2011年1月5日水曜日

中国との経済的協力関係の展開と中国への軍事的脅威への対応の二重路線外交を進めよ

三石博行

東アジア共同体の形成のために必要な二つの外交路線


軍事大国中国の台頭と東アジアの軍事力バランスの変動

管内閣・民主党政府は2010年12月に入って、1976年以降続いてきた専守防衛の方針を支えてきた基盤的防衛力構想を変更し、仮想敵国の侵略行為を未然に防ぐために自衛隊を積極的に活用する動的防衛力・脅威対抗型防衛構想を打ち立てた。この脅威対抗型防衛構想での仮想敵国とは、最も大きな経済関係を持つ中国と核を使い瀬戸際外交を繰り返す北朝鮮である。

そして、今後予想される仮想敵国として、軍事力を強化し続けている中国がある。2010年4月の防衛省の「中国の軍事力近代化、海洋活動について」の資料によると、2010年度の中国の国防費は約7兆2,671億円(5,190億8,200万元)で、対前年度当初予算比9.8%の伸びを示している。因みに、ストックホルム国際平和研究所の資料によれば、日本の軍事費は463億ドル(約5兆円)で世界ランキング7位に対して、中国は849億ドルで世界ランキング2位となっている。

日本の約2倍の軍事費を使い世界ランキング2位の地位を占めるに至った中国、富国強兵政策を取り続け、成るべくしてなった軍事強国中国に対して、東太平洋に制海権を持つ米国、その同盟国日本が中国に対して脅威を感じているのである。そして、2010年4月10日に中国艦隊が予告なしに沖縄近海を通過し台湾沖の太平洋で軍事演習を行った。この中国艦隊・中国軍の軍事演習が、これまでの軍事大国中国の台頭に対する脅威感から将来仮想敵国化する可能性を持つ中国への危機感へと変化したと言える。

そして、2010年9月7日の尖閣諸島近海での中国漁船衝突事件が発生、挑発的な衝突行為の後、停船命令を無視して逃走した中国漁船の船長を香味執行妨害で逮捕し拘置した。この日本の対応に対して、中国政府は抗議、中国国内の至る所で反日運動が起こる。また、中国政府はレアーメタルの輸出を妨害、さらには中国政府の要請で旧日本軍の毒ガス処理調査を行っていたフジタ建設の職員3名を9月20日に軍事区域へ無断に立ち入ったとして逮捕し、一人は19日間も拘置された。

2004年に貿易総額がアメリカを抜いて大最の貿易相手国となった中国、日中間の経済関係はますます緊密で重要になっていた。その矢先に、両国が尖閣諸島の領有権問題を取り出し、経済関係を犠牲にしてまでも、この問題の白黒を付けようとしているように思われた。両国、特に現中国政府の東アジア外交能力を疑う事態が起こっているのである。

さらに、同年11月23日に北朝鮮軍による韓国の延坪島(ヨンピョンド)に170発の砲撃事件と東アジアは朝鮮戦争以来の緊迫した状況に陥った。世界経済の中心に踊り出ようとした東アジアが北朝鮮の繰り広げる瀬戸際外交や核保有国化によって、世界の中でも政治的軍事的に不安定な地域、しかも、冷戦時代の復活とも言うべき、西側(日米韓連合)と東側(ロシア、中国と北朝鮮連合)の二つの政治勢力の対立関係が、日米韓ロシアで展開する経済的関係を犠牲にしてで、復活しようとしているかのようであった。


軍事的弱小国家の歴史的運命と観念的な非武装平和主義

植民地主義、人類が自らの歴史を刻み続けた時代から現代に至るまで、国家の概念は同時に戦争によって得られた領土の概念と不可分の関係にある。つまり国家は権力者によって拡張維持された地理的空間である。その国という概念は古代から中世を経てそして現代まで継承されている。その意味で、国家とは戦争によって領有地を獲得し、そこに自らの神話や政治システムを構築して出来上がったものである。

