2011年11月26日土曜日

再生可能エネルギー促進法とその問題点について(3)

持続可能なエネルギー生産社会を目指すために

三石博行


1-2、住宅用太陽光発電の固定価格買取制度の導入(2008年-2009年)

日本では再生可能エネルギーに対する普及促進策としては電力会社による自主的な買い取り、RPS法や各自治体による助成などが用いられてきた。 これにより太陽光発電パネルをいち早く売り出した日本の電気メーカの供給も重なり、太陽光発電では2004年度まで世界一の生産量や市場を有していた。(Wikipedia)

図表2、2001年から2010年までの世界の太陽光電池生産量(Wikipedia)


しかし、2005年に政府の太陽光発電パネル設置への補助金が打ち切られると、国内の需要が減った。2005年度に約300MWあった生産量が2006年度に減少に転じ、2007年度は約200MWまで減少した。それまで世界一の生産量を誇っていた日本はドイツ、中国、そしてアメリカにまで抜かれてしまった。(Wikipedia)

図表3、日本における太陽光発電池出荷量(国内用と海外用)(Wikipedia)


2005年に補助金がなくなり、しかも、当時、家庭で発電する太陽光電気の買取価格は一般電気事業者10社で少しの格差はあったが1KWh当たり約22円-23円であったため、太陽光電池国内需要は急速に衰えた。何故なら、この売電価格では、太陽光発電施設の設置費用に投資した資金の回収は不可能であるからだ。これまで政府の補助金で僅かではあったが太陽光パネルを設置しようとしていた国民の自然エネルギー活用の意欲は失われたと言えるだろう。

図表4、2001年度から2007年度までの太陽光発電の国内出荷量(MW)
出典:JPEA(太陽光発電協会)ウェブサイト、「統計・資料」)

2005年に新エネルギー財団(NEF)による助成が終了して以降、2007年まで国内市場は縮小し、日本の太陽光発電の国内出荷量は減少し、総出荷量も伸びず、結果的に太陽光電池生産量世界一の座をドイツに奪われた。明らかにこれは日本のエネルギー政策の不備によって生じたといえる(それについては日本の太陽光電池産業の問題を指摘する考えもあるが)。世界一の太陽光電池の生産国となったドイツでは固定価格買い取り制度を導入した。ドイツは1990年のStromeinspeisungsgesetz (StrEG電力供給法)、そして2001年のErneuerbare-Energien- Gesetz(EEG、再生可能エネルギー法)、および2004年のEEG法改正と3段階の固定価格買い取り制度を導入することで太陽光発電の普及を促したと言われている。

日本の太陽光発電の国内出荷量の減少に危機感を募らせた政府(経済産業省)は、2008年に福田ビジョン(2008年6月9日、第91代内閣総理大臣福田康夫により発表された日本の地球温暖化への対策としてポスト京都議定書の枠組み作り、国際環境協力と技術革新の三つの提案・クールアース推進構想の温暖化ガス排出量削減構想)による太陽光電池の大幅な増産を目標に掲げた。そのビジョンにそって2009年1月に経産省が緊急提言に沿って補助金を復活させた。また、また2009年2月には環境省も再生可能エネルギーの導入に伴う費用や経済効果の試算を発表し、太陽光発電の普及政策として固定価格買い取り制度の採用を提案した。(Wikipedia)

2009年2月の環境省による太陽光発電を含む再生可能エネルギーの普及による費用や経済効果の試算によると、2020年までに太陽光発電37GWp、2030年までに79GWpの導入を仮定すると、再生可能エネルギー全体の導入の費用は2030年までに25兆円にのぼり、その経済効果はその2倍以上になる。そして、数十万人の雇用を生み出すだろうと述べられた。環境省の発表と同じ時期に、経済産業省も太陽光発電設備の初期投資を10年程度で回収できる助成策を導入することを発表した。環境省と経済産業省が共に太陽光発電の推進を行うことで一気に普及政策として固定価格買い取り制度の土台が整った。

2009年9月16日、民主、社民、国民新の3党連立政権が発足した。民主党は同年の衆議院選挙公約(マニフェスト)43項「全量買い取り方式の固定価格買取制度を導入する」の中で、再生可能エネルギー固定価格全量買取制度の早期導入、効率的電力網(スマートグリッド)技術開発・普及促進を公約した。民主党政権の成立によって更に2008年の福田ビジョンにそって2009年2月の環境省と経済産業省が具体化しようとした太陽光発電の推進構想が展開したといえるだろう。
2009年11月から固定価格による余剰電力買取制度が始まった。買取期間を10年とした日本の固定価格全量買取制度が出発したのである。この制度では、10KW未満の住宅用の太陽光発電は1KWHあたり48円(2011年申込みでは42円)で、非住宅用では24円(2011年申込みで40円)で、10KW以上で500KW以下では住宅用でも日住宅用でも1KWHあたり24円である。しかし、大型の発電施設、500KW以上では一般電気業者の買取は行われない。

