民主主義と報道機能(6)
三石博行
国民主権による公共放送の社会情報機能を確立するためには、多くの課題を検討しなければならない。その一つが財政問題である。つまり、国民による国民のための報道機能であるなら、国民がその経営責任を持たなければならない。しかし、現実はどうなのだろうか。
NHKは国民からの放送料金を半強制的に受取り、その受信料金で運営されている。しかし、受信料金を回収できない状態である。その主な理由の一つとして、国民にとってNHKが自分たちの(国民の)ためにあり、国民によって運営されている報道機能(公共放送)であるという意識が希薄であることが挙げられる。また、NHKは国家からの補助金(交付金)を受けている。この交付金によって、公共放送が国、取り分け官僚からの縛りを受ける可能性を否定出来ないだろう。
日本国憲法が施行され、国民主権・民主主義制度が始まったとしても、NHKの官僚的体質はその歴史に付着している脱却困難なしみのようなものである。NHK,日本放送局が国家の報道機能として発足したのである限り、その歴史的な履歴をそう簡単に消し去ることはできないだろう。しかし、その官僚的な考え方を率直に述べることは出来なくなっている。それだけに受信料を支払う国民からの厳しい監視の視線が存在していることを自覚しているのである。
しかし、そのしみついた官僚的風土はそう簡単にはなくならないだろう。そして、その官僚的体質は、NHKが国民から当然のように受信料金を回収できること、国民は義務として受信料を支払うべきと考えるところに露出しているのである。つまり、この国民の義務としての受信料観は、受信料徴収と受信料によってNHKの運営が成立していることとが分離していることを意味していることに気づかないのである。そこには、過去の遺産、官僚的体質からにじみ出る論理、つまり国家(お上)対する国民の義務として受信料の支払いが疑問の入る余地のない強制的な事項となって成立しているのである。
受信料を受信者から回収して成立している民間放送局がある。それらの放送局にとって受信者はお客様である。そこで受信者のニーズを知らなければ、その放送局は成立しない。当然、顧客の需要を理解しない民間企業が経営難になるように、受信者のニーズを理解しない民間放送局は経営に苦しい状態になるだろう。しかし、NHKは国民から受信料を取りながら、国民のニーズを大切にする姿勢を持っているだろうかという厳しい意見が出されるだろう。
何故なら、民間では顧客はその放送を見るか見ないかの選択権がある。その意味で民間には市場原理が働く、しかし、NHKは強制的に受信料を取るために、言換えるとNHKにとって国民は顧客ではなく受信料を義務として支払う人々であるた、めに、NHKの番組を見たくない人々、まったく見ない人々も、受信料を払わなければならないことになる。その分、NHKへの意見も厳しくなるのである。離れるからだ。しかし、NHKは受信料を払っている
受信者のニーズに答えず受信料金を一方的に請求する公共放送への批判が、公共報道機能を民営化し他の報道機能と競合関係を作り、市場原理に基づく報道産業化によって民意を反映させようという意見が2005年に生まれた。この民営化の意見は当時の小泉内閣によって打ち出された「聖域なき構造改革」とNHKの不祥事の発覚による受信料不払い運動が背景にあった。国民から支持されない公共放送のあり方が続けば、公共放送を廃止する極端な意見へと発展する可能性を持っている。
社会的報道機能は公共放送に独占されている訳ではないが、国民が公共放送受信料の意味、つまり公共放送存在意義を理解しない限り、公共放送を民営化する動きは、行政改革や公共施設への競争原理の導入という資本主義社会の正論を盾に登場することは避けられないのある。
公共放送の運営のために国民から受信料を取るという作業の意味することを考えることによって、公共放送の存在意義が再検討される機会を得るのである。富国強兵制度を推し進めた日本の近代化政策の重要な一つの国民政策としての公共放送機能の形成、その結果としての統一国家としての近代日本の成立に大きな役割を果たした公共放送、日本放送局の歴史、そしてそれを牽引してきた国家官僚制度の一翼を担ったNHKの基盤体が、国民主権の理念によって変換される唯一の糸口がその受信料問題に端を発する国民的反発の感性の深層に存在しているからである。
参考資料
ブログ文書集「民主主義社会の発展のための報道機能のありかた」
1、民間報道機関の公共性と報道の自由の確立に必要な改革
1-1、「報道企業マスコミの本音と報道の自由」 2011年9月5日
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/09/blog-post.html
1-2、「私企業としての報道活動と電波伝達空間の所有権」
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/10/blog-post.html
1-3、「民間報道の報道の自由とその国民的監視機能の必要性」
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/12/blog-post_02.html
2、公共報道機関の必要性とその独自性を擁護するために必要な改革
2-1、国家の利益を擁護する情報機能としての公共報道の宿命
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/12/blog-post_527.html
2-2、公共報道機能の独立権の成立条件とは
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/12/blog-post_5219.html
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ブログ文書集
1、ブログ文書集「原発事故が日本社会に問いかけている課題」目次
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/06/blog-post_3562.html
2、ブログ文書集「東日本大震災の復旧・復興のために 震災に強い社会建設を目指して」の目次
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/03/blog-post_23.html
3、ブログ文書集「日本の政治改革への提言」の目次
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/06/blog-post_9428.html
4、ブログ文書集「21世紀日本社会のための大学教育改革の提案」
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/04/blog-post_6795.html
6、ブログ文書集「持続可能なエネルギー生産社会を目指すために」
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/11/blog-post_2842.html
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