育力を活用して成立するPBL教育

同志社大学PBL推進支援センターが主催して2011年10月22日に同志社大学新町キャンパスで開かれた「PBL教育フォーラム2011」で配布されたフォーラムのプログラム(予定項目)の副題に「学生のヤル気を引き出すPBL ‐実践的な学習をサポートする支援としかけ‐」と記されているようにPBLの教育目的は学生の学習意欲を引き出すことである。

学習意欲とは学習課題への関心であり、その課題を探究したいという要求である。まず、この課題への関心は、無理に作ることは出来ない。学びを強制されて、また卒業要件を満たすための手段として受講している科目に対して、始めから積極的な学習意欲を感じる訳がないのは当然である。PBL教育は学生が企画し運営する授業である。そのため、学習意欲を持つことが、この教育の成立条件の必要十分条件となっている。

しかし、PBL教育の第一の難関は、まさにこの課題となる。積極的な学習姿勢を予め学生に要求することは困難である。その姿勢が無ければしかし、PBL教育は成立しない。PBL教育が成立しなければ「主体性をもって学ぶ」姿勢を教育することは出来ない。学ぶ姿勢はPBL教育の目標であり、その成立条件である。つまり、どのようにしてPBL教育を成立させるのかが、実は、多くの大学がPBL教育を導入するにあたって抱え込んでいる問題の一つであると言える。

今回の「PBL教育フォーラム2011」に参加した大半の大学のPBL教育に共通している点は企業活動、大学教育改善活動、国際支援活動を課題にし、そこで問題となっている課題の解決をプロジェクト科目のテーマにしていたことであった。学生は、直接、現実の問題を触れ、そこで問われている課題を受け止め、その解決を巡ってプロジェクト科目の授業が始まる。つまり、問題提起者としてこれらのPBL教育が活用したのは社会の教育力であった。社会には解決しなければならない問題は山のようにある。その現実を知らせる。そしてその現実を受け止めることからプロジェクト科目が始まるのである。

アメリカの医学教育に導入されているPBL教育でも、まず学生は大学付属病院の臨床の現場で患者さんの治療を考えることから始まる。そして日本では看護学部に導入されているPBL教育も看護現場の問題を受け取る形で学習プロジェクトが始まる。つまり、PBL教育で必要な問題提起者はつねに現実の社会であると言える。換言すると、社会の教育力を大学教育のシステムに導入することが出来ない限りPBL教育は困難であるとも言える。


悩みぬく力を身に付けた

「PBL教育フォーラム2011」の第2部「学生による取組発表」で、早稲田大学プロフェッショナル・ワークショップのグループは「2011年KUMON×早稲田プロフェッショナル・ワークショップ」のについて発表した。明治大学商学部特別テーマ実践授業のグループは「グッド・イノベーション講座 ~新聞のプロモーション~」の成果について報告した。広島経済大学興動館教育プログラムのグループは「インドネシア国際貢献プロジェクト ~インドネシアの復興を目指して~」について国際支援活動の経験を報告した。甲南大学 CUBEプロジェクト科目のグループは「‐MyKONAN改善プロジェクト 学生が欲しい学内ポータルサイトの企画」について発表した。そして最後に同志社大学プロジェクト科目のグループは「京都の織物文化活性化計画!~織物の伝統技術について考えよう~」を発表した。

そのすべてのPBL教育プログラムが企業、自治体、NGO、地域社会、大学で働く人々の参加によって運営され、それらの現場や職場の課題解決をテーマにしていた。学生は協力してくれた会社、学校法人やNGOに解決策を提案し、それらの提案が受け入れられ、実際に活用されているケースもあった。つまり、学生は学ぶ立場でなく、問題解決に参画する立場を自覚していた。そこで与えられた責任を全うするために努力していた。

