2011年11月2日水曜日

同志社大学「PBL教育フォーラム2011」参加して

参画型授業の開発(1)


三石博行



PBL(Problem Based Learning )教育の必要性

2011年10月22日、同志社大学の新町キャンパスで同志社大学PBL推進支援センター(山田和人センター長)の主催、株式会社SIGELの共催で、「PBL教育フォーラム2011」が開催された。このフォーラムの参加定員は300名であった。私はこのフォーラムに関する情報を河村能夫龍谷大学経済学部教授や高等教育研究会事務局の佐々江さんから教えてもらって、開催日前の19日になって慌てて参加登録をお願いし、何とか参加することが出来た。

PBL教育に関しては、以前から非常に興味を持ち、河村能夫龍谷大学教授とUCSF(カルフォルニア大学サンフランシスコ校)のM.Kevin教授(不幸にして8月に交通事故で他界された)を龍谷大学の教育開発研究センターの協力を得て、2回龍谷大学に招待し講演会を開催したことがあった。

PBL教育は世界中の大学で課題となっている。何故なら、大学は高度に発達してゆく知識社会を担う人々を育てなければならない。自ら学ぶ力、つまり学ぶ姿勢を持つ人材教育が大学教育の重要な柱となっている。そして、参画型授業の一つとしてPBLが開発されてきた。しかし、PBL教育は日本の大学教育では十分に普及している訳ではない。

早稲田大学や同志社大学のようにいち早くPBL教育を大学教育制度改革に取り入れようとしている大学がある。そして、今回、同志社大学で開かれた「PBL教育フォーラム2011」はこれまでのPBL教育成果を報告した始めての試みであったと言える。


同志社大学PBL教育、社会連携型PBL教育方法によるプロジェクト科目

同志社大学ではPBL教育の土台となるプロジェクト科目を2006年に全学共通教養教育科目に設置した。このプロジェクト科目はPBL教育をベースにした学生主体の社会連携型のチームで行われた。このPBL教育方法でのプロジェクト科目は2006年度の現代GP(文部科学省による大学教育支援プログラムの一つで「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」)にも採択され、2008度末までPBLをめぐるシンポジウムや報告書、調査訪問、PBL研究会の活動等を同志社大学は行ってきた。

2006年からのPBL教育方法でのプロジェクト科目の試みは、2009年度「プロジェクト・リテラシーと新しい教養教育~課題探求能力を育成するPBL教育の方法論的整備~」として展開され、その斬新的教育プログラムは評価されGPに採択されました。2006年度のGP採択は学生主体の社会連携型のチームを課題にしたプロジェクト科目による地域連携教育であったのに対して、2009年度GP採択は、教養教育PBL(プロジェクト科目)が目指すプロジェクト・リテラシーの育成が評価の対象となった。

こうした社会連携型、つまり社会の教育力を大学に取り入れるPBL教育でのプロジェクト科目や、全学部対象の教養教育PBL 推進を進める中で同志社大学では共通教育センターに所属したPBL推進支援センターが2008年11月に発足したのである。


同志社大学PBL教育推進支援センターの活動と教育思想

同志社大学のPBL教育推進支援センターが主催した2011年10月22日の「PBL教育フォーラム2011」で、同センター長の山田和人教授が挨拶を行った。山田教授は「PBL教育フォーラム2011」の主人公は学生であると述べた。この「PBL教育フォーラム2011」はPBL教育を実現した学生たちが中心となって、PBL教育をサポートした企業関係者、大学職員や教員と共に、その経験を交流する会であること、また、フォーラムでの発表を通じて、学生が自らの成果を確認し、さらには、他の大学でのPBL教育を実践した学生たちの発表を聴き、その成果や反省と自らのそれとを比較検討しながら、今後の学習に活かして欲しいと山田和人教授は話した。

そして「PBL教育フォーラム2011」で発表し討論する学生の姿(姿勢)を通じて、PBL教育の成果を理解することが出来ると、山田教授は参加者(企業関係者、大学職員、教員)に述べた。このPBL教育を実現するために、協力した企業の関係者、大学職員も今回のフォーラムに多数参加していた。このフォーラムがPBL教育プログラム(プロジェクト科目)に参画した学生たちが参加していることと同様に、PBL教育を支援した企業関係者や大学職員が多数参加している点も、これまでの大学でのフォーラムとは異なっていた。


