2010年3月26日金曜日

人工物プログラム科学論的分析による設計科学の成立条件

三石博行

設計科学としての政策学の成立条件とは何か

1、機能構造分析方法としての人工物プログラム科学論

自然科学では法則の証明は、法則から説明される自然現象が再現可能であることが絶対的条件となっている。法則的説明によって説明される自然現象が再現可能性を持たなければ、その前提条件である法則的説明が成立しないのである。

しかし、人間社会科学では、社会規則によって説明可能な社会現象の再現性を前提にして、その規則性の成立条件とすることは殆ど不可能な要求となる。社会文化人間精神現象には法則性は存在しない。そこにはその現象を生み出すための社会的、文化的、人間的、精神的な条件や環境とそれらの複雑な要素間にある関係である。そのためそれらの要素とその要素間の関係、そしてそれによって生み出される諸機能とそれらの諸機能間の関係を総称して「人工物プログラム」と吉田民人は呼んでいる。

社会文化人間精神現象を生成する要素を仮定し、それらの要素間の関係をプログラムと呼ぶことで、これまで人間社会科学の科学分析として活用されてきた機能構造分析の概念をより拡張して展開援用することが出来る。吉田民人のプログラム概念には、こうした歴史的な人間社会学方法論の拡張解釈の企画が込められていたのではないだろうか。

私は吉田民人先生の個人的講義の最中に、「人工物プログラム科学論はこれまでの人間社会科学で述べられてきた機能構造分析のより緻密な分析方法の提案ではないですか」と質問したことがあった。先生は「その通りです」と答えられたことを思い出す。



2、自己組織性の設計科学としての人間社会科学の再構築

人間社会文化現象を構成する人工物プログラムは、その世界の物的資源形態(物理的及び生物的)と言語記号的資源形態からなる。その意味で法則、シグナルプログラムやシンボルプログラムの三つの秩序の複合形態を取っている。

今までの機能構造分析(社会学や文化人類学での)が、人間社会文化現象のシンボルプログラム的要素の分析を行いて来た歴史的過程、つまり機能主義や構造主義の流れの中で、科学技術文明社会時代での法則科学的に機能する人工物(機械等)とシグナルプログラム的に機能する人工物(遺伝子操作による生産物)を抜きにして語れない社会経済システムの解明を課題にした新しい社会科学理論の提案であることは疑えないのである。

人間社会文化現象を構成している人工物プログラムを見つけ出す作業(仮説設定)が、人工物プログラム科学論を前提とした人間社会科学の立場である。

そして、同時に、それらのプログラム要素の検証作業が、設計科学としての政策学や社会文化技術論である。

人間社会科学のあり方、それは社会改革のための、社会文化の問題解決のための、人間の幸福を求めるための明確な目的をもった政策学であることが、人工物プログラム科学論成立条件となり、その実証や検証作業として人工物プログラムの設計科学があることが吉田民人によって提案されている。

その意味で、人間社会文化現象の機能構造分析過程、つまり人間社会科学基礎論としての人工物プログラム科学論的な認識解釈作業、自然法則とシグナル及びシンボルプログラムの三つの秩序の複合体として人間社会文化システムの理解作業を前提にしながら、現実社会が求める社会文化システムや道具の改造や改革を課題にした設計科学としての人間社会科学や人工物科学(工学、農水林産学、医学、薬学や環境学)の構築が課題になる。

問題解決学を前提とした認識科学の理解、より合理的で実践的な設計科学の構築のための基礎理論としてプログラム科学論は存在する。

人間社会科学と人工物科学は自由領域科学としてそれぞれの学問的ディシプリンの境界を意識的に外す。ただ拘らなければならないのは現実の問題解決力である。どのような科学的方法が、問題解決力を発揮する力を持っているかということが、設計科学論の最も注目し、目標にする科学的方法なのである。

以上の課題を展開するために、プログラム概念と設計概念は、要素と関係の概念とそれら全体的な構成(運動をもつ構造・システム、または時間性をもつ構造・システム)といえるのである。

そのことが、プログラム科学論に付随して必然的に展開される設計科学の概念として述べられているのである。



3、設計科学的表現作業について提案

我々は、こうした大学研究室から飛び出そうとする新しい実践的な学問論を吉田民人の設計科学の提案の彼方に感じるのである。

人間社会科学における自己組織性の設計学とは、多様な時代文化の現実に対応する政策学(総合政策学)を意味する。その政策学では、社会は自らの政策を自己組織しながら進化変動していることが理解されている。つまり、人間社会は自らの政策プログラムを自己組織できる系であると理解されている。

人工物として世界を理解することで、物象化した世界の疎外形態を科学的に乗り越えることを提案しているのである。それは改良と呼ばれる作業である。その作業には、化け物のように巨大化し、自然のように立ちふさがる現代社会の巨大な人工物、科学技術によって生産された世界から人間を取り戻す勇気と可能性を示唆することになる。

つまり、人間社会文化現象の中では、人間こそが、すべてのそのプログラムの変更の主権者であり、その変革の実践者であることを理解する理論的機会を与えるのである。

言換えると、プログラム科学論と設計科学は生活主体(生活者や生産者と呼ばれる政策当事者)のための科学理論であり科学哲学なのである。


そのため、以下の課題が吉田民人の提案したプログラム科学論の検証作業として展開されるだろう。それらの提案は設計科学論の前哨段階の理論となる。

生活行為プログラム構造の理解
1、非反省的自我経験の反省的形態作業
2、内的世界の外化過程としての表現化

認知解釈プログラム構造の理解
1、直感的了解事項の検証としての論理的表現、統計的表現

指示プログラム構造の理解
1、理論の実証作業としての具体的生活世界での設計作業への参画
2、その検証を公開する批判精神(社会文化生活運動過程での検証作業)



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