震災に強い国を作る(2)B
三石博行
人的交流の意味
国は罹災地の支援のために全国の都道府県市町村に対して地方自治体職員一万人の支援要請を行った。既に阪神淡路大震災や上越沖地震を経験した自治体から職員が派遣されて、罹災地の各市町村の自治体職員と罹災者救援や復旧作業に従事している。
災害を経験していない自治体から職員を派遣することは、やはり重要なことである。何故なら、派遣された自治体の職員の罹災地での救援や復旧活動の経験を通じて、派遣した自治体は今後予測される災害に対する対策を検討する場合、実際に罹災地での活動を経験した職員がいることによって、より具体的なそして効率の高い対策を検討することが可能になるからである。
実際の災害現場に立会い、罹災者住民救済活動を通じて、自治体職員たちは行政サービスの原点に立ち戻ることになるだろう。つまり、行政は住民の生活を守るためにある社会機能である。災害直後に住民から要求される課題は、生命や最低限の生活条件の確保である。その要求に対して、形式的な対応は許されないだろう。誠心誠意をもって要求を受け取ることが職員に求められるだろう。その経験は、必ず正常時の仕事にも活かされるに違いない。
住民情報の安全管理体制
今回、三陸地方の市町村の住民台帳が津波に流された。すでに阪神大震災で経験したこの重大な自治体の情報管理に関する対策が議論されてきた。そして、関西では殆どの市町村が、住民台帳を含める自治体の貴重な情報を他の自治体と共同管理するシステムを取り入れている。
このシステムは、大手新聞社などではすでに取り入れられ、例えば東京本社と西日本本社で新聞データの相互保存がなされて来た。それと同様に、二つの自治体が相互に住民情報等を相互管理するシステムを取り入れている。これは、自治体としての最低限の住民情報の安全管理である。
今回、津波で多くの市町村の住民台帳が流され、行方不明者の名簿はもとより、生存者確認の作業に大きな支障を来たしたと聞いて驚いた。阪神淡路大震災時に罹災自治体の経験が全国化していなかったことがその原因である。本来、こうした問題は自治省が指導すべき課題である。しかし、もし自治省が指導したとしても、その切実な必要性を感じなければ多額の費用を必要とする住民情報の安全管理体制作りを先延ばしにする可能性もある。
その意味で、災害救援のための自治体ネットワークが形成され、罹災経験のない自治体から職員が派遣されることによって、災害時の救援体制のみでなく、災害への安全管理に関するシステム作りの必要性やすでにシステムを持つ自治体職員との交流を通じて、具体的な対策を考える契機となるだろう。
災害時相互応援協定締結の意味
今回、三陸地方の市町村でも災害時に近隣の自治体との災害時相互応援協定を締結していた。しかし、今回の大震災では同時に近隣の自治体も被害を受けることになった。それでこの災害時相互応援協定は十分に機能を発揮することは出来なかった。阪神淡路大震災にしろ、そして今回の東日本大災害でも、大災害に襲われた地域では必ず近隣広域の自治体機能が停止する。
そのためには、近隣のみでなく他府県の、しかも複数の自治体との災害時相互応援協定が必要となる。例えば、福岡県京都郡苅田町では遠隔地の自治体との災害時の相互応援体制を作るために「市町村広域災害ネットワーク災害時相互応援協定締結」に参加している。(1)
「市町村広域災害ネットワーク災害時相互応援協定締結」に基づき、自治体職員は遠隔地での罹災地での活動を行うことになる。罹災地では役場、市役所の機能は麻痺している。職員も罹災し、中には家族に犠牲者が出た人もいるだろう。これが現実の罹災状況である。その中で、自治体職員はボランティアの力、罹災した市民の力を活かす能力が求められる。つまり、自分達が抱え込み罹災者を救済するという正常時の判断から、みんなで力を合わせて、どんな些細なことでもお互いに協力し合い、困難に立ち向かう姿勢と状況に合わせて臨機応変に行動力する技術が問われることになる。
日本は頻繁に災害がある。災害救援のための自治体ネットワークが形成され、常時そのネットワークシステムが機能することで、各自治体は遠方の罹災地に職員を派遣することになる。そのことによって、それぞれの自治体の職員は罹災地での危機管理や住民救済活動を多く経験する。それらの経験を通じて、自治体の危機管理を行える人材が育成されるのである。
参考資料
(1) 福岡県京都郡苅田町ホームページ 「市町村広域災害ネットワーク災害時相互応援協定締結」
「平成21年1月13日、大阪府泉大津市において、市町村広域災害ネットワーク災害時相互応援協定を締結しました。参加団体は苅田町、行橋市、大阪府泉大津市、滋賀県野洲市、京都府八幡市、兵庫県高砂市、奈良県大和郡山市、和歌山県橋本市、高知県香南市の8府県の9市町で、いずれかの自治体が大規模災害に遭った際、同一被災の少ない遠方からの物資支援や職員派遣などで支え合うことを目的としたものです。」
http://www.town.kanda.lg.jp/oshirase/00722.htm
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ブログ文書集 タイトル「東日本大震災に立ち向かおう」の目次
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/03/blog-post_23.html
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2011年4月13日 修正(誤字)
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