21世紀の国際社会構図形成の前哨段階としての米中経済戦争
三石博行
米中貿易戦争の彼方に何が見えてきたのか
米中二国間貿易収支の差、米国の対中貿易赤字をめぐって米中貿易戦争が起こったと理解した。しかし、この米中貿易戦争が示す課題は、大きく変貌し、その本題を露呈しつつある。つまり、それは、21世紀の世界、高度科学技術文明社会、国際化する経済や社会の在り方の課題である。
問題は、はじめ、トランプ米国大統領が主張した貿易収支の是正をめぐる課題から始まった。米国は、中国政府や企業が行っている海外提携企業への技術移転や公開制度の課題へと転化し、不平等な競走条件を指摘した。そして現在、米国の攻撃は中国の先端企業の国際化、取り分け中国のハイテク企業が展開しているIT国際インフラ事業・ITプラットフォームの中国化に向かっている。つまり、米国は、21世紀社会の脅威として中国を捉え、その対応・阻止へと問題を展開しているのである。言い換えると、これが米国の対中貿易戦争の本題であった。
新自由主義に基づく金融資本主義経済と国家統制経済主義による国家資本主義経済の二つの資本主義の対立
そこで、米中貿易戦争とは、高度科学技術文明社会・21世紀国際社会での二つの資本主義国家間の政治経済覇権闘争であることを明確に構図化しつつある。その特徴を以下、4点にまとめて挙げてみる。
一つ目は、この貿易摩擦の歴史的構図である。G7を代表する先進国は新自由主義に基づく金融資本主義経済を基本路線としている。しかし、新興国家、発展途上国や後進国では迅速な経済成長を実現する国家統制経済主義による国家資本主義経済を基本路線としている。つまり、米中貿易戦争・米中経済戦争とは、先進国型金融資本主義経済国家群と発展途上国型国家資本主義国家群の経済戦争の前哨段階を意味する。
二つ目は、この貿易摩擦を構造化している非妥協的な要素についてだある。つまり、米中の貿易戦争では、両国間に異なる自由貿易主義の解釈が存在している。中国の主張する自由貿易とは関税の撤廃である。しかし、米国のそれは特許権の保護や国家の企業経営への介入をめぐる課題、つまり中国の国営企業と欧米の民間企業の不平等な関係を指摘する課題である。欧米日企業からすると中国企業は国家によって過大にサポートされており、両者間には平等な競争条件が初めから存在しないという指摘である。その意味で、平等な経営条件を持たない両国の企業間には平等な競争関係が成立していないという考え方である。
三番目は、この二つの資本主義国家の経済構造が世界的な視点で観るなとどう評価されるか、もしくは二つを代表する勢力についての分析である。つまり、それらの二つの国々の間には異なる経済保護主義が存在している。新自由主義・金融資本主義経済国家群では、そこに所属し拠点を置く多国籍企業や国際企業がある。それらの企業は中小国家一国を超える財政力を持ち、またその所属国家にも必ずしも正当な納税義務も果たしていないのが現実である。しかし、それらの企業を擁護するためにG7を代表する先進国家連合では関税撤廃、自由貿易主義を主張してきた。他方、G20を構成する新興国群では、より安価な労働力や国家資本主義経済によって国際競争力をつけてきた。これらの国々、中国を代表とする国家資本主義経済国家群では関税によって貿易収支の赤字を防ぎながら、一方においては自由貿易によって国際収支の黒字を導いている。保護貿易主義や経済保護主義の立場から観れば、両方の国家群で、それぞれの段階によって、異なる貿易や国際経済政策が取られている。
最後にこの貿易戦争が向かう方向について述べる。20世紀型の国際経済覇権国家・米国の立場は、主に以下の3つ特徴をもっている。つまり、第1番目は、第2世界戦争後、そして東西冷戦終結後の国際的に唯一強大な軍事力を持つ国家として君臨してきた。第2番目は自国の通貨ドルを準国際通貨として世界金融資本システムを構築してきた。第3番目は、インターネットに代表される国際情報インフラを支配し、そのインフラに基づく、IT産業、ITプラットフォーム企業を独占してきた。この三つの要因によって、国際政治と経済の覇権を続けてきた。
新二つの資本主義国家群の国際的対立と日本・東アジア
しかし、21世紀になり、中国が新たな経済システム・国家資本主義経済体制を確立し躍進してきたことによって、米国一強時代は終焉を迎えようとしている。同時に、この米国の状況がトランプ政権に代表される「アメリカ第一主義・米国一強主義を維持するための経済政策」を展開している。それは、20世紀型の国際社会での米国一強主義ではなく、米国の国内経済中心主義による相対的な米国の経済強国や軍事強国への転換である。
米国は、これから何を優先しながら、外交を行うか、そのことが問われるだろう。21世紀の国際社会で進む新興国家や発展途上国の経済政策、国家資本主義経済国家の戦略に対して、どのような外交と内政を行うだろうか。また同時にそのことは、国家資本主義経済政策の産みの親であった日本、その政治経済政策によって導かれた近代日本の正と負の歴史、それを踏まえて出発した戦後民主国家日本の歴史、ポスト国家資本主義経済から新自由主義経済への変換を行った現在の日本の政治経済政策も同時に問われるだろう。
米中貿易戦争と日韓問題、そして香港や台湾での市民運動の本質を理解しなければならないだろう。つまり、東アジアでの政治経済強国中国の形成や先進国家としての韓国の台頭が今後の日本経済や社会に及ぼす影響と、日本の在り方を考えなければならないだろう。つまり、現在の日韓問題を考える時、米中貿易戦争の基本的な課題を前提にした考察が必要となるだろう。その意味で、日本や韓国の両方に側にも、そうして視点で問題を考え、また日韓関係を現実的な視点に立って解決し、中長期的視点に立って両国の関係を模索する意見は少ないように思える。
2019年9月11日 ファイスブック記載
つづく
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