2015年4月14日火曜日

民主主義社会文化の発展のために

2015131日 第一回関西政治社会学会研究会 同志社大学今出川キャンパス



設計科学論から展開できる民主主義社会での政策の課題に関する考察-


三石博行 (Mitsuishi Hiroyuki)


1、吉田民人の情報と情報処理の一般概念化



1-1、情報の概念



吉田民人は『自己組織性の情報科学』の中で情報の概念を大きく四つに分類した。

1、「最広義の概念、物質・エネルギーの時間的、空間的、定量的、定性的パターン 物理・化学的自然現象を形成している情報現象」(2)

2、「広義の概念、生命の登場以後の自然に特徴的な「システムの自己組織能力」と不可分の情報現象、「意味をもつシグナル記号の集合」と定義される」(2) 情報現象である。

3、「狭義の概念、人間個体と人間社会に独自のもとお了解された情報現象であり、「意味をもつシンボル記号の集合」で多くの自然言語でいうところの「意味現象」一般に当たる」(2)情報現象である。

4、「最狭義の概念、自然言語に見られる情報概念」(2)を意味する。

吉田民人はこの情報概念の設定によって、我々を取り巻く世界が物質的存在形態と情報的存在形態によって構成されていることを述べ、情報学を自然科学を土台にした物質科学と同じ、もしくはそれと相補する科学として位置付けた。この情報概念を吉田は、アリストテレスの「質料」に対する「形相」の現代的解釈概念であると位置づけている。


1-2、情報処理の概念



生命の発生以後、個体保存と種の保存を原則とする生命活動がもつ「システムの自己組織能力」は、広義の情報概念から付加される情報処理と呼ばれる情報現象にある。システム内の情報処理によって生命は個体生体内の機能を維持すると同時に、その個体が新たに同じ個体を再生産することが可能になる。また、個体が変化する環境に順応するために個体の進化(変化)を生み出す能力も獲得することになる。吉田民人の情報概念を前提とした「情報処理」の定義は、一挙に、情報工学的な概念を一般化し生命活動全体の個体保存、種の保存と進化の概念をその情報処理の概念の下位概念にしてしまった。

吉田民人は「広義の情報変換」と称する情報処理を「情報の時間変換,空間変換,担体変換,記号変換,意味変換という五つのタイプ」(2)に分けた。また、「狭義の情報変換」(情報処理)は「担体変換・記号変換・意味変換の三つ」(2)からなり、広義の情報変換(情報処理)は、それに情報の「時間変換・空間変換」(2)を加えたものとした。

1、「時間変換、情報の時間的移動すなわち情報の貯蔵を意味する。個体内貯蔵と個体外貯蔵で、記録・保存・再生の三段階から成り立っている。」(2)

2、情報の空間変換とは、「情報の空間変換である.情報の空間的移動すなわち情報の伝達であり,情報貯蔵と同様,個体内伝達と個体外伝達に二分され,それぞれ発信・送信・受信の三段階から成り立っている。」そして「発信・送信・受信」という空間変換=伝達処理の三段階と「記憶・保存・再生」という時間変換=貯蔵処理の三段階とが,理論的にはパラレルな関係にあることを指摘しておきたい.発信に対して記録,送信に対して保存,受信に対して再生がそれぞれ対応し,情報は,①発信と記録に際してインコード,すなわち送信と保存に適した記号形態に変換され,②送信と保存の過程でノイズの影響を受け,(訪受信と再生に際してディコード,すなわち利用に適した記号形態に再変換される」(2)

3、情報の担体変換とは、「情報現象には,かならずそれを担う物質・エネルギー的側面,すなわち情報担荷体ないし情報担体が不可欠であるが,担体変換とは,それ以外の変換のない,あるいはそれ以外の変換を捨象した,情報担荷体のみの変換と定義される。」(2)「情報の転写,情報のコピー」(2)がその具体的な例である。

4、情報の記号変換とは、「情報の意味面の変換を伴わない,あるいはそれを捨象した,記号面だけの変換のことである.わかりやすい例でいえば,片仮名を平仮名に変える,モールス信号を普通の日本語に直す,あるいは外国語の翻訳などである.目で見たものを言葉で表現するのも,それに伴う意味の変化を捨象するなら,視覚情報から言語情報への記号変換である.」(2)

