2011年11月26日土曜日

再生可能エネルギー促進法とその問題点について(4)

持続可能なエネルギー生産社会を目指すために

三石博行


1-3、「再生可能エネルギーの全量買取に関するプロジェクトチーム」による再生可能エネルギーの全量買取制度の提案」と「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法案」(2009年-2011年)

2009年9月に政権を取った民主党のマニフェスト42項で地球温暖化対策を強力に推進すること、同マニフェスト43項で再生可能エネルギーによる電力の全量買い取り方式の固定価格買取制度を導入すること、44項で環境に優しく、質の高い住宅の普及を促進すること、そして、45項で環境分野などの技術革新で世界をリードすることが述べられていたつまり、これまでの自民党政権の原発推進を基調とするエネルギー政策に対して民主党は選挙前では再生可能エネルギーを重視する政治的視点を持っていたと言える。

2009年9月に成立した民主党政権下では、それまでの原発政策への基本的な方針転換は打ち出されなかった。それでも一応、政治公約に挙げた再生可能エネルギーによる電力の固定価格買取制度を検討するグループ「再生可能エネルギーの全量買取に関するプロジェクトチーム」が2009年11月に組織された。このプロジェクトチームは政治指導体制で行われ、経済産業省の政務三役と柏木孝夫東京工業大学教授を委員長する有識者5名によって構成された。「再生可能エネルギーの全量買取に関するプロジェクトチーム」の会合は2009年11月6日の第1回目から2010年7月23日の5回目まで続き、平成22年8月4日に経済産業省(資源エネルギー庁)からプロジェクトチームの再生可能エネルギーの全量買取制度の基本的な取り決めが報告された。

プロジェクトチームは「再生可能エネルギーの全量買取制度の導入に当たって」の意見の中で三つの基本的な考え方を示した。 一つ目は、「再生可能エネルギーの導入拡大は、「地球温暖化対策」のみならず、「エネルギーセキュリティの向上」、「環境関連産業育成」の観点から、低炭素社会と新たな成長の実現に大きく貢献する」ものであり、二つ目は、「再生可能エネルギーの導入拡大」、「国民負担」、「系統安定化対策」、の3つのバランスを取りながら現実的な全量買取制度の設計に即して、最大限の国民負担の抑制と同時に最大限に導入効果を追求することであり、そして三つ目は、再生可能エネルギーの全量買取制度の大枠について国民に発表し、詳細な制度設計、地球温暖化対策のための税や国内排出量取引制度の議論を行い、その動向を見極めつつ、検討を進めることが大切であるという考え方である。そして、この導入によって、2020 年までに再生可能エネルギー関連市場が10 兆円規模となることを目指すと述べられている。

プロジェクトチームの「再生可能エネルギーの全量買取制度の導入」の提案に即して、政府・経済産業省はあの東日本大震災の日、平成23年3月11日に「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法案」を第177回通常国会に提出すること報告したのである。
この法案には再生可能エネルギーの固定価格買取制度と太陽光発電買取費用を国民が負担するサーチャージ(太陽光発電促進付加金)が導入された。


1-4、3.11(東電福島第一原発事故)以後、問われたエネルギー基本計画と「電気事業者による再生可能エネルギー等の利用に関する特別措置法」成立(2011年)

平成23年3月11日東日本を巨大地震と未曾有の大津波が襲い、東日本大震災によって甚大な被害が発生した。東京電力福島第一原子力発電所(以後東電福島第一原発と呼ぶ)も地震と津波の被害に晒された。そして、原子力発電所が全電源喪失を起こし、冷却機能を失った原子炉でメルトダウンが進行し、水素爆発を起こし、広島に投下された原子爆弾100個分の放射能物資が大気中に放出されたとも言われている。

東電福島第一原発事故(以後福島原発事故と呼ぶ)は深刻で広範囲の放射能物質による汚染を引き起こしている。そして、未だに原子炉の冷却作業が続いている。原発事故のもたらした被害総額は莫大なものと予測されている。公益社団法人日本経済センターは、「今後10年間で20兆円の処理費用がかかるとの試算結果を7月19日公表した。一方、政府は事故処理には数十年必要との見通しを発表している。」(Wikipedia)さらに、植草一秀は、今後の事故処理や損賠賠償に関して、1999年に発生した茨城県東海村のJOC原発臨界事故と比較し、JOC原発臨界事故での避難エリア(350m)で150億円の賠償責任が生じたので、今回の原発事故での避難エリアは約半径20kmとして、その面積の倍数に賠償金を単純に乗じて得られる約50兆円の数値を示す報告をしている。

こうした広範で長期化を避けられない福島原発事故への賠償問題(東電の賠償金支払い能力を越えた課題)に対して、国は「原子力損害の賠償に関する法律」の3条1項と16条1項に基づき、自然災害によって生じた甚大な事故として福島原発事故への損害賠償への補助を決定した。それに対して、日本弁護士連合は2011年6月20日、「福島第一原子力発電所事故による損害賠償の枠組みについての意見書」を内閣総理大臣及び経済産業大臣に対し提出し、少なくとも東電は5億近い賠償資金を資産売買によって得られることを説明し、東電が事故賠償責任の回避をしないように働き掛けている。

広範な地域の放射線汚染物質の除去、汚染地域での生活や経済活動への被害、健康被害等々、そして風評被害まで含め福島原発事故が与えた経済的打撃は計り知れない莫大な金額であることは疑えない。この事態を重くみた政府はこれまで続いてきた原子力政策とエネルギー基本計画を見直す作業に取り掛かった。

2011年5月10日管直人首相は今後のエネルギー政策について従来の計画を白紙に戻して議論する」と述べ、原発への依存を減らす方針を表明した。管総理はエネルギー基本計画に示された2030年の総発電量のうち50%を原子力と想定したエネルギー基本計画を見直し、太陽光、風力発電などの再生可能エネルギーと省エネ社会実現を2本柱とする意向を示した。新たなエネルギー基本計画では2030年に向けた目標ではエネルギー自給率の向上とゼロ・エミション電源比率の引き上げが掲げられた。

日本のエネルギー政策を決定していた「エネルギー基本計画」の抜本的見直しを検討するために、経済産業省・総合資源エネルギー調査会基本問題委員会の第1回会合が2011年10月3日、第2回目が10月26日に開催された。

脱原発への社会世論が起り各地で脱原発を訴える市民運動が盛んに行われるようになった。管首相の浜岡原発の稼働の中止要請を受け中部電力は5月9日に原子炉を止めた。また、2009年11月から始まった「再生可能エネルギーの全量買取に関するプロジェクトチーム」の提案を実現する「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法案」作りが始まった。この法案が2002年の「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法」のように骨抜きにならないために、活発な提案が社会から行われた。

政府もその動きに反応した。例えば、2011年6月12日 太陽光や風力など自然エネルギーの普及について菅直人首相と孫正義氏を含む民間有識者が意見交換する懇談会を首相官邸で開催した。孫正義氏が主導し、全国の35道府県が協力して太陽光や風力などの発電を普及させる「自然エネルギー協議会」(石井正弘・岡山県知事会長)が6月13日に秋田市内で第1回総会を開き、電力の全量買い取りの制度の早期制定など6項目を柱にする政策提言「秋田宣言」をまとめた。

3月11日に閣議決定した「電気事業者による再生可能エネルギー等の利用に関する特別措置法案」は与野党協議を経たその修正案(第177回国会閣第51号に対する修正案)が8月23日に衆議院経済産業委員会で可決され、8月26日に成立した。この法律は2012年7月1日から施行される。


参考資料

1、 日本弁護士連合会「福島第一原子力発電所事故による損害賠償の枠組みについての意見書」2011年6月20日 http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2011/110617_2.html
2、 原子力損害の賠償に関する法律(昭和三十六年六月十七日法律第百四十七号)http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S36/S36HO147.html
3、 Wikipedia 「福島第一原子力発電所事故」
4、 植草一秀 「原発事故加害者が被害額大幅圧縮に突き進む暴挙」http://uekusak.cocolog-nifty.com/blog/2011/04/post-ea3c.html
5、 YOMIURI ONLINE 「菅首相、原発依存見直しを表明」2011年5月11日 読売新聞 http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20110510-OYT1T00978.htm
6、 WWFジャパン公式サイト「エネルギー基本計画」を審議する第1回会合が開催されました」http://www.wwf.or.jp/activities/2011/10/1018105.html
7、 寺島実郎「エネルギー基本計画の見直しで問われるもの」日経BP社 BPnet http://eco.nikkeibp.co.jp/article/column/20111028/109141/
8、 産経ニュース msn 「自然エネルギー普及で意見交換 12日に首相と孫正義氏ら」2011.6.10、http://sankei.jp.msn.com/
9、 産経ニュース 「「自然エネルギー協議会」が初総会 「秋田宣言」まとめる ソフトバンク孫社長が主導」2011.7.13、http://sankei.jp.msn.com/
10、 経済産業省 資源エネルギー庁「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法案について」 NewsRelease平成23年3月11日 資源エネルギー庁
11、 「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法案要綱」
12、 電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法(平成十四年法律第六十二号)


つづき

1-5、「電気事業者による再生可能エネルギー等の利用に関する特別措置法」の簡単な解説
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/11/blog-post_27.html


論文「再生可能エネルギー促進法とその問題点について」のダウンロード
http://hiroyukimitsuishi.web.fc2.com/pdf/kenkyu_03_04/cMITShir11a.pdf




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ブログ文書集

1、ブログ文書集「原発事故が日本社会に問いかけている課題」目次
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/06/blog-post_3562.html

2、ブログ文書集「東日本大震災の復旧・復興のために 震災に強い社会建設を目指して」の目次
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/03/blog-post_23.html

3、ブログ文書集「日本の政治改革への提言」の目次
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/06/blog-post_9428.html

4、ブログ文書集「21世紀日本社会のための大学教育改革の提案」
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/04/blog-post_6795.html


12月8日、誤字修正
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