2012年4月12日木曜日

生産様式の発展と二次生活資源の欠乏状態

生活資源の欠乏問題の解決行動としての社会運動(2)

三石博行


資本の本源的蓄積過程と二次生活資源の形成

生活資源論の中で、二次生活資源を「豊かな生活や社会環境を作り、個人や集団の生活の質(QOL)を高めるために必要な生活素材や生活様式」と定義した(1)。例えば、社会インフラ、職場環境、福祉、教育、医療環境、消費生活環境、労働環境、生活文化環境等々、一般的に豊かな生活環境の構築要素となるものがこの二次生活資源と呼んだ(1)。

食糧生産に必要な全ての社会インフラ(二次生活資源)、具体的には農地、農道、治水、用水設備、生産物加工や流通、労働力供給制度、農業生産を支える社会的分業や農業技術の改革が進むことによって食料生産量は向上する。豊かな農業生産によって、一人当たりの農民が生産する食料生産量が増える。社会全体の食料を供給するために必要な農業人口の割合が減少する。農業社会で潜在的に過剰になった人口(相対的過剰人口)が他の職種に移動する。そのことによって、さらに他の産業が発展し、高度な社会的分業化が進む。社会的分業の進化によって、社会全体の生産力は向上する。

つまり、二次生活資源が豊富になることによって社会的分業や商品経済が発達し、人々の生活はより豊かになる。商品経済の発達によって土地に縛られた生産者を中心とする社会(封建社会)から商品生産を担う人々(市民社会)が生まれ、資本主義経済が確立してゆく。二次生活資源の社会的蓄積は資本制社会が成立する過程に行われる資本の本源的蓄積過程と同じ意味をもっている。つまり、二次生活資源の形成によって資本の本源的蓄積が生み出されるのである。(2)

より豊かな生活を求めて社会(共同体)は生活改善や生産活動に必要なものをより多く生産しようとする。生産活動の効率向上のために優れた生産方法や生産様式の開発がなされる。生活改善に必要な道具や技術も生産活動を支える。労働力の再生産を支える社会(共同体)や家族環境の改善や整備が必要である。生活環境の改善は総じて社会インフラの整備によって可能になる。社会インフラは生産現場の生産システム(資本)の効率のみでなく良質の労働力の供給をサポートしているのである。

良質の家事労働によって生産現場での労働力の質が保障される。全ての社会生産、家事から職場での労働の質を上げることによって、豊かな社会の形成が可能になる。つまり、二次生活資源とはそうした社会生産の質と量の向上に必要な資源であると言える。


時代や社会によって異なる二次生活資源の欠乏への評価

すべての人間社会の持って生まれた特性として、社会を豊かにしようとする作用が機能している。何故なら、それは次世代に命を繋ぎ子孫により豊かな生活環境を残すという人間の社会的行為、労働の本質を意味するからである。こうした人間的行為の基本的な特性から、生活環境の維持は生活環境評価の基底に横たわる。生活環境が劣化しないことは評価の最低ラインとなり、生活環境が劣化することは在ってはならない最悪の状態を意味する。

つまり、社会全体の二次生活資源量が変化しない状態を社会・生活環境の質的停滞状態であるとすれば、この停滞状態は現代社会のように常に社会が豊かになりつづけた過去の時代を経験している社会では、極めて低い評価を受けることになる。勿論、中世社会のように生活環境の改善が非常に緩やかに進んだ社会でも、社会生産量の停滞状態をプラス評価することはないだろう。

言換えると、社会の二次生活資源の総量が減少するということは、社会にとって危機を意味すると言える。その社会や生活環境が現在よりも劣化していくのであるから、今の社会で言えば、今まで可能になっていた子育て、教育、医療、福祉サービス等々が出来なくなることを意味する。中世社会でも同様に赤子の間引きや娘の売買に直接関係する生活苦を意味するだろう。

二次生活資源の社会的総量によって決定される社会生活環境の質は時代によって異なる生活環境を具体的に創りだしてきた。そのため、二次生活資源の増減に対する社会的評価は時代によって相対的に表現される。その増減への絶対的評価は存在しない。豊かな社会ほど、その環境の劣化を危惧するし、豊かでない社会では、その環境の劣化は前者に比べて共同主観的に小さくなる。それが、この二次生活資源の増減にたいする社会評価の姿を生み出しているのである。