5、情報の意味変換とは、「非常に多くの事象を総括した概念であるが,情報の担体変換や記号変換の有無に拘らず,少なくとも意味面の変化に着目したものである.連想,計算,分類,推理,一般化と特殊化,それに意思決定などは,代表的な意味変換の事例である。」(2)


1-3、最狭義の情報処理の例として、「意思決定」とは



吉田民人の情報処理の概念から解釈される意思決定とは、「一組の認知的(事実命題),評価的(価値命題)ならびに指令的(行動命題)な情報がイソプットされ,意味変換の結果,一定の指令的な情報がアウトプットされる」(2)ことを意味する。言い換えると、「一組の認知・評価・指令情報から一定の指令情報への変換」(2)が行われることである。「意思決定とは情報変換,より精確には意味変換の一種である」(2)と吉田は再解釈した。


1-4、「情報形態の進化史」や「記号進化論



吉田民人の4つの情報概念(最広義、広義、狭義、最狭義)は、物理・化学的な物資によって構成されている無機的世界から、有機的世界、生物的世界、社会文化的世界、自然言語・精神構造的世界の情報現象を説明する概念であった。

また、それらの生命以後の世界の広義の情報変換の概念によって、生命独自の現象、つまり個体保存、種の保存と進化の概念が生まれることになる。言い換えると、
それらの「情報と情報処理」現象の解釈を通して、それぞれ4つの情報概念(最広義、広義、狭義、最狭義の情報概念)の形態が地球史的視点から観れば、それぞれ進化して来たものであると理解できるのである。

この情報形態の進化、特に広義の情報から最狭義の情報への進化形態を吉田民人は「情報形態の進化史」と呼び、それらの3つの情報に付随する記号、物理化学的なエネルギーを基にしたシグナル記号から形象や音声の言語認識を生み出すシンボル記号の記号形態の進化と理解し、それを「記号進化」と呼び、記号が進化してきたとする理論を「記号進化論」と命名した。


1-5、吉田民人の「自己組織性の情報科学」の科学史的意味


つまり、人間行為や社会現象の情報現象を吉田民人は彼の情報科学の領域内で位置づけれれる社会文化情報学や人間行動学や心理学の情報現象学の特殊ケースとして解釈したのである。それらのすべての情報現象を論理的、体系的、理論的に整理し、「自己組織性の情報科学」のカテゴリー体系として再構築したのである.



2、自己組織性とプログラム概念



2-1、自己組織性



自己組織とは生命を定義する基本的な「生命現象」、つまり個体保存、種の保存と進化の概念を一般化したものである。

「生命以降の進化段階にあるシステムの基本的特性は,システムを構成する情報的要因が,いわば設計図となって,システムを構成する物質・エネルギー的要因のあり方を規定する,というところにある.そして,この情報的要因は変異と選択のメカニズムを通じて多様に変化し,その結果,物質・エネルギー的要因のあり方もまた変異と選択をへて多彩な変化を遂げる.このようにシステムの秩序が,当該システムが保有する秩序プログラムによって規定され,システムの秩序の保持・変容も,当該の秩序プログラムの保持・変容に媒介されて実現する,といった特性は,生命の発生以降の進化段階にある存在に共通して認められるものであるが,これをシステムの自己組織性と呼ぶのである.」(2) 

「このように自らの秩序をプログラムを媒介にして自ら制御・保持・変容させる能力を有するシステムを自己組織システムと名づけるなら,非自己組織システムの根源的要因が「一定の物質・エネルギーとそれが担うパタン(最広義の情報),あるいは一定のバクソ(最広義の情報)とそれを担う物質・エネルギー」であるのに対して,自己組織システムのそれは,「一定の情報・情報処理とそれによって制御される資源・資源処理,あるいは一定の資源・資源処理とそれを制御する情報・情報処理」であると記述することができる.」(2) 

「換言すれば,「物質・エネルギーと情報」というウィーナー的な二元論的自然観は,自己組織システムの場合,資源論的視点と情報論的視点とを統合するシステム観へとわれわれを導くことになる.ただ,この報告では,資源論的視点については割愛せざるをえない」(2) 

吉田民人は「自己組織性という概念には,物理科学の系譜,生物科学の系譜,社会科学の系譜という三つのタイプのものが併存している」として、自己組織性を三つのタイプに区分した.三石 は、自己組織性の人間学の系譜を提案した。

物理科学の系譜

生物科学の系譜

社会科学の系譜

人間科学の系譜


2-2、プログラム



「プログラム」とは「情報処理または資源処理の逐次的ステップを確定的・不確定的,一義的・多義的に規定する情報」のことである.普通,逐次的な処理ステップを確定的・一義的に規定するものだけをプログラムと呼ぶことが多いが,ここでは不確定的なもの,多義的なものを包括している.この種の曖昧性ないし柔軟性なしには,とりわけ人間レヴェルに固有の,シンボル情報による自己組織性は捉えられないからである.また,プログラムによる制御の対象になるのは,資源処理に限られない.情報処理もまたプログラムによって制御される.(2) 


2-3、自己組織化過程の四フェーズ循環モデル



自己組織化の過程は,相互循環的な四つのタイプの基礎過程から成立する,というのが1978年以来の私の基本枠組の一つである.四つの基礎過程を,それぞれ,自己組織化の「フェーズ」と名づけることにしたい.(2) 

1フェーズは,システムのプログラムが記録・保存され,再生されたプログラムによってシステムの制御が行われ,その結果がシステムの選好基準を充足し,当該の再生プログラムが再び採択されて,記録・保存過程に入る,という自己組織システムの構造保持のフェーズである
「プログラムの貯蔵-再生プログラムによる制御一一選好基準の充足-再生プログラムの採択-プログラムの貯蔵」と定式化することができる。(2) 

2フェーズは,システムのプログラムが記録・保存され,再生されたプログラムによってシステムが制御されるが,その結果がシステムの選好基準を充足せず,当該の再生プログラムが淘汰されてプログラムの変異過程に入るか,さもなければシステムの解体にいたる,という自己組織システムの構造崩壊のフェーズである.(2) 「プログラムの貯蔵-再生プログラムによる制御-選好基準の不充足-再生プログラムの淘汰-プログラムの変異またはシステムの解体」と定式化することができる.(2) 

3フェーズは,システムの変異プログラムが生成し,変異したプログラムによってシステムの制御が行われるが,その結果がシステムの選好基準を充足せず,当該の変異プログラムは淘汰されて再びプログラムの変異過程に入るか,さもなければシステムの解体にいたる,という自己組織システムの構造模索のフェーズである.(2) 「プログラムの変異一一変異プログラムによる制御一一選好基準の不充足一十変異プログラムの淘汰-プログラムの変異またはシステムの解体」と定式化することができる.(2) 

4フェーズは,システムの変異プログラムが生成し,変異したプログラムによってシステムが制御され,その結果がシステムの選好基準を充足し,当該の変異プログラムが採択されて,記録・保存過程に入る,という自己組織システムの構造変容のフェーズである.「プログラムの変異一十変異プログラムによる制御一一一選好基準の充足一一変異プログラムの採択-プログラムの貯蔵」と定式化することができる。(2) 

以上の四フェーズは,見られるとおり,相互に循環しながら構造保持と構造変容を包括する自己組織化の総過程を成り立たせている.すなわち,第1フェーズはそのまま反復されるか,第2フェーズに移行する.第2フェーズは第3フェーズまたは第4フェーズに移行する.第3フェーズはそのまま反復されるか,第4フェーズに移行する.そして第4フェーズは,第1フェーズまたは第2フェ一声に移行する。(2) 


2-4、自己組織性の進化



情報形態の進化段階という観点からは,「DNA情報(遺伝情報)による自己組織性」と「言語情報(文化情報)による自己組織性」とを代表的な進化類型と認めることができる。(2) 

プログラムの選択様式の進化段階という視角からは,「自然選択ないし外生選択による自己組織性」と「主体選択ないし内生選択による自己組織性」とを区分することができる。(2) 

内生選択=主体選択なのである.この意味での内生選択=主体選択は、自己組織システムが学習能力をもつようになるのと同時に登場した,(2) 

なお,内生選択=主体選択は,動物のオペラソト学習に見られる「事後的」なものと,人間の意思決定に見られる「事前的」なものとに二分される.事後内生選択=事後主体選択と事前内生選択=事前主体選択の別である.(2) 

情報形態の進化段階とプログラム選択様式の進化段階という二組の基準を組み合わせることによって,自己組織性の四つのタイプを理論的に区別することができる.DNA情報一自然選択型,DNA情報一主体選択型,言語情報一自然選択型,そして言語情報一主体選択型の四つである.(2) 

