2011年11月26日土曜日

再生可能エネルギー促進法とその問題点について(2)

持続可能なエネルギー生産社会を目指すために

三石博行

1-1、「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法」(平成14年法律第62号)(RPS法)について(2002年から2007年まで)

日本社会の「聖域なき構造改革」を訴えて成立した小泉政権下、2002年6月7日に「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法」(平成14年法律第62号)が成立し、同年12月6日から施行された。この法律は、「経済的社会的環境に応じたエネルギーの安定的かつ適切な確保に資するために、電気業者による新エネルギー等の利用に関する必要な措置を講ずること」を義務化し「環境の保全」と「国民経済の健全な発展」を目的として公布された。この法律で定める新エネルギーとは、風力、太陽光、地熱、水力とバイオマス等とされていた。

2007年3月30日に「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法施行令」(平成19年3月30日政令第97号)が出され、RRP法が施行された。この法律によって平成19年度(2007年)以降8年間、2014年度までの新エネルギー等電気の利用目標量が示された。2007年度は86.7億KW、2008年度は92.7億KWであった。2009年度に出された新エネルギー等電気の利用目標量では同年度(2009年度)の新エネルギー等電気の利用目標量は103.8億KWであった。

2011年度の電気事業者53社(一般電気事業者10社、特定電気事業者5社、特定規模電気事業者38社)に、総量約110.1億KWの新エネルギー等電気の利用の義務が課せられた。2007年度の日本の年間総発電量が約12000億KWである。2011年度の新エネルギー等電気の利用目標量を2007年度年間総発電量に比較したとしても、その総発電量の1%弱しか新エネルギーの占める電力は生産されていない。

図表1 日本の一次エネルギー供給量
使用データ:EDMC/エネルギー・経済統計要覧(2010年版)

また、IEA 統計における再生可能エネルギー導入量と対一次エネルギー総供給シェアの1990年と2006年の比較から、日本はその16年間(1990年1.7%と2006年1.8%)で0.01パーセントしか増加していない。デンマークは(1990年6.1%と2006年14.5%)で8.3%、 スウェーデンは(1990年11.1%と2006年18.2%)で7.1%、ドイツは(1990年1.1%と2006年5.3%)で4.2%増加している。

中でも平成22年度(2010年度)の新エネルギー等電気の総量は102.5億KWであり、その中で太陽光発電は13.4億KWを占めている。つまり、日本の年間総発電量が約12000億KW(2007年度)であるとしてもその総量の0.1%しか新エネルギー電気量は占めていないのである。このことから2002年6月7日に「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法」(平成14年法律第62号)は、その法律の目的であった電気事業者による新エネルギー等の利用を促進することは出来なかったと理解すべきである。

言い換えると、2002年の「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法」の目的である「環境の保全」と「国民経済の健全な発展」のために、自然エネルギー(風力、太陽光、地熱、水力とバイオマス等)の生産とその利用を促進し「経済的社会的環境に応じたエネルギーの安定的かつ適切な確保に資する」と謳ったが、現実には、電気業者による新エネルギーの利用量は僅かなものであり、経済システムを改革する力にはなりえなかった。

21世紀になり国のエネルギー政策は大きな課題を抱えていた。一つは地球温暖化防止を進めようとする国内外の政治や社会の傾向である。非化石エネルギー利用の開発が急がれていた。もう一つは中国を始め急速に経済成長し始めた国々によるエネルギー需要の増加とそれに伴うエネルギー価格の上昇である。こうした課題に素早く対応するために、政府、経済産業省の総合資源エネルギー調査会需給部会は2002年3月に「2030 年のエネルギー需給展望」を示した。そして、自由民主党の議員立法により2002年6月7日にエネルギー政策基本法(平成14年法律第71号成立、同月14日公布)が施行された。このエネルギー政策基本法の第12条第4項の規定に基づき総合資源エネルギー調査会総合部会基本計画委員会が発足し、2003年10月に「エネルギー基本計画」が作成された。
 
「エネルギー基本計画」はその後、2007年、2010年と出された。2003年の「エネルギー基本計画」と2007年のそれを比較するなら、国のエネルギー政策が原子力発電に大きくシフトしていることが理解できる。言い換えると、原子力エネルギーの利用によって、2 030年に向けた国のエネルギー基本計画の基調である非化石エネルギーの利用拡大政策を推し進めた。このエネルギー基本計画(エネルギー政策基本法)と新エネルギーの利用拡大を目的にしたRPS法「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法」(平成14年法律第62号)は基本的にその方向性を異にすることになる。当然、原子力発電を基本とする電気エネルギー生産を中心におくエネルギー基本計画が再生可能エネルギーを利用するRPS法よりも優位に立っていたために、地球温暖化対策として二酸化炭素を排出しない原子力発電によって電力は十分に補給でききると考えていたために、地球温暖化対策や脱化石燃料エネルギー利用の切り札としてコスト高の再生可能なエネルギー(風力、太陽光、地熱、水力とバイオマス)の開発に敢えて投資する必要を感じていなかったのである。

