2010年8月12日木曜日

第一期吉田民人社会学理論 社会・生活空間の構造-機能分析

三石博行


第Ⅰ期吉田民人社会学理論とは

吉田民人は、『情報と自己組織性の理論』(東京大学出版会 1990年7月)のはしがきで1950年代から60年代の自らの研究生活を「第Ⅰ期」と分類している。吉田民人30代の研究、つまり1967年に吉田が人間社会科学としての「情報科学の構想」を提案し展開していくのであるが、自己組織性情報科学の前段階の吉田民人の人間社会学の問題関心によって構成されている研究を第Ⅰ期の吉田民人の人間社会学研究課題と呼ぶことにする。

これらの研究課題は、その後吉田民人の弟子達の協力を得て編纂された『情報と自己組織性の理論』と『主体性と所有構造の理論』」(東京大学出版会 1991年12月初版)に収録されている論文に代表されている。

この第Ⅰ期の研究課題の一つに、主体的実存者としての人間とその人間が構築し続ける社会に関する理論的解明を挙げることができる。

この研究課題を進めるために、まず社会構造機能分析に関する先行研究を調査し、それらの理論的課題を検討した論考が、以下の論文としてまとめられたと考えられる。

1、「A・G・I・L修正理論(その1)」
2、「動機の社会学的理論」
3、「力関係とモラール -組織動因の問題-」
4、「集団系のモデル構成 -機能的系理論の骨子 」
5、「社会関係の構造-機能分析 -伝統的テーマの再検討 」
6、「機能集団の一般理論 -その基本的骨子-」
7、「行動科学における〈機能)関連のモデル」

吉田民人にとって、アメリカ行動主義とその社会学的展開であるパーソンズ社会学は、社会学先行研究の中でも乗り越えなければならない大きな壁(課題)であった。

それらの理論的考察を経て、主体的実存者としての人間とその人間が構築し続ける社会に関する理論的解明を課題にした。「A・G・I・L修正理論(その1)」に中で、「パーソンズ教授への提言」いう副タイトルを付ているように、吉田は新しい構造機能分析を提案するにあったって、当時、日本の社会学研究に絶大な影響を与えたアメリカ機能主義・パーソンズとの対決を避けて通ることは出来なかったのであろう。
そして、吉田民人がたどり着いた機能-構造分析は、当時、日本には紹介もされなかった(ようやくヨーロッパで生れようとしていた)ポスト構造主義の展開に近い理論であった。

その新しい吉田社会学の理論が
8、「生活空間の構造-機能分析 -人間的生の行動学的理論- 」 
にまとめられることになる。

記号のもつ通時性の時間変化、それに影響されるシステムの自己組織性、確かに、吉田民人はポスト構造主義と同じ方向で、記号=情報概念を展開したが、ポスト構造主義のアンチ歴史主義でなく、むしろ汎進化論を持ち込むことで、記号の進化形態としての社会情報を問題にしていった。

つまり、言語や社会情報は情報概念の特殊形態として理解できる情報科学の概念の検討を始めることになる。その意味で、第Ⅰ期は、第Ⅱ期の吉田情報科学論の前哨段階でもあったといえる。

さらに、この第Ⅰ期の主体性に関する考察は、若い吉田民人の世代の呪縛であるマルクス主義からの脱却を試み展開であったともいえる。この世代、つまり1950年代から60年代のインテリにとってマルクス主義とソビエト社会主義や中華人民共和国は、特に人間社会学を研究する人々にとって大きな壁であったに違いない。

フランスで状況派が生れるように、日本で主体論が形成されていくのであった。その大きな流れの中に、つまり当時の社会運動や思想運動に影響受けながら、独自の人間社会学の地平を構築する闘いが、「生活空間の構造-機能分析 -人間的生の行動学的理論- 」の論文から始まる『主体性と所有構造の理論』」に収録されているのは偶然ではない。



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