2013年12月14日土曜日

日中の軍事的衝突は避けるために何をなすべきか(1) 

問われる日本外交


三石博行


問われる日本のアジア(東アジア)外交政策

中国が宣言した防空識別圏の設定によって、一挙に日中間の外交上の緊張が高まった。日本の防空識別圏は1955年に当時アメリカが設定していたものを引き継いだ形で設定されたものである。当時は日中国交どころか米中間では朝鮮戦争直後の軍事的緊張が存在していた。その意味で、アメリカの設定した日本の防空識別圏は東西冷戦時代を象徴する軍事的な意味合いの強いものであると言える。

それから半世紀以上の時代を経て、米中国交や日中国交が成立し、ソ連の崩壊と東西冷戦時代が終焉し、さらに中国の経済躍進時代が到来し、今日の世界第二の経済大国中国が成立した。そして日本も1960年代からの高度成長時代を経て1970年代後半には世界第二の経済大国となり、2000年に入り成熟した資本主義社会を迎えている。こうした時代的な変遷を前提にするなら、今回の中国の尖閣諸島の領土問題を代表する「海洋大国」の主張は少なくとも大国化した国家中華人民共和国のたどり着く歴史的必然の形態であるとも解釈できるだろう。

我国が問い掛けなければならない問題は、こうした大国中国の外交政策の変化に対するコメントではない。そのことに対する我国の外交政策の内容である。同じ外交上の課題は中国だけではなく先進国になった韓国に対しても同質の課題が存在していると言える。つまり、日本はアジアの唯一の大国でも、また東アジア一の経済大国でもない。この現実を受け止めた日本の外交政策が行われているかを問い掛ける必要がある。

これまでと同じ対中及び対韓外交政策を続ける限り、日本は東アジアでの国際政治的立場を失い、またその結果として経済的な損害を受けることは明確である。このより緊迫した外交上の問題を解決するために、取り組まなければならない課題はアジアに対する日本外交の姿勢である。アジア(東アジア)の諸国と共に、この国際地域の平和的共存、経済発展や文化交流や教育交流の発展を確立するために、それらの国々の一員として、共に考え行動する国際政策を提案し実行することである。日本がその指導的立場を取るという自国重心主義を超えて、この国際地域全体が平等に利益を受けるという立場を鮮明に宣言し、実行する政策を提案すべきである。

21世紀社会、つまり国際化した社会では、20世紀までの力の外交の時代に教訓化した負の財産(戦争という悲惨な外交上の失敗の経験)を活かし、新たな国際平和のための共存を目指す外交が問われている。特に、19世紀後半から20世紀に掛けて近代化の嵐が吹き荒れ急速な資本主義化(富国強兵化)を迫られ戦禍と植民地化に苦しんだ東アジアの歴史は同じく二つの悲惨な戦禍に破壊しつくされたヨーロッパとも共通する。その意味で、東アジアの今後を示唆する課題としてEU形成の歴史、その経験は大きな財産であると言えないだろうか。

日本の東アジア外交の方向、その基本路線を問い掛ける歴史的試練として、日韓中で繰り広げられている領有権問題へ真剣に対応すべきではないだろうか。この課題の解決の方向に、軍事的衝突か経済的発展かの二つの大きな未来の東アジアの外交結果が見えてこないだろうか。もし、軍事的衝突も避けられないと三国の国民(それに選ばれた政府)や国家の行政機能を動かす高官が思うなら、必ず、軍事的衝突が起こるだろう。もし、逆に何とかして軍事的衝突を避けたいと願うなら、この機会は今後の東アジアの共存のための試練石となるだろう。今、問われているのは日本外交の質であと言える。


日本政府の対東アジア政策はアメリカに支持されるだろうか

現在の自公政権(及び外務官僚)の対中外交政策、取り分け尖閣諸島領有権問題や今回の中国の宣言した防空識別圏に対する外交政策は、日米同盟による中国側への軍事的圧力政策である。当然、この政策は韓国が新たに設定した防空識別圏による日本政府との外交樹の摩擦問題の浮上によって、矛盾を抱えることになる。アメリカは対中関係に於いては原則として東アジアの最大の同盟国日本の立場に立つだろうが、緊密な経済的関係を持つ中国(米国債の最大の購入国)を徹底的に敵に回すことは不可能である。ましては、日本と同じ東アジアの軍事同盟国韓国に対しても日本の主張を一方的に押し付けることはできない。アメリカにとって東アジアが強烈に連携することも、また反対に強烈に敵対することも望んではいない。アメリカの真の狙いは世界一の経済力を持とうとしている国際地域での影響力を保持したいのである。

