2011年6月16日木曜日

有効な原発事故対応と情報公開の検証課題(検証の視点と目的)

福島第一原発事故検証(7)

三石博行


情報公開の目的

2011年6月5日に報道されたNHKの「シリーズ原発危機 1回 事故は何故深刻化したのか」の番組やその他の多くの週刊誌社等の出版物を参考しながら、政府や東電の福島第一原発事故の情報公開に関する検討課題を述べる。

今回問題になった情報公開の課題は大きく分けて四つある。一つは福島第一原発の事故状況、二つ目は事故処理を行う作業員の被曝状況、三つ目は放射能物質の周辺地域への拡散状況、そして四つ目は周辺地域の放射能汚染状況である。

言うまでもないが、事故処理中の情報公開と事故処理後の情報公開の意味を峻別し、その目的合理性にあった情報公開の仕方を選ばなければならない。つまり、二つの状況での情報公開の意味を混乱してはならない。ここでは、情報公開を求められた当時の状況とそれに対する政府の事故処理作業の合理性に照らし合わせて、事故処理中の政府の情報公開に関する検証や点検を行う。

事故処理後に事故対応を点検するために求められる情報公開では、すべての情報の開示がなければ検証作業は不可能であるために、あらゆる情報を公開しなければならない。しかし、事故処理中は処理作業の目的が優先されるため、事故処理をより効果的に進めるための目的を満たす情報公開が行われていたかを検証しなければならない。

福島第一原発事故の情報公開をめぐる検証作業は、その情報公開を行う危機管理上の目的に照らし合わせて、問題を立てなければならない。つまり、情報公開に現れた当時の政府や東電の危機管理処理が結果的には問題とされることになるのである。これが、今回の情報公開をめぐる検証作業の目的である。


事故処理作業中の情報公開の意味

当然のことだが、事故処理中の情報公開は、一般的に、課題の現実的解決や処理作業効率向上のための合理的判断とその意思決定のスピードを向上させるための第一目的に照らし合わせて決定される。つまり情報公開は合理的事故処理をすすめるための作業の一部である。

例えば、原発事故処理を担当する部隊の主な作業目的は原発事故処理であり、事故の拡大を防ぐことである。そのために、事故に関連する情報を収集し、それを司令塔に集中させる。それらの情報を基にして、司令塔・官邸の対策会議は状況に応じた意思決定を行う。

事故処理にあたる司令塔の事故課題の専門的検討部会と総合的判断機能によって、詳細な専門的情報処理と総合的情報処理が同時に進行し、それらの情報の相互関連とそれぞれの情報の独自性を判断しつづけながら、危機管理上の必要性に照らし合わせて敏速に、それらの情報の公開の順番や方法を決定することになる。

つまり、情報公開作業も事故処理作業の一環として行われる。従って、情報を公開することで危機管理上の問題が生じるなら、情報は公開してはならない。つまり、情報公開は目的でなく、危機管理を貫徹し事故処理をより合理的に進めるための手段である。

情報公開をめぐる議論は、危機管理下での情報公開の内容はそれぞれの状況下で下される危機管理上の判断内容に触れることになる。例えば、官邸の把握しているすべての情報を社会に公開することによって、不必要な国民の不安を駆り立てる場合には、その行為は危機管理上好ましくないのである。従って、官邸はその状況に応じた情報提供を判断しなければならない。また逆に、情報公開によって社会に生み出される混乱を恐れるあまり、情報提供が遅れ、結果的に国民に大きな被害を与える場合も生じる。

政府の情報公開に関する検証作業を行うためには、今の視点から(事故から3ヶ月を経過した時点からの批判的視点から)当時の政府の対応を批判するのでなく、当時の状況下での政府の判断に基づく情報公開の遅れや問題点を指摘する必要がある。

この情報公開に関する点検作業では、単純に政府が情報を隠蔽していたとする理由付で、つまり政府批判で情報公開の検証を片付けてはならない。この検証作業こそ、危機管理の検証作業の一部なのであり、これから取り組む検証過程では、情報公開の遅れという結果よりも、情報公開の遅れを生み出した過程の正確な理解に立ち、情報公開の遅れのからくりや要因を分析する必要がある。


初動対応時の情報提供の検証課題

現在(事故から3ヶ月が経過して)政府の情報公開に関して検証を必要とされている5つの課題を簡単に述べる。

1、3月12日午前0時に東電は一号機のベントを決意した。その後、政府と東電はベントによる放射能物質の大気への拡散と汚染の広がり、その結果としての住民の放射能被曝予測を行う。それらの情報を被曝対象となる住民へどのように伝えたか、また原発近辺の市町村の住民へ伝えたか、刻々と政府が決定していった避難指示地域拡大等の情報はどのように伝達されたかという課題を点検しなければならない。

2、一号機ベント実施から一号機水素爆発が起こった段階で、政府は最緊急事態である水素爆発の情報を即刻、原発近辺の市町村の住民へ伝えることが出来たか。そして避難する住民へ放射能物資射の拡散状況に関する情報を正確に伝えることが出来たか。もし、それらの情報伝達が出来なかったとすれがその理由は何か。

3、3月11日15時42分津波を受け、一号機の全電源喪失の事態から、3月12日15時36分までの事故処理活動の経過過程の段階で、政府は国外のIAEAや同盟国アメリカに対して、どのような情報をどのように伝えたのか。

4、全電源喪失から1号機、2号機、3号機と4号機で起こった水素爆発までの過程で、福島第一原子炉事故に関して、国民に対してどの段階でどのような情報をどのように伝達したか。

5、原発事故処理を行う作業員、自衛隊、消防団員、警察官に対して、原発内外の放射能線量や放射能物質量に関する情報を提示していたか。特に、水素爆発の可能性に関する情報が原子力発電所内の人々に伝わっていたか。もし、正確にもっとも危険な情報が伝わらなかったとすれば、その理由はなにか。

以上5つの検証課題を述べた。

民主党政権、3.11東日本大震災と原発事故というこれまでにどの国も経験したことのない大災害に対応しなければならなかった。そして、全電源喪失に始まる原発事故は予断を許さない深刻な事態を引き起こす確率が極めて高い状態で進行していった。その初動段階での小さな失敗も許されない事故処理作業の最中、刻々と進行する事故への対応がいかに困難であったかは想像できる。今後、この事故処理に関する検証作業の一つとして、政府の情報公開のあり方が検証されるだろう。

当時の政府の情報提供の判断を困難な事故処理のひとつの姿として検証することで、この検証作業が今後の大災害時の危機管理を考え検討することに貢献するに違いない。そうであって欲しいと思う。そのため、この課題の検討も失敗学の基本的姿勢に即して行うことを提案する。(6)(7)


参考資料

(1)NHKスペシャル「シリーズ原発危機 1回 事故は何故深刻化したのか」2011年6月5日

(2)『東日本大震災2 被災地に生きる 復興に向けて』サンデー毎日緊急増刊 2011年4月23日 79p

(3)『メルトダウン 福島第1原発詳細ドキュメント』 サンデー毎日 緊急増刊3 2011年6月25日号 89p 写真資料

(4)『闘う日本 東日本大震災1ヵ月の全記録』 産経新聞社出版 2011年4月29日 112p

(5)『東京電力の大罪』 週刊文春 臨時増刊 2011年7月27日号 162p

(6) 三石博行 「失敗学に基づく福島原発事故検証のための国民運動を始めよう」2011年6月10日
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/06/blog-post_10.html

(7) 三石博行 「失敗学に基づく福島原発事故検証の考え方とやり方」2011年6月11日
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/06/blog-post_11.html
 


--------------------------------------------------------------------------------
東日本大震災関連ブログ文書集

1、ブログ文書集「原発事故が日本社会に問いかけている課題」目次
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/06/blog-post_3562.html

2、ブログ文書集「東日本大震災に立ち向かおう」の目次
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/03/blog-post_23.html
--------------------------------------------------------------------------------





2011年6月20日 誤字修正

0 件のコメント: