2012年2月20日月曜日

社会経済システムからみた太陽光発電システムの課題

太陽光発電の将来性と問題点

三石博行

3-1、技術開発を推進する政府・公共研究機構NEDOの役割とその課題

新しい産業の形成を個別企業独自の力で可能にすることは不可能に近い。黎明期と呼ばれる暗中模索の時代を進むには大きな経営的リスクを抱えることになる。場合によっては、未来型産業に早く投資したために倒産する企業もあるだろう。そのため、政府は新しい産業を育成するために国家は長期的な方針を立てなければならない。政府が新しい産業を擁護し助成することは、将来の国の経済や政治にとって重要であるからだ。

日本政府は太陽電池産業の育成を1974年から取り組み始めた。国家的プロジェクトを進める中で、太陽光発電技術開発や制度研究を行う公共研究機関、産官学共同研究体制、民間企業の研究開発への補助、大学での基礎応用研究への助成等々を行った。こうして今日の日本の太陽電池産業は育成、発展してきたのである。

どの産業技術もそれを支える基礎研究の成果がある。太陽光電池の基礎理論が発見され、それが産業化するまでの過程について簡単に述べる。太陽電池の原理は今から170年前にすでに発見されていた。1831年、フランスのアンリ・ベクレル(Henri Becquerel)によって電解質溶液中での光起電力効果が発見されてから、1873年の光電導性、1876年の固体状態の光起電力、1883年のセレン起電力セルと物理学での発見が過去にあり、19世紀末には電磁気学が発展し、20世紀はじめに量子力学が生まれる。シリコン半導体が見つかり、それらの固体物性の研究成果は産業に活用された。1954年にピアソンらによってp-n接合シリコン太陽電池が誕生した。そして、その翌年の1955年1月に林一雄や長船廣衛らによって日本でもp-n接合シリコン太陽電池が出来上がった。

民間企業、大学、公立研究所(電子技術総合研究所・現在の産業技術総合研究所や電電公社・現在のNTT)などの研究者によって太陽光発電の素材、半導体の基礎研究から応用研究が取り組まれ日本での太陽電池の基礎研究がはじまった。基礎研究とリンクしながら応用研究やその成果の産業化が民間企業(シャープ、京セラや松下電産)で取り組まれる。そして、シャープが1962年に変換効率10%の太陽電池の量産化に始めて成功した。ベクレルが光起電力効果を発見してから131年後にその物理現象を活用した太陽電池が市場に登場したのである。1955年1月に林一雄氏らがp-n接合シリコン太陽電池に成功してから1962年にシャープが太陽電池の量産化に成功するまでの期間を桑野幸徳氏は日本の太陽電池開発と事業化の黎明期と呼んでいる。

1974年から国家プロジェクト、サンシャイン計画が始まり、日本の太陽電池産業は黎明期から発展期を迎えることになる。NEDOの太陽光発電技術開発の経緯を示した図表12の説明によると、第一期サンシャイン計画の時代(1974年から1992年の18年間)の1980年にNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が発足し1990年にPVTEC(太陽光発電技術研究組合)が発足した。この二つの機構、一つは公共研究機構でもう一つは太陽電池生産企業で構成される研究機構によって、日本での太陽光発電の産業化は進んで行った。この第一期では、多結晶シリコン太陽光電池の開発、住宅用系統連係系システム技術確立などが主な事業となる。

図表12、 NEDOの太陽光発電技術の経緯 ※図をクリックすると大きくなります

出典『NEDO再生可能エネルギー技術白書』平成22年7月27日

サンシャイン計画の第二期はニューサンシャイン計画(1993年から2000年の8年間)と呼ばれ、この第二期からはNEDOが中心となり、アモルファスシリコン太陽電池の基礎技術研究、多結晶シリコン太陽電池やアモルファスシリコン太陽電池の低コスト製造プロセスの研究開発が取り組まれた。サンシャイン計画の第三期はNEDOからの5カ年計画の時代(2001年から2005年までの5カ年間)と呼ばれ、この第三期では低コスト薄膜太陽電池製造技術の開発が取り組まれた。現在はサンシャイン計画の第四期(2006年から2030年まで)太陽光発電ロードマップ(PV2030+)の時代と呼ばれている。

