2019年3月12日火曜日

人間社会科学の成立条件(3)


科学技術進歩主義と反進歩主義



20世紀に人類は科学技術によって豊かな世界と手に入れることが出来た。と同時に、その知識が人類を滅ぼすためにも利用されることも知った。また、科学技術文明社会の課題も見えてきた。機械化、高度な生産力、情報化社会、ロボット化、経済や文化のグローバル化等々、そして地球レヴェルの気象変動、環境汚染、大量殺人兵器、無人兵器、宇宙戦争、情報管理社会等々。20世紀は、私たちに科学技術の発展による正と負の側面に向き合わなければならない時代としての21世紀の課題を残した。

この課題に対して、色々な対応が提案されてきた。20世紀の中期までは、科学技術の進歩を信じる立場から、科学技術によって生じる課題は科学や技術が進歩することで解決すると考えられた。または、それらの問題は、科学技術の活用の仕方、モラル上の問題であり、人々が正しく科学技術を活用すれば解決されると考えた。これらの二つの考え方を支配していたものは科学技術の発展への楽観論であった。

しかし、高度科学技術文明社会が持ち込む課題は楽観論を許さない深刻なものであった。その課題に対して、社会進歩自体を疑問視し否定的する立場を取る考え方があった。この考え方は私たちの深層心理に潜む古い精神構造、取り分け非欧米文化圏の人々にある伝統文化に支えている精神文化の流れに根拠を持っている。古い伝統文化を駆逐してきた近代化に対する反発である。この反進歩思想や反近代化を代表的なものが「反科学思想」であった。

20世紀後半から21世紀への世界の流れは、社会進歩や発展に価値を置く立場、科学技術の進歩やそれと共になる経済社会政策を支持する方向が中心勢力となった。その進歩を疑い否定する多くの人々は世界の片隅で追いやられる宿命に立たされている。近代科学や現代科学技術に対しては、科学技術進歩主義か反進歩主義か、近代・現代科学技術への信奉か拒否かという、科学主義か反科学主義の二つの対立する考え方に分裂して行った。

科学技術の否定的側面を非難する反進歩主義者たちも、結局は科学技術文明社会の恩恵を受けながら生きている。科学への疑問も、科学技術の未来を信奉する進歩主義に絡めとられ、近年、特に先進国では、科学自体を否定する反科学的な思想は鳴りを潜めつつある。現実の生活基盤を科学技術進歩に支えられ、それがもたらす生活の便利さの中で生きている私たちは、他方でその進歩が引き起こす深刻な問題を知らされ、その未来を楽観することは出来ない。反科学技術進歩主義は科学技術の進歩と共に形成され続けてきた。


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