世界の最強国アメリカも極めて新しい国家である。アメリカは先住民の文化や伝統の歴史の上に存在するのでなく、その破壊の上に成立している。大航海時代を経て、先住民を軍事的に支配し、彼らの社会を破壊し、土地を奪い、そこに欧州文化や社会経済制度を持ながら作り上げてきた国家であった。

つまり、自らが誇る民主主義と自由の国も、先住民族の民族浄化の上に成立していることは否定できない。その過去の歴史を彼らは思い出すことはないだろう。彼らの歴史はイギリス植民地からの独立戦争から始まるのである。

我が国、日本においても、大和民族の神話、アイヌ等の先住民族の支配の後に出来た歴史物語から、この国の成り立ちが説明されるのである。それよりも古い時代の遺跡や遺物の発掘があったとしても、この国の成り立ちは日本書記に記された天照大神(あまてらすおおみのかみ)から説明されることになる。

つまり、有史以来、長年、紀元前の古代時代から20世紀まで、強国の民族が弱小国の民族を壊滅支配し続けてきた。戦争によって他国を滅ぼし、その領土を占領してきた歴史が我々の人類の歴史であるとも言える。この列強国家の覇権と支配、弱小国家の従属と分断の歴史は、半世紀まで世界の大半の国々にとって、国家という存在に付属した宿命であった。それらの歴史的事実を探すことは、世界史の流れを語ることに等しい。この世界史の流れから、平和共存が不可に近い理想や謳い文句であると言われるのは当然である。

古代ローマ、中世ヨーロッパ、大航海時代、帝国主義の時代、第一次と第二次世界大戦の古代から近現代史を語らなくても、現在という時代においても、イスラエルをはじめロシア等々のように戦争によって領土を拡大し続ける国家が存在し、アメリカのイラク戦争のように他国の気に食わない政権を倒すことが出来るのである以上、世界の平和共存は全く不可能であると断言できる。

弱小の国々が自国の防衛を真剣に考える時、平和共存とは、列強が他の軍事的劣勢の国々の植民地化のためにカモフラージュに観える。つまり、平和共存の理想に釣られて集まる小魚たちを一網打尽にすくい上げるための、餌であると理解するのである。

これまでの歴史の流れで、他国からの侵略の可能性を考えない国、自国の防衛を考えない国家は、尽く侵略され植民地化されたことを知っている。従って、平和共存でなく、軍備拡張が現実主義の立場に立つ外交政策の基本であると理解されたのは当然の帰結である。

人類の歴史を知るものは、軍事力を持たないで存続できた国家は有史以来存在しなかったこと、そして、現在日本の平和主義者たちのように非武装の平和主義論が極端な政治理論であることを理解しているのである。

軍事的執行過程(政策決定過程)を知る権利 民主主義国家の基本

戦争は国の目的ではない。それは国政の一つである。国政の目的は国の繁栄と国民生活の向上であり、国民の生命や生活を守るために選ばれた国政として戦争がある。国民のために国は戦争を選択するのである。

戦争も外交の一つの形態である。外国からの侵略は不利益の強制を跳ね除けるための政治的手段として軍事的行動が選択される。それを戦争と呼ぶ。

軍事的行動、つまり戦争は常に多くのものを消費し犠牲にする。そこで、政治家は軍事力の執行、つまり戦争という政治的手段を選択する前に、問題を解決し、なるべく戦争を避ける努力をするべきである。

アメリカの同時多発テロ9.11の後にすぐに戦争をすぐに選択した。その選択の前に政治家は、テロ組織を黙認しているアフガニスタン政府の転覆のための攻撃に必要な軍事費の計算を行い、そのテロへの戦争の経費と今後のテロ対策上の経費への経済的効果を前提にして戦争を選択したと思われる。