山田和人教授の挨拶(YouTubeで公開)
http://youtu.be/8av13DzsUTA





PBL教育には、明らかにこれまでの教師の立場から観た教育スキル論である大学教授法と異なる視点や思想が求められていた。そのことを山田和人教授は「このフォーラムは学生さんが主役です」と述べた。つまり、学ぶ姿勢を身に付けるためには、学生が自ら、学ぶ場の主体となり(学生による授業企画や運営)、学生のための授業内容が検討され(学生が授業進行段階で授業評価を行う)、学生によってその成果が評価される(参画した学生の主観的な満足度や充実観が評価の大切な基準となる)。

つまり、PBL教育を推進するためには、大学が、教員や職員が自らを変えなければならないことが問われているようだ。


PBL教育の成果としての学生の姿

フォーラムは3つの課題(三部)に分けられて構成されていた。第一部では、アップル・ジャパン株式会社の益田玲子さんの「社会で求められている実力とは Why PBL?」と題する基調報告が行われた。 益田玲子さんはアップル社がその創設期から教育という課題を常に追求してきたことや、現在でも教育へ貢献する企業戦略を持ち続けていることを述べた。

第二部はPBL教育を経験した学生たちの発表で、早稲田大学、明治大学、甲南大学、広島経済大学と同志社大学のPBL教育を担当した教員とそれを企画した学生たちが発表した。殆どの大学の発表者は一回生から4回生までの学生たちで、学年を越え学部を越えてプロジェクト科目に参加しPBL授業を運営していた。それらのすべての発表はどれも素晴らしいものであった。ここまで、学生が成長するのだと、参加した我々は痛感したと思う。

しかし、これらの学生の成長を痛感させてくれたのは第三部のパネルディスカッキョンの時だった。全く、予行練習もなく、発表した5つの大学から一人づつパネラーが壇上に上がり、ディスカッションの司会役の山田教授が「このパネルディスカッションは学生によって運営されるため、私(山田教授)は司会といっても、ディスカッションの中には入らない」と最初に述べた。一体、このパネルディスカッションのどうなるのだろうかと参加した多くの人々は思っただろう。しかし、パネラーの中から早稲田大学教育学部3回生の池ヶ谷英里さんが自然と司会者役を担い、他の4つの大学のパネラー達の発言を誘導し、ディスカションの進行を務めた。

この彼女のみごとな司会ぶり(みごとなパネルディスカッションのリード)に、参加した我々から一種の驚きや最高の評価としての「笑い」が生じた。そして、会場は活気づいていった。参加したパネラーは堂々と自分たちのグループで議題になったことや、自分の意見を述べた。

まさに、この学生たちこそがPBL教育の成果である(フォーラムの挨拶で山田和人教授が冒頭に述べとことば)のだと深く感じ入ったのであった。


参考資料

GP(大学教育の充実 –Good Practice)
文部科学省ホームページ(http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/kaikaku/gp.htm)
「文部科学省では、国公私立大学を通じて、教育の質向上に向けた大学教育改革の取組を選定し、財政的なサポートや幅広い情報提供を行い、各大学などでの教育改革の取組を促進するため、「特色ある大学教育支援プログラム(特色GP)」、「現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)」及び「質の高い大学教育推進プログラム(教育GP)」を実施しています。
 平成21年度からは「大学教育・学生支援事業」のテーマA「大学教育推進プログラム」において大学教育改革の取組を推進しています。」

文部科学省大学教育・学生支援推進事業【テーマA】大学教育推進プログラムシンポジウム
2009年度「未来を切り拓くPBL-「教育」の壁を越えて-」
同志社大学PBL推進支援センターホームページ
http://www.doshisha.ac.jp/academics/activity/sympo100220.php

同志社大学PBL推進支援センター 
http://www.doshisha.ac.jp/academics/institute/ppsc/suishin.php


三石博行 河村能夫
「最先端医学教育 UCSFのJMB(Joint Medical Program)・複数専門知識修得の意味 」 
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/03/ucsfjmbjoint-medical-program.html


--------------------------------------------------------------------------------
ブログ文書集

1、ブログ文書集「原発事故が日本社会に問いかけている課題」目次
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/06/blog-post_3562.html

2、ブログ文書集「東日本大震災の復旧・復興のために 震災に強い社会建設を目指して」の目次
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/03/blog-post_23.html

3、ブログ文書集「日本の政治改革への提言」の目次
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/06/blog-post_9428.html

4、ブログ文書集「21世紀日本社会のための大学教育改革の提案」
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/04/blog-post_6795.html


--------------------------------------------------------------------------------



2011年11月4日 誤字修正

0 件のコメント: