2013年1月23日水曜日

ECは東アジア共同体への道のモデルとなり得るか、その可能性とは

東アジア共同体の可能性を巡る機能的推進の課題(3)

三石博行


東アジア共同体構想を展開するための問題点

まず、東アジア共同体は存在していないと言うことから述べなければならない。つまり、正確には東アジア共同体構想として議論が始まっている段階である。この共同体を我々日本、また議論に参加している諸国は、全く同じ条件ではないにしろ、必要としていると言える。それらの必要性を前提にして、東アジア共同体構想が検討されつつある。

そのために、これから議論する課題を大きく4つに整理してみた。
1、 東アジア共同体構想の現状
2、 東アジア共同体の必要性とは何か
3、 EUモデル(進捗状態)の応用可能性
4、 共同体構想が具体化するための条件とは何か(方法と課題の選択)


東アジア共同体構想とその課題

東アジア共同体構想は、1997年12月インドネシアのクアラルンプールで開催されたASEAN(東南アジア諸国連合)30周年の首脳会議で、「ASEAN+3」と呼ばれる韓国、中国と日本の首相が招待されて参加した非公式首脳会議から始まった。 また、2005年12月クアラルンプールで開催されたASEAN+3の会議でEAS(東アジアサミット・東アジア首脳会議)が提案された。この第1回EASでは,エネルギー,金融,教育,鳥インフルエンザ/感染症対策,防災を優先協力分野に設定された。現在、ESAには、ASEANの10カ国(インドネシア,マレーシア,フィリピン,シンガポール,タイ,ブルネイ,ベトナム,ラオス,ミャンマー,カンボジア)と日本,中国,韓国(ASEAN +3と呼ばれた),豪州,ニュージーランド,インド(ASEAN+6と呼ばれる)と米国,ロシアが2011年から参加している。

現在、東アジア共同体構想は主にASEANとESAで議論されている。中韓日三国での政府間の議論は行われていない。しかし、今回のジョイントカンファレンスに代表されるように、東アジア共同体評議会や大学研究機関、市民組織等で活発な議論が繰り返されてきた。それらの議論によって東アジア共同体に関する可能性が具体的に提案されてきた。

しかし、共同体構想を具体化する地域共同体のガーバナンスシステムの形成にも至っていないのが現実である。つまり、地域連合の地理文化的枠組み(参加国の地理文化的条件)、政治文化的価値表象の概念(参加国の政治文化的理念)、地域共同体を構築するための行程に関する取り決め(地域共同体提携のための条約批准等)等が挙げられる。この構想は従って、状況によれば、全く進展することもなく、また廃止される危険性もあると言えるものである。

その意味で、現在、東アジア共同体の必要性に関して議論し、その内容を相互確認し、少なくとも東アジア共同体構想を具体化するための参加国間の取り決めが必要となるだろう。

しかし、東アジア共同体が必要であるという要請が現実に存在しなければ、この構想は進展しないだろう。その必要とする具体的な内容もESA参加国によって異なるだろう。そこで主な参加国共通の課題について、以下の二つを挙げる。
1、 東アジア地域での平和的共存関係の成立
2、 東アジア地域での経済的相互関係の発展

この二つの課題を展開するためには、参加国の経済、政治、文化的立場(利害関係)から来る平和的共存関係を進展させる要素や条件を理解しておく必要がある。


東アジア共同体構想が成立する条件、域内の平和的共存の成立条件

東アジア共同体構想が成立する条件として、域内の平和的共存の成立条件を課題にする場合、まず、東アジア共同体の成立条件のEUのモデルの第一段階、つまり、域内の共通の政治文化的価値観の形成の現在 の段階とその課題について述べる。

1、戦争責任問題を解決するために

東アジア地域もヨーロッパと同じく、第二世界大戦の戦場となり、莫大な被害を受けた。日本の死者は320万人、中国では2000万人、朝鮮半島でも大戦中のみでなく、朝鮮戦争時に多くの犠牲者を出した。しかし、日本が戦前に行った朝鮮植民地支配、日中戦争、東南アジア侵略、太平洋戦争に関する戦争責任問題は曖昧にされている。

つまり、ドイツが戦後行ったように国民全体が過去の戦争責任と真摯に向き合う文化を生み出すに至っていないのである。そのために、戦後は終わったと宣言してから半世紀経っても、周辺諸国に日本の戦争犯罪の事実を認める運動が起るのである。

また、そればかりではない、日本政府を代表する人々によって、東条英機らA級戦犯が合祀されている靖国神社への参拝が行われている。確かに、極東国際軍事裁判においてA級戦犯として処刑された人々の中には、裁判の在り方、A級戦犯としての判決を検証する必要がある。

しかし、ここで大切なことは、この政府代表の(A級戦犯の合祀されている靖国神社への)参拝が国際社会の視点に立って意味していることである。言い方を合えると、戦後のドイツが、戦争犠牲者と共にヒットラーも合祀されている記念碑に首相が参拝しに行くと想像してみると良く理解できる。この仮定を置くと、どの日本人でも、その異様さに驚くだろう。しかし、その異様さは、日本の過去に関しては国内では通用しないのである。

ここで問題となっていることは、対外的理由によって政府代表参拝を抑えるということよりも、その異様さを理解できない現実の日本的感性の存在理由を真剣に問題にしなければならないのである。

