2018年7月14日土曜日

終焉のとき 

三石博行


限られた命の時間
もう、寄り道する時間もない
もう、人々の評価を気に掛ける時間もない
もう、余計な自己弁護の時間もない

傲慢なことばの中を
もう、潜り抜ける気配りの時間もない

邪悪な視線の中で
もう、傷つく自尊の壁を造る時間もない

南天の太陽は大きく西に傾き
眩い光はしだいに薄れ
碧い光は柔らかなオレンジ色に変色し
もう、光輝く時代は終わった。
もう、自信に満ちた白い雲はない
もう、碧く波立つ山々は去った

限られし命の時間
すべての人に音連れる終焉のとき

すべての無駄な表現を削ぎ落し
ただ、大切な一言を見つけよ

すべての余計なことばを削除し
ただ、大切な一言を探せ

限られた命の砂が
静かに、落ちる。

ただ、私は急がなければならないのだ
ただ、私はこの不完全燃焼の世界を終えなければならないのだ

ただ、問われているのはだれのためでもない
ただ、問われているのは消滅しつつある私という情念に過ぎない


詩集『心象色彩の館』 目次

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