言い方を換えると、当然のことであるが、アメリカの東アジア外交の狙いは自国の利益を優先したものである。勿論、この論理は韓国、中国や日本も同様である。国家の利益を前提にしない外交政策はない。では何が国家の利益なのか。歴史的にこの回答は変化してきた。その回答は極めて単純に帰結されてきた。イギリスとアルゼンチンンが戦ったフォークランド島の領有権をはじめ、イラクのクエート侵略に対する国際社会の軍事介入にしろ、これまで、軍事力を持っても領土を守ることということが常識とされている。つまり、国家は領土に侵略する敵から国を守るという常識は誰一人として否定しないだろう。

この常識がある以上、尖閣諸島は竹島(独島)のような「国際境界領域」に属する島を巡り、紛争が繰り広げられることになる。そして今現在の、日本、韓国と中国のそれぞれの政府の外交方針の延長戦上には「軍事的諸突は避けられない」という同じ方向に進んでいると言える。つまり、この問題は必ずいつかまず日中間で軍事的衝突が発生すると両国の政治家や官僚達は理解している。そのために、中国では空海軍力の軍拡が進み、日本でも同じ方向の軍事力強化政策が進んでいる。

日本の場合には日米軍事同盟の強化という方向で、この事態を乗り越えようとしている。その日本の外交政策を同盟国のアメリカは否定することはできない。しかし、上記したように東アジアでの政治経済的に優位な立場を保持したいアメリカは東アジアでの小競り合いは歓迎するかもすれないが、本格的な軍事衝突は望んではいない。その証拠にアメリカは、弾道ミサイルをアメリカめがけて太平洋に打ち込み、核開発を続け、また自国の国民を拉致した北朝鮮(朝鮮人民民主主義共和国)に対して強硬な軍事介入しないのである。それは石油がないからという理由だけでなく、この地域ではすでの朝鮮戦争による国際紛争を経験し、中国やロシア(旧ソ連)を含め極めて地域紛争化することによって生じる国際地域的軍事的バランスの崩壊のもたらす外交上の損失を深くアメリカは理解しているからである。

アメリカにとって、経済大国化した中国や先進国となった韓国との関係は日米関係と同じように重要である。そのアメリカに対して、日本が求めている軍事同盟上の支援は、迷惑なものだと理解できないだろうか。もし、日本の政府や官僚がこのアメリカの国益を前提とした外交政策を正しく理解していないとすれば、今後の東アジアでの日本外交は大きく失敗することになるだろう。つまり、現実のアメリカの外交政策を理解し、その上で、日本の国益に合ったアメリカとの軍事同盟関係や経済関係を模索する必要がある。

最近の安倍政権の外交政策で評価できることの一つとしてロシアとの外交関係の改善をめぐる動きがある。北方領土問題を抱える両国の敵対的な関係を改善する動きは、領土問題を棚上げしてでも、両国の経済関係を強化する方向に進んでいると言える。もし、日本政府(政治家や外務官僚)によって積極的にロシアとの外交政策の転換がなされているなら、その転換の試みに今後の日本外交の未来を託したいと思う。領土問題を優先する外交政策から地域国際的共存を優先する外交の在り方が、今後の日本の将来に必要であると思うからである。

このロシアとの外交路線の選択をアメリカはどう見ているだろうか。もし、東西冷戦時代であればアメリカはこのロシア外交に口を挟んでいただろう。当時のアメリカが自国に敵対する国に同盟国である日本が外交上に緊密な関係を許したくはないと考えるのはまず国益を優先するアメリカにとって当然のことである。しかし、現在は、アメリカとロシアは東西冷戦時代のような軍事的緊張関係はない。また二つの勢力に国際社会が分断され、合争う国際関係もない。その意味で、日本のロシア外交に対してアメリカは20世紀と異なる政策的な立場に立っているのである。

こうした国際情勢の大きな変化、東西冷戦の終結、中国を中心とする世界一の東アジア経済圏の形成等々に対するアメリカ外交の変化を理解するなら、日中間の軍事的衝突に向けた日米軍事同盟への日本側の期待は時代錯誤であると気付くべきである。日中間の軍事衝突を避けるために日米軍事同盟の力を活用するなら、もう一段階質的に高度な外交政策を打ち出すべきである。




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関連文書


日中の軍事衝突を避けるために何をなすべきか

1、問われる日本外交の姿
2、軍事衝突を回避するための外交政策を展開するために
3、日本の危険な対東アジア外交を生み出す日本社会の精神構造

http://mitsuishi.blogspot.jp/2013/12/blog-post_2621.html


ブログ文書集「国際社会の中の日本 -国際化する日本の社会文化-」
http://mitsuishi.blogspot.com/2012/03/blog-post.html



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