また、日本は戦後、東南アジア、中国や韓国の経済復興を支援して来た。その支援によって、東南アジア、東アジアの経済復興が進んだ。それらの莫大な経済支援の評価が、首相の一回の靖国神社への参拝によってかき消されるのである。経済的に見ても、外交的視点から考えても、大きな損失であると言える。
その為に、以下の二つの提案をする。

A、まず、日韓、日中という2国間で、政府と独立した歴史問題に関する第3者機関を作り、それぞれの国の専門家による、調査研究活動を行う。その成果は公共報道機関と共同して、前回、NHKが報道した「朝鮮半島と日本」のように市民に報道する。

B、草の根国際文化交流を町おこしとして取り上げている運動がある。その実例に習い、日本の各地で、小中教育からの日韓、日中、日露、日台間の交流を推進する。

2、政治制度の違いを認め、そこから始まる議論を行う

言うまでもないが、東アジアの代表国である日中韓三国を例にとっても、政治制度は異なる。日本と韓国は民主主義国家であり、中国は資本主義経済化を進める社会主義一党独裁の国である。北朝鮮は旧来の社会主義一党独裁の国制度を維持している。こうした政治体制の基本的違いからも、EUモデルは適用されないことと言える。そのためには、政治的共同体を巡る議論でなく、その前段階の議論を行う必要がある。

A 例えば、東アジア共同構想を段階的に作りだす、域内の研究者を中心とする民間及び、政府専門家(官僚)や地方自治体専門家の間で、またそれらの組織を越えた横断的な委員会を独自に作りだし、東アジア共同体評議会の活動や今回の第一回「アジア共生」ジョイント・コンファレンスのように、自由な議論を起こす必要がある。

B 尖閣諸島や竹島問題で生じている領有権問題を政治的視点からでなく、歴史的視点、文化的視点、環境的視点、未来学的視点等々の利害を超えて解決で可能性を上記した自由な議論の場に下ろす努力をする。

3、平和的共存の成立条件 教育文化交流を進める

しかし、こうした違いや共同の価値表象を構築するための基本的作業の遅れはあるものの、日本の国際的な平和共存条件を確立するためには、東アジア共同体構想を発展させる必要がある。そのためには、予め高度なレベルの平和的共存を求める課題でなく、学生の教育交流、市民レベルの文化交流や韓流ブームやアニメブームとして域内諸国の文化交流を推進する必要がある。そして、文化交流を通じて、市民が観光旅行として、域内諸国を訪問する。その観光によって、相互理解は深化し、共同の価値表象を形成する土壌が作られることになる。

A 東アジア映画祭、音楽大会、芸術に関するイベントを企画し、市民間の交流を生み出す。その経済文化的効果を理解する。つまり、東アジア共同体構想を文化、芸術、観光活動として展開する発想を育成し、発展させる。

B すでに多くの大学が日中、日韓の大学交流を行っている。未来のアジア共生への道を繋ぐ若い人材育成によって、長期的な視点に立った交流が可能となる。また、学生時代に東アジアの国々で学んだ経験は、その後、社会活動に活かされ、未来社会で必要な多様な人材が育つのである。


4、環境・エネルギー問題を解決する学術産業文化交流を進める

この課題は、新しく節を設けて、議論したい。


結論

地域連合を形成するための単純にEUモデルは東アジア共同体構想に適用されないだろうということを、まず、理解しておく必要がある。

しかし、その上で、このEUモデルを構成している要素が東アジア共同体構想に役立つ。つまり、EUモデルの中で、東アジア共同体構想に役立つと思われるものを拾い出し、その機能性を分析し、解釈して、東アジアの政治地理的条件に合った形で適用可能なもの変換する必要がある。

こうしたモデルのプラグマティズム的な適用や活用に関しては、すでに、日本を始め、アジアの国々では近代化過程で技術や産業システムの取り入れの歴史を持っている。その経験に基き、EUモデルを東アジア化するイノベーションを行う必要がある。

あくまでも参加国家の相互利益が成立していることがそれらの要素の成立条件となる。この場合、理想主義的考え方を改め、現実的で実利的な方法を着実に取る必要がある。しかし、このプラグマティズムには、問題解決型の設計科学思想がなければならないだろう。


参考資料

1、東アジア共同体評議会 『東アジア共同体白書2010 East Asian Community 東アジア共同体は可能か、必要か』たちばな出版 日本国際フォーラム叢書、2010.9.30、655p

2、進藤栄一 『東アジア共同体をどうつくるか』筑摩書房 ちくま新書636、2007.1.10、270p

3、滝田賢司 編著 『東アジア共同体への道』 中央大学出版部 中央大学政策文化総合研究叢書3、2006.3.30、285p

4、廣田功 編 『欧州統合の半世紀と東アジア共同体』 日本経済評論社、2009.9.25、245p

5、佐藤洋治・鄭俊坤 編著『アジア共同体の創成に向かって』ワンアジア財団叢書 芦書房、2011.11.1、276p

6、谷口誠『東アジア共同体 -経済統合のゆくえと日本- 』岩波新書919、2004.11.19、231p

7、崔昇煥; (金美善訳)「東アジア経済共同体の推進方向と課題」、国際公共政策研究. 12(1) 2007-09、pp1-12、
http://hdl.handle.net/11094/12892

8、桂木健次 「環日本海・東アジア共同体と脱原発エネルギー課題」

9、舟橋精一 「第二次世界大戦等の戦争犠牲者数」ホームページ資料
http://www.max.hi-ho.ne.jp/nvcc/TR7.HTM

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