2010年11月4日木曜日

人権学 -三つの人権概念の定義-

三石博行


人権問題とは生活資源の困窮喪失状態である

広義の人権概念を定義することで、人権を扱う研究「人権学」が、これまでの人間社会科学の守備範囲内に位置づけられた。

そこで、さらに進んで人権の概念を、人間社会科学の先行研究を、人権学の成立の条件に組み込むために、これまでの人間社会科学が取り上げてきた概念の中で位置づけてみよう。ここで、タルゴッと・パーソンズの「社会行為の構造」から展開した青木和夫、松原治郎や副田義也の「生活構造論」やパーソンズの社会行為論を批判しフロイト理論を社会学に取り入れながら吉田民人が展開した「生活空間論」の先行研究を踏まえた生活情報論と生活資源論での生活行為、生活資源と生活情報の分類概念を活用する。

生活資源の構造分析で、生活資源を。個体や種族の生命と最低限の生存条件となる一次生活資源、豊かな生活を満たすための生活や社会環境の条件となる二次生活資源、個人の欲望(希望や欲慟)をみたすために必要となる三次生活資源の三つの概念に分類した。

この生活資源が困窮喪失した状態で生じる生活状態が人権問題として語られる。つまり、個人の生命と家族の生存に必要な生活資源・一次生活資源の喪失や困窮によって、一次人権環境が疎外される。豊かな生活環境を形成するために必要な生活資源・二次生活資源の喪失や困窮は二次人権環境の貧困を意味する。そして、人々の自由な行動要求(欲望)を充たすために必要な生活資源・三次生活資源の貧困状態によって、三次人権環境の不足が生まれる。


一次人権課題とは

生命や生存するために必要な最低限の生活条件や生活環境の課題を一次人権課題と呼ぶ。

例えば、戦争、災害、犯罪、飢餓、生活崩壊、疫病による病気死の危機等々は、一次人権課題である。つまり、一次人権課題に触れる事件は、生命の危機に直接関係する重要な人権問題である。そのため、一次人権課題の解決は常に急務な対策を要求される。


二次人権課題

豊かな生活や社会環境を作り個人や集団の生活の質(QOL)を高めることを二次人権課題と呼ぶ。

例えば、福祉、教育、地域社会の生活環境、就労、学歴、障害、出身地、人種、宗教や民族等々への差別、またハラスメントやいじめ等々は二次人権課題に触れる問題が挙げられる。


三次人権課題

個人の自由な精神生活、ゆめ(希望)や欲望(他の人々の迷惑にならない範囲で)を満たし、こころや精神活動をより豊かにすることを三次人権課題と呼ぶ。

個人のプライバシー侵害、精神的ストレス、ことばの暴力、信仰や信条の自由の剥奪などは三次人権課題に触れる問題であると言える。


時代や社会文化環境と共に変化する人権課題の重要度

一次、二次、三次の人権課題の分類は、生活資源の豊かさという条件に付随する。つまり、猛獣の脅威に慄きながら生きていた太古の人々にとって、一次生活資源を得るために殆どすべての生活時間を費やしていたと考えれば、一次人権課題をクリアーするために個人の生活行動が選択され、生活時間が費やされていたと考えるのが自然である。その場合、二次人権課題の占める割合は相対的に小さいし、三次人権課題は殆ど問われることがなかったのではないだろうか。

つまり、生活情報史観で述べるように、三つの生活資源を得るための生活行為や生活時間占める割合に生活経済の状によって、つまり生活経済の発展によって、相対的に変化したと考えるなら、三つの異なる人権課題も社会経済の発展進化によってその社会文化的重要性が変化したと考えるべきである。

つまり、重要性の順番が、必ずしも、一次人権課題、二次人権課題と三次人権課題というように、どの時代でもどの社会でもすべて同じように決まっているのではなく、時代や社会の、つまり経済的環境の変化によって、その重要性は変化するのである。


例えば、石器時代のある集団で、一年間を通じて、信仰や信条、表現の自由に関する主張と、飢餓や外敵から命を守る主張が起こった件数を想像すると、多分、後者の飢餓や外敵から集団を守ることが課題になった回数の方が、前者よりもはるかに多いと想像される。
しかし、その状況を、1960年代の日本ある町の中で当てはめると、多分、逆の結論になるだろう。つまり、前者の同じ信仰や信条、表現の自由に関する主張を行った件数が後者よりも多いのではないかと想像できる。

人権問題は、常に時代や社会の状況と関連して取り上げられる。そこに、時代や社会に規定された生活主体の生活重視の考え方が人権問題に直接関係するのである。つまり、その意味で、現代日本人が近世日本社会の出来事(今からみれば人権問題であるという)を、当時の社会では人権問題として考えることができないという現象が起こるのである。

つまり、人権課題は生活資源への評価課題を含み、そこには歴史や社会を超えた絶対的な価値概念を規定することは困難となる。

そこに、多様な現代社会での人権問題の理解の鍵が潜んでいるのであると言えるだろう。


参考資料

三石博行 「生活資源論」
http://hiroyukimitsuishi.web.fc2.com/kenkyu_02_02.html
「設計科学としての生活学の構築…」 で一次生活資源、二次生活情報と三次生活資源の概念を説明する。

三石博行「設計科学としての生活学の構築 -人工物プログラム科学としての生活学の構図に向けて」 金蘭短期大学 研究誌33号 2002年12月 pp21-60
http://hiroyukimitsuishi.web.fc2.com/pdf/kenkyu_02_02/cMITShir02d.pdf


三石博行 「生活情報論」
http://hiroyukimitsuishi.web.fc2.com/kenkyu_02_03.html
一次生活情報、二次生活情報と三次生活情報の分類概念に興味ある方は
「生活情報の構造とその文化形態」2001.10、 pp62-73、 片方善治監修 『 -情報文化学会創立10年記念出版- 情報文化学ハンドブック』、森北出版株式会社


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