このうち「DNA情報一自然選択」型の自己組織性と「言語情報一主体選択」型,とりわけ「言語情報一事前主体選択」型のそれは.自己組織性の二つの基本類型をなしている.前者は,生物進化論や分子生物学が対象にしてきた自己組織性であり,後者は,人間科学・社会科学が扱う人間レヴェルの自己組織性にほかならない.(2) 



2-5、「相対1次の自己組織性」と「相対2次の自己組織性」



「相対1次の自己組織性」とは再生プログラムにせよ変異プログラムにせよ,一定のプログラムによるシステムの情報・資源処理の制御を「相対1次の自己組織性」と名づけた。(2) 

「相対2次の自己組織性」とは当該のプログラム自体の保持・変容を「相対2次の自己組織性」と呼ぶことにした.(2) 


2-6、「自然生成的な自己組織性」と「制度化された自己組織性」



シンボル情報,とりわけ言語情報に依拠する人間レヴェルの自己組織性の最大の特徴の一つは.自己組織性そのものが自覚され,その結果,それ自体がプログラム化されるということである.「管理」といわれる現象は,自然言語としても科学言語としても広義と狭義,肯定的と否定等々,多様な解釈を許すものであるが,それが「自然生成的な自己組織性」に対置すべき「制度化された自己組織性」であるという点では,大方の合意がえられるに違いない.たとえば,悪名高い「管理」とは,システムの自己組織性が相対1次のそれを偏重して,相対2次の自己組織性が抑圧されているような制度的状況にはかならない.(2) 


2-7、「複合的自己組織性」



人間レヴェルの自己組織理論の最終的な課題は,複合的な自己組織性の解明と設計である.「個人と社会」をめぐる社会科学の伝統的な課題は,自己組織理論の立場からすると,異なる自己組織性の間の相互連関の代表的な事例だったということになる. (2) 

複合的自己組織性には,①同位レヴェルのシステムの自己組織性の相互連関,②下位システムと上位システムの自己組織性の相互連関,という二つのものがあるが,いうまでもなく「個人と社会」問題は,後者の特殊ケースにはかならない.(2) 



3、プログラム科学と設計科学



3-1、プログラム科学とは何か



「プログラム」は、それを担う記号形態の進化段階に応じて、遺伝的プログラムないしDNA性プログラムに代表される「シグナル性プログラム」と文化的プログラムないし言語性プログラムに代表される「シンボル性プログラム」とに二大別される。(3) 

シグナル性プログラムとは遺伝記号や感覚運動神経記号を代表例とするシグナル記号によって構成されるプログラムである。(3) 

シンボル性プログラムとはアイコンや言語を代表例とするシンボル記号によって構成されるプログラムである。(3) 

「法則」が変容せず「プログラム」が変容しうるという両者のphenotypicaiな相違は、プログラムが記号集合によって担われ、法則がそうではないという両者のgenotypicalな特性の相違に起因している。(3) 



3-2、プログラム科学の課題



プログラム科学の課題は、後述する「実証科学」の視点からすれば、以下の四つにまとめることができる。

1に、個々のプログラムの解明やプログラムの相互関連の解明などプログラム集合それ自体の解明、すなわちgenotypeの解明、

2に、シグナル性プログラムの場合なら物理・化学法則に従う、またシンボル性プログラムの場合なら意味表象に媒介される、プログラム集合の作動過程の解明、
3に、プログラム集合の物理・化学的あるいは表象媒介的な作動結果の解明、すなわちphenotypeの解明、そして

4に、プログラム集合の生成・維持・変容・消滅というライフサイクルの解明、すなわち生物進化や学習や文化変動の解明、

以上四つのテーマがそれである。(3) 



3-3、プログラム集合の作動過程とプログラム集合のライフサイクルの解明



1次の自己組織性」(プログラム集合の作動過程)の解明と「2次の自己組織性」(プログラム集合のライフサイクル)の解明は、「プログラム科学」的自己組織化の動態に関する二大研究課題というべきであろう。(3) 



