2013年6月8日土曜日

「文理融合と社会デザイン」と5つの政策実践(セッション)課題

政治社会学会(ASPOS)の2013年度大会の課題について(2)


三石博行


2013年度の政治社会学会総会及び研究大会は11月16日(土曜日)から17日(日曜日)の二日間、大阪府吹田市の千里金蘭大学で開催されることが決まった。2010年度(設立大会)から2012年度までの研究大会のテーマは「文理融合と人間社会科学の再生」であった(1)。

この三回の研究大会を踏まえながら、今回(第四回)の大会から「文理融合と社会デザイン」を研究大会のテーマに掲げた。今回はその第一回目の研究大会となる。この研究大会では、5つのセッションを設けた。以下、それらのセッションの課題に私の考えを関して述べる。


セッション「社会デザインと政策実践」

昨年の学会でセッション「プログラム科学とは何か」で設計科学としての政策学の方法論に関して議論した。文理融合型の研究は当然、問題解決に必要なあらゆる専門知識や技術を導入する学祭的プラグマティズムがこれからの政策学に求められている。

文理融合型政策実践の課題を展開するために、基礎理論を課題にした議論から、実際の政策実践の課題に焦点を合わせながら、具体的な理論的検証をその中で進める議論が必要とされている。そこで、今年度は、基礎理論に関する議論から一歩出て、その理論が現実の政策実践に応用可能なのかを検討したい。

これまでこの学会では、政策学を人間、文化や社会経済に関する設計科学、「社会デザイン」科学と位置づけてきた。そして、有効な「社会デザイン」を展開する科学、つまり政策提案や実践に関する検証作業、例えば、地域医療問題(医療政策という社会デザイン問題)、食糧問題や水問題を解決する社会デザイン(農業、環境、地方文化や産業、少子化政策)、脱原発・エネルギー政策と社会デザイン等々の課題に有効な「社会デザイン」論に関する議論を呼び掛けたい。


セッション「社会デザインと民主主義」

昨年の学会のセッションで、福島原発事故に関する議論を行った。この議論で指摘されたことは、技術的問題、エネルギー政策、原子力政策を進めるための制度上の課題があるということであった。一般に「原子力ムラ」と呼ばれる利権集団が形成され、技術的な安全問題、エネルギー政策上のリスク等々があったとしても、つまりこれまで原発事故、高速増殖炉や核燃料サイクルの失敗が続いてきたとしても、それらの事実を隠ぺいし、それらの問題を指摘し批判する人々を排除し続けてきた組織の在り方、人々の考え方、社会の在り方が問われなければならない。

福島原発事故問題が示す課題は、原子力政策を進める制度によって形成された「原子力ムラ」の利益集団と呼ばれる社会文化現象を徹底的に解明し、その構造が、実際は日本社会全体の構造問題として存在していることに気付く必要はないだろうか。

今、今後の日本社会の在り方が議論され、例えば、憲法改正の課題が議論されるようになった。この社会文化現象は評価すべきものである。国民が自らの国や社会の在り方や運営の仕方を議論し、自らの責任でそれを選ぶことは決して悪いことではない。そこで、この議論が国民のものとして位置付けられ、国民的議論を通じて、国民主権、民主主義社会の文化がさらに深く根付くかどうかが最も注目されるべき点である。

つまり、現在の日本社会で問われる課題は、すべてと言っていいほど「民主主義の在り方」にたどり着く。具体的な例を挙げれば切がない。「差別」、「暴力」、「いじめ」、「金融マフィア」、「少子化問題」、「子育て問題」、「女性の権利」等々、つまり、それらの社会文化現象の根底にある「秘密主義」、「官僚主義」、「学閥主義」、「学歴偏重」、「利権集団」、「多様性の排除論理」、「多様性排除」、「他者への差別」、「既得権益の維持」等々の社会構造の体質が挙げられる。

しかし、同時に、民主主義文化を発展させる運動や組織運営方法がある。例えば、「市民参画型運営」、「情報公開型」、「平等主義と役割機能主義」等々が挙げられる。これらの民主主義文化を構築する要素を取り入れた「社会デザイン」の設計が求められる。例えば、自然災害や社会災害に対する安全管理や危機管理体制、また復興計画や都市計画に至るまで、社会デザインの課題には、その最終構想のみでなく、その構築過程の設計図が求められているのである。

例えば、成田国際空港建設事業にみられるように、民主主義に基づく社会デザイン計画の手続き(一方的な立ち退き命令を出すという手段は民主主義国家の在り方と反する)が欠如することで、結果的には空港建設は大幅に遅れ、現在でも完成していない。その損失を考えると、社会デザインにとって民主主義的合意形成の果たす経済性が理解できるだろう。

セッション「教育と政治社会」

教育は百年の計と言われている。明治以来の国民国家の形成、近代化政策を進めることが出来たのも、また、それ以前の江戸時代の教育制度がなければ、明治維新や明治近代化政策も存在しなかったと言える。その意味で、今日の日本社会を形成構築した政策の一つに教育政策がある。

社会が大きな変革を迎える時期に、教育制度や政策が問われる。封建社会から近代国家への過渡期に国民教育制度が生まれ、また戦前の天皇制議会主義社会から戦後の国民主権国家への移行期に、民主主義教育が形成された。そして、今、我々が教育制度や教育政策を見直そうとしていることは、ある時代が終息し、新しい時代が生まれようとしているのだとも予測できる。この新しい時代と社会に最も適した人材育成を社会は教育改革の名のもとに実行しようとしている。

前記したように政治社会学会の目的を謳った会則第2条に「科学技術の著しい発展、地球温暖化問題の発生、グローバル化の急速な進展」等々、日本の政治社会や市民生活は、「これまで経験したことのない事態に直面し、さまざまな問題解決を迫られている」。その意味で、これらの教育はこれらの新しい社会や生活環境に必要とされる政策、制度や内容を求められている。

例えば、
1、国際化社会に適した人材教育(英語教育、PBL、国際教養学部、講義の英語化等々)。
2、すでに、学会指針の三本柱の二つ目の課題に挙げられているのが「リベラル・アーツの再検討と人文社会科学再生への道」、つまり科学技術文明社会で生産・消費・生活者の生き方に役立つリベラル・アーツの内容(人文社会系の入試内容の変更、理数系科目の補習教育等々)。
3、成熟した民主主義社会を発展構築する人材教育(市民運動、NGO、NPO、企業の教育参加)。
4、国際地域の安全と平和的共存に寄与できる人材教育や東アジア共同大学院制度の構築
5、先端産業への人的資源補充機能(実践的な社会人教育制度、専門資格検定制度)、
6、地域社会の活性化を支援する教育体制、
等々、幾つかの課題が簡単に列挙できる。しかし、これ以上に多くの課題が山積していることは言うまでもない。

また、「教育と政治社会」では、前記した「社会デザインと民主主義」の課題、つまり成熟した民主主義社会への形成過程で具体的に問われる課題、例えば、少子高齢化問題、教育政策や教育問題(いじめや高等教育問題)、医療政策、エネルギー政策、安全管理や危機管理政策、過疎化対策、地域経済活性化対策、異文化・異世代共生社会構築の課題解決で問われる「教育制度」や「教育政策」を取り上げる必要がある。


セッション「生態環境と政治社会」

20世紀後半、地球温暖化や生態環境問題を解決するために文理融合型の政策提案や実践が課題となった。この政治社会学会は設立当初から生態環境保全のための政策実現を課題に挙げて、研究活動を展開してきた。

2010年11月の政治社会学会設立記念研究大会ではセッション「理系と文系の研究者の協働による学際研究を目指して -地球研オアシスプロジェクトにおけるパイロット的事例」で「総合科学としての地球環境学」に関する報告があった。

