2007年度科学基礎論学会研究発表要旨から
プログラム科学論での秩序概念
プログラム科学論での秩序概念
三石博行 千里金蘭大学短期大学部
プログラム科学論の存在論的背景としての進化論的存在論
吉田民人のプログラム科学論は生命活動を基盤にした遺伝子、脳神経生理、生物形態や行動、生物進化や順応、生態系、文化、社会、産業、技能、生活、情報、認知、心理、言語、精神現象に関する理論科学やその応用科学(技術学)に関する科学哲学であると要約出来る。ここでは、特に、プログラム科学論・科学哲学を理解するために、秩序概念とその秩序概念の上位概念である吉田の存在論について課題にする。
吉田民人のプログラム概念は、遺伝子から精神現象に到るまでに拡張した記号情報概念(認知、評価、指令の三つのモードで構築されている)を前提にして成立している。これらの記号情報はシグナル記号情報とシンボル記号情報に分類され、シグナル記号情報は、一般に遺伝子から免疫、脳神経系の情報を意味し、シンボル記号情報は表象言語系の情報を意味する。
それぞれの記号情報の認知や評価、指令の三つのモードから構築されているプログラムによって、「シグナル性の構築存在」と「シンボル性の構築存在」の二つの存在様式が形成される。勿論、存在様式は生命以前にもあり、またそれらは前記号段階としてのパターンを持つ。
これらの物質・エネルギーの存在様式を「生成存在」と吉田は述べている。生命以前の生成存在から、表象言語以前のシグナル性の構築存在、そして表象言語以後のシンボル性の構築存在とがある。それらの三つの存在様式を進化論的存在論と呼ぶ。
この進化論的存在論は、パターン(非記号情報)、シグナル記号情報とシンボル記号情報の情報様式とそれによって構築された存在様式が、地球史的進化を前提にして形成されたと述べている。
プログラムに関する周辺概念
プログラム科学論の哲学的意味に関して述べるために、これまでの20世紀の人文社会学史の中で、プログラム科学論の意味を問うことにする。
例えば、構造機能主義との関係で言えば、構造主義の要素、記号や意味するものなどを、記号情報として理解し、それを上記した三つのモードに分解し、それらの機能によって構築される存在様式を展開する。その意味で、構造-機能主義の要素概念をより精密にそしてより動態的、発生的に解釈したと言える。
また、ポスト構造主義的システム論に関して言えば、このシステム論が提起した発生と進化の課題を、プログラム科学論は、進化論的存在論によって展開した。
三つのモードによって構築されつづける生物・文化・言語システムの進化過程を前提にし、システム論の多重構造間にある関係をプログラム科学論は発生論的に解釈し、その生成過程で構築されるコミュニケーション・情報交換・刺激と抑制作用の秩序概念・インターフェースを、さらに進化論的存在論の構築過程で説明し、今日、神経生理学、免疫学、情報工学や認知工学で示されるインターフェースのメタ概念を提起した。
さらに、構築主義に対しては、構築概念を社会病理に対する問題解決学から、生命現象の存在論的理解とその発生、進化論的理解を提案している。その意味で、進化論的存在論は、構築概念を人間社会文化概念、つまり人工物世界、事前選択型構築プロセスのみでなく、生物・生態系全体の概念、つまり事後選択型構築プロセスまで含む概念へと拡張した。
プログラムとは、三つの情報要素を時間的に連鎖結合させ、一つの情報集合をして共時化した形式、つまり反復可能な認知・評価・指令の情報集合関数によって規定されている。構造主義的に述べると、その規定から構築される「構築するもの」と「構築されたもの」の関係によって生み出されたものの一般概念をプログラムとして解釈できる。
そして、構造主義的な「関係」が、吉田の「秩序」概念になる。この秩序概念は、「構築するもの」と「構築されたもの」の内容によって、多様な様式や形態があることが理解できる。
存在世界の秩序規則としてのプログラム性 認識と評価プログラム解釈から指示プログラムに関する解釈の科学哲学
プログラム概念と秩序概念の関係について説明すると、プログラム概念は秩序概念の上位概念として吉田民人は定義している。その場合、存在様式を生み出すもの、法則や規則という広義の概念と、存在者の内部にあり、その存在者の存在条件を獲得し維持し、もしくは進化させる秩序機能という狭義の概念の、それぞれの上位概念としてプログラムが定義されている。
プログラム科学論では、メタレベルの指示モードの情報概念を確立することで、科学哲学の主流である認識論や解釈論に対して、進化論的存在論や実践論を持ち込むことになる。法則科学に関する認識論、科学哲学、物理主義から生物主義へのパラダイム変換を要求しているだけでなく、実践変革志向の指令モードを前提とした科学的哲学を課題にすることになる。
このように、プログラム科学論の課題は、プログラムや秩序概念によって伝統的科学論の埒外にあった技術論を科学哲学の中で統一的に位置付けた。科学技術論という複合語でなく、プログラム科学論という科学哲学の課題として、科学の目的である実践的問題解決力を、17世紀以来の西洋哲学史の中で問い続けられた理性に関するディスクールに立ち返り、広義の理論科学の課題として取り上げた。
科学技術文明社会での哲学、科学基礎論としてのプログラム科学論の役割
また、科学技術文明がもたらす巨大な人工物環境での生活や人間のあり方を、人工のプログラムとして再解釈し、それらの人工物プログラムに物象化されている秩序(イデオロギー・科学技術文明)の仕組にを認知(認識)、評価(解釈)、指示(改良、再設計)する新たな哲学・実践学を提案した。プログラム科学論は、学際的、横断的と呼ばれたが完成し得なかった科学方法論の未来に、統一した科学認識・科学哲学のあり方を提起した。
吉田民人のプログラム科学論(科学哲学)は、現在、完成されたものでない。何故なら、吉田民人自身、このプログラム科学論を自らの科学哲学の中に位置付けているからである。
プログラム科学論は、プログラム科学の範疇に入る科学との共同研究、理解、解釈、実践を通じて、そのメタ理論は検証され、それらの哲学敵基本概念が、より現実的な理論(応用可能なメタレベルの理論)として再構築され続けることが、彼の科学哲学の理論として提起されているからである。つまり、プログラム科学の発展の中で、プログラム科学論は脱構築と再構築を繰り返すながら、形成されるのである。
2007年6月
参考
三石博行のホームページ 「哲学」「プログラム科学論」
http://sites.google.com/site/mitsuishihiroyukihomupeji/ningen-shakai-kagaku
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