図表5 買取期間10年の太陽光発電余剰分買取価格(Wikipedia)



10kW未満

10~500kW

500kW以上

住宅用

48円/kWh

(42円)

24円/kWh

買取なし

非住宅用

24円/kWh

(40円)

24円/kWh

買取なし

発電用

買取なし

買取なし

買取なし



( )は2011年度契約申込みの場合


不十分とは言え、「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法」(平成14年法律第62号)施行から7年後の2009年に太陽光発電施設による新エネルギー等電気のうち、太陽光発電の剰余電力買取制度」が始まった。つまり、2009年11月から太陽光発電の剰余電力を電気事業者は買取る義務を負う制度(特定太陽光電気買取制度)が出発した。それは、RPS法第3条により政府が定める新エネルギー電気利用目標に対して同法第4条及び第5条により電気事業者は基準利用量の使用が義務とされたことを意味する。これが2002年に小泉政権によって成立し福田ビジョンで展開した自民党発のRPS法の功績であったと言える。

言い方を変えるなら、2009年11月から始まった固定価格による余剰電力買取制度は、2005年に政府の太陽光発電パネル設置への補助金が打ち切られたため太陽光電池の国内需要が減少、その結果としての国際競争力の減退が生じたことへの対策として始まったと言える。日本の先端産業部門である太陽電池産業の危機を救うためにRPS法を活用した政策、2008年6月の福田ビジョンが示された。そして、政府(環境省と経済産業省)は太陽光発電の普及政策として固定価格買い取り制度の採用を提案したのである。つまり、住宅用太陽光発電の固定価格買取制度(RPS法の実施)は日本の先端産業部門の危機を救うために導入されたと言ってよい。そのため風力等の他の新エネルギーに関する固定価格買取制度は作られなかったのである。

住宅用太陽光発電の固定価格買取制度(FiT)が2009年11月から始まったにしろ、原子力を中心したエネルギー基本計画がある限り再生可能エネルギーの活用の普及は基本的に進展することがなかったと言える。この流れは2009年9月に民主党政権が発足した後も変わらず2011年3月11日の東電福島第一原発事故まで続くことになる。


解説

FIT(FiT)法とは、1978年アメリカ合衆国カルフォルニア州での風力発電の普及のために、固定価格買取制度が始まった。その制度を定めた法律をFIT(Feed-in Tariff)法と呼んでいる。(Wikipedia)


参考資料

1、 Wikipedia「太陽光発電」http://ja.wikipedia.org/wiki/
2、 太陽光発電協会 HP http://www.jpea.gr.jp/
3、 Wikipedia「固定買取制度」http://ja.wikipedia.org/wiki/
4、 Wikipedia「福田ビジョン」http://ja.wikipedia.org/wiki/
5、 Wikipedia「クールアース推進構想」http://ja.wikipedia.org/wiki/
6、 経済産業省HP 「再生可能エネルギーの全量買取に関するプロジェクトチームの動き」 http://www.meti.go.jp/committee/summary/0004629/index
7、 経済産業省HP「再生可能エネルギーの全量買取制度の大枠について」2010年8月4日資源エネルギー庁省エネルギー・新エネルギー部 電力・ガス事業部http://www.meti.go.jp/committee/summary/0004629/framework.html
8、 再生可能エネルギーの全量買取に関するプロジェクトチーム「再生可能エネルギーの全量買取制度の導入に当たって」 平成22年7月23日 3p
9、 再生可能エネルギーの全量買取に関するプロジェクトチーム「再生可能エネルギーの全量買取制度の導入に当たって」参考資料 15p
10、 資源エネルギー庁 「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法案について」 News Release経済産業省平成23年3月11日 
11、 経済産業省「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法案の概要」平成23年3月 経済産業省
12、 資源エネルギー庁 「新たなエネルギー基本計画の策定について」News Release経済産業省平成23年6月18日
13、 Wikipedia「固定価格買取制度」


つづき

1-3、「再生可能エネルギーの全量買取に関するプロジェクトチーム」による再生可能エネルギーの全量買取制度の提案」と「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法案」(2009年-2011年)  
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/11/blog-post_5505.html


論文「再生可能エネルギー促進法とその問題点について」のダウンロード
http://hiroyukimitsuishi.web.fc2.com/pdf/kenkyu_03_04/cMITShir11a.pdf


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ブログ文書集

1、ブログ文書集「原発事故が日本社会に問いかけている課題」目次
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/06/blog-post_3562.html

2、ブログ文書集「東日本大震災の復旧・復興のために 震災に強い社会建設を目指して」の目次
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/03/blog-post_23.html

3、ブログ文書集「日本の政治改革への提言」の目次
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/06/blog-post_9428.html

4、ブログ文書集「21世紀日本社会のための大学教育改革の提案」
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/04/blog-post_6795.html


12月8日、誤字訂正

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