3-4、設計科学とは何か



設計科学とは何かについては、1997年の段階では明確な言及はない。

「法則」に対置される「プログラム」概念の登場、より精確には「シンボル性プログラム」概念の登場は、自然科学分野における各種の「工学」および社会科学分野における「政策科学」や「規範科学」や「社会工学」、さらには人文学における生命倫理学や環境倫理学などの「新たな倫理の構築」、等々の従来相互に無縁と考えられがちであった知的営為を、「実証科学」に対置される「設計科学」として統合・再編する途をひらくことにもなる。規範性のない言語性プログラムの構築をめざす「非規範的設計科学」と強弱の規範性をもった言語性プログラムの構築をめざす「規範的設計科学」の二類型を分けるなら、たとえば生命倫理学や環境倫理学は、伝統的な了解に反して、規範的「設計科学」の一例と位置づけることができる。(3) 

吉田民人は設計科学の構想を法則科学やプログラム科学の体系に準じて、「実証科学は1研究対象の進化の段階ないし層に応じて、「法則科学」(物理学や化学)と「シグナル性プログラム科学」(生物科学)と「シンボル性プログラム科学」(人文社会科学)に三分されるが、設計科学もまた法則の支配する層ないし領域を設計する「法則型の設計科学」(物理工学や化学工学)、シグナル性プログラムの支配する層ないし領域を設計する「シグナル性プログラム型の設計科学」(遺伝子工学や脳神経工学)、およびシンボル性プログラムの支配する層ないし領域を設計する「シンボル性プログラム型の設計科学」(政策科学や社会工学)に三分される」(3) 

つまり、現在構想される設計科学は以下の三つである。

「法則型の設計科学」(物理工学や化学工学)

「シグナル性プログラム型の設計科学」(遺伝子工学や脳神経工学)

「シンボル性プログラム型の設計科学」(政策科学や社会工学)

設計科学は、設計(研究)対象の側の相違を示す法則型・シグナル性プログラム型・シンボル性プログラム型という区別にかかわりなく、設計(研究)主体の側では、すべて何らかのシンボル性プログラムの設計とその実現をめざしている。この「何らかのシンボル性プログラムの設計とその実現」という共通性が「設計科学」という新たな科学形態を根拠づけるわけである。(3) 


4、設計科学としての政策学基礎論から展望される民主主義社会での政策過程と政策検証過程の検討




4-1、問題提起



20131116日 第四回政治社会学会研究大会(千里金蘭大学)で「設計科学としての政策学基礎論・生活資源論」に関する研究発表をおこなった。この研究発表は、生活資源論を援用することで総合的視点に立った政策提案のための理論構築の可能性を議論することが本稿(本発表)の目的である。

まず生活資源論の成立過程を伝統的社会学の学説史を踏まえて述べる。その課題として、第一章で社会機能構造主義や社会システム論の先行研究の課題から吉田民人の自己組織性情報科学、プログラム科学論や自己組織性の設計科学の展開を踏まえ、生活資源論を提起した理論過程を説明する。

第二章では、生活資源論からの成立の可能性について述べる。プログラム科学として生活資源論を位置づけることによって、生活資源を構成している四つの要素のマトリックスモデルを提案する。そのモデルから生活資源の変化の構造を解明する。このモデルから生活環境の改良と生活主体の改善は同次元に生じることが理解できる。このモデルを前提にすると、これまでの技術史の一面性が理解され、技能と技術の両面から技術史を理解する研究が提案される。

第三章では、生活資源論から展開できる政策学の可能性について述べる。そして最後の章では、現在の社会で要求されている政策提案の課題に不可欠の総合的視点、俯瞰的視点やまたフィードバック構造などを持つ自己組織性の設計科学としての政策学の可能性に関して言及する。

吉田理論の点検課題

²  情報と資源概念から情報処理を行う情報形態をプログラムと考えることによって、人間社会学を自然科学の概念と共通する一般概念に組み込む可能性を示したのであるが、その事によって、一般理論化された社会現象の要因(プログラム)の解明方法が不明となった。
²  伝統的には、人間社会学は機能-構造主義的解釈、または、統計的分析などを通じて、これまで発展して来た。その学説史を継承するために、社会文化、人間科学でのプログラム概念を解明しなければならない。
²  私の提案は、社会・生活資源とその資源のパタンとしての社会人間情報の構造機能的解釈であった。以下、その説明を行う。


図表1、生活資源の機能構造形態
生活資源
生活素材
生活様式
外的要素
生活環境の構造形態(共時態)
生活環境の機能形態(共時態)
内的要素
生活主体の身体性(生命活動態)
生活主体の活動性(指令情報態)