図表13、 PV2030+による太陽光発電技術開発シナリオ ※図をクリックすると大きくなります

引用 『NEDO再生可能エネルギー技術白書』平成22年7月27日 

NEDOは太陽光発電ロードマップ(PV2030+)で2030年までの太陽光発電技術開発のシナリオ(図表13)を示した。このシナリオによると、2010年での発電コスト30円/KWhを2020年までには14円/KWh、2030年には7円/KWhにする目標を立てた。また、単結晶系シリコンのモジュール変換効率も2009年に最高16%である数値を、2017年には20%、2025年には25%にする目標を立てている。現在10年と評価されている結晶系セルの耐久性を2025年には30年にし、セルの寿命を40年とする目標を立てている。( )今後、太陽電池は薄膜法によってシリコン使用量を低く抑えると同時に、変換効率の高い接合型やハイブリッド型を導入することで、発電コストの逓減化が可能になるだろう。

サンシャイン計画の第四期では、激化する全世界の企業の価格競争、発電コストやシステム価格の急速な逓減化を可能にする新素材や新製造法の開発が繰り返される。この激化する国際競争の中で、太陽電池や太陽光発電システムの産業をめぐる環境は急激に変化し続けるだろう。その結果として、太陽光発電が世界に普及し、再生可能エネルギー社会の基礎が構築されるだろう。この厳しい国際競争と急激な社会経済改革の時代が第四期の特徴である。

それは、これまで日本の太陽電池や太陽光発電システムの産業化に貢献し続けてきたNEDO(政府の国家戦略)に対して、その役割と戦略方針、さらには機構の機能性をも問われることになるだろう。これまでの公共研究機関としてのNEDO指導力によって、今後の状況を切り開いていくためには、この問いかけを敏感に検証点検する機能性が社会経済システムの中に必要となるだろう。

3-2、俯瞰的視点に立った太陽光発電システムの技術・制度開発の課題

太陽光発電システムの多様なサポート企業、NPOの形成
今回の再生可能エネルギー世界フェア2011年のPVJapan2011展示会では、太陽電池・太陽光発電システムの生産企業、政府専門機関(経済産業省、環境省等々)、公共研究開発機関(NEDO)、民間研究開発機関のみでなく、大学、自治体を中心とする地域産業育成機関、太陽光発電システムをサポートする企業やNPO法人太陽光発電所ネットワークに代表される民間団体や気象庁など政府機関が参加していた。

その中で、太陽光発電が普及することによって生まれる消費者のニーズに答えて事業を展開しているベンチャー企業があった。例えば、英弘精密の開発した全天日射計(図表14)(写真1)によって太陽光を正確に測定することができる。その測定から得られたデータ(傾斜面日射量)から、太陽電池の発電効率を計算するための重要なパラメータが得られる。そこで、太陽光発電システムを設置する場合に、設定場所や設置環境で最大の発電効率を得るためにこの全天日射計が活躍する。

また、太陽光サポートセンター株式会社では太陽光発電システムのメンテナンスをサポートしている。今後、住宅用の太陽パネルの設置は増えつづける。個人や団体が太陽光パネルを設置した場合に、そのメンテナンスが必ず問題となる。太陽光サポートセンター株式会社はそのニーズに答えようとしている。また、電力会社が太陽光発電量や風力発電量を予測するために、日本気象協会は日照時間や風力の情報を提供するサービスを開始している。

また、今後、益々、重要なエネルギー源となる太陽光発電(最も多い再生可能エネルギー)で機能する社会を考えるなら、上記した国民のニーズに答える事業として太陽光発電システムの多様なサポート企業の形成が進む。そのニーズを理解しながら、今後のNPO法人太陽光発電所ネットワークの役割や活動が期待されるだろう。その意味で、市民運動体NPOPV-Netが果たす社会的機能を再検討する時代が来ているのである。

写真1、英弘精機製の太陽電池評価装置の展示場

2011年11月6日 PVJapan 2011 展示会会場(千葉、幕張国際展示場)

図表14 全天日射計MS-802、(英弘精機製)

引用 桑野幸徳・近藤道雄 監修 『図解 最新 太陽光発電のすべて』p221、

太陽光発電システム(再生可能電力供給システム)を支える分散型電力供給網の構築
スマートグリッドとは、再生可能エネルギーをエネルギーネットワーク(電力と交通)と情報ネットワーク(通信と情報処理)を活用しながら、効率の高いエネルギーマネージメントを意味する。スマートグリッドは、言い方を変えるなら、再生可能エネルギーの持つ弱点を補強するために構想された電力供給システムである。

例えば、太陽光発電や風力発電は、天候によって発電量が変動する。つまり、一定電圧での安定した電力量を供給することが出来ない。つまり、再生可能エネルギーが系統に逆流することで周波数や電圧の変動(不安定さ)が生じる。そのため系統安定化の設備、蓄電池(コンデンサー機能)や安定電力供給源である火力発電所(供給側)と系統運用者(需要側)との双方で電力調整(デマンドレスポンスサービス)が必要となる。

また、単位面積当たりの発電能力が原発や火力発電所に比べて非常に小さいため、1か所の発電施設から大量の電力を供給することはできない。そのために発電施設が分散することになる。こうした弱点を補足し、または、その弱点を活かし、新しいエネルギー供給システムを構築しなければならない。つまり、分散型電力供給源による社会経済システムの構築が必要となり、電力の産地直送制度が地域的電力ネットワークと情報ネットワークの連繋によって作られる。それをスマートコミュニティやスマートシティと呼んでいる。

さらに、再生可能エネルギーを活用する社会(再生可能エネルギー社会)では、省エネ対策が重要となる。住宅内のマイクログリッドや省エネ対策をサポートするエネルギー総合管理サービスが生まれ、家庭のエネルギー費用の削減、太陽光発電設備や蓄電蓄熱等の蓄エネ機器のメンテナンスや初期投資へのサポートや、そのリース制度が作られる。

また、再生可能エネルギー社会では、省エネと生活経済意識を向上させるために、省エネへの努力を評価する制度(減税やエコポイントのような経済的インセンティブ)が作られる。その経済的インセンティブを活用して、エコや省エネに関する教育や社会活動が行われ、また、地域ぐるみの省エネへの取組(共同省エネ活動)が生まれる。それらの地域的活動によって、再生可能エネルギー社会の文化(人々の生活習慣やモラル)が形成される。

再生可能エネルギー源の弱点を補強する技術開発と制度改革によって構築されるスマートグリッドの課題を纏めると
1、 分散型電力供給源に対応する社会経済システムの構築、スマートコミュニティやスマートシティ
2、 変動型電気供給源に対応する技術開発、蓄電施設(電気自動車の蓄電池活用)、エコキュート、EV充電器、
3、 地域的電力消費社会を運営する文化の構築、個人や共同体での省エネ対策と経済的インセンティブ構築、省エネ教育

安定した再生可能エネルギー電力の供給社会を支える直流電力融通幹線網の構築
2011年12月5日の再生可能エネルギー世界フェア2011「基調講演会」で北澤宏一氏(独立行政法人科学技術振興機構の顧問)が「3.11以降の日本のエネルギーオプション」と題する講演を行った。北澤氏は、「エネルギー政策は国家100年の計である」という基調に立ち、3.11の東電福島原発事故からエネルギー政策の変換を模索するわが国の方向について語った。その一つの課題として、北澤氏は直流電力融通幹線の構築を提案した。

明治時代、東日本では、東京電燈(東京電力)の前身会社がドイツから50Hzの発電装置を購入して運用していたのに対し、西日本では大阪電燈(関西電力)がアメリカから60Hzの発電装置を購入していたことに由来し、新潟・群馬・埼玉・山梨を境界にし、静岡を分断する形で東日本で50Hz、西日本で60Hzの二つの異なる周波数の交流電気を使っている。

