2010年6月16日水曜日

犯罪被害者の人権問題

守られていない犯罪被害者の人権

▽ 2008年6月8日、東京、秋葉原で起こった無差別殺人事件「秋葉原通り魔事件」(7人死亡、10人負傷)のように無差別な凶悪犯罪が次々に起こってきた。それだけでなく快楽殺人のように人を殺すことに快感を覚え、特に若い女性を強姦し殺害する事件も後を絶たない。また、松本サリン事件や地下鉄サリン事件のようにテロによる凶悪犯罪も起こっている。

▽ このように私たちは犯罪に巻き込まれない保障はない。つまり、ある日突然、人に恨まれることをした訳でもない、また法律違反をした訳でもない善良な市民が犯罪に巻き込まれ、命を落し、負傷し、そのために重い後遺障害を負うことになる場合もある。

▽ また犯罪被害者とその家族(遺族)は、犯罪によって肉体的や精神的被害を受けるだけでなく、その犯罪被害によって受けた心身の傷害の治療やケアーに必要となる経済的負担、さらには仕事の継続が不可能になって退職し、生活が破綻してしまう場合もある。


刑事犯罪被害者と刑事犯罪被告人の権利 

▽ 被告人は刑が確定するまで犯罪加害者であると断定することは誤りであるが、現行犯逮捕された犯罪加害者の場合でも、刑事犯罪で告訴されている被告人の人権を守ることに社会は取り組んできた。例えば、裁判では経済的に弁護人を雇うことの出来ない被告人に対して国家は憲法第37条3項「刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護を依頼することができる。被告人が自ら依頼することができないときは、国がこれを附する(ふする)。」という条文に基づき、国選弁護人制度を設けてあり、被告人の人権は擁護されている。しかし、犯罪被害者(告訴人)の人権についてはこれまで社会が取り上げてきたことはなかった。

▽ もちろん、刑事事件の被告人の人権を守ることと犯罪被害者の人権を守ることは矛盾しているわけではない。むしろ、同じ立場にあるといえる。つまり、犯罪事件の被告と犯人を峻別し、犯罪加害者以外の人々の人権が守られることに社会は厳しい制度を設けている。そのため、被告人が正当に裁判を受け、冤罪の被害を受けず、真犯人が社会に放置されることのないようにしなければならない。そうした公正立場に立った社会正義と人権擁護の立場(人の命と生活を大切にする思想や制度)は犯罪被害者の人権を守ることを主張することになる。犯罪被害者の人権を守ること(人権思想を持っていること)は、他方で、犯罪被害者の人権を守ることを意味しないだろうか。

▽ しかしながら、社会はこれまで犯罪被害者の置かれている現実に理解を示してきたとは思われない。むしろ逆に、犯罪被害者を差別し、彼らの傷ついた心をさらに傷つけ、彼らを差別してきた。

▽ 特に性犯罪の被害者など男性の警察官に相談することは精神的な苦痛を伴う。しかも、「被害者にも何かすきがあった」という意味合いの発言に出会うなど、被害者の苦痛を理解する社会的風土がないため、結果的に被害者は被害を訴えることができない。また勇気をもって被害を訴えた場合でも、性犯罪被害者は社会的差別や間違った報道、興味本位(面白半分)の報道番組のネタにされるなど、名誉を深く傷つけられる場合も多く発生してきた。

▽ その逆に、痴漢冤罪によって、社会的名誉はもちろんのこと職も失ってしまった人々がいる。報道は、痴漢冤罪者を興味本位で書きたて、例えば2006年4月に東京、小田急線で起こった痴漢犯罪被告人は防衛医大教授であった。彼は「強制わいせつ罪」に問われ、警察から自宅と大学研究室の捜査を受け、さらに大学から無期休職処分を受けた。被告人の犯罪を裏付ける物的証拠はなく、被害者の女子高生の証言のみが有罪判決の決め手になっていた。あくまでも無罪を主張する被告人は最高裁判所まで争った。その結果、彼の無罪が成立した。

▽ しかし、この女子高生が痴漢に遭ったことは事実であろう。それが冤罪を引き起こしたために、痴漢被害を受けた彼女は、冤罪加害者になってしまった。そして、彼女が見誤って告訴した冤罪被害者と同様に、彼女も痴漢被害者であることは忘れてはならない。