2007年6月と2010年6月のエネルギー基本計画によると、政府は原子力を非化石エネルギーの代表とし、2020年までに9基(ゼロ・エミッション電源比率50%)、2030年までに14基(ゼロ・エミッション電源比率70%)の原子力発電所を新増設する計画を出していた。政府が非化石エネルギーである原子力も新エネルギーの中に入れ、原子力エネルギーを中心とするエネルギー基本計画を立てるなら、他の再生可能エネルギーを活用する必要はないのである。つまり、このエネルギー基本計画によって再生可能エネルギーを生産する社会経済システムは進行しないことになる。RPS法によって電気事業者が風力、太陽光、地熱、水力、バイオマス等の新エネルギー等を利用することを促進しようとしても、エネルギー基本によって、このRPS法は形骸化されてしまったと言えるだろう。


解説

1. 電気の単位
1Wは 約0.860cal (1ccの水を約0.86度C上げるエネルギー)
1000Wが1KW(キロワット)
1000KWが1MW(メガワット)つまり100万W(0.1万KW)
1000MWが1GW(ギガワット)つまり10億W(100万KW)
1000GWが1TW(テラワット)つまり1兆W(10億KW)
  例えば
3KWが平均的な家庭用エアコンの能力、40KW- 200KWが一般的な自動車の出力、6MWがドイツの電気機関車の定格出力、18.2MWが新幹線500系電車の編成出力、2.074GWがフーバーダムの最大発電電力、3GWが世界最大の原子炉の最大発電電力、1.7TWが世界の平均消費電力(2001年)、3.327TWがアメリカ合衆国の平均消費仕事量(ガス・電力など全ての合計)、(2001年)13.5TWが世界の平均消費仕事量(2001年)(Wikipedia)

2. 一般電気事業者10社とは現在は、「北海道電力㈱、東北電力㈱、東京電力㈱、中部電力㈱、北陸電力㈱、関西電力㈱、中国電力㈱、四国電力㈱、九州電力㈱、沖縄電力㈱」である。特定電気事業者5社とは「限定された区域に対し、自らの発電設備や電線路を用いて、電力供給を行う事業者(六本木エネルギーサービス㈱、諏訪エネルギーサービス㈱が該当)」である。特定規模電気事業者38社とは「契約電力が50kW以上の需要家に対して、一般電気事業者が有する電線路を通じて電力供給を行う事業者(いわゆる小売自由化部門への新規参入者(PPS))」である。
参考 経済産業省 資源エネルギー庁 「我が国の電気事業制度について」
電気事業の概要 (1)電気事業者の種類 (図:電気事業者の概要)
http://www.enecho.meti.go.jp/denkihp/genjo/genjo/index.html
Wikipedia 「電気事業法」

3. 特定太陽光電気とは、「太陽光発電施設による新エネルギー等電気のうち、太陽光発電の剰余電力買取制度により電気事業者に買取義務のある電気であり、RPS法の義務履行に充当できないもの」を言う。
参考 経済産業省資源エネルギー庁 「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法の平成22年度の施行状況について」 News Relesse、平成23年7月15日

4. RPSとは「Renewables Portfolio Standard」の略語で、日本語に訳すと「再生可能エネルギー利用割合基準」となる。


参考資料

1、 「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法」(平成14年法律第62号)平成14年6月7日公布
2、 「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法施行令」(平成14年法律第62号)改正 平成19年3月30日政令97号
3、 「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法施行規則第二十条各号に規定する手続を行う者に係る計算機に係る基準」平成14年経済産業省告示第410号 平成14年12月6日公布(平成15年2月3日一部改正、平成15年2月13日最終改正、平成15年4月1日施行)
4、 「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法施行規則」(平成14年12月6日 経済産業省令第109号)改正 平成15年2月3日、法律第62号)改正 平成19年3月30日政令97号
5、 経済産業省「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法(RPS法)と下位法令との対比表
6、 「平成19年度以降8年間について電気事業者による新エネルギー等電気の利用目標」 経済産業省告示第279号 平成21年8月31日公布
7、 IEA, Renewables Information, Energy Balances of OECD Countries 
8、 総合資源エネルギー調査会需給部会 『2030年のエネルギー需給展望』平成17年3月 http://www.meti.go.jp/report/downloadfiles/g50328b01j.pdf
9、 経済産業省 「エネルギー政策基本法」平成十四年六月十四日法律第七十一号)http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H14/H14HO071.html
10、 Wikipedia 「エネルギー政策基本法」
11、 経済産業省 資源エネルギー庁『エネルギー白書2009年』p148
12、 経済産業省資源エネルギー庁 「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法の平成22年度の施行状況について」 News Relesse、平成23年7月15日
13、 経済産業省 (2003)『エネルギー基本計画』平成15年10月、37p
14、 経済産業省 (2007)『エネルギー基本計画』平成19年3月、69p
15、 経済産業省 (2010)『エネルギー基本計画』平成22年6月、65p


つづき

1-2、住宅用太陽光発電の固定価格買取制度の導入(2008年-2009年) 
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/11/blog-post_4777.html


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ブログ文書集

1、ブログ文書集「原発事故が日本社会に問いかけている課題」目次
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/06/blog-post_3562.html

2、ブログ文書集「東日本大震災の復旧・復興のために 震災に強い社会建設を目指して」の目次
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/03/blog-post_23.html

3、ブログ文書集「日本の政治改革への提言」の目次
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/06/blog-post_9428.html

4、ブログ文書集「21世紀日本社会のための大学教育改革の提案」
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/04/blog-post_6795.html


12月2日 誤字修正
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