二つの災害要因としてのグローバリゼーション
三石博行
1、21世紀型の二つの災害
Covid-19パンデミックが起こった時、私はこの感染症災害は21世紀の社会の在り方を問いかける課題だと思った。そしてロシアのウクライナ侵攻が起こった時、こんな戦争 (他国を武力で侵略し領土を奪い取る帝国主義の植民地戦争)がこの21世紀に起こるのかと思った。しかし、良く考えると、核攻撃を辞さない侵略戦争とそれに怯えるNATO (ウクライナへの軍事支援をしながらも)の軍事的スタンス、情報戦、電子戦、ドボット兵器 (ドローン)、宇宙空間からの監視や軍事情報等々、この戦争はまさに20世紀型でない新しい戦争(21世紀型の)の姿をしていた。
また、Covid-19パンデミックはコロナウイルス(RNAウイルス)を病原体とし人々の基本的な生活経済活動、つまり人と人との接触(コミュニケーション)によって感染拡大する、自然要因と人工要因のハイブリッド型災害であり、21世紀社会経済がグローバリゼーション(世界規模の経済文化コミュニケーション拡大)によって進展している現状に最も関係・関連した災害である。
さらに、ロシアのウクライナ侵攻つまり戦争は、戦禍に苦しむ人々の立場から観れば、国家が起こす災害(軍事的外交政策という人工要因による)と解釈できる。つまり、広義の災害概念に戦争を入れることが可能だ。
二つの災害の共通項 グローバリゼーション
また、ロシアがウクライナ侵攻(軍事的外交政策)に踏み切った理由の一つに、ロシアの果たす国際経済上の立場がある。ロシアは小麦の輸出量は2019年では世界第一、2021年では世界第二である。また、原油生産量ランキング(OECD版)ではロシアは世界第一(原油輸出量は世界第二)であり、天然ガス(埋蔵量世界第一)輸出量では世界第一(2013年)である。
EUは全エネルギーの約40%をロシアの石油や天然ガスに依存している。この現実から、ロシア・プーチン政権はEUの経済的弱点を突くことが出来た。つまり、21世紀の社会文化はグローバリゼーションによって発展し続けている。経済グローバリゼーションの中で、ロシアはEUに対してエネルギー供給国の役割を果たしてきた。EUはロシアから石油や天然ガスをより安く購入するためのパイプラインをロシアと共に建設してきた。
EUの経済基盤としてロシアからの石油は天然ガスは不可欠な要素になっていた。言い換えると、ロシアはEU経済の土台を支えていた。もし、この土台が崩れるなら、EUの経済は成り立ったないことを理解していた。それは、ロシアがウクライナ侵攻をしても、EUが真正面から対立しないだろうという解釈を与える理由になり得た。そして、実際、ロシアは2022年7月になってドイツへの天然ガスの輸出を中止した。
21世紀の社会経済はグローバリゼーションによって発展すると信じていた我々は、Covid-19パンデミックによって、これまで構築してきた国際的生産拠点の分業化・サプライチェーンが新型コロナウイルスによって脆くも崩壊してしまったのを目の当たりし、また、ロシアは経済グローバリゼーションの流れの中で構築し続けて来たEUへのエネルギー供給者の立場を逆手に取って自国の軍事的外交政策 (ウクライナ侵攻)の手段にした。
つまり、Covid-19パンデミックは市場経済主義(新自由主義経済)によって発展してきた国際経済関係の弱点を私たちに知らしめた。ポストパンデミックで問われる課題として現在のグローバリゼーションの在り方が問われるだろう。また、ウクライナ侵攻はグローバリゼーションによって構築された経済関係を逆手に取って戦争の道具にされることを示した。
3、市民参画型ローカリゼーションとしてのポスト新自由主義的グローバリゼーションとは
当然のことだが、Covid-19パンデミックが終焉し、またロシアのウクライナ侵攻に対して国際的な和平が成立した後に、これまでの世界・国内経済を推進してきたグローバリゼーションの在り方が問われるだろう。例えば、これまでの安全保障の在り方が抜本的に再検討されるだろう。
例えば、安全保障の需要課題は軍事だけではない。つまり社会、文化、経済、エネルギー、防疫、医療、食糧、人口構成、社会政策、福祉、先端科学技術や教育等を含む総合的安全保障の概念が求められるだろう。それらの安全保障の概念は国家や社会(市民社会)の安全学(防災学)と関係して検討、発展、展開されるのではないかと思う。
これまでの経済文化の発展の原動力であった新自由主義的グローバリゼーションの何に問題があり、どのように変革すべきなのか。今後問われる課題の一つとして、グローバリゼーションとローカリゼーションの両立がある。どのような経済思想や政策をグローバリゼーションの前につけることによって、グローバリゼーションとローカリゼーションの両立、つまり、豊かな市民社会、民主主義社会と経済や文化のグローバリゼーションが調和するのか。その課題が具体的な地域社会の文化経済の発展をテーマにした社会実験(市民参画型ローカリゼーション)の中で試されるのではないだろうか。
参考資料
1,OADA「小麦の消費・輸出・在庫動向のデータを世界の主要な国・地域別に解説」/a>
2,世界ランキング 国際統計格付センター 「ロシアの基本情報」/a>
3,【ESGコラム】ロシア依存からの脱却が再生可能エネルギーに与える影響/a>
4,「脱ロシア」がそう簡単には進まない理由/a>
5,施 光恒「理想的なポスト・グローバル化によって、国家と個人を幸せな時代へ向かわせる」
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6,施 光恒 「ポストグローバル化に向かう世界とナショナリズムの意義」/a>
facebook 記載 2021年7月16日
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