2010年6月22日火曜日

公害と呼ばれる人権と生活権への被害

三石博行


産業有害廃棄物による生態系破壊の意味するもの 健康被害

▽ 企業の活動によって生産されるものは商品だけではない。商品にならないものつまり廃棄物も生産される。それらの廃棄物が有害である場合と無害な場合がある。企業が排出する廃棄物を産業廃棄物と呼ぶ。しかし、生活活動によっても廃棄物は生まれる。例えば、二酸化炭素である。火力発電、鉄鋼などの企業活動で多量の二酸化炭素が排出される。また、同様に生活活動(自動車を運転する、料理を作るなど)によって同じように多量の二酸化炭素は排出される。

▽ この二酸化炭素は一定濃度を超えない限り人体には有害ではない。しかし、その量が多くなると人体に害を及ぼす。Wikipediaの説明では、「空気中の二酸化炭素濃度が高くなると、人間は危険な状態に置かれる。濃度が 3~4% を超えると頭痛・めまい・吐き気などを催し、7% を超えると炭酸ガスナルコーシスのため数分で意識を失う」。

▽ 勿論、現在地球規模で進行している気象の温暖化現象はこの二酸化炭素によるものである。「2006年現在の大気中にはおよそ 381ppm(0.038%)ほどの濃度で二酸化炭素が含まれるが、氷床コアなどの分析から産業革命以前は、およそ 280ppm(0.028%)の濃度であったと推定されている」(Wikipedia)。つまり、この100年で大気中の二酸化炭素は約0.01%増加したと言われている。その意味で、やはり二酸化炭素は有害であるといえるだろう。

▽ 企業活動や生活活動によって廃棄物は生み出される。したがって、産業廃棄物のみが問題となっていた時代には、有毒廃棄物が生態系に流出して起こる環境問題とそれから生じた健康被害を公害と呼んでいた。


公害被害者への差別(奇病にされた公害病)

▽ 有毒な企業廃棄物によって生じる環境破壊(公害)は、そのまま、その有毒な物質を扱う企業内の勤労者にとって職業病の原因になる。エンゲルスの「イギリスにおける労働者階級の状態」の中で、当時のイギリスの労働者階級の劣悪な労働環境が述べられているが、それはそのまま、スモッグの町、ロンドンを意味しているのである。

▽ 20世紀の社会では、企業で働く人々は、彼らの企業活動によって引き起こされた環境破壊によってさらに引き起こされる住民の健康障害問題に関して、無神経になり、理解を示さない。何故なら、廃棄物処理による経営的な企業負担が増え、それが原因して企業倒産が起こるからである。企業廃棄物が引き起こす環境問題を考えることは、生活の場である職場を奪われることを20世紀の労働現場では意味していた。

▽ 水俣でも、水俣病に苦しむ人々を、「奇病」として差別してきた。そして多くの公害被害者が「奇病」に伴う差別を恐れ、公害被害を訴えなかった。その認定問題が半世紀を越えて問題となり続けたのである。


公害と労災職業病 (植田マンガンの例)

▽ 1970年代、大阪門真市に電池の素材になるマンガン鉱物を扱う植田マンガン株式会社が営業していた。大東市には松下電器の下請け企業が多くあった。植田マンガンもその一つであった。

▽ 当時、植田マンガンの近くに住んでいる住民から、「パーキンソン氏病」の原因となるマンガンを扱っている植田マンガンに対して公害反対運動が起こった。パーキンソン氏病とは新鮮麻痺(しんせんまひ)、つまり身体の震えがとまらない症状や歩行困難を引き起こす難病の一つにされていた。

▽ 近接住民の公害反対運動にもっとも激しく反抗したのは植田マンガンで働く労働者であった。かれらは公害反対運動の人々に体をはって抵抗した。植田マンガンで働く人々と近辺住民とが激しくいがみ合ったのである。

▽ 植田マンガンの会社は倒産した。その理由は、公害反対によるものでなく、電池産業の変化にあった。つまり、マンガン電池からアルカリ電池へと新しい性能の高い電池商品が開発されたからであった。その新たな産業の流れの中で公害企業植田マンガンは倒産したのである。

▽ 突然の会社倒産の知らせを受けてもっとも打撃を受けたのはそこで働く人々であった。彼らは、長年のマンガン鉱石を扱う労働によって、塵肺(じんぱい・肺に粉塵がたまり肺胞が硬く繊維化し、肺の機能が失われる病気)になり、またパーキンソン氏病(マンガン中毒)に罹っていた。

▽ 植田マンガンの労働者は組合を結成し、公害反対運動をしていた人々とも連絡を取り合って、マンガン中毒の職業病の認定と保障を獲得するために運動を起こした。


繰り返される問題、アスベスト粉塵問題の例

▽ 絶縁体で熱に強いアスベスト(石綿)は電気機器の中に、また耐熱材や建築材料として広く使われていた。しかし、アスベスト粉塵は肺気腫や肺がんを引き起こす物質であることが知られていた。1970年代のアメリカではアスベストの使用を禁止したが、日本ではその使用を2006年3月まで法律で禁止さることはなかった。そのため、アスベストによる被害は非常に広がった。

▽ 科学技術進歩によって、多くの化学物質が開発されてきた。そのことによって産業は発達し、多くの新商品が開発され、我々の社会は豊かになってきた。

▽ しかし、その反面、それら新しい素材の人体への影響に関する課題が生じる。例えば、ダイオキシンはもともと自然界に存在しないポリ塩素炭水化化合物である。その物質はごみの焼却(しょうきゃく)によっても生成される。その毒性は強く、ベトナム戦争時にアメリカ軍が枯葉剤として大量に使った。

▽ 我々は便利な化学物質を見つけ出し、また発明し合成している。それらの物質の毒性や環境負荷に関して知る必要がある。また、危険な物質の生産に関しては制限が必要となるだろう。

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