2011年2月28日月曜日

大学でのリメディアル教育の原因とその課題

大学大衆化による多様化する大学入学者・先進国型大学の高等教育制度改革課題(1)

三石博行


大学の大衆化とリメディアル教育

大学の教養課程で、最近盛んに使われる用語「リメディアル教育」とは、高校までに学ぶべき知識を修得していない学生に対して、大学で再度教育を行うという意味である。

このリメディアルは、大学教育に取ってみれば実に厄介なものである。何故なら、学部学科での専門教育期間は4年間であり、その期間に「教養教育」と「専門教養教育」の修得が必要となる。それらの大学教育を受けるために必要とされる基礎的学力がない学生に、高等教育で義務付けられている科目以外に、高等学校や中学校レベルの知識を教えなければならないのであるから、その分、大学が抱えた教育負担の大きさは想像を超えるものとなる。

大学も入学を許可した以上、卒業要件を満たす教養や専門分野の教育を行い、試験やその他の評価方法を導入して、高等教育終了(卒業資格)を与える条件として、卒業生の一般教養と専門教養の知識レベルを社会に保障しなければならい義務と責任がある。

特に、大衆化した大学の傾向の一つとして「専門職養成学部」が評価されることになると、国家試験の合格率を基にした大学の専門職養成学部の全国ランキング表が新聞に発表される。そして、その評価ランキングが即次の年度の受験者数(入学競争率)を決定する。入学競争率が落ちることは、優秀な学生の確保が困難と受験者数の減少に繋がる。

専門職養成学部で、4年間の国家試験や専門資格取得のための教育プログラムに即した教育を始めようとしても、専門教養教育を理解できない基礎学力の不足した学生は入り口で躓くことになる。

本来、入学者は大学教育を受ける知識的なレベルを持っていると評価された上で、入学を許可されたのである。入学を許可した大学は専門教養教育について行けない学生への教育責任がある。そのために大学はリメディアル教育を行うことになった。リメディアル教育は入学試験を変更し、入学の門戸を広く開いた大学、つまり大衆化した大学が当然行うべき課題なのである。


リメディアル教育の三つの理由

リメディアル教育の原因に関しては、教育産業のサイト(1)、例えば代々木ゼミナール教育総合研究所のホームページで日本の大学のリメディアル教育の原因に関する分析が述べられている(2)。リメディアル教育が必要とされている主な3つの原因を以下に述べる。


1、大学教育の大衆化に伴い、低い学力でも大学入学が可能になっている。特に、最近、少子化によって、入学定員数を大学が確保するため、入学資格のレベルを落とし、無試験で入学を許可する傾向が広がり、益々、高等学校での低学力者も簡単に大学に入学できるようになっているために、入学後の大学でのリメディアル教育の必要性が益々大きくなっている。

2、現在の大学受験制度によって生じている原因によって生じている。例えば、受験校では、受験科目以外の科目が十分に高等学校で生徒の勉強の対象にならない傾向が生じていること。また、高校評価に繋がる有名大学受験合格者数の確保のために、高校での受験対策型授業によって、受験科目以外の教育がおろそかにされる傾向を生んでいる。

3、1980年初頭から2010年まで実施された小中学校や高等学校の「ゆとり教育」の結果、18歳までの子供の基礎学力が非常に低下し、義務教育課程や準義務教育課程(高等学校)でも十分に基礎的学力を身につけないまま進級し続けてきた生徒を抱え、その生徒が結果的に大学入学してくることが原因となっている。

以上述べた三つは、日本の大学でリメディアル教育が必要となった社会的原因であると理解することが出来る。また、近年、リメディアル教育に関する専門的な研究活動も盛んになり「日本リメディアル教育学会」も2005年3月に結成され、現在まで活発な研究活動を続けている。(3)つまり、これらの教育業界での研究とリメディアル教育サポート(商品化)、さらに大学教育研究者の教育学研究は、リメディアル教育が日本の高等教育の重要な課題の一つになっていることを示している。


リメディアル教育形成のための4つの課題

現在、殆どすべての大学でリメディアル教育が実施されている。しかし、リメディアル教育のあり方が各大学の教養教育課程のカリキュラムに任されており、基本的な大学大衆化における高等教育の内容を検討し、その基本的課題を解決するためのリメディアル教育に関する議論は十分になされていない。(4)

この課題を今後検討するために以下4つの課題を述べる。

1、 他の先進国でのリメディアル教育の実態について調査研究する。

2、 大学学部教育を中等教育の流れから再度理解しリメディアル教育を高大連携の課題で解決する。

3、 リメディアル教育プログラムを研究している教育産業(教育研究機関)との連携を積極的に行い、教育研究シンクタンクを活用しながらリメディアル教育の方法や内容を大学が検討する必要がある。つまり、教育サービス機能としての専門性を大学教育の点検課題に取り入れながら、リメディアル教育を検討する。

4、 リメディアル教育学会へ大学教養教育センターが組織的に参加し、日本の高等教育学の課題としてリメディアル教育を検討する。

以上の課題を今後検討する必要がある。


参考資料

(1)Benesse 教育研究開発センターのホームページ 「リメディアル教育」の「Betweenバックナンバー 2007年夏号 特集 大学教育が生み出す「適応」へのプロセス」
http://benesse.jp/berd/center/open/dai/between/2007/07/index.html


(2) 代々木ゼミナール教育総合研究所のホームページ、「リメディアル教育」の中でリメディアル教育の原因について以下の5点を指摘している。

 受験人口の減少 「1992年をピークに減少の一途をたどる受験人口。受験人口の減少による志願者数の減少・競争率の低下は、苦心の入試改革を物ともせず、入学難易度を下降させています。入学者のレベルダウンは、今後の大学教育への支障を懸念されています。」(代々木ゼミナール教育総合研究所ホームページ)

 厳しい入学者確保 「5教科7科目化する国公立大学に対し、私立大学は最小限の入試科目を維持しています。その上入試の多様化による、さらなる入試科目削減は、結果として数学のわからない経済学部生、物理未履修の工学部生などを増加させ、その教育責任が求められています。」(代々木ゼミナール教育総合研究所ホームページ)

 基礎学力の低下 「全国の高3生対象に実施された学力調査結果で、特に理数系科目の基礎学力低下が指摘されました。また従前より、それらの基礎ともいえる日本語力そのものに対しても、基礎学力・知識・常識などに危機感を持たれる先生方が少なくありません。」(代々木ゼミナール教育総合研究所ホームページ)

 目的意識の低下 「大学入試の易化は受験対策のみならず、大学・学部研究も浅くなりがちです。目的意識が不明確なままの「とりあえず進学」は、大学教育レベル・内容との違和感、モチベーション低下を誘発し、早期退学・留年の大きな原因となっています。」(代々木ゼミナール教育総合研究所ホームページ)

 社会環境の変化 「18才人口の約半数が大学へ進学する現在、社会の大学への要請は、本来の使命である研究と(大学)教育だけに留まりません。例えば高校や保護者は、大学教育の準備学習指導を入学前後に大学に求めるなど、以前とは別のイメージで大学を捉えています。」(代々木ゼミナール教育総合研究所ホームページ)
 http://www.yozemi-eri.com/university/remedial/

(3)日本リメディアル教育学会 
http://www.jade-web.org/

(4)酒井志延(千葉商科大学)「初年次教育・リメディアル教育の現状と課題」第8回大学評価セミナー 講演資料
http://www.juaa.or.jp/images/member/pdf/8_1.pdf



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ブログ文書集 タイトル「大学教育改革への提案」の目次
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/04/blog-post_6795.html
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修正(誤字)2011年3月2日







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