当然、その攻撃決断の前に、同時多発テロを黙認・支援したと推測されるアフガニスッタンの政府との交渉を行い、テロに関係する組織責任者の逮捕やアメリカへの連行を交渉したと思われる。こうした交渉が決裂したために、ブシュ大統領はアフガニスタンへの攻撃を決定したのであろう。つまり、常識的に、事前の政治的交渉を踏まえていないでアフガニスタンを軍事的に攻撃することは軍事的行動を起こすための条件を決める政治的手続の上でも考えられないことである。

軍事的執行という政治判断によって平和的に解決できる政治的判断よりも多くの費用、兵士の命を必要とする以上、その判断を下した政治に対して国民は知る権利を持つ。それが民主主義国民国家の基本である。


軍事的に緊張する東アジアと仮想敵国化した中国

2010年12月初旬に管内閣・民主党政府が決定した動的防衛力・脅威対抗型防衛構想について政府は国民に説明の義務がある。

核を使い瀬戸際外交を繰り返す北朝鮮に対する日本国の国防姿勢として動的防衛体制の必要性を国民は理解している。つまり北朝鮮から核攻撃を受ける可能性を持つ日本国とその国民を防衛するために、これまでの専守防衛の方針を変えなければならない。北朝鮮は中距離核弾頭ミサイルで我が国を攻撃する力を持つ。しかも、我が国と北朝鮮の間には平和的な国交が樹立されていない。2003年8月から始まった六カ国協議(六者会合)でも、2007年3月に第6回会議を最後に六カ国協議は北朝鮮の六カ国協定からの離脱や度重なる瀬戸際外交で破綻している。

しかも、東アジア諸国間で平和的に交渉が進展しない状況と、2009年4月に日本列島を向けられた中距離弾道ミサイル発射実験では2段目のロケットは日本列島を2100キロも越えた太平洋に落下した事件、同年5月の第二回目の核実験の実施、2010年3月の北朝鮮軍の攻撃による韓国哨戒船沈没事件、そして2010年11月23日に北朝鮮軍による韓国の延坪島(ヨンピョンド)に170発の砲撃事件と東アジアの軍事的緊張は北朝鮮の瀬戸際外交によって緊迫を増している。このことは、アメリカが1990年代に冷戦以後の東アジアの軍事状況を予測した通りになったといえる。

そして、1995年細川政権が試みた冷戦以後の日米関係の見直し、また2009年に鳩山政権が試みた東アジア経済共同体にむけた日米関係の見直しも、尽くアメリカに予測した東アジアの軍事的緊張論と北朝鮮の核装備を背景とする瀬戸際外交によって、非現実的な政策とされ、それ以上に日米同盟の強化と日本の軍備力強化の方向に進みつつある。その一つの段階が、現民主党政府の打ち出した動的防衛力・脅威対抗型防衛構想であると言える。

東アジアは軍事的に緊張を高めている。そのための日本防衛のための政策として動的防衛力・脅威対抗型防衛構想が不可欠になっている。北朝鮮のこれまでの動向を見る限り、動的防衛力による国防構想への日本の国政の転換は理解可能である。しかし、ここで問題になるのは未来の仮想敵国とて、現在最も大きな経済関係を持つ中国、さらにはこれから経済関係を構築することが未来の日本にとって重要であるロシアをも緩やかに入れたことである。

この判断は正しいのかということを考えなければならない。


現実的で対等な外交関係、経済的協力関係の展開と軍事的脅威への対応の二重路線

中国に対する外交路線が、21世紀の日本を決めると云われても不思議ではない。現実に最も大きな経済的関係を持つ日本と中国。尖閣諸島の領有権の経済的効果とこれかの日中間の協力で可能となる東アジア経済圏の形成から弾き出される経済効果を比較するなら、よほど子供でない限り、殆どの政治家は尖閣諸島の領有権問題を取り上げすぎて将来の経済関係を壊すことが不利であることは理解できるだろう。