図表2、生活資源のプログラム構造
生活資源
生活素材
生活様式
外的要素
外的生活素材のプログラム
生活環境の物質形態
外的生活様式のプログラム
生活環境の指令形態
内的要素
内的生活素材のプログラム
心身の構造形態
内的生活様式のプログラム
生活主体の行為形態


図表3、時代や文化環境を前提とした生活資源の構成
外的生活素材のプログラ  Mx
外的生活様式のプログラムFx
内的生活素材のプログラム Mi
内的生活様式のプログラムFi
      
                                              

4-2、フィードバック構造をもつ政策提案


また、政策とは時代性や社会文化性を前提にした具体的な改革提案である。具体的ということは、法案や制度提案と呼ばれる政策は変革の目的を満たすための指示情報によって構築されたものである。指示する方向を持つ一つのベクトル的なプログラムであるとも言える。
言い換えると、政策はその時代的有効性を発揮するために、変革を目的としたプログラムの指向性とよばれる一方方向への社会・生活資源の質的変化を期待(目的と)している。その意味で、一般に効力のある政策はある時代と社会状況を変革しなければならない方向に進める力になる。しかし、同時にそのことは、政策の行き過ぎを生じることが前提にしている。
これまでの法律はすべてその法律が目指す社会機能の成立と維持によって、それが強烈な指示情報によって作られている限りに於いて、その政策実行が引き起こすマイナス面が生じることは避けられないのである。言わば、指示とは行為を一つの方向に向けようとしているもので、その反対の方向を同時に行為を指示することはできない。もしまったく異なる二つの方向に同時に行為を行うことを命じるなら、その指示性の有効さは失われることになる。
そこで、その法案の有効性を維持するために適格で厳密な法案が検討されると同時に、そのために生じるマイナス面を他の法案を別途用意することで補足しておく必要が生じる。そのためには、設計科学的立場の政策学が必要となり俯瞰的に政策運動を理解する視点を確立しておかなければならないのである。

4-3、多様なステークホルダーの参画する政策提案


日本をはじめ先進国での政策決定という行為に市民が参画していくことになる。それがさらに民主主義文化を発展させる。つまり、成熟した民主主義社会では政策決定過程が最も大切な社会機能を意味することになる。
何故なら、成熟した市民社会とは、これまで語られた階級社会と言う利害を常に同じくする人々の集まりでなく、多様な利害を持った人々の集まりを意味する。ある一面で利害を異にする人々が他の一面で共同の利害をもつ、それが市民社会の姿である。そのことはすでに、「生産する人であり、消費する人である」やまた「雇用される人であり、雇用する人でもある」として表現してきた。20世紀の工業国社会から21世紀の脱工業国社会への変化は、そのまま階級的社会から脱階級社会への変化として理解できるのである。
これからの社会では、多様な利害関係にある人々、多様な伝統や文化を背景にしている人々、多様な経済社会条件を持つ人々によって、「法の上の平等と自由」を確保しあう社会契約が要求される。それらの人々が共存するためには、社会への積極的な参画の機会を平等に確保しなければならない。市場原理で社会が動く以上、必然的に生じる経済的格差と呼ばれる不平等に対して、その社会的弊害を是正していく税制や社会福祉制度が必要となる。
つまり、多様な社会的立場や利害関係を持つ人々が社会全体の安定性を確保することの意味を共通認識しておくことが求められる。そのために、成熟した市民社会の構成員たちは社会を構成しているすべての多様な人々の利害を調整するための俯瞰的視点を社会意識として養うことが要求されるだろう。その意味で、設計科学的立場にたった社会思想と社会行為が求められるのである。



参考資料


(1) 吉田民人『自己組織性の情報科学』

(2) 吉田民人「情報・情報処理・自己組織性 -基礎カテゴリーのシステム-」組織科学 VoL.23 4 1990pp7-15

(3)  吉田民人「「プログラム科学」と「設計科学」の提唱 -近代科学のネオ・パラダイム-『社会と情報』=Society and information/社会と情報編集員会[編集] (3) 199711 pp129-144

(4)  三石博行「設計科学としての政策学基礎論・生活資源論」 20131116日 第四回政治社会学会研究大会 千里金蘭大学



    この文章は同志社大学今出川キャンパスで2015131日に開催された2015年第一回関西政治社会学会研究会での研究発表の際に配布した資料である。


 

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