福島第一原発事故検証(4)
三石博行
電源車の配置以外の可能性
NHKの「シリーズ原発危機 1回 事故は何故深刻化したのか」の番組(1)での説明によると、政府は3月11日21時3分に非常事態を発令した。この発令は全電源喪失(15時42分)から約4時間半、東電からの原子力災害対策特別措置法(原災法)15条に基づく特別事象の発生通知(14時45分)を政府(保安院)が受けてから約3時間半、17時30分に保安院の内閣に対する報告を受けて約2時間半後、21時3分に緊急事態宣言を行った。
3月11日21時3分、政府は緊急事態宣言に基づき対策会議を開いた。この会議に参加したのは、総理大臣、官房長官、副官房長官、総理大臣補佐官、経済産業大臣、原子力安全・保安院長、原子力安全委員会委員長、東電本社幹部(常務)である。
NHK番組では津波によって失われた原発の電源を確保するための電源車の手配が東電幹部(常務)から要請されたとなっている。総理大臣の指令によって政府は必死になって電源車を確保する。電源車は指令から1時間後 21時に一台目の電源車が配置された。そして近辺の県から次々に多くの電源車が現地に集まった。
しかし、電源車が来ても、電源車のケーブルプラグと原発の電源プラグが合わず、肝心なケーブルがつながらない事態が生じる。やっとケーブルが繋がったと思うや、今度は、冷却装置のポンプが動かないことが分かった。つまり、原発の電気系統が破壊していたのである。こうして右往左往している間に原発の全電源喪失から6時間の時間が経過した。
6月7日の毎日新聞によると、6月6日に保安院が第一号機のメルトダウンは「地震発生の5時間後に始まった」と発表した。(2)つまり、この6時間の経過によって第一号機でのメルトダウンがすでに起っていたのである。
対策会議で決定した「電源車の確保」に関して点検しなければならない。つまり、電源車の確保とは冷却装置の故障を前提にしていない。電源を確保すれば冷却装置は動くという前提に立っている。津波によって補助電源による冷却装置の故障が生じたのであって、地震によって冷却装置は壊れていないという前提に立っている。
この東電の判断となったものは何か。それはあくまでも予測に立った判断であったか。
緊急事態宣言から対策会議、その対策会議での意思決定・電源車配置、そして電源車配置から電源ケーブル接続に至るまでの経過を点検してみよう。問われる課題を以下に述べる。
1、東電幹部が「電源車の配置」を要請したのは、電源喪失の原因は補助電源の喪失によるものと理解していたからだろう。つまり、電源を繋げば冷却装置は動くという仮定のもとに、電源車の確保が緊急事態を解決するための第一課題に上がった。
2、ここで原子力発電に関する専門家である東電、保安院や原子力安全委員会は東電の提案・電源車確保に対して、それ以外の提案をしたのか、どのような意見を述べたのか。つまり、彼らは、地震によって冷却装置の破損を仮定し、電源車のみでなく冷却水の確保を提案したのか、対策会議での専門家(保安院や原子力安全委員会)の発言を詳しく検証しなければならないだろう。
対策会議のメンバーの専門性の点検
対策会議での緊急事態対応に関する検証課題を挙げるなら、事故発生の初動段階でメルトダウンという最悪の事故を防ぐことが出来なかったことに尽きる。まず対策会議が決定した対応が電源車の確保のみであった。それ以外の対策、つまり原発の電気経路の故障を想定することが出来なかった。その意味で、この地点ですでに対策会議の危機管理に関する甘い判断と重大な判断ミスがあったと言える。
その要因とは、地震と津波に襲われ、全電源喪失をした原発・最緊急事態の発生に対応するための対策会議の目的にあった、つまりこれまで経験したことのない重大な事故の発生に対応できる人材が居なかったとういことに尽きる。この点を決定的に検証する必要がある。
まず、対策会議に集まったメンバーは上記したが、その中で総理大臣、官房長官、副官房長官、総理大臣補佐官、経済産業大臣は事故対策に対する意思決定権を持つ政治家であるが、しかし原子力工学や放射能被曝の専門家ではない。彼らは、原子力工学関連技術分野の専門家である原子力安全・保安院長、原子力安全委員会委員長、東電本社幹部(常務)の意見を聞き、政治的判断を下すことになる。
つまり、経済産業省原子力安全・保安院、原子力安全委員会、東電本社が対策会議の中で唯一、原子力発電所の技術問題やそこで生じている原発事故に関する専門的知識を持つ人々であるとされている。しかし、その専門家たちの取った全電源喪失事故への対策は「電源車確保」のみであった。そして、その対策は見事に不十分であり、間違っていた。
最も重要な局面を検討した3月11日の対策会議に原子力発電施設・福島第一原発の構造やその事故の状況とそれに対する技術的専門知識を持っていると評価され参加していたメンバー、保安院長、原子力安全委員会委員長と東電本社常務の三名の判断が初動段階で間違っていたのである。この間違いは非常に重大であり、その原因を究明しなければならない。
対策会議に参加した技術部門の専門家である原子力安全・保安院、原子力安全委員会、東電幹部の原子力工学や放射能被曝に関する専門的な知識とスキルの点検が必要である。彼らが、今回の事故に対して正確な対応が出来る専門家であったかということが事態を解決するために非常に大切な要因であることは否定できない。
また、対策会議のメンバーが原子力災害対策特別措置法(原災法)等の法律に基づき形式的に決定されているのであれば、その法律や制度を検証しなければならないだろう。
参考資料
(1)NHKスペシャル「シリーズ原発危機 1回 事故は何故深刻化したのか」2011年6月5日
(2)毎日jp 毎日新聞 2011年6月7日 東京朝刊
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20110607ddm003040105000c.html
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東日本大震災関連ブログ文書集
1、ブログ文書集「原発事故が日本社会に問いかけている課題」目次
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/06/blog-post_3562.html
2、ブログ文書集「東日本大震災に立ち向かおう」の目次
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/03/blog-post_23.html
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2011年6月12日 誤字修正
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