2011年4月20日水曜日

災害時の危機管理を前提としたネットワーク型の社会形成

災害に強い国を作る(2)C

三石博行



東日本(東海岸)大震災でのソーシャルメディア(SNS)の役割

2011年3月29日のNHKクローズアップ現代 「いま、私たちにできること ~“ソーシャルメディア”支援~」(1)でソーシャルネットワークサービス(SNS)を活用した安否情報検索システム、グーグルマップでの罹災地マップ作り、地図から罹災地の生活情報検索できるシステムや災害情報の手話ニュース発信等々の情報ボランティア活動が紹介された。

クローズアップ現代で報道されたソーシャルメディアによるボランティア活動の一例を紹介しよう。一人の情報技術者の男性(情報企業の経営者)が東日本大震災に対して何かできることはないかと考えていた。その時、彼はTwitter で非常に多くの安否情報が流されていることを知った。そして、安否情報を確認したい人々が多くいること、それに対して何か協力しようと考えた。自分の専門知識を活かして安否情報をインターネット上で検索できるプログラムを作ったのである。

しかし、その検索システムを動かすためには、Twitter上の安否情報のデータベースを作ならなければならなかった。そこで再びソーシャルネットワークサービス(SNS)を活用して安否情報の入力ボランティアを呼びかけた。その呼びかけに全国からデータベース入力作業ボランティアが集まる。そして、SNSで繋がった日本全国に広がるボランチィア達の共同作業が始まる。瞬く間に、安否情報検索システムは完成した。すぐに、その検索システムは罹災者に活用され、数日で十万単位のアクセスがあったと言う。

これは、ソーシャルメディアが果たす災害時の生活情報サービスの一例である。当然であるが大災害時に行政の機能は麻痺する。そのため罹災者は安否情報、重要な生活情報を得られない状態に陥る。有線電話はもちろんのこと携帯電話も通じない状態が生じる。その時、今回の東日本大震災ではソーシャルメディアを使った情報発信が非常に大きな役割を果たした。

阪神・淡路大震災の反省から、災害情報学会を中心としてインターネット(携帯メール)を活用した災害時の生活情報のサポート体制が検討されてきた。大学を中心として研究されてきた災害時の情報サポート体制の検討や先行研究を飛び越えて、今回、それまで災害情報研究をテーマにしたことのない一般の社会人が、ソーシャルメディアの情報を活用する安否情報検索プログラムを作り、しかも、ソーシャルネットワークサービスを活用して、データベース化をソーシャルメディア上で可能にしたのである。


ボランティア情報ネットワークと市民の力

ソーシャルメディアでの情報ボランティア活動の組織化は、今回の震災時の罹災者救援活動や生活情報サポート体制にとって革命的な変化が生じていると理解すべきである。何故なら、これまでの災害ボランティア活動は罹災地の自治体によって管理されていた。阪神・淡路大震災では、自治体の職員が全国から集まるボランティア活動を組織する機能を担っていた。

今回、震災直後、多くのボランティアが現地に行くことによって混乱が生じると、ボランティア活動に対して政府は、罹災地への移動や救援物資の提供に関する制限を行った。つまり、阪神・淡路大震災以来、行政がボランティアを活用する機能として確立してきた経過がある。今回の国によるボランティア活動の制限はその意味で行われたのである。

実際は罹災地では多くのボランティアを必要としていた。そこでソーシャルネットワークサービスを活用することで、罹災地で活動するボランティア活動の情報を集め、市民にその活動の内容を提供し、またそれらのボランティア活動が必要とする物資や人材に関する情報がソーシャルメディアを通じて流し、必要な場所に必要なボランティア人材と物資を手配するボランティア組織が生まれた。この基本を創ったのも阪神・淡路大震災の後に生まれた日本災害救援ボランティアネットワーク(NAVAD)(2)であった。

阪神淡路大震災時にも、それぞれの避難所の救援物資の情報を交換し、不足している物資を避難所に届ける情報を「ディリーニーズ」が提供していた。避難所間でお互いに不足している救援物資の情報が流れ合っていた。当時は、紙情報であった。今回は、ソーシャルメディアがその役割を担っている。阪神・淡路大震災と違い、罹災地は非常に広域に亘っている。そのため、紙情報では、避難所間の情報交換は不可能である。

そこでインターネットを活用し東日本大震災支援全国ネットワークでは「支援状況マップ」(3)を作り、地図上にボランティア活動団体の活動拠点とその組織が必要としている救援物資や人材の情報が記載されている。また、Googleマップを活用して、「東北地方太平洋沖地震ボランティアマップ」(4)が作られ、罹災地で活動しているボランティア団体の情報が記載されている。このボランティアマップを多くの人々が見て、ボランティア活動に参加している。

また、「災害情報東日本大震災 Jahoo!Japan 」(5)では検索エンジンであるJahooJapanがすべての分野での災害情報を提供している。そして、「sinsai.info 東日本大震災 みんなでつくる復興支援プラットフォーム」(6)を16の企業で作り、サーバ、監視サービス、運営、携帯電話サービス、システムやプログラム開発スタッフ派遣のサービスを提供している。