▽ 痴漢事件は報道が面白半分に取り上げる傾向がある。特に、社会的地位のある人々が被告人になった場合、彼らが今までもっていた社会的地位が痴漢行為をやったという嫌疑を掛けられ、そのことで一瞬の内に崩落(ほうらく)することは社会のある人々の興味を誘う。そのため、報道は痴漢事件を大きく取り上げる。ワイドショーのテーマにこれほどぴったりとするものはない。面白半分の憶測が飛び交い、痴漢被害者も痴漢犯罪被告人もテレビ番組の餌食となるのである。

▽ 過熱した面白半分の報道によって、被害者も加害者も社会のトップ記事に踊り出ることになる。単に自分への許しがたい痴漢行為を訴えたかっただけの女子高校生もマスコミの餌食となり、ましては、その犯罪が冤罪ともなれば、こんどは冤罪加害者となってマスコミに追われる人生を送るのである。

▽ すべての犯罪被害者はすでに加害者によって被害を受け人権を無視されている。その上、さらに社会によって、被害者という興味ある人々として傷つけられ、また被害者として生活を奪われ、人権を無視されることになる。冤罪問題を語ることが犯罪被害者の人権を守ることと矛盾するというのは、犯罪を被害者と加害者の対立として理解する社会の偏見が生み出したものではないだろうか。

▽ いずれにしろ、犯罪被害者の人権を守ることは、犯罪被告人や犯罪加害者の人権を守ることと矛盾するはずがないのである。それは、すべての日本国民が憲法によって保障された権利・基本的人権である。


犯罪被害者の人権を擁護する取り組み

▽ 1995年3月20日、オーム真理教によって引き起こされた地下鉄サリン事件の被害者は、生命や生活を破壊され、心身に深い傷を受け、現在でもサリン中毒の後遺症に苦しんでいる。また交通事故によって一年間に1万人近くが死亡している。その中に、違反運転によって引き起こされる交通犯罪被害者も多く発生している。

▽ 犯罪被害者は団結することで自分たちの人権を守ろうとしてきた。我が国には数多くの犯罪被害者団体が存在し、地下鉄サリン事件被害者の会、交通事故被害者、少年犯罪被害者の会などがある。

▽ 1999年10月31日、犯罪被害を受けた人々が集い、被害者の悲惨な現状を語り合った。その現状を社会に訴え、犯罪被害者の人権を守るために2000年1月23日、第一回シンポジューム「犯罪被害者は訴える」を開催し、岡村勲(かおる)弁護士を中心にして「全国犯罪被害者の会」が結成された。

▽ 政府は2002年12月に犯罪被害者基本法を制定し、被害者の家族を守りその基本的人権を擁護するための法律を作った。
▽ 平成1年から現在までの日本での性犯罪(強姦)被害者数(表に表れた数字)は2千件以内で(10万人中約2人から3名である)である。大阪府の人口は約884万人でそのうちの半数が女子とすれば、年間132.名の女性が被害に遭っていることになる。警察は性犯罪被害者の人権を擁護するため、被害者への対応を女性警察官が行っている。

▽ 犯罪被害者の人権を守るためには、四つの課題がある。一つは被害を受ける治療行為による医療費や就労困難による休職や失業等による経済的負担に対する支援である。事故のショックから来る精神的トラウマなど精神科、神経内科、カウンセラーによる治療の支援、マスコミなどの報道機関によって引き起こされる人権侵害から犯罪被害者を守る対策、犯罪加害者に対する気持ちを整理し納得いくような社会的対応を求める社会心理カウンセラーの対応、被害者同士のコミュニケーションのサポートなどである。

▽ 現在、ネットワーク社会ではインターネットを通じて、コミュニケーションが可能になっている。この場合、犯罪被害者のサイトへ面白半分にアクセスしてくる傍観者を防ぐために、犯罪被害者に限定した会員制のサイトを立ち上げ、その人々の中での十分な意見交換を可能にすることもできる。


参考

1、「全国犯罪被害者の会」
http://www.navs.jp/

2、「犯罪被害者支援とは? -内閣府に聞く- 」政府インターネットテレビ 
http://nettv.gov-online.go.jp/prg/prg980.html

3、[犯罪被害者等施設] 内閣府 共生社会政策統括官ホームページ
http://www8.cao.go.jp/hanzai/index.html

4、「犯罪被害者白書」内閣府 内閣府 共生社会政策統括官ホームページ
http://www8.cao.go.jp/hanzai/kohyo/whitepaper/whitepaper.html

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