二次生活資源の欠乏状況によって生じる社会的差別としての人権問題

時代や社会によって異なる二次生活資源の欠乏に関する評価から、時代や社会によってそれぞれの共同体の中で豊かな生活環境への評価が変化していることが理解できる。例えば、ブータンの人々の幸福度が日本人のそれよりも高いと言われるように、経済的に豊かな社会で生活する人々の幸福度が、経済的に貧しい国の人々のそれに比べて必ずしも高いとは言えない。

このことは、経済的に豊かな人々がそうでない人々よりもより満足した生活を送っているということに繋がらないことを意味する。例えば豊かなアメリカ社会で裕福な家庭の子供に多いドラッグの使用者、このことは現在の日本人にも当てはまる現実である。経済的に裕福な人々がより幸福な生活を送っていると言えないことは、上記したように、二次生活資源の欠乏に関する評価は絶対値で表現されることはなく、その時代や社会によって相対的に生じるものであると言える。

豊かな社会であればより豊かになることが当然であり、もし少しでも貧しくなるなら、二次生活資源の欠乏感は大きいのである。そして、同じ社会でも、豊かさの個人差が生み出す格差感も、時代性や社会性の与える相対的な二次生活資源の欠乏感に相対的に影響されていると言えるだろう。

より豊かな社会で生じている就労、学歴、障害、出身地、人種、宗教や民族等々への差別問題を、非常に貧しい社会の現実に当てはめれば、全く問題にされないそれらの国々が抱えている現在の社会問題に比べて重大でない課題であると評価解釈されるかもしれない。また現代の日本や米国での女性が受ける性的ハラスメントや子供が学校で受けるいじめの問題を宗教の戒律の厳しい社会の女性の社会的地位に比較し、また飢餓に苦しむ国の子供の置かれている生活環境に比較するなら、まったく取るに足らない問題として受け止められるかもしれない。

しかし、それらの人権問題を、生活資源の貧困によって生じると理解するなら、その評価が、前記したように社会や時代によって相対的に決定されていることに気付くだろう。つまり、人権問題において相対的な評価の当てはまる領域は二次生活資源の欠乏に関する評価感覚のみであると言える。

言い換えると、命に関わる一次生活資源の欠乏によって生じている人権問題、例えば、戦争、災害、犯罪、飢餓や疫病の流行等などから発生している人権問題に関しては、二次生活資源の欠乏状態によって生じる社会的差別を代表とする人権問題に対して、相対的な評価よりも、人類全体に時代や社会を越えた生存権に関係する絶対的評価が存在している。その意味で、一次生活資源の欠乏によって生じる問題は時代や社会を越えて深刻に受け止められるのである。

生命を維持するために必要な衣食住環境や育児や健康を守るための生活環境・家族関係、生存を支える生産活動や外敵から身を守る防衛活動を保障するために共同体形成の起源があると考えるなら、豊かな生活環境を形成するための活動は、その共同体の発展に関係する課題であると評価されるからである。それらの発展のための活動は時代や個々の共同体の状況によって異なる。

つまり二次生活資源の欠乏感や満足感はそれらの社会生活環境に決定された共同主観に決定づけられたものとして表現されるのである。それが二次生活資源環境への個々人の持つ意識の差異を生み出し、差別感や不平等感の起源となるのである。


引用、参考資料

(1)三石博行 「設計科学としての生活学の構築 -人工物プログラム科学としての生活学の構図に向けて」 金蘭短期大学 研究誌33号 2002年12月 pp21-60
http://hiroyukimitsuishi.web.fc2.com/pdf/kenkyu_02_02/cMITShir02d.pdf

(2) 三石博行 「生活資源論」 
http://hiroyukimitsuishi.web.fc2.com/kenkyu_02_02.html

(3) 三石博行 「人権学 -三つの人権概念の定義-」
http://mitsuishi.blogspot.jp/2010/11/blog-post_2567.html

(4) 三石博行 「共同体秩序の脱構築・構築集団行動としての社会運動」
http://mitsuishi.blogspot.jp/2012/04/blog-post_05.html

(5) 三石博行 「共同体秩序形成と破壊的暴力的行動の要因としての一次生活資源の欠乏状態」
http://mitsuishi.blogspot.jp/2012/04/blog-post_10.html



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関連ブログ文書集

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2012年4月14日 文書加筆、誤字修正
(120412a)
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