2011年6月11日土曜日

全電源喪失から緊急事態宣言までの遅れに関する検証課題

福島第一原発事故検証(3)

三石博行


東電・全電源喪失事故発生から政府へ連絡するまでの課題

NHKの「シリーズ原発危機 1回」「事故は何故深刻化したのか」(1)の番組での説明によると、3月11日午後2時47分に地震が発生し、約一時間後の3時42分に原発を津波が襲い、すべての補助電源が壊され、全電源喪失が生じる。つまり、福島第一原発の現場で緊急事態が発生したのは、3時42分以後である。

それから、東電が政府(経済産業省原子力安全・保安院)に福島第一原発の全電源喪失の事態を報告したのが4時45分とされている。つまり、全電源喪失から約1時間を経過して、東電は保安院に連絡をしたことになる。

事故発生から約1時間が経過して東電が政府に福島第1原発で全電源喪失事故が発生していることを伝えたことに対する評価が問題となる。つまり、東電としては、政府への事故報告までに1時間は必要な時間であったと考えている。

それに対して、重大事故を前提としている状況で1時間は遅すぎるという評価も成立する。つまり、具体的な対応に手間取ったのか。それとも、電源復旧のための試みを行っていたのかという疑問や、東電本社は現場からの全電源喪失という報告に対して、その意味を理解せず、どこかで冷却装置が動いているという勝手な(楽観的な)解釈を続けていたのかという憶測が生じる。

勝手な憶測や推論で、東電の初動対応を評価することは避けたい。そのため、東電の中で、全電源喪失が明らかになった段階から、政府への報告までの経過を具体的に検証する必要がある。

事故発生当時の現場と東電の連絡に関する課題は以下のように考えらる。

1、 東電福島第一原子力発電所では、全電源喪失という予想し得ない事態に対する備えはなかった。そのため、事故発生の3時42分から電源復旧の対応を行いながら、さらに全電源喪失、つまり原子炉の冷却不能の事態から予測されるさらに深刻な事態(メルトダウン)を想定できたのかについて検証が必要である。

2、 現場が理論的に事態の深刻さを理解していたとすれば、現場は即刻、東電本社に事態を報告したと思われる。上記1の課題を検証する材料として、現場が東電本社に連絡した時間が問題となる。

3、 東電本社が、現場の緊急事態(全電源喪失)の報告を受けて、その後、即刻政府へ連絡をしなければならなかったが、その経過を検証する必要がある。つまり、15分以上の時間が経過しているなら、その要因を明確に理解する必要がある。


政府・東電の報告を受けて政府が緊急事態宣言をするまでの課題

経済通産省原子力安全・保安院(以後保安院と呼ぶ)が東電から全電源喪失の連絡を受けたのは4時45分である。しかし、保安院はすぐに内閣府に報告せず、それから45分後の5時30分に内閣に報告をした。

保安院は45分も掛けて何を議論し検討していたのか。この緊急事態に対して内閣に伝える時間・45分間を十分必要な時間と理解しているのか。それとも遅いと理解しているか。NHKの報道では、保安院は十分必要な時間と理解していたという。

つまり、保安院が事故を経済産業大臣に伝えた時には、事故から既に2時間の時間が経過していたのである。

保安院の報告を受け経済産業大臣が管総理に報告したのは5時30分である。すぐに、経済産業大臣は首相と対策会議を開いた。しかし、首相に党首会談が予定されていた。そのため、緊急事態に関する会議が中断され、首相に党首会談に入った。管総理は緊急対応が出来なかった。

つまり、ここで、経済産業大臣と総理は、3時42分に起きた全電源喪失事故の意味とすでにその事故から2時間が経過していることの意味を理解していたのだろうか。

党首会談が終わり、結果的に、内閣が緊急事態宣言を発したのは7時03分となった。つまり、保安院からの報告を受けて約2時間半後に政府は緊急事態宣言を行った。結果的に東電が政府に報告して3.時間半後、福島第一原発の全電源喪失から約4時間半の時間が経過して、政府は緊急事態宣言を行ったことになったことになる。

この政府の対応は、重大事故を引き起こす可能性のある事態での対応としてはお粗末なものであると評価される。そして、何よりも最初の段階で緊急事態宣言の遅れを取ったことの責任は重い。そのためには、当時の政府の対応について正確な情報に基づいて検証する必要がある。

政府の対応の遅れに関する課題は以下に纏められる。

1、 保安院は東電からの全電源喪失という事態が3時42分に生じ、東電からの報告を受けたときには、すでに1時間を経過していることの重大さを理解せず、内閣に45分の時間を経て、報告した。

2、 総理は経済産業大臣の報告を受けたが、「党首会談」を優先した。その時、原発事故での全電源喪失の重大な意味を理解していなかったのだろうか。総理を始めとして、当時その場に居た政府高官、経済産業大臣、内閣官房長官やその他の人々の対応や意見を検証する必要がある。


参考資料

(1) NHKの「シリーズ原発危機 1回 事故は何故深刻化したのか」2011年6月5日

(2) 三石博行 「失敗学に基づく福島原発事故検証のための国民運動を始めよう」
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/06/blog-post_10.html

(3) 三石博行 「失敗学に基づく福島原発事故検証の考え方とやり方」
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/06/blog-post_11.html


--------------------------------------------------------------------------------
東日本大震災関連ブログ文書集

1、ブログ文書集「原発事故が日本社会に問いかけている課題」目次
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/06/blog-post_3562.html

2、ブログ文書集「東日本大震災に立ち向かおう」の目次
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/03/blog-post_23.html
--------------------------------------------------------------------------------




2011年6月12日 誤字修正

0 件のコメント: