2010年8月23日月曜日

大学改革の新しい局面

三石博行


A 中小大学法人の大倒産時代をむかえて

JCASTニュースで、「大学全入時代を迎え、大学の“倒産”が現実のものになった。私大の定員割れは全体の47.1%に達し過去最悪の事態。国の教育方針を決める文部科学大臣の諮問機関、中央教育審議会(中教審)は大学の統合再編も視野に入れて本格的な議論に入った」(1)ことが報道された。

日本私立学校振興・共済事業団(私学事業団)2008年1月にまとめた私大の経営状況調査では、「521の大学法人のうち64法人が「経営困難状態」と判定され、9法人は「いつ、つぶれてもおかしくない状態」というショッキングな結果が」(1)報告されている。

2005年には同世代の約73%の人口が高等学校を卒業した後に大学短大や専門学校などの高等教育機関に入学している。つまり、日本では高等教育の大衆化が起こってる。

この日本の大衆化した高等教育を推し進めたのが国の政策、私立大学への補助金であり、それに援助された私立大学学校法人である。90年代の初めに国は大学設置基準を緩和し、その結果、大学、学部を簡単に設立できるようになり、高等教育機関は益々増え続けた。大学数は90年の507校から現在、227校増えて734校。少子化にもかかわらず大学を増やし続けてきた。

当時国は、大学間の競争を「市場経済原理」の即して促すために、これまで文部省の規制に縛られていた大学設置基準を緩和し、民間企業ですら大学設定が可能な状態にまで持ってきたのである。

その結果、大学は厳しい生存競争に晒される。つまり、潰れる大学と生き残れる大学が生れたのである。それが、国の方針であったともいえる。

つまり、中小大学では、「現実に、私大の経営状況は厳しくなっている。私学事業団が、08年1月にまとめた私大の経営状況調査では、521の大学法人のうち64法人が「経営困難状態」と判定され、9法人は「いつ、つぶれてもおかしくない状態」というショッキングな結果が出た。」(1)


B 大学間競争を生み出す市場原理のプラスとマイナスの側面

国際社会での日本の大学の競争力を付けるために国が持ち出した政策、市場原理で大学を淘汰する政策の結果を検証しなければならない段階に来ている。

大学間の競争に市場原理を取り入れたことのプラスの側面とは、日本の大学が国家の指導でなく、自らの力で世界の大学との競争を前提にして発展する機会を作ったことである。

日本の官製型の文部省指導型の大きな大学、例えば東京大学や京都大学など旧帝国大学や慶応早稲田なのの超有名私学など日本でトップクラスの大学が、大学法人の責任で大学内の制度改革を進めることが出来るようになった。そして、それらの改革の評価も自ら取らなければならない事態をつくった。
そのことによって、積極的に、大学独自の改革を進めれれるようになったともいえる。

当然、国の政策によって、日本の大学では大きく二極化が生じてきた。つまり、大学間の国際競争力に磨きを掛けて発展する大学と少子化の傾向以上に定員割れを起こす中小の大学が生れる。

市場原理に基づく国の大学淘汰を前提とした高等教育政策のマイナス面とは、この二極化の負の側面であるといえる。つまり、多くの倒産寸前の中小大学法人の出現である。

国際競争力のない大学つまり海外から留学生や研究委託の来ない大学、それどころか国内的にも存続の意味を持たない大学つまり入学者定員割れを起こしている大学、それらの大学は、確かに市場原理からすれば、その大学の存在意味を問われているのである。

そして、国が倒産寸前の大学法人の問題を考えないなら、それらの競争に負けた大学、企業であれば倒産は当然の結末であると言える学校法人の現在の姿に対して、当然倒産すべきであると国はおおぴらは主張しないが、同じことを言っていることになる。

大学の倒産によって引き起こる問題
1、在学生の教育の権利の保障
2、卒業生の卒業大学の保障
3、国が私立大学法人へ投入したこれまでの税金、その結果として私学法人が所有する財産の散財化

大まかに以上の問題が生じるのである。

株式会社と言えども銀行の場合にも、その社会的機能において公共性が高かった。ましては、つい10年前まで、税金を投入し私学補助金を支払ってきた国にとって、私学法人の財産が学校法人のものであると帰結するのは無責任な結果を生み出すことにならないろうか。


C 国は、負の側面をカバーする対策を持っているのか

国は、これまで進めてきた市場原理による大学改革に対して、その政策の検証段階をむかえている。

つまり、市場原理によって大学改革を進めることによって、より国際競争力を持つ大学が生れるかという検証が必要である。

言ってしまえば、大学の統廃合を行い、もっと国際競争力をもつ大学を日本にう来る必要はないかということを検討しなければならない。

旧帝国大学を中心とした大学、超有名私学などが、少なくともアジアにおいて高等教育機能として中心となっるために、個々の大学で、さらに競争力を獲得するためにもっとも必要な法律や政策を提案しなければならないだろう。勿論、それは、古い亡霊、つまり文部省、文部科学省の官僚指導という方法でない方法、大学法人、民間、地域社会を入れた方法を検討すべきである。

さらに、忘れてならない課題として、ニ極化の負の部分、つまり、日本の大学を淘汰の荒波に敗北していく大学法人への対策である。多数の倒産寸前の大学法人への対策とは何かと考えなければならない。

これらの中小大学法人の倒産とそれに対する国の対策への問題提起に類似する話は、すでに、1990年代に日本の金融機関の国際競争力を獲得するために、中小市中銀行の統廃合を経験している。その経験が、今回の中小弱小大学法人の倒産の時代に応用可能であるとも言える。

当然、倒産寸前の学校法人としては、国の援助を求めるであろうが、競争力を持たない中小銀行の救済によって失った血税投入の失敗の歴史を思い起こせば、それらの大学法人へ血税と投入して救済するという方法を取ることはできない。

D 今後の検討課題

小さな政府を目指す時代の流れの中で、これまでのように文部科学省の支援や国家指導型の対策を待つことはできない。
むしろ、地方分権化の流れにあった大学再編の道を模索する必要がある。

例えば

1、資金ショートを起こす危険性のある学校法人の経営に対して、民間の「破産管財人」的な制度を考える。
2、学校法人法を見直し、資金ショート寸前(エーローゾーン)の大学法人理事会に対して、その理事会に対して法的に強制的に理事会運営へ介入する制度を創る。
3、地方分権を前提にしながら、中小大学法人の地域ごとの再編を行う。その場合、競争力のある大学法人の指導を前提とする。また、地域ごとの大学コンソーシアムの指導を前提とする。


E 呼びかけ

この課題を、現実に破産寸前の中小大学法人に身を寄せる私個人の問題でなく、国際化する日本の高等教育の将来を考える多くの大学教職員に対して問題を投掛けたいと思う。
ここでは、問題解決のための、コミュニケーションを提案したい。

1、高等教育研究会での「大学法人倒産の時代への対策研究部会」の設定を呼びかける。
2、この問題はそこを職場にしている大学教職員の問題だけではない。教育は百年の計であり、国家の問題である。そのため、この議論を広く社会に呼びかける。将来の日本社会の持続可能な制度を模索し続けてきた「構想日本」に、問題提起する。



参考資料

(1) JCASTニュース 「私大の定員割れ5割弱 大学の「倒産」現実に」 2008年10月9日
http://www.j-cast.com/2008/10/09028154.html?p=all




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ブログ文書集 タイトル「大学教育改革への提案」の目次
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/04/blog-post_6795.html
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三石博行のホームページ
http://hiroyukimitsuishi.web.fc2.com/


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