2011年3月11日の福島原発事故の半年後に開催された第二回政治社会学会研究大会は、東日本大震災を受けて災害復旧や今後の減災への議論を深めるために関連する学会が連携し設立した学会連携・震災対応プロジェクトと連携して研究大会が企画された。そして、特別講演(総括)(「パラダイム・シフト-グローバル市民社会と新しい公共を目指して-」)、二つのセッション(「東日本大震災と日本経済・地域経済・政策決定」と「福島原発事故を考える:広島・長崎・チェルノブイリの経験から」)、二つの共通論題(「地球環境コンソーシアム構想:『国際社会の知』の形成に向けて」と「自然科学と社会科学における歴史的アプローチの異同」)と大会の5つのプログラムを生態環境と政治社会の課題が占めた。つまり、東日本大震災・福島原発事故に関する生態環境と政治社会のテーマで第2回研究大会は行われ(た)と言える。

前回、第三回目の研究大会では「生態環境と政治社会」の課題は、二つのセッション「自然科学と社会科学の歴史的アプローチの異同:パートⅡ」と「福島原発事故調査をめぐる自然科学と社会科学」、そして北澤宏一先生の基調講演「福島原発事故に学ぶ-これからの日本のエネルギーと科学技術-」が生態環境と政治社会のテーマに即して企画された。

今回、第四回研究大会は、これまでの政治社会学会が推し進めてきた「生態環境と政治社会」のテーマを継承しさらに発展させたい。つまり、持続可能な生態環境を確立するために問われる政治社会制度や政策に関する議論が必要である。それらの議論を地域社会での政策実践やまたこれからの資源、エネルギー、食糧、農業問題に関する政具体的な策提案や政策実践の検証作業として展開できないかと考えている。


政策提言型会員公募セッション

政治社学会では、昨年(第3回研究大会)から、若手研究者の研究発表の場を提供することを目的にして「政策提言型会員公募セッション」を開催してきた。このセッションでは、研究大会のテーマ「文理融合と社会デザイン」に関する幅広い研究発表を募集している。

昨年の研究大会でも、多くの募集者が集まり、その募集者の中からセッション責任者(新川達郎先生)によって研究発表者を絞って、研究発表を依頼した。今年は、昨年の反省に立って、応募した研究発表課題を、昨年と同じくセッション責任者(新川達郎先生)によって予め発表者を選別することになる。

しかし、発表できない応募者にはすべてポスターセッションでの発表の機会を与えることになる。できるだけ多くの若手研究者に研究発表の場を提供するために、今年からポスターセッションでの発表の機会を提供することになった。


問題解決を課題とする学会活動を目指す

以上、第四回研究大会のテーマと「文理融合と社会デザイン」の意味と課題について述べ、その課題を展開するために準備した5つのセッションの趣旨を説明した。

この「学会テーマとセッション課題について」の議論はこれまでの企画委員会や理事会の議論に基づき書かれたものである。この文書を、企画委員、理事会のメンバーとセッション責任者に配布し、研究大会のプログラムをより具体的に進めたいと希望する。

また、基調講演者への依頼を行うにあたって、大会テーマの意味とセッションの趣旨を説明することで、今回の大会テーマに沿った講演テーマのお願いが可能になる。そのために以上の文章を作成した。

そして、時代の問題を常に取り上げ、その問題解決のために、すべての学問、技術、企業、行政、政府機関、国際機関、市民活動のすべての社会、経済、政治、文化、生活領域を超えて取り組む姿勢を示し、実践する学会、政治社会学会の今後の展開に寄与する第四回研究大会であることを期待したい。


引用、参考資料

(1)、 三石博行 「 政策科学の方法と実践的課題 「文理融合と社会デザイン」-政治社会学会(ASPOS)の2013年度大会の課題について(1)-」
http://mitsuishi.blogspot.jp/2013/06/blog-post_6.html

(2) 政治社会学会(ASPOS)ホームページ
http://aspos.web.fc2.com/

(3) 第三回政治社会学会総会及び研究大会プログラム
http://aspos.web.fc2.com/20121123-25aspos3.pdf

(4) 第三回政治社会学会総会及び研究大会報告要旨集
http://aspos.web.fc2.com/20121123-25abstract.pdf


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