第3部のパネルディスカッション「学生と共に考える学習環境」の中で、学生の発言したことは、多くの参加者にとって貴重な意見であり、そこから多くのことを学ぶことができたと思えた。PBL教育プログラム(プロジェクト科目)に協力した企業の人々から学んだことや実際の社会統計作業に必要な社会統計の学習を専門の教員から受講したこと等々の経験、成果や反省点を述べた。そのすべてをここで紹介することはできないがどの発言や提案も素晴らしいものであった。発言の中には、大学へのPBL教育のための体制や施設充実の要求、PBL教育を担う教員への要求、その一つひとつが教える側には身にしみる内容であった。真剣に学習に取り組できた学生の意見だけにそれらの発言には迫力があった。そして、何よりもそれれの提案には説得力があった。

ディスカッションの中で、パネラーの甲南大学マネジメント創造学部3年生の川井健太さんの「このPBLを通じて、悩みぬく力を身に付けることができた」という発言は、このPBL教育の成果の大きな一つであると感激した。学ぶ姿勢、いやもっと問題を解決するために、それと格闘し続けるために、問題を持続して受け止め続ける力、悩みぬく力が必要であと知った。そしてその力を付けることを課題にした。これがPBL教育の成果なのだ。これ以上の教育は日本の大学学部教育にはないだろうと思う。


問われた大学と教員(私)

このフォーラムに参加して、素晴らしい教育成果(学生)に出会い、そして、彼ら彼女らの姿勢や発言から真剣に問われていることは、学生の学ぶ姿勢を問いかけたPBL教育の成果として、教える側、大学、教育環境と教職員の教育力の質を問いかけており、現在の高等教育の在り方や教育者としての大学教員の問題の解決なくしてはPBL教育を普及することは出来ないことに気付かされるのである。

今後、同志社大学で開催された「PBL教育フォーラム2011」のように、PBL教育を参画した学生が主役となるフォーラムを続ける必要がある。各大学で、各大学コンソーシアムで、各地域、関西で、そして全国で、多くの大学にPBL教育を普及する活動を行い続けなければならないと思う。

PBL教育の普及によって、学ぶ姿勢を身に付けた学生から教員や大学に対して、真剣に、そして切実に大学教育改革の具体的な問題が提起され、我々(大学教職員)は、正に彼らと(学生たちとともに)その問題解決のための研究をしなければならいだろう。つまり、我々は学生と同じ立場でPBL教育に関わり、我々、大学の教職員がこのPBLの参加者となり、教える側でなく、共に学習する仲間の一人として、そのプロジェクト科目を参画する(PBL教育活動を行う)中で、我々(教職員)自体が成長する機会を得ることができると確信できた。その確信こそ、PBL教育を普及する力になるだろう。そのためにはまず、始めなければならない。そして、PBL教育を模索検討している仲間(学生、社会の協力者、大学教職員)と協働して、相互の経験を語り合わなければならない。


参考資料

1、2011年10月22日に同志社大学新町キャンパスで開かれた「PBL教育フォーラム2011」2009年度の文部科学省大学教育・学生支援推進事業「プロジェクト・リテラシーと新しい教養教育 -課題要求能力を育成するPBL教育の方法論的整備‐」の研究成果の発表の場として提供された。

2、三石博行 同志社大学「PBL教育フォーラム2011」参加して
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/11/pbl2011.html

同志社大学PBL推進支援センター 
http://www.doshisha.ac.jp/academics/institute/ppsc/suishin.php


三石博行 河村能夫
「最先端医学教育 UCSFのJMB(Joint Medical Program)・複数専門知識修得の意味 」 
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/03/ucsfjmbjoint-medical-program.html

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ブログ文書集

1、ブログ文書集「原発事故が日本社会に問いかけている課題」目次
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/06/blog-post_3562.html

2、ブログ文書集「東日本大震災の復旧・復興のために 震災に強い社会建設を目指して」の目次
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/03/blog-post_23.html

3、ブログ文書集「日本の政治改革への提言」の目次
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/06/blog-post_9428.html

4、ブログ文書集「21世紀日本社会のための大学教育改革の提案」
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/04/blog-post_6795.html


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2011年11月4日 誤字と文書表現の修正

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