この二つ交流電気によって多量の電力ロスが生じている。そのため、この問題を解決するために努力を払ってきたが、今日に至るまで解決されていない。この解決を先送りにすることでこれからも日本の電力ロスが生じ続けるだろう。今年、東電福島原発による事故で、東電区間内の電力不足が生じた。東電は計画的停電を実施した。そのため日本の首都東京で停電が繰り返し起り、日本経済に大きな損失を与えた。

この問題の解決策として、直流電力融通幹線の構築が提案されている。異周波数系統間での連繋ができるため二つの異なる周波数地域間での電力の流通が可能になる。また、直流は安定度の限界がないため、長距離送電に適する。そして、交流送電に比べて直流送電は無効電力がないため、送電損失が少ない。さらに、直流方式では導体が2本でよいことから、交流方式に比べて電線路の建設費が安い等々の利点が挙げられる。勿論、直流電力のデメリットもある。例えば、大電流の遮断のための大容量遮断器が必要だか、直流の大電流遮断は技術的に難しい等々である。

太陽光発電、風力発電や小型水力発電等の再生可能エネルギー電力は、天候によって発電量が変動するため、広域(全国的)直流電力融通幹線網によって、地域的な電圧不安定性をカバーすることが出来る。しかし、現在の交流電力網では、例えば静岡県内で二つ異なる周波数の電気によって電力配線網が分断されている。そのため、再生可能エネルギー電力を地域的に安定して供給することが更に難しくなるのである。こうした問題を解決する方法として、直流電力融通幹線網の構築は必要となる。

エネルギー自給率の向上を目指すために必要な固定価格買取制度
「エネルギー政策は国家100年の計である」と言う北澤宏一氏の再生可能エネルギー世界フェア2011「基調講演会」の中のもう一つの課題は、エネルギー自給政策に関する課題であった。3.11の東電福島原発事故までの政府のエネルギー政策では、原子力エネルギーの活用によって日本のエネルギー自給率を上げる方針が取られていた。
しかし、原発事故以後は、そのエネルギー政策を大きく変換しなければならなくなっている。現在、日本社会はその課題を巡って暗中模索をしている状態である。

1999年に資源エネルギー省が試算した電源別発電原価から、原子力による発電原価に関しては、現在多くの批判が述べられているので、その値をここで議論することは避ける。その他の、火力発電の発電原価と太陽光発電の発電コストを比較すると、太陽光発電の発電コストは最も高いと評価されている。

1999年の資源エネルギー庁によると、一般水力の発電原価 13.6円(施設利用率45%で耐用年数40年として)、石油火力の発電原価 10.2円(施設利用率80%で耐用年数40年として)、石炭火力の発電原価 6.5円(施設利用率80%で耐用年数 40年として)、LNG火力の発電原価 6.4円(施設利用率80%で耐用年数 40年として)、ちなみに、当時、原子力の発電原価は 5.9円(施設利用率80%で耐用年数40年)として試算されている。

上記したように、NEDOは2010年での太陽電池の発電コスト30円/KWhを2020年までには14円/KWh、2030年には7円/KWhにする目標を立てた。つまり、2030年に太陽電池の発電コストは石炭火力発電原価に近くなると言える。太陽電池による電力のグリッドパリティ(系統電力よりも安価になる)は2030年である。これから、20年かけてようやく、石炭火力による発電原価に近づくことになる。仮に、今後、化石燃料費が高騰し続けたとしても、現在の太陽電池での発電コストは化石燃料よりも高い現実を否定できない。このことが、太陽光発電に対する批判となっている。そして、また、このことがFIT法(固定価格買取法)の導入の原因となっている。

つまり、化石燃料が枯渇する未来の問題を今から準備するために、再生可能なエネルギーである太陽光発電を普及するために、投資として太陽電池の電力を系統電力よりも高値で買い取るのである。現在の太陽電池の電力コストのハンディを政策的に解決しようとしたのが、FIT法(固定価格買取法)なのである。この制度なくしては、太陽光発電の普及は不可能に近い。

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4章「未来社会からみた太陽光発電システムの課題」
近日公開


論文「社会経済システムからみた太陽光発電システムの課題 -太陽光発電の将来性と問題点- 」のダウンロード

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