しかし、中国との関係は、国の経済力や技術力に於いて日本が絶対的優勢にあった時代と異なり、すでに日本はGDP(国民総生産)において中国に追い抜かれている。その内、韓国にも追い抜かれるだろうと云われている。

日本がアジアの最先進国であった時代は終わり、日本より進んだアジアの国々の側面、そして優秀な人々に学ぶ時代が来ている。その発想の転換を私は日本の第三次の開国期と呼んだ。対等なアジアの国々や人々との関係を作ることとは、日本に多くの優秀なアジアの人材を受け入れ、それらの人々が日本社会のリーダーとして活躍できる場を提供する社会に変革することを意味するのである。アジアの国々との関係を変える我々の意識改革、制度改革そして外交路線の変更が求められている。

そして同様に対等な関係とは、自分の意見を確りと述べる関係である。

つまり、軍事的脅威を与える、反日運動を野放しにし、北朝鮮の瀬戸際外交を日本への軍事圧力として利用しようとする中国に対して云えば、それらの中国の外交・軍事路線が結果的に日中間の経済関係の悪化をもたらし、日中が共に不利益に受けることを説得する説得型外交努力と共に、日本国防路線の変更、つまり動的防衛力・脅威対抗型防衛構想を打ち出し、現在の中国政府の軍事外交路線は、結果的には東アジアの軍備拡大化、日本の軍事化を招くことを示すべきであろう。

日米同盟の強化と日本の動的防衛力・脅威対抗型防衛構想の展開によって、米中二大国指導で進めたい東アジアの政治地図を持つ中国は、強化する日米同盟への不安を抱くだろう。そしてアメリカとの関係改善を急ぐことになる。何故なら、アメリカへの最大の輸出国中国は米中関係を悪化したくないし、最大の米国国債を所有する中国に対してもアメリカも同じように、日米同盟の強化によって中国を北朝鮮の瀬戸際外交の後ろ盾に追いやろうとも思っていないだろう。2011年の政治課題を「富国」から「富民」に切り替え、国民の生活向上と格差是正に取り組もうとしている中国政府は、日米同盟の強化や動的防衛力による日本の軍事外交路線の推進によって、より現実的な日韓米への対応を選択することになる。

技術協力や経済関係の強化と日米同盟の基づく動的防衛力・脅威対抗型防衛構想の展開が、最も現実的な現在の日中関係の改善を導くのである。

また、日本はこの中国の動向を素早く見抜き、経済や技術の日中間の協力関係を強化する契機を見逃してはならない。中国での反日運動と日本での反中運動に対しては、市民レベルの日中友好運動の推進、文化事業交流活動、日中両国の歴史研究の交流とその成果の大衆化(すでに日韓の歴史研究交流活動とその大衆化によって一定の成果を得ている)を提案し、両国間の市民から噴きあがるネガティブな問題提起の力をポジティブな方向に導く政策が問われている。

この巧みな外交、つまり、フランス式外交のような、現実的でしたたかな、大人の、つまり二つの一見合い矛盾する経済協力と軍事的対峙路線を両立しながら調整する政治力、政策力や交渉力が、今日本の政治家と官僚、そして日本の外交の専門家たちに求められている。


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2、日中関係

2-1、「日中友好に未来あり」)
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2-2、中国の人権問題で思うこと  
http://mitsuishi.blogspot.com/2010/11/blog-post_03.html

2-3、経済的発展か軍事的衝突か 問われる東アジアの政治的方向性  
http://mitsuishi.blogspot.com/2010/12/blog-post_13.html

2-4、中国の近代化・民主化過程を理解しよう
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2-5、中国との経済的協力関係の展開と中国への軍事的脅威への対応の二重路線外交を進めよ 
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/01/blog-post.html

2-6、米中関係の進展は東アジアの平和に役立つ   
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2-7、中国共産党による中国の民主化過程の可能性 
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ブログ文書集「国際社会の中の日本 -国際化する日本の社会文化-」から





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