日本の新型コロナウイルス対策を評価するために、現在までの世界での対策に関する評価を行いながら「合理的対策」について考える。合理的対策の存在に関する疑問と「首尾一貫しない日本の新型コロナウイルス感染症対策」への苛立ちは同じ課題に根差しているように思える。もし、合理的対策が無いなら、首尾一貫しない日本の感染症対策への苛立ちは根拠を失う。そして、むしろ、合理的対策とは何かが問われることになる。防疫や治療に関する感染症対策は新型コロナウイルス対策の一部であるが、ここでは、感染症対策に限定した議論を行いながら、「合理的対策」とは何かという課題、それは取りも直さず「一貫性を欠いた日本の感染症対策」に関する分析へとつながると思う。
A、世界の多様な感染症対策
世界の国々の新型コロナウイルスによるパンデミックへの対応は国々の社会、経済、政治や文化によって異なる。しかし一方で、災害源がコロナウイルスである以上、それへの対応は共通しているだろうと思われるが、それぞれの国に共通する対応とそうでないものがある。とは言え、病原体が同じである以上、防疫に関する対策は共通していると思われる。もし、その対策までも国々の事情によって異なるのであれば、それらの原因を理解しなければならない。
防疫対策として
1、検査体制充実とクラスター対策
2、陽性者の隔離
3、接触感染防止対策(三密対策)
医療対策として
1、軽症者の隔離・監視と治療法
2、中・重症感染者の治療法
3、重篤感染者の治療法
以上の防疫と医療に対する考え方は殆どの国で共有できると思われた。実際は防疫対策に関して大きく二つの流れがあった。その理由は「検査体制充実」に対する重点の置き方の違いから生じていた。一つは、2020年2月から6月までの日本に代表されるようにPCR検査を重視しない立場で、その主な理由は「検査によって多発する陽性者を収容することで生じる医療崩壊を避ける」ためと言われてきた。
こうした問題は、防疫対策と医療対策を別々に行うことが不可能である現実から生じている。「隔離」が伝統的な疫学対策、防疫の基本である。病原体の検査技術が進むことで、感染者の物理的「隔離」をより正確に行うことが出来るようになった。つまり、検査で陽性者と非陽性者を判別し、陽性者を隔離することで、隔離空間を縮小することが出来る。隔離空間の縮小によって、まず、合理的内陽性者の管理(隔離と治療)が可能になる。そして、すべての人々を隔離しなくてよいことで非感染者の経済や生活活動を守ることが出来る。細菌学、遺伝子学、検査技術の進歩によって検査隔離法が疫学対策の主流となっている。
B.防疫対策
防疫対策の具体事例に関して、世界の国々での共通した疫学・医療対策や異なる対策、もしくはその対策の程度の違いがある。それらの4つの防疫対策の具体事例に関する課題を以下に示す。
防疫対策に関して
1、検査体制充実とクラスター対策を巡る対応
・PCR検査を巡る意見や対応(検査条件の違い)
・クラスター対策(濃厚接触者に限定するか)
2、陽性者の隔離を巡る対応
・軽症感染者の徹底した隔離か、自宅待機か
・無症状感染者の徹底した隔離か、自宅待機か
・感染者の隔離日数
3、接触感染防止対策(三密対策)を巡る対応
・マスク着用の義務化
・ソーシャルディスタンス
・閉鎖空間での飲食、イベント等の禁止
・換気、通気設備の設置要請
4、その他
・検温対応の義務化
・消毒液の設置義務化
・感染拡大の評価と隔離対策のレベル設定
世界の国々での防疫対策に関しては、共通点と相違点がそれぞれ見られた。では、医療対策はどうであったか。
C.医療対策
医療対策に関して以下、殆どの国で行われた治療
1、軽症者の隔離・監視と治療法
・軽症感染者及び無症状感染者の医療施設への隔離
・軽症感染者及び無症状感染者の準医療施設への隔離
・軽症感染者及び無症状感染者の自宅待と自己治療要請、(厳密な隔離を行わない)
2、中・重症感染者の治療法
・感染対策を行っている医療施設での治療
・抗ウイス剤、免疫抑制剤等、臨床事例から有効性を確認すた薬剤の投与
3、重篤感染者の治療法
・集中医療施設での治療
1で示した「軽症者の隔離・監視と治療法」では、国によって対応の相違があった。しかし、どの国で2の「中・重症感染者の治療法」や3の「重篤感染者の治療法」で、共通した医療が行われた。もちろん、医療施設の整った先進国とそうでない国々での医療格差による対策の違いはある。
D、異なる対応の生まれる背景
世界の国々での疫学・医療対策の共通点と相違点を生み出している要因は、以下4点に列挙することができる。
1、未知の新型コロナウイルスへの疫学的理解の相違
2、医療崩壊を危惧することによる検査体制への疑問
3、疫学対策(疫学専門家集団)と医療対策(感染症医療専門家集団)の二分化
4、今回の新型コロナウイルス感染症のパンデミックはワクチン(予防対策・安全管理)がない状態によって引き起こされている。つまり、感染を防ぐための手段を持たない状態で取られる感染症対策である。
この状況から合理的な対策がどのようにして生まれるのだろうか。むしろ、この状況では、その行方も、また実験的に講じられた対策を検証すること以外に予め合理的対策なのないのが現実の状況ではないかと思える。
2020年11月12日
三石博行
ブログ文書集「パンデミック対策にむけて」