さらに、首相補佐官としてボランティア担当をおき、また内閣府(7)や厚生労働省(8)から民間ボランティア活動の情報が提供されている。

インターネットでソーシャルメディアを活用したボランティア活動情報が、災害救済活動の推進に大きな役割を果たそうとしている。それは、ソーシャルメディアによって全国の人的資源を集め活用することを可能にしたからである。災害時に国民が力を合わせて助け合う道具としてソーシャルメディアやインターネットは活用されているのである。

ネットワーク上でボランティア情報が流され、多くの市民が自分に合った(自分に出来る)災害救援活動に参加できる。そしてネットワーク上で組織された一人ひとりの市民の力が集まり大きな支援活動の力となる。この経験を通じて、一人ひとりの市民はソーシャルメディアの媒体を通じながら国を変革し運営する市民の政治的主体性を自覚するのではないだろうか。


ソーシャルメディアの発展と情報プロシューマー文化・第二の市民革命の形成

東日本大震災の前にも、北アフリカや中東の民主化運動で、SNSによる情報伝達の威力は世界中に知れ渡っていた。今、震災時の生活情報の伝達にSNSが活用されようとしている。ソーシャルメディアはそれ自体、情報交換の道具にすぎない。しかし、多くの市民が切実に要求する情報を相互に理解し、主張することによって一つの政治的力に変貌してゆく。

情報化社会では、情報を受け取る人は発信する人である。メールは個人的情報交換をインターネットで可能にした。その場合、情報を受け取る人と情報を発信する人は、手紙を書きあう二人の関係でしかなかった。受信や通信者が複数となるグループメールにしてもメールと同じ次元である。

しかし、ソーシャルメディアでは世界中に情報が発信される。情報受信者は不特定多数となる。そのため発信者は自分の意見を世の中に示すことになる。そして同時に、情報発信者は情報受信者でもある。多くの不特定多数の人々から情報を受け取る。これがソーシャルメディアの情報交換の姿である。

言い換えると、ソーシャルメディアによって大衆は情報消費者であり情報生産者でもある情報生産=消費者、換言すると情報プロシューマー(情報を消費し生産する人)である。(9)情報化社会の進化の形態がソーシャルメディアによる情報プロシューマー文化の形成であると言える。

情報プロシューマーの形成によって、震災時のボランティア活動を市民が運営管理することが可能になった。市民が情報を管理することで社会は大きく変化する。何故なら、情報生産はある特定の集団や団体、例えば報道機関、出版社、政府機関、企業等の情報発信の資金を持つ団体に限られていた。

つまり、情報を発信できる者と出来ない者との関係が社会を支配する者と支配される者との関係になっていた。しかし、ソーシャルメディアによって、誰でも情報を発信できるようになった。そのため、今まで権力者が持っていた情報発信権がすべての市民に与えられることになるのである。情報発信権を得た市民は権力の情報管理や情報操作から自由に情報を得る機会を持つことになる。すでに、北アフリカや中東の民主化運動でSNSが大きな役割を果たしたのは、市民が情報発信権を持ったからである。

市民が自由な経済活動を行う権利を得たことを第一の市民革命であると言うなら、情報化社会で進む情報プロシューマー文化の形成、つまり市民が自由な情報発信の権利を得たことは、現代社会で第二の市民革命が進んでいると考えることも出来る。その第二の市民革命の道具はソーシャルメディアである。


人的資源の形成が災害に強い社会の基礎となる

東日本大震災救援活動でソーシャルメディアが活躍している条件は、単に情報化社会が発達したと言うだけではない。情報化社会でSNSを構築する情報処理技術や通信機能の発達は、今回のソーシャルメディアによる救援活動が可能になった第一条件である。

しかし同時に、SNS(情報社会インフラ)を活用する人々(人材・人的資源)の存在を忘れてはならない。Twitterで流れる安否情報を検索できるソフトを開発した人やデータベースを作った人々は偶然に存在しているのではない。情報処理技術に詳しい人々を生み出した社会によって形成された人材・人的資源である。つまり、その人的資源の形成は、大衆化した高等教育、知的生産力を持つ社会、インターネットを活用する情報処理技術が日常化している社会的背景によって可能になっているのである。こうした社会を科学技術文明社会と呼んできた。そして知的労働によって成り立つ産業構造を第四次産業と呼んだ。

つまり、ソーシャルメディアによる震災救援活動の背景には、第四次産業を中心にして機能する科学技術文明社会とそれを担う知的労働力が存在している。今回の災害に対する危機管理の一例として、市民ボランティアによるソーシャルメディアを活用する罹災者救援のための生活情報の伝達と管理体制の構築がある。SNS(ソーシャルネットワークシステム)を活用しながら全国からデータベースやGoogle災害地図作りの市民情報ボランティアが活動した。つまり、ネットワークを使い全国から人材・人的資源を集めることが出来た。

言い換えると、日本社会全体の生産性を高めることが、災害時の危機管理となる。災害時に、全国の至る所から、災害ボランティア活動が生まれ、工夫される基盤は、日本社会を構成する人々の生産性、つまり能力である。人的資源を持たない限り災害時の危機管理は基本的には不可能であるといえる。この考え方は今に始まったものではない。戦国時代の武将武田信玄が述べたという「人は城、人は石垣」の名言があるように、人的資源が最も大切な資本であり、組織の危機管理の基本となる。


ネットワーク型生産システム・災害に強い産業社会の形成

科学技術文明社会・日本では、全国に高度な技術を必要とする情報ボランティア活動をする人材が存在している。しかし、それらの人々は地理的には離れ離れに居る。その人々(人的資源)をネットワークで結びつけ、一つの作業を共同で行う。ネットワーク社会では、有用な資源をネットワーク上で有機的に結びつけ、それらの資源力を活用することが可能となる。すでに企業では常識化しているネットワーク上での共同作業が、今回、市民ボランティア活動に適用されたのである。

言い換えると、資源集中管理型から資源ネットワーク管理型への発想の転換を情報化社会は可能にしているのである。その意味で、資源集中型社会は災害によって、その場所を破壊されることで、機能しなくなる。しかし、資源分散型‐ネットワーク管理型社会は、仮に一箇所の資源拠点を災害によって破壊されても、他の資源拠点をネットワークで結びながら、生産を維持することが可能になる。

これまでの経済学では、資本集中型によって経済効率が導かれると考えられていた。その最も代表的な生産システムがコンビナートである。原料生産では経済効果を求め大型化する生産システムが有効であると考えられる。しかし、加工生産や知的生産では、資本集中による生産システムの大型化は必ずしも必要はないと考えられる。

特に有能な技術力や知的生産力の高さを問われる企業では、全国に存在する優秀な生産拠点をネットワークで結びつけ、活用することがより質の高い生産を可能にする。今回、世界の需要の半分ぐらいを占める部品を生産する優秀な自動車部品メーカが津波の被害を受けたために、世界中の自動車産業に影響が出ていると言われている。高度に分業が進むことで、たった一つの部品が不足することで生産ラインが止まる。これは高度な技術生産によって成り立つ現代の産業を物語る典型的な例である。

災害に強い生産活動を考えるために、現在、地域的に集中している生産拠点を、政策的に全国に少なくとも二箇所に分散することは出来ないだろうか。例えば、東北にある工場を中国か九州にもう一つ作る。しかし、優秀な部品生産メーカであっても、中小企業であるために二つの生産拠点を作る資本力はない。

国家の危機管理体制を作るための今後の課題として、優秀な中小企業の生産拠点を分散しネットワーク上で全国的な生産と流通システムを作ることを検討しなければならないだろう。国は、今回の震災復興計画の中に、生産システムの安全管理や危機管理の国家的体制を検討する必要があるだろう。そして、災害に強い経済システムを検討する課題は、地域経済の活性化を課題にして取り組まれる地方分権の計画とセットになって議論される必要があるだろう。


参考資料


(1) 2011年3月29日のNHKクローズアップ現代 「いま、私たちにできること ~“ソーシャルメディア”支援~」
 http://cgi4.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail.cgi?content_id=3022

(2)日本災害救援ボランティアネットワーク(NAVAD)
http://www.nvnad.or.jp/

(3)東日本大震災支援全国ネットワーク 「支援状況マップ」
http://www.jpn-civil.net/

(4)東北地方太平洋沖地震ボランティアマップ Googleマップ
http://maps.google.co.jp/maps/ms?ie=UTF8&brcurrent=3,0x34674e0fd77f192f:0xf54275d47c665244,0&oe=UTF8&msa=0&msid=214722352147164630282.00049eabf66d3dd2fcfc2

(5)災害情報東日本大震災 Jahoo!Japan
http://info.shinsai.yahoo.co.jp/

(6)sinsai.info 東日本大震災 みんなでつくる復興支援プラットフォーム
http://www.sinsai.info/ushahidi/

(7)助けあいジャパン ボランティア情報ステーション 内閣官房震災ボランティア連携室 連携プロジェクト
http://tasukeai.heroku.com/gallery

(8)厚生労働省 ボランティア活動について
http://www.mhlw.go.jp/bunya/seikatsuhogo/volunteer.html

(9)三石博行「生活重視の思想に基づく生活世界の科学性の成立条件」 『研究報告集』、第38集、大阪短大協会 2001.10、pp64-71
http://hiroyukimitsuishi.web.fc2.com/pdf/kenkyu_02_02/cMITShir01b.pdf

 
--------------------------------------------------------------------------------
ブログ文書集 タイトル「東日本大震災に立ち向かおう」の目次
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/03/blog-post_23.html
--------------------------------------------------------------------------------


2011年4月21日 修正(誤字)






にほんブログ村 哲学・思想ブログへ

0 件のコメント: