2012年11月16日金曜日

政策作成過程の民営化と大衆化

政治改革の課題(7)

三石博行


行政改革は政治家の仕事

本来、政策とは国家の機能を維持するために日常的に運営されているものである。すべての政策は法律的かつ制度的な前提条件をもって成立している。国家機能を維持するために、政府機関や官僚体制の持続的運営を支えるために政策は継続し維持される。これを政策の惰性態あるいは保守性と呼んだ。(1)

社会システムが恒常的に機能するためには、この政策の惰性態によって制度運営が堅持されていなければならない。この惰性態を破壊することによって、社会システムの基本機能が失われる。そのため、この社会システムの惰性態の保持に多く社会機能が用意されている。

日常の行政機能を無視することで、行政機能は混乱する。例えば、今回、文部科学大臣の田中真紀子氏が「大学設定審議会の制度的機能・大学や学部学科設置の認可機能」が果す通常業務に口を出したことがこの例に入る。(2)

しかし、行政システムの惰性態の上に成り立つ官僚制度は、そのシステムの自己保存を行なうために、行政機能の効率が落ちてもそれを自ら改善回復することは出来ない。行政機能の改善、つまり行政改革を行なうのは政治家である。(2)



自民党は有能な官僚出身の政治集団であった

政府機能は官僚と呼ばれる高度な専門家集団によって日常的に運営されている。優秀な官僚とは国家の優秀な資源である。その資源を国民のために有効に活用することが政治の課題の一つであり、その指導力が政治指導の意味の一部をなす。自民党とは有能な官僚出身者によって形成された党であり、官僚の力を政治に反映してきた党であるとも言える。

しかし、自民党議員の大衆化によって、議員達は有能な官僚にすべての政策立案を任せてきた。官僚制度は政策の惰性態を担う社会機能である以上、官僚が提案する政策案はすべて官僚体制の保存を前提にしている。つまり、官僚にとって都合の良い法律が次々に成立する。そのため行政機能が次第に国民の利益から離反し始める。これが、長年の自民党政権で慣習化されてきた。その結果、官僚と政治の癒着による税金の無駄遣いが行なわれた。

有能な官僚出身議員によって指導形成されてきた自民党にとって官僚指導型の国家運営を変革することは困難であった。その官僚主導型を変革するために、荒ぶる政治家として小泉純一郎氏は、「自民党をぶっ潰す」という政治スローガンを掲げて自民党総裁選に立候補した。自民党をぶっ潰すために総裁選に出て、自民党の人気を勝ち取ったのが小泉純一郎元総理大臣であった。考えてみればおかしな話である。

何故なら、行政の機能効率の低下によって日本経済や社会の活性化が低下していることを国民は理解していたが、同時に自民党のように安定した政党が国民には必要であった。そのため、自民党内から自民党の伝統的体質である官僚癒着型政治を変えてくれる政治家が欲しかったのである。

国民は、日本の社会を根本から変革すること、これまで有能に機能していた官僚制度を解体すること、革命を起こすことなど、まったく望んでいなかった。そこで、自民党内からの自民党の自己否定を叫んだ小泉純一郎氏への共感となった。自民党をぶっ潰すという政治スローガンを掲げた自民党総裁の率いる自民党を支持したのである。



政治指導を目指した民主党の挫折から学ぶことが民主主義社会の発展の糧となる

しかし、行政改革を徹底して行ないたかった当時の自民党議員は、それが不可能に近い作業であることを知った。そして、渡辺喜美氏らは、自民党を脱党して、行政改革を中心の政策課題に取り上げた政党「みんなの党」を結成した。

また、民主党は官僚指導型国家運営からの脱却、行政改革は自民党では出来ないと公言し続けていた。小泉政権で十分に達成できなかった行政改革への国民の不満と徹底した行政改革を訴えた民主党が2009年9月の衆議院選挙で、国民の支持を得て政権与党となった。

しかし、民主党が掲げた政治指導では、有能な官僚を排除して知識の乏しい政治家だけで、政策決定を行なうように理解されたと思う。民主党の政治指導は、そう単純なものでもなく、また簡単に官僚を排除したものでもなかったが、現実に、官僚からの反発やボイコットを受けた。

つまり、民主党は、政権に就いたとき、政治指導を政治家中心の政策決定方法と位置付けた。官庁の意思決定機能に大臣、副大臣と政務次官を置いて、政治家が中心にした政策決定過程を構築しようとした。事実上、これまで政策過程を担当してきた官僚の排除となった。そして、この民主党のやり方に、官庁は、無言の作業ボイコットを行なった。この激しい抵抗にあった民主党政権は、行政機能不全に陥った。そして、政権運営の基盤から機能麻痺を起こしてしまった。

民主党の政治指導型の行政運営や政策作成作業は見事に失敗した。鳩山政権が短命で終わり、菅政権が発足し、この政治指導型を修正しなければならなかった。今まで通りに官僚に政策決定権を任せた。その修正は野田政権でも更に進み、殆ど、自民党時代と変わらない政権政党と官僚の関係が復活した。

明治維新以来、日本を近代国家に導き、また戦後敗戦の焼け野原から経済大国に成長させた日本の優秀な官僚体制をそう簡単に変えることは出来ないだろう。その変革は、日本の国のあり方の根本に触れる。有能な官僚を排除して官僚主導型から政治主導型の国家運営を目指すという未熟な政策を民主党が取ったわけではないが、そう思われた民主党政権下での政治指導の試みと、その失敗の分析なくして、今後の日本の民主主義は発展形成することは出来ないだろう。その意味で、民主党政権は多くの政治課題を提供しているといえる。



政策作成過程の民営化と大衆化

民間専門家を入れた政策検討作業

その失敗の一つとして挙げられるのは、政策決定段階で専門家である官僚を排除してはいけないことと、同時に、民間の専門家を入れて官僚指導型から脱却する政策決定過程を構築する必要がある。

官僚にお任せにした政策検討作業では、官僚組織の自己保存プログラムが働くため、その作業目的であった行政改革の課題は頓挫する。だからと言って、政策検討作業過程に官僚を入れないことは不可能に近い。問題は官僚組織の自己保存プログラムを抑制させるための機能を政治が事前に準備しておかなければならないということに過ぎない。

つまり、政策作成過程に民間専門家を入れる。つまり、有能な官僚の参加と同時に民間人や大学研究者が参加して、委員会を作る。勿論、これまでも民間人の専門家が委員会に入っていた。しかし、その人選は全て官僚に任されていた。そこで、民間人専門家の人選を政党内にある各政策課題別の政策検討委員会(もしあると仮定して)が行なう。


専門的知識を持つ議員候補者の選択

それらの人選を行なうのが、政務次官や政務次官補佐である。そのためには、政党内での専門的知識をもった政治家が居なければならない。つまり、専門家が政治を行なうことが、この条件となる。

自民党や民主党が結果的に官僚に政策検討作業を任せたのは、専門的知識をもった人材(政治家)によって党が構成されていなかったからである。党は、政策作成・実行集団である以上、政策(政治過程プログラム)を作成し、その機能性を検証し、改良する能力を持つ人材によって運営されなければならない。

しかし、政党は選挙に勝つためにテレビでおなじみのタレントを採用する。タレントを採用する政党は、選挙を国民による政策選択の作業でなく、人気投票と位置付けているからである。専門的知識のない議員が、突然、専門的知識を要求される政策作成作業に参画できる訳がない。そこで彼らは国のシンクタンク(官庁)の専門家(官僚)に政策作成過程を丸投げするのである。これを止めなければならない。

勿論、最近ではマスコミも優秀な専門家をトーク番組に採用している。国民の意識や知識のレベルが上がることによって、マスコミが専門的知識を持つ人々を採用することになる。その結果、橋下徹大阪市長の例を取るまでもなく、専門的知識を持つ人々がタレントになる。それらのタレント専門家が選挙になると、これまでのお茶の間でのトーク実績を活かして当選する時代が到来している。

マスコミやインターネットによって情報が素早くあらゆる人々に拡散する情報化時代では、各政党は、専門的知識を持つタレントを選挙の立候補者としてリクルートすることが重要な課題となっているのである。


政策討論活動を行う政策検討委員会の形成

こうした政党の政策実現への取り組みは、政権政党になってから行なうのでは間に合わない。そこで政党は、野党与党を問わず積極的に政策検討活動を行なう必要がある。つまり、政党は専門知識を持つ人的資源を持つことで、政策政党としての機能を強化することが出来る。そこで党員以外にサポータなど、政党理念に共感する民間専門家(シンクタンク、大学、NPO、企業の専門家)を入れた政策検討会議を組織する必要がある。

また、政党は専門的知識を持つ政党サポータを入れた政策検討会議のみでなく、学会活動を行っている大学研究者や民間専門家が研究活動の成果を取り入れる必要がある。政党サポータでない専門家の意見は政党の政策案に関する政治的立場を越えた多様な視点に立つ評価を行うことが出来る。批判的に政党政策を検討する機能を保障する政策検討機能を持つ必要がある。(3)

政策として問題解決力の検証を無視した行為は、選挙公約に関する責任を持たない政治を続けることになる。その結果、毎回、選挙後に政党は選挙公約を破棄し続ける公約違反が続く。今回も民主党政権が今までの自民党と同じように選挙公約を無視した。この選挙公約破棄の慣例を政治の姿と理解する国民は議会制民主主義への深い失望感を持つことになる。選挙に行っても、政党のマニフェストに基づく立候補者を選んでも、結果的に、それは意味を持たない。国民は深刻な政治不信を持つことになる。その結果が、投票率低下と呼ばれる消極的選挙ボイコットを生み出すことになるのである。

つまり、実現性のない選挙公約を自ら検証する力を政党は開発しなければならない。こうした批判力を日常的に党機能として形成しない限り、現実的な政策を国民に提案し選挙で評価してもらうことも、また責任ある政権与党になって政策を実現することも出来ないのである。(4)



参考資料

1、三石博行 「体制の保守、改革と破棄と呼ばれる政策の三つの形態」
http://mitsuishi.blogspot.jp/2012/11/blog-post_7.html

2、三石博行 「行政改革を可能にする政治指導の在り方」
http://mitsuishi.blogspot.jp/2012/11/blog-post_15.html

3、三石博行 「立法機能を担う議員活動を支える制度の提案 」
http://mitsuishi.blogspot.jp/2012/11/blog-post_752.html

4、三石博行「選挙公約法、選挙公約点検サイトと公約実現実績情報公開制度の必要性」
http://mitsuishi.blogspot.jp/2012/10/blog-post_25.html

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