2011年6月20日月曜日

ベント決定から避難指示までの東電と政府の情報公開・避難対策に関する検証課題

福島第一原発事故検証(8)

三石博行


ベントの決定から避難指示までの経過

NHKスペシャル「シリーズ原発危機 1回 事故は何故深刻化したのか」での説明よると、東電は3月11日21時半ぐらいに、電気系統の故障により原子炉の冷却装置は動かないことが分かった。原子炉内の温度をさげるために外から冷却水を送り込むことが検討された。そのため支障となっていたのが原子炉内の高圧状態であった。原子炉内部の温度が上昇し冷却水の蒸気によって炉内の圧力が上がるのである。

しかも、冷却水は蒸気となって失われ炉心が冷却水から露出する。それがさらに燃料棒の温度を上げることになる。つまり、原子炉にとって冷却水を失うことは、すでに重大な事故なのである。そして、さらに、それは致命的な事故・炉心溶解(メルトダウン)への入り口である。

東電は3月12日午前0時過ぎに、炉内の高圧ガス(水蒸気や放射能物質)を外に排出すること(ベント)を決断し、1時30分に政府はベントを指示した。しかし、ベントは開始されない。東電のベントに遅れに焦った政府が法律に従って東電にベントを命令したのは3月12日午前5時50時であった。(1)その5分前の5時45分に政府は福島第一原発の半径10キロメートル以内の住民に避難指示をしたとサンデー毎日は書いている。(2)(3)つまり、ベントを開始する約9時間前に第一原発から半径10キロメートル以内の住民に避難指示を出したことになる。

当然、ベントによって放射性物質を含む蒸気が外部に放出される。それによって多量の放射能が大気中に撒き散らされることは避けられない。東電は、4時12分に大熊町役場にファックスでベントを行うことを伝えた。つまり、東電のベント決定(午前0時)から約4時間後、政府のベント指示(午前1時30分)から約3時間後である。


ベントの決定に伴う東電の対応に関する検証課題

1、 東電と政府のベント情報を原発近辺自治体へ伝達した時間は遅いのではないか。つまり、ベントを決定した午前0時から、何らかの形でベントの可能性に関する情報をいち早く近辺の自治体に報告すべきではなかったのか。

2、 ファックスで東電はベント情報を近辺の自治体へ伝えたとされている。東電は大熊町がファクスを受信したことを確認したのだろうか。つまり、常識で考えても夜中の時間帯である。そのため役場には職員がいない可能性もある。ベント情報が敏速にしかも的確に住民へ伝わる必要がある。ベントとは何かを自治体の職員がその意味を正確に理解していない場合もあるだろう。そのために、東電はベントに関する情報を近隣の自治体にどのように伝えたか、検証しなければならない。


ベントの決定に伴う政府の対応に関する検証課題


1、 政府は1時30分に東電に対してベントを指示した。その指示を出した時、当然、近隣の住民への避難対策を検討している筈である。東電に指示を出した1時30分に対策会議及び官邸はどのような近隣自治体の住民への情報伝達手段を検討していたのか。

2、 政府は、『メルトダウン 福島第1原発詳細ドキュメント』 サンデー毎日 緊急増刊3によると5時45分に第一原発の半径10キロ以内の住民への避難指示を出したとされている。(2)しかし、ベントを指示したのは1時30分である。つまり、その政府の指示から避難指示までは4時15分間が経過している。それまでに、政府は原発近隣自治体への連絡や、イベントに関する情報提供をしなかったのだろうか。

3、 政府が行ってきたこと、つまり、ベントを行に当たっての近隣自治体への連絡、近隣自治体と共同しての住民への情報の提供等々、ベントで生じる住民への放射能の被害を最小限に食い止めるための組織的対応に対する検証が必要である。つまり、対策会議や官邸では、少なくとも、ベント決定の段階で、総務省自治行政局、国土交通省、厚生労働省、防衛省等々のベントによる放射能物質の拡散とその対策、さらには被曝者への対応、避難経路の確保など住民に正しく情報を伝え、適切な避難経路を確保し被曝を最小限に食い止め、予測される被曝者への対応(例えば放射能物資の洗浄作業)等々の対応が必要であったと思われる。1時30分以後の政府の組織的対応を検証する必要がある。


参考資料

(1)NHKスペシャル「シリーズ原発危機 1回 事故は何故深刻化したのか」2011年6月5日

(2)『東日本大震災2 被災地に生きる 復興に向けて』サンデー毎日緊急増刊 2011年4月23日 79p

(3)『メルトダウン 福島第1原発詳細ドキュメント』 サンデー毎日 緊急増刊3 2011年6月25日号 89p 写真資料

(4)三石博行 「有効な原発事故対応と情報公開の検証課題(検証の視点と目的)」
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/06/blog-post_16.html

(5) 三石博行 「失敗学に基づく福島原発事故検証のための国民運動を始めよう」2011年6月10日
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/06/blog-post_10.html

(6) 三石博行 「失敗学に基づく福島原発事故検証の考え方とやり方」2011年6月11日
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/06/blog-post_11.html


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東日本大震災関連ブログ文書集

1、ブログ文書集「原発事故が日本社会に問いかけている課題」目次
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/06/blog-post_3562.html

2、ブログ文書集「東日本大震災に立ち向かおう」の目次
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/03/blog-post_23.html
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2011年6月20日 誤字修正

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