課題解決を両政府間に任すことの限界
三石博行
5-1、「韓国併合」か「朝鮮半島植民地支配」か
現在の日本政府が「1910年の韓国併合は国際法上合法であった」と言うのなら、現在の日本政府は戦前の日本政府の政治的立場と同じであると言える。しかしながら、戦前の日本政府は大日本帝国憲法の下で機能しており、戦後の日本政府は日本国憲法の下で運営されている。その点で、戦後の日本政府と戦前のそれは政治的理念の全く異な政府である。その意味で、厳密には現在の日本政府が「1910年の韓国併合は国際法上合法であった」としか解釈しないのは、現在の日本政府にとっては日本国憲法の理念に反しているとしか言えない発言ではないだろうか。
しかし、現在、日本政府は1910年から1945年までの朝鮮半島の植民地支配を「韓国併合」と呼んでいるし、それが国際法上合法であったと言っている。それは韓国・朝鮮の日本による植民地支配と言う解釈と全く相いれないだろう。そして、1965年に日韓基本条約が締結したと言っても、日本と韓国は日本による1910年から1945年までの朝鮮半島の日本の支配に対する異なる解釈を前提にした状態で日韓基本条約を締結したと言うことになる。
日本への併合という考え方は、例えば琉球王国(15世紀から19世紀)が1879年に沖縄県として日本に併合されたという事と同じような意味になる。琉球・沖縄では日本語方言である沖縄方言・沖縄語が使われている。琉球は大陸中国と日本の間に位置する島嶼地帯で文化や社会制度に関しては大陸中国文化に影響を受けて来た。1609年から薩摩の侵略を受けて薩摩による琉球の実効支配が続いた。そして、1872年の琉球藩設置や1879年の沖縄県設置に至る琉球処分と呼ばれる明治政府により琉球が強制併合された。琉球処分によって450年続いた琉球王国は滅亡し沖縄県として大日本帝国に併合された。併合と言う概念には、以前にあった国が日本国の一部になることを意味する。琉球と日本とが言語的にも同じ文化圏に属すること、また併合まで260年以上も薩摩の支配下にあったことが、併合の意味の背景にある。
しかし、朝鮮半島は日本古来の伝統文化圏にも言語圏にも併合できない。全く異なる言語や伝統文化、社会政治システムを持つ朝鮮半島に対して併合という文字を使うことは無理がある。日本が朝鮮半島を併合すると言うことは朝鮮半島支配を支える日本神話に代表される観念形態(イデオロギー)を確立すること、天皇家を朝鮮半島の人々の象徴的先祖として理解すること、朝鮮語は日本語方言であると解釈すること等々、かなり無理な解釈を前提にしてしか成立しないのである。また、こうした解釈を朝鮮半島の人々が受け入れる筈がない。
朝鮮半島の人々にとって、1910年の韓国併合とは日本帝国による朝鮮半島植民地化であるとしか解釈されないだろう。事実、1965年の「日本国と大韓民国との間の基本関係に関する条約」(日韓基本条約)でも、1910年の「日韓併合二関スル条約」による韓国合併を国際法上合法とする日本政府の考え方と国際法上違法とする韓国との考えが対立したまま、日韓基本条約が締約されている。つまり、日韓基本条約によって日韓間の基本的な問題である36年間の韓国併合・日本帝国による朝鮮半島植民地化に関する歴史認識は異なったままの状態である。
日本政府は1910年の韓国併合は国際法上合法であったと説明している。当時の列強国、つまり植民地支配をしていた国々の立場から言えば、日本政府の言い分が成立するだろう。しかし、今日の国際社会の視点に立ってば、日本政府の解釈に異論が生じるだろう。もし、日本政府が「1910年の韓国併合は、植民地支配を行っている当時の列強国家の視点に立った国際法の解釈では合法と言えたが、今日の国連を中心とする国際社会の視点に立って解釈するなら韓国併合とは朝鮮半島植民地化を意味し、国際法上合法と解釈するのは無理があると言える」と言えば、現在の韓国との解釈とあまり矛盾することはない。
確かに、現在の日本政府は戦前の日本国とは国家の基本理念・憲法が異なる。しかし、それ故に、現在の日本政府は戦前の日本政府の犯した国内的及び国際的な人権侵害や戦争行為、植民地化政策に対する反省とそれによって生じた被害への責任を果たすこと、つまり補償をしなければならないのである。それが、日本政府は1965年「日本国と大韓民国との間の基本関係に関する条約」(日韓基本条約)の締結の原則であったはずである。
日韓関係の基本課題とは日本と韓国の間にある日本による朝鮮半島の植民地支配の問題(1910年から1945年まで続いた韓国併合問題)である。韓国併合という呼び方は日本の側からの歴史解釈を前提にした名称である。韓国や朝鮮の立場に立つなら、併合ではなく植民地支配である。まず、植民地支配か日本への併合かという視点からもこの歴史